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オフィス問題と今後のオフィスのあり方

■オフィスの「〇〇年問題」


 オフィスは都市構造の骨格を担う重要な都市機能であり、景気を反映するとも考えられるため、TV・紙面を賑わすことも多く、その象徴的な表現が「〇〇年問題」です。これまでに何度も供給過多を警告する論調で繰り返されてきました。しかし、いずれも指摘された問題は起こらず、実際は安定したオフィスマーケットが続いてきました。
 これにはマスコミ・メディアの姿勢もありますが、オフィスの長期需給を正確に予測すること自体が難しい面もあります。

 オフィス問題の最初はバブルの契機になったと批判された1985年の首都改造計画における国土庁の推計値でした。ここでは「東京都区部で昭和75年までに約 5000ha(超高層ビル 250棟に相当 )の床需要が発生すると予測」されたので当時はマスコミから過大な推計であり、バブルを煽ったなどと言われなき非難を受けましたし、金融も引き締められてバブル崩壊となりました。しかし、その後は予測以上の需要となり、余計な金融引き締め等の水をかけなければ好景気が続いて、資産が蓄積されたはずです。
 と言うことでこれまでは「〇〇問題」はすべて問題にはなってきませんでしたがこのようなあまり意味のない「〇〇問題」は2000年以降、、次のよう取り上げられて来ました。

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■オフィスの需給の推計方法


 オフィス需給の逼迫、オフィス市場の崩壊等による問題と言われますが、そもそもオフィス需給を論じる際の需要、供給はどのように推計されているのでしょうか。
 そして、それらはどこまで信頼できる数字なのでしょうか?

 オフィス需給の推計方法はいくつかありますが一長一短があります。

 マクロ的には課税台帳ベース(グロス床)ですが、供給量は着工統計等から推計し、需要はオフィスワーカー数の推計値に一人当たりのオフィス面積を乗じて算出します。オフィス床面積は課税台帳ベースで業務用途が過半を占める建物(銀行+業務)の延床面積です(所有・賃貸の区別は無し)。
 〇オフィスワーカーは下記の数式から算定します。
  産業別就業数(将来推計人口の15歳以上)×労働力率=労働力人口
  労働力人口×就業率(1-失業率)=就業者数
  就業者数×オフィスワーカー率=オフィスワーカー数

 *オフィスワーカー:国勢調査の職業分類により、A「専門的・技術的職 業従事者」、B「管理的職業従事者」、C「事務従事者」の合計。オフィス需給推計の場合はA+B+C-公務従事数(ホワイトカラーはA+B+C+D[販売従事者])
 オフィスワーカー率は産業別の職業別(上記のオフィスワーカー)における比率

 一人当たり床面積は課税面積/オフィスワーカー数です。これは、オフィス床のネット面積に基づいていませんし、オフィスワーカーはオフィス以外の施設にも居ますので必ずしも実態を示してはいません。一方、ビル協等ではセミグロス値としてオフィスビルの在館就業者数を使用しています。
 ミクロ的には供給量(短期的)については着工した大規模ビル(1万㎡以上)の竣工時期を個別に集計して推計します。これは総数ではありませんがオフィスマーケットを代表する値として用いられます。需要は賃貸オフィスの実際のテナント量・空室率です。この動向に企業へのアンケート調査等から将来の空室率等を推計することになります。
 中長期のオフィス供給は建替え、再開発、空閑地の利活用等のよる更新・新規供給量となります。近年の都心部の大規模供給は再開発事業によるものが多く、この場合の純増面積として従前面積の1~2倍程度が新規供給となります(再開発事業の総延床面積ではありません)。
 建替えは築後年数や旧耐震の状況、再開発は事業期間、利活用は利用時期・導入機能が不透明等の理由で難しい面がありますし、需要側のオフィスワーカー数の推計は将来の産業別就業者数に基づくため長期経済環境の反映が必要となりますのでさらに困難となります。
 以上のように、正確なオフィス需給問題を議論するにはなかなか難しいものですので、短絡的に短期的な供給動向や空室率や賃料の変化だけで問題視すること自体が間違っています。
 とは言え将来推計自体が事実上不可能な面もありますので可能な範囲で複数のシナリオを立てた上で直近の状況を鑑みて判断することになります。
いずれにしても「〇〇問題」のように始めから需給バランスが崩れることありきの表現や追及の仕方では意味がありません。

■これからのオフィスの視点

 これからのオフィスに関しては量的な需給の視点以上に質的な視点が重要です。
 一つは耐震性、環境エネルギー性能等の必要条件としての性能機能面です。もうひとつは働き方が多様化することによるオフィスのあり方ですが、これがポイントです。
 政府の働き方改革に関わりなく従前から多様な働き方とオフィス空間が試行されてきました。四半世紀前にはサテライトオフィス・リゾートオフィスが提唱されました。当初の社会実験に参加しましたがネット環境が貧弱であったため当時は低調でしたが、今やシェアオフィス、SOHO、サービスオフィス、コワーキングスペース等多様な形態が実現しています。

 コロナ禍で多くの企業が自宅勤務、テレワークを試行しましたがこれが主流にはなるとは思えません。もちろん、このような流れは増加しますがやはり就業空間としてのオフィスは主流であり、その在り方が問われます。
 都心部の大規模オフィスではゆとりある共用スペースが売りになっています。サービスオフィスもかつての机貸からサーブコープやリージャス等の外資系の国際的ネットワークの中での秘書サービス付等オフィスが展開されていますし、WeWork(ウイーワーク)のような新たな形態も登場します。国内で多くの大手企業が参入しています。


 ルーチン業務の場だけではなく、起業者や大手企業社員等との交流空間も重要視されており、最近では「RIFORK大手町」や「3×3lab Future」等が好評を博しています。
 金融機関等に多く見られる上司が目の前に鎮座した大部屋対向型では業務の効率性・創造性の向上は望めません。日本の生産性が低さの要因のひとつがオフィス空間の貧しさにあると思います。40年以上前に大学の授業で海外のオフィスランドスケープを学びましたが、その後、半世紀を経ても到達しません。しかし、ようやくその方向で動きが始めたようです。さらに、起業ニーズの増加、企業に勤めながらの別の居場所や高齢退職者の企業内外での居場所、また、地方でのフットルースなオフィス展開等多様なニーズと空間が実現しつつあります。
 今後、さらなる国際化に向けて経済が展開する中で、都心部のオフィスマーケットは充実した需給構造となりますが、業務の効率化、創造性の向上、新たな価値の創造等を図る意味から外国人・女性の活躍、職種の特色や個人のワークスタイルを反映した多様な働き方に対応した創造的環境としての大小様々なオフィス空間の提供がポイントとなると思います。

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