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ルーツの話


以前Twitterに「ヒマさえあれば架空の特産品考える病気になっちゃったエヘへ」とアホなことを呟いた。この記事の見出し画像はその呟きに貼り付けたものだ。
普段からバズとは無縁なので、このツイートも当然バズらなかった。相互の人が義理でいいねをつけていくぐらいの、何の変哲もない呟きである。


そんな何の変哲もない呟きに「うまく言えないけどその発想力は何かに活かせる気がする」なんてありがたいリプライをいただいた。
デタラメぶっこくだけの能力が一体何の役に立つのだろうか。向いている職業はあるのか。狼少年くらいしか思いつかないがそもそもあれは職業と呼べるのか。近しいものだと詐欺師か。

そもそも私の妄想癖と「私は、私が、私の、私私私…」と聞かれてもいない自分のことについてくどくどと書き散らかす癖は一体どこから来てるのだろうか。少し考えてみた。



真っ先に思い浮かんだのは遺伝である。
私の父は文章を書く仕事をしていたし(小説家ではない)、それに加えて趣味でエッセイらしきものをよく書いていた。
書くことが好きな仲間に呼びかけて、何ヶ月に一度か同人誌だかミニコミ誌だかを定期的に出しており、それは晩年まで続いた。書くことが本当に好きだったのだろう。

数年前その冊子をまとめて実家から送ってもらい目を通した。小説、詩、俳句などさまざまなジャンルの作品が載っている。父は毎号エッセイや私小説を載せていた。


若い頃同棲していた女がブスだっただの、その女から逃げるため身一つで大阪へ行き似顔絵描きでしばらく糊口をしのいだだの、割が良いからとエロ漫画を描いていた時期があるだの、実の娘からするとあまり知りたくなかったクズエピソードで満載だった。
恋人に読ませてみたところ「あなたと書き方そっくりだね、親子だね」と笑われた。残念ながら自分では似ているかどうかわからないが、読んでいると無性に恥ずかしくなってくる。本物の同族嫌悪だ。


父と違い書く仕事をしているわけではないが、私も自分のことをつらつら書くのが好きだしこれは遺伝で間違いなさそうだ。
自分のことばかり書いている素人なんて程度の差はあれ全員ナルシストだ。やはりナルシストの血は主張が激しいらしい。


では妄想癖はどこから来ているのだろう。
遺伝しかパターンがないのもつまらないが、残念ながらおそらく遺伝である。


二十代も後半に差し掛かる頃、母から唐突に「あなた〇〇って知ってる?」と聞かれた。有名な学者の名前だった。

「その人の本にね、私のおじいちゃんが少し出てくるのよ」

母の祖父ということは私の曾祖父だ。どういった経緯でそんな有名人の本に出てきたのだろうか。まず何の本なのか。

詳しく聞いてみたところ、どうやら日本各地の民話や伝承を集めた本らしい。普通に実家の本棚に鎮座していた。学者の本に親族が出てくるなんて、それが本当ならば私が学生の頃教えてくれていれば話の種になったのに。


曾祖父は小さな島で語り部をしていたという。
母からそんな話を聞くのは初めてだったので、私はたいそう驚いた。なんだ語り部って。そもそも職業なのかすら怪しい。貧しい島でそんなことだけして食っていけるはずはない。おそらく漁師か何かと兼任していたのだろう。


島の子供を捕まえて訳の分からない妄言を吐くジジイをもっともらしい役職名で読んでいるだけとかそういう話じゃないだろうか。
そうだったらちょっと…いやかなり嫌だ。ご近所で有名なヤバめのジジイが身内にいたのか。ああいうタイプのご老人は近所にいるのと身内にいるのではだいぶ受け止め方が変わってくる。


「あそこのジジイいっつも変な話ばっかりしてくるんだぜ」
「お母さんが言ってた!あんまり近寄っちゃいけませんだって!」
「あれさぁ、きっともうボケてんだよ」

アハハ アハハ…


脳内でモンペ姿のハナタレ小僧共が少し離れたところからヤバめのジジイを囃し立て始めた。身内としては悲しいやら情けないやら悔しいやら、複雑な気分としか言いようがない。

