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【寝前小説】毒

 いじめられている。
学校での生活を思い出すと孤独を感じ、押しつぶされそうになる。
学校に行けば悪口を言われ、仕事を押し付けられ、小突かれる。
誰も助けてくれない。
先生も気付いてくれない。
アイツらも先生もみんなも全員蟲けらだ。

 僕がもし違う立場だったらどうだろう。

 いじめを見ている生徒だったら? 
いじめているヤツらに殴りかかっているだろう。
アイツら全員をボコボコにして止める。

 いじめに気付かない先生だったら?
いや、気付かないはずがない。
絶対に気付いてアイツらを殴って止める。
自分の立場より大事な生徒を守る。

 アイツらだったら?
…今よりもっと苛烈にいじめるだろう。

 そう。僕という人間は怖いのだ。
恐らくあの場にいる誰よりも…。


 カフェに入る。
いつもなら通学路にあるだけの無視してしまうようなカフェだが今日は入ってみた。
何かが変わる気がした。
入ったはいいもののあまり手持ちがなかったため渋々ブラックコーヒーを頼むハメになってしまった。 
「にっっが」
つんのめっていた意識が苦みで外界へ戻される。
「アハハ そうそう それでいいよ。」
「いいじゃ〜ん 今日も家遊び行かせてよ〜」
「〇〇ちゃん!騒がないで!」
カフェには沢山の客が入っているみたいだ。
高校生と大人みたいな組み合わせも楽しそうに喋る大学生も子連れの親とその友達も疲れた顔のサラリーマンも…
本当に多様な人が居る。 まるで社会の縮図のようだ。
ただの客の集合から社会を見出したのだ。
ならば僕の社会も見出せるかもしれない。
想像力を働かせてみる…

 
  右斜め前の席にいじめっ子が座る。
左には先生だ。
少し離れた右にはみんなという存在が座る。
父さんと母さんが僕の両隣に座ってくれた。
両親だって僕がいじめられていることに気付かないんだ。
だから蟲ケラみたいなもんだ。
やることはあと一つだ。
僕は"僕"という存在から僕を抜く。
両腕を強く掴まれたが振り払う。
カフェは僕から独立し、僕から手を加えるためだけの口を開けている壺のようだ。
そして僕はこれを観察する。



"僕"は怒っている
"僕"は立ち上がると
両親を食べた。
僕は耐えきれないほどの罪悪感と絶望感と
感じたことのない高揚感を感じる。
目が離せない。
"僕"が左を向いたかと思うと
先生が食べられていた
頭が割れそうなほどの悲鳴が聞こえる。
いじめっ子の悲鳴かみんなの悲鳴か。
それとも僕自身の悲鳴だろうか。
みんなが"僕"に食べられていく
食べられているというのに誰も微動だにしない。
微動だにしないのにどこか強く抵抗しているとわかる。
強く抵抗するが"僕"という圧倒的存在に呑み込まれていく


いじめっ子の前に来る
"僕"と目が合う
一瞬の出来事だが永遠とも言えるほど長く感じる
"僕"の手がいじめっ子にかけられる
僕が作ったこの空間は僕だ
だから先生もみんなもいじめっ子も僕の一部である
僕の存在からはみ出した"僕"と相対する
呑まれるというその瞬間、一際大きくなる悲鳴に耐えられず壺から目を外す。

 

 
 コーヒーの香りがしてくる。
相変わらず苦いコーヒーを飲み干す。
コーヒーの温度に両腕の掴まれた温かい感覚を思い出す。


 強くある必要はないのかもしれない。
僕の中の孤独は消えた。







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