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カジノ再考(2)

■市長の誘致容認からの動き

 2013年12月5日に自民・維新・生活の党により衆議院に「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法案」(カジノ解禁法案)が提出されてから国民的議論になりました。
 その後多くの自治体でカジノ導入の検討がなされていますが横浜市は都市整備局に「IR推進課」を設置し、二段階のRFC/RFP(Request for Concept/ Request forProposal)方式を採用して2019年1月にRCF(Request for Concept)を実施後、2021年6月に設置運営事業予定者の公募を行い2社を資格審査通過としました。

 前稿(カジノ再考(1))で記載しましたが現職の林市長自身はカジノには関心が無い(あるいは反対)ですが菅氏の後ろ盾もあり、「白紙に戻す」という言い方で事実上容認しました。従って、行政としては導入の方向で手続きが進められました。
 横浜市のIR(カジノを含む)については当時の神奈川新聞にも識者の意見が掲載されています。私も長く横浜市の計画策定や調査等に係ってきたのでインタビューの上、意見を掲載させていただきました(2018年10月10日)が、この後の状況変化を加味して下記にまとめてみました。

 横浜の臨海部の再生はバブル時代から全国的な「ウォターフロント開発」の一環として、業務機能の誘致とともに全体としては港街横浜をアピール出来るIR的なエリアとする方向で東京臨海部とともに大きな話題となってきました。MM21から始まりましたが、当初は業務核都市構想の下で進められましたので原則、業務機能を核として誘致を図りましたがなかなか立地が進まない状況が続きましたので、最終的には住宅等も導入しました。しばらく停滞していましたが、その後、立地誘導のための補助金などの支援策が功を奏して、徐々に日産の本社等の多様な業務機能の導入も行われて土地処分は進みました。
 しかし、東京圏最大の再開発可能地区であった「山下ふ頭」は臨海部全体の様々な構想がありながら、なかなか進展しませんでした。

 山下ふ頭の再開発が期待されつつも進展しない要因としては景気の問題、横浜港の運営問題、臨港道路計画(事実上なくなりました)、そして、倉庫事業者等の地権者(国と自治体そして民間による所有)の同意取得等がありました。港湾機能を山下ふ頭から本牧・南本牧・大黒ふ頭等に移すことが決まって以来は民間地権者も再開発の話が俎上に乗るようになり本格化してきました。
 港湾局は所管部局として長年、地権者と交渉しつつ、海外の類似開発等も参考に構想・計画を練ってきましたが、カジノ法案が制定された2016年前後にはカジノの導入も視野に入ってきました。

 商工会議所等の経済界は経済効果が高いとして諸手を挙げて賛成し、市の提案・運営事業者募集前に複数の地区を念頭においた提案をしていました。
 経済効果もいろいろと出されていますが、最初の建設効果が大きいものがあり、その後の運営時は外国の運営者が大半を得てしまうでしょう。雇用効果も大きいと言われていますが、現状でも人手不足であり、ホテル業界もマネージャークラスはもとより、清掃人員等も手薄であり、この傾向はさらに強まるでしょうから、大きなメリットでは無いように思えます。
 各方面からの批判を受けて、設置運営事業の募集要項では「借地料の支払い」、「市の滞在型観光の実現」への市への協力を要望し、また、市への納付金とともに収益の一部を整備法に基づいて「再投資・地域貢献」(積立金等でも可能)を義務化しています。また、事業の継続性等、簡単には撤退できないようにしていますが果たしてどうなんでしょうか。

■カジノ反対の動向

 経済界が賛意を示した一方で、横浜港湾協会に加盟している地権者達(港湾業者等)はこの30年以上に亘り、再開発について議論してきました。すでに港湾機能は本牧・南本牧・大黒ふ頭に移っており、山下ふ頭からは無くなっていますので再開発は必然でしたが、これまで横浜港を支えてきた地権者達としては簡単には渡せない(意見の反映を要望等)との状態が続いていました。また、先行したMM21の整備の際にはかなり手厚い補償等がされており、今回も同様のことを要望している面もあります。
 ただ、カジノの導入には強く反対していますが、再開発自体には理解を示していて、「カジノ抜きの再開発案」を提案しています。

