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2020年10月の読んだ本など

気がついたら11月末ですね。もう少し早めに書きたい。

以下、読んだ本など。


ベニー松山『隣り合わせの灰と青春』
コンピュータRPGの古典的名作『ウィザードリィ』を題材にしたファンタジー小説。読書会用に読んだ。よくライトノベル等の歴史、特にファンタジーもの・ゲーム的な描写や設定があるものの歴史について語られる際によく引き合いに出されたり、ゲームのノベライズ小説として優れている云々という言及をよく見かけるので前から読んでみたかった(ちなみに『ウィザードリィ』はなんとなく知っているだけで遊んだことはないです)。
大元になってる『ウィザードリィ』のことがわかっていなくても充分に伝わるシビアな戦闘バランス(強敵相手に高レベルキャラでもすぐ死んだりとか)、物語に上手く落とし込んであるレベルと職業システムと迷宮の仕組み、それに後半の戦闘とストーリーの盛り上がりっぷりとか良かった。納得の面白さ。


横田順彌『幻綺行 完全版』
明治時代に自転車での世界一周無銭旅行を実行した実在の人物・中村春吉を主人公にしたSF冒険小説集。
あちこちの国を行っては怪物に襲われたり解決したりする娯楽小説として楽しめました。文体もいい感じです。
執筆された年代と作中の年代ゆえか、最初の話では中村春吉の一部価値観に関してはややムム…となるのですが、最終的にいい感じになります。

ここ最近は電子書籍に移行しつつあるのですが、これに関しては装丁が良くて思わず物理書籍で購入(2020年6月に出版された本です)。竹書房がここ最近出すSF・幻想・怪奇小説は装丁かっこよくて思わず本屋で手にとってしまいます。



コレット『牝猫』(訳・工藤庸子)
人間同士さながらに仲睦まじい夫・アランとその愛猫・サア、サアに徐々に嫉妬していく妻・カミーユの物語。
あらすじ読んだときは少し笑える軽めな話なのかなと思っていたのですが、別にそうではなく、後半のとある事件からの展開がかなりスリリングで一気に読んでしまった。
活発なカミーユがアランに向ける感情も、またアランの「親離れしないと」と思いつつもなかなかそうなれない感じがわかるだけに、おつらい気持ちに……



ウィリアム・ギブスン『クローム襲撃』(訳・浅倉久志 他)

サイバーパンクの祖として知られるギブスンの短編集。数年前に買ったまま積んでいたのですが、『サイバーパンク2077』も発売するしということで読んだ。ちなみに『ニューロマンサー』はまだ読んでないです。
これは初期のギブスンの文章と自分が合ってないのか、黒丸尚翻訳が合ってないのかよくわからないのですが、思っていたより読みにくいなという印象(まあまあ慣れはするけれど)。このあとに『ヴァーチャル・ライト』を読んだらめちゃくちゃ読みやすくてびっくりしました。
レトロフューチャーを題材にした「ガーンズバック連続体」、夜のバーに現れる人間に擬態した存在を追うホラー「ふさわしい連中」(ジョン・シャーリイとの共作)、ゴミと芸術品に関する「冬のマーケット」、そして特に、暗黒青春ゲーセン小説「ドッグファイト」(マイクル・スワンウィックとの共作)が印象に残った。
しかしこう、さまざまなサイバーパンク作品(攻殻機動隊とかニンジャスレイヤーとか)を見たりしたあとに読むと、本当に日本や日本製品が多く登場したり、どこかで見たガジェットやモチーフに近いものが登場するので、本当に元祖なんだなあという気持ちに。



トム・キング&ミッチ・ジェラッズ『ミスター・ミラクル』(訳・秋友克也)
DCユニバースのヒーローであり、ニューゴッズという神々のひとりでもあるスコット・フリー――またの名を偉大なる脱出術師ミスター・ミラクル。彼とビッグ・バルダの地球上での結婚生活、故郷の惑星で起きる凄惨な戦争、そして“死”からの脱出。
スコットとビッグ・バルダの夫婦生活も、スコットのミスター・ミラクルとしての活躍も神々の戦争も全部平等に語られる不穏さ(9コマのコマ割りがかなり上手く効いてる)と、ミッチ・ジェラッズのアートが組み合わさって牽引力がかなり凄い。
先月紹介した同じトム・キングが手掛けた『ヴィジョン』とテーマ的に似通ってる部分もあるのですが、本作では『ヴィジョン』で(おそらくヴィジョンという題材的に)描けなかった、戦いに身を置いているヒーローの日常生活にフォーカスがあてられている。ヒーローが普通の家族生活を送ろうとしてギクシャクしていく『ヴィジョン』と、夫婦の日常生活も遠い星での戦争も普通に矛盾なく両立してる『ミスター・ミラクル』の対比は面白いなと思ったし、やっぱりここらへんの奇妙な日常の感覚は、トム・キング本人のCIA時代の経験が活かされてるのかもしれないと思った。『ヒーローズ・イン・クライシス』や『ヴィジョン』と比べると、トム・キングの生活に対するパーソナル考えや思想が出ているような気がして、そこもなんだか意外だった。そしてそこが結構気に入った。
ちなみになのですが、全体に漂う不穏な雰囲気のなかで繰り広げられ往還する夫婦生活と凄惨な戦争、子育て、虚構と現実、キリスト教モチーフなどなど、あれこの感じなんか知ってるぞと思ってたら終盤で舞城王太郎の『九十九十九』に近い感じになってブチ上がりました。九十九十九もミスター・ミラクルも元々はそれぞれ清涼院流水とジャック・カービーが生み出したキャラクターで、それぞれ舞城王太郎が書いたり、トム・キングが書いたりした結果似たような話になるのはなんか面白いなあと(そもそもアメコミはキャラクターの方が先にあったりするわけで、もう少し変なことをやってるライター・作品もあったりするわけだけど、それはそれとしてというか)。



10月はだいたいそんな感じでした。


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