そんなヤバめのジジイの血が私にも流れている可能性があるなんて…と複雑な気分を抱えたまま、民話を集めたというその本を読んでみた。


各地の民話を集めたその本は予想以上にちゃんとしていた。そりゃそうだ。私でも名前を知っているレベルの学者の本だ。ちゃんとしていないわけがない。
重厚感のある装丁。こんな本にヤバいジジイの妄言が載るはずはない。つまり私のジジイはヤバくないのだ。ホッと胸を撫で下ろした。


桃太郎や浦島太郎のようなメジャーな話ではないが、寝物語としてちょうど良さそうな短い話がいくつも載っていた。
なお方言のきつさに気を取られてしまったため内容は一切覚えていない。「めでたしめでたし」や「これでおしまい」を意味するであろう、その地域独特の結びの言葉しか印象に残らなかった。


「△△島の民話は語り部の⬜︎⬜︎×吉(曽祖父の名前)を取材し本書にまとめた」といった内容の文言がはっきりと書かれていた。
どうやら私は語り部とやらのひ孫で間違いなさそうだ。


ならば妄想癖も遺伝だ。
頭の中で作り出した言葉や物語をいかにもそれらしく語る癖は、語り部の曾祖父譲りではないか。

そうすると曾祖父の語る民話は全てデタラメということになるが、民話なんて教訓を伝えたいがための非現実的な話ばかりだ。まあデタラメで間違いないだろう。



本筋とは関係ない話だが、私が読んだその民話の本は学者の没後に弟子が編集した「〇〇(学者の名前)全集」の内の一冊だった。
弟子による後書きの一部に、少し気にかかる記述があった。

「△△島の民話の語り部である×吉一家は、昭和の初め頃本州に渡り、その後一家離散したそうだ」


していない。

本州に渡ったことは事実だがそれは戦後の話だ。曾祖父の代の話ではない。
本州に住居を構え仲睦まじく暮らし、私の母とその兄弟達はそれぞれ進学や就職をし、別の県や国へと住居を移した。それを一家離散と呼ぶのなら、日本国民の八割が該当するのではないか。もちろん今でも多少の親戚付き合いはあるし、先祖の墓参りもしている。

ちゃんとした本かと思いきや意外とデタラメなことが書かれていた。勝手に人の家を離散させないでほしい。
実在する人物の名前を出すならその辺はもう少し慎重に扱うべきだ。私は腹を抱えて笑ったが、自分の先祖が勝手に一家離散したことにされておまけに本にまでそう載っていると知ったら憤慨する人も少なくないだろう。



閑話休題。


幼少期の経験や趣味趣向読書習慣等、関係していそうなものは他にもある。しかし父の趣味や曾祖父の職業(?)に目を向けてみると、もう「遺伝」の一言で済む気しかしない。
見た目が父母に全く似ていないため、幼い頃は「私って本当はこの家の子供じゃないのでは…?(もちろん実は物凄い金持ち又は王家の血を継いでいる設定だ)」なんてありがちな妄想をしていたが、確実にこの家の血を受け継いでいるではないか。そもそも王家の血なんて日本にはない。



何の気無しに呟いた一言をきっかけに、自分のルーツについて思いを馳せるだなんて想像もしなかった。
頼まれてもいないのにベラベラと自分語りをし続ける遺伝子と、しれっとデタラメなことばかり言う遺伝子。
大した遺伝子でもないのは明白なので、私の代で尽きたところで何も問題はないのだ。



一般人の親戚の話という死ぬほどつまらない話をここまで読んでくれてありがとうございます。
おまけ(?)としてメモに残っていた架空の特産品を載せておきます。中年女の脳内一人遊びがおまけとして機能するかは疑わしいけれど、デタラメな話を好む人には刺さるかもしれないと信じて。


※念の為もう一度書いておきますが、画像の特産品は全てデタラメです。そんなものありません。

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