 一部の市民団体等「ギャンブル依存症」「治安悪化の懸念」「マネーロンダリング(資金洗浄)の場となる危険性」等を理由に反対していますし、パチンコ業界を背景にした議員等も既得権の侵害等の面方から反対しています。日本はすでに公営ギャンブル(競馬、競輪、ボート等)が普及し、パチンコもあり、依存症については従前から問題にはなっていましたので、今更カジノだから特に甚大だということも無いとは思います。
 これらの批判に応えて、多くの自治体ではカジノ導入調査の際には必ず依存症やマネーロンダイング対策について重視していました。国としては2018年7月6日、「ギャンブル等依存症対策基本法」が参院本会議で可決され、成立しました。
 同法では「ギャンブル等依存症」の定義を「ギャンブル等(公営競技、ぱちんこ屋に係る遊技その他の射幸行為)にのめり込むことにより日常生活又は社会生活に支障が生じている状態」としており、パチンコが遊技ではなく「ギャンブル」と認定されました。


■新たな提案等

 集客ポテンシャルは横浜の方が高いと見たラスベガス・サンズが大阪進出から横浜へと転換してきましたが、結局、設置運営事業者の選定では「ギャラクシー・エンターテイメント」は応募を見送り、「ゲティン・シンガポール」グループと「メルコリゾーツ&エンターテインメント」グループが資格審査を通過しました。

 大規模開発はどこも政治的になりますが、こちらもそうなっていますので、横浜臨海部の本来の姿は何かという議論がされにくくなってしまいます。また、カジノを入れる必要は全く無いのですが、一方でカジノを拒絶する絶対的な理由もないことがさらにややこしくしていると考えられます。
 今回の市長選を巡り「カジノに頼らない横浜」を実現する市長を支援する「横浜未来構想会議」が発足し、議長には「ハマのドン」こと、横浜港ハーバーリゾート協会の藤木幸夫会長((横浜港運協会会長退任予定)が就任しました。
 「カジノを含む統合型リゾート(IR)」の誘致に反対している藤木YHR会長(元横浜港運協会会長)がコロナ禍を踏まえカジノが無い形での新たな開発構想を発表しました。すでに2つのグループが市の公募において資格審査を通過していますが、市長選に向けて代案を示し、IRをめぐる議論を活発化させるのが狙いだと思われます。横浜港ハーバーリゾート協会(YHR)はこれまで山下ふ頭の再開発で、国際展示場やクルーズ船拠点、ホテル、コンサート会場などを設ける構想を打ち出していますがこれを基本にさらに物流施設を組み合わせたハーバーロジシティや住宅を組み合わたサステナビレッジ等の計3案を提示しています。
 RCFにおいても多くのアイデアが出されていますので、運営事業者が8月末に選定されるのか、あるいはこれ自体が見直しになるのか等の不安定な状況ですが、最終的な姿としてある意味の愉しみはあります。

■横浜市のウォターフロント開発の在り方

 いよいよ山下ふ頭の再開発が見えてきたので、長年の懸案であるウォターフロント再生事業の締めくくりが可能となったわけです。
 横浜市は以前からウォターフロントの整備には力を入れてきており、MM21を始めとする臨海部一帯を念頭に検討してきました。全体構想を練りながら個々の開発を進めてきましたが、当初はその中には会議場やホテル等はありますが、カジノはありませんでした。東京都が一時前向きになった際や羽田連絡道路整備の際にもカジノは大きな話題にはなりませんでした。もちろん、神奈川県等ではカジノに関する調査は実施しており、横浜市等も候補の一つではありましたが、具体的な動きは出てきませんでした。

 これまでも長い間検討が続けられてきましたが、ここで少し立ち止まって俯瞰する必要があります。大規模な開発可能地区は実質的には山下ふ頭(47ha)しかありませんが、関内、元町等の既成市街地を含めて、現状を踏まえた新たな全体構想が改めて必要です。
 関内地区は山下ふ頭とともに「特定都市再生緊急整備地域」に指定されていて、懸案だった市庁舎の移転も決まり、現市庁舎活用の事業者も選定されましたし、隣接地区とともに再開発が進められています。三井と三菱の戦い等とも言われていますね。球場はリノベーションにより一定の拡充がなされたことによりこれらの再開発との連携も意識されています。

 この新たな動きもとに中華街、新山下ふ頭、関内エリア、山下公園そして既成市街地等とのネットワークを再検討することが重要だと思います。
 関内地区はかつての勢いはないものの、全体として良い雰囲気を有しており、再生された球場、市庁舎を含む周辺再開発そして山下ふ頭の再開発により、新たに魅力あるエリアに生まれ変わる可能性を秘めています。

 さて、山下ふ頭については再開発の基礎調査を継続する中で数年前に海外の先端的な開発も参考にしつつ、オリンピックを念頭にスポーツタウン構想を策定(港湾局調査)したことがあります。この時点では横浜球場の移転の話もありましたので、このドーム化を含めて中核施設としていました。結果的にはまだ熟度が低く、球場も存置されることになったので白紙になりましたが、今でも、テーマをスポーツとすることは十分あり得ると思います。スポーツにこだわる理由はカジノと違って市民からの反対はまずありませんし、スポーツには公共性もあります。また、我が国のスポーツはますます国際的に強くなっており、注目を集められるようになっていますので、多くの関連企業のスポンサーも含めて多様なスポーツ関連機能の複合化(多様な国際競技場、高度な練習・育成・教育機能、スポーツ医学、関連商品商業施設、会議・展示施設等)による賑わいと経済効果が期待されます。さらに、スポーツ施設は駅近接である必要もありませんので、、最寄り駅からは遠い山下ふ頭への導入機能として最適です。もちろん、TRL等の交通機関の拡充は必要です。
国際展示場や国際会議 はMM21にて拡充しましたが、まだ、現状では足りないものの、展示場のあり方は徐々に変化していますので、これから巨大な展示場を整備するのはリスクが大きいと思われます。

 臨港道路計画は事実上無くなったようですが、山下公園でのLRT整備や山下ふ頭入り口部分の交差点などの改良、ロープウエイの延伸・拡充、大型客船バース等との関係・連携を含めて、今後数十年先を見越した新たな港湾都市のイメージを確立させることが重要です。
 国内では神戸と並んで港湾都市として特徴がありますが、世界的にはそれほどの特徴として見られていませんので、新たに、「これが横浜だ」というコンセプトを打ち出すことが重要です。そのためには東京港も含めた、より広域な東京湾沿岸の全体コンセプトが必要だと思います。
 横浜港で忘れてはいけないエリアがあります。それは瑞穂ふ頭(ノースピア)です。一部は風力発電等に使われていますが、山下ふ頭を超える大規模な開発予備軍です。市の構想では将来的にはシーバスの基地等に位置付けられていますが、完全返還にはまだまだ時間がかかりそうです。いずれ返還されれば大きな役割を果たしますので、そろそろ、返還を睨んでここも含めた構想を立てることが重要だと思います。
 最近では新しい観光交通手段、アトラクションとして、桜木町駅前と、横浜ワールドポーターズ前とを約5分で結ぶ“日本初”の常設都市型ロープウェイ「YOKOHAMA AIR CABIN(ヨコハマ エア キャビン)」が運行開始しました!これもロンドンやシンガポールなどにはすでにありますが、上記のスポーツタウン構想においても提案したのですが当時はあまり関心がありませんでしたね。できればもう少し高くして、山下ふ頭まで延ばせば良かったと思います。

■インバウンドの方向とカジノ

◆インバウンド
 国は観光立国として「明日の日本を支える観光ビジョン」を策定し、2030年に6000万人を目標等とし、これらに関連する多様な施策が講じつつありますし、多くの地方が期待しています。
 しかし、2020年から続くコロナ禍で一転してしまいました。途中で「go to トラベル」等の支援策が講じられましたが感染状況が収束に向かわないため、観光関連産業は厳しい状況となり自治体も思惑が外れてしまいました。
 東京オリンピックは2020年に一段とインバウンドをさらに飛躍させる起爆剤としても期待されていましたが延期された上、厳しいコロナ対策の中で全国の聖火リレーや事前の受け入れも縮小され、海外からの観客は入れないなど大きく規模が縮小されてしまいました。

◆カジノとインバウンド

 海外のカジノ事業者は世界的にも数社しかありませんが、その運営力は大きなものがあります。我が国のデベロッパーは大規模な開発を多く実施していますが、カジノに限らず国際的なエンターテインメント機能の面では物足りないものがあります。映画や各種興行業種も欧米にはかないません。
 従って、カジノを軸にしたIRを展開することが必要となった場合は海外の事業者に依存せざるを得ないのが現状です。もちろん、彼らをうまく活用できればそれでも良いですがそうはいかないと思われます。海外事業者と上手くタイアップしていければそうしながらノウハウを獲得する方法をとるのでしょうが上手くいきそうも無いですね。
 さらに海外の運営事業者は大都市でのカジノIRを実現すると併せて、国内のインバウンド需要への対応も考えていると思われます。
 コロナ禍が無くても海外観光客が2030年に6000万人になること自体、そして、その数字を目標とするのも疑問です。しかし、我が国のインバウンド関連業は質的にはまだまだ、伸びしろがあります。すでにオーバーツーリズムの弊害が出ている中で、あまりに量的に拙速な対応はしない方が良いとは思いますが、海外の運営事業者はやれることだけに集中して迅速に事業化します。ニセコ一帯のように、気が付いたら地元民はもちろん日本人が寄り付けないエリアになってしまうかもしれません(これも現在、いろいろな対応策が講じられつつあります)。
 世界的にはカジノ導入は地方活性化に有効ですので、沖縄や北海道等の地方エリアは前向きに導入しても良いかもしれませんが、横浜や大阪等での大都市で効率的に稼ぐ地盤を作れれば地方への関心は薄れると考えざるを得ません。
 カジノではない観光事業をどのようにするかですが、眠っている観光資源は多くありますのでとんでもない発掘があるかもしれません。特にこれからインバウンドの主たる対象である欧米観光客のニーズは彼らの方が把握しているはずですので先手を打ってこれらを自分たちの領域に取り込もうとするでしょう。
 また、かつては無駄だと言われた飛行場は各県にあり、切り捨てられた地方鉄道はまだ多く残っています(大半は厳しい経営環境にあります)。これらを最大活用して顧客を目的地に効率よく運ぶことは十分可能です。もちろん、国内の事業者も考えているかもしれませんが、投入できる投資額の桁が違えば負けてしまいます。果たして、どこまで投資をするかは分かりませんが地方の観光資源のポテンシャルを考えるとカジノへの投資を上回ることも十分想定されます。その際の日本側の相当規模の支援についてはトータルで地域の創生そして国内企業への還元が十分なのかを見極める必要がありますが、その前に先手先手で動かれてしまいそうです。
 これらの大きな動きを活用すべく、したたかに対応できるかがインバウンド対応のポイントの一つになりそうです。
 かつてのリゾート法においては既存の観光集積以外に新たに作ることが条件でしたので既存の資源が活かせませんでしたので今後は既存の資源を活用した投資を考えることが必要ですがその際にはカジノは必要ないかもしれません。

 いすれにしても長期的な話ですし、数企業・グループですべてをカバーできるものでもないので慌てることは無いですが、コロナ禍で一旦停止状態になったことで改めて地域の資源を捉えなおす機会と受け止めて、それぞれの地域が特徴を活かしたインバウンド対策を講ずることが必要です。


■日本でのカジノの将来

 地域の活性化やインバウンド対応としてカジノを上手く活用するには相当な工夫が必要とされます。誘致合戦の場は東京(事実上、ありませんが)や大阪、横浜等の大都市から沖縄、和歌山、秋田、北海道等に至る地方圏までですが、世界的には大都市、例えば、NY,ロンドン、パリ等には大型のカジノはありません。日本でも同様だと思います。従って、東京や横浜、大阪よりは思い切ってラスベガスのように地方での新棚開発とするか既存のリゾートエリアの再生に併せて整備することが考えられます。横浜市はすでに設置運営事業者が決まりそうですが市長選の結果次第では見直すことになるかもしれませんので、その際はカジノを無くしても良いとは思います。但し、応募案はカジノの収益を前提にしていますので事実上、本当に白紙に戻らざるを得ないと思います。
 また、本来はMICEのような機能とリゾート関連施設がすでに整備されている地区がふさわしいと思われますので、疲弊している地域をカジノを呼べば何とかなるでは無理だということです。万が一カジノエリアが成功しても海外資本だけが儲けて、カジノ外には波及しないでは元も子もありません。
 観光立国にするなら、カジノでは無く、我が国ならではの地方の美しい自然と歴史をベースにした日本の原風景をテーマにした方が良いでしょうね。もちろん、このことを十分理解した上でIR/カジノにチャレンジすることはある意味素晴らしいことかもしれません。
 ただ、せっかくカジノ法及び関連法制度も整備されてきましたので海外には無い、大都市型(大阪等)の新たな形態を日本で作り上げることも面白いかもしれません。大阪などであれば事業性は高いので行政や関連企業と連携した取り組みは十分可能かと思います。横浜市の募集要項を見てもその趣旨は感じられます。
 地方創生としてやるならば地方の資源を見直してそれらと密接に連携できるものであれば可能かと思います。
この機会に地方型と大都市型の2つを目指すこともあり得るかと思います。
横浜市の例をみても長年にわたり国内外の関連企業達が相当頭をひねってアイデアを出していますのでそれらを集約して優れた空間を創り出せればと思います。ただ、強いて言えば大都市型で展開するならば横浜ではなく大阪だと思います。


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