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浦和新FWユンカーはACミラン相手にどう立ち向かったか

 浦和レッズに移籍期限直前で加入、ルヴァン杯柏戦で初出場し58分まで出場したノルウェーリーグ1部・2020年得点王&MVPのデンマーク人FWキャスパー・ユンカー(Kasper Junker)。獲得に際し、移籍したレオナルドの代役として獲得し、得点力に加えて前線から守備のスイッチになる役割を期待しているというコメントが西野TDからあった。

(ユンカー選手のプレー動画を見たが、どんなところを評価して獲得に至ったのか?)
「杉本健勇選手のプレーを見ていただければ分かるように、一番前の選手から守備のスイッチを入れることは大きな役割になっています。もちろんペナルティーエリア内での得点力はストライカーとしては絶対に必要なものですが、それと同じくらいにチーム全体の守備力を考えて、点が取れるから守備をしなくていいということではありません。キャスパー ユンカー選手はその部分も獲得の大きな要素になっています
(シーズン途中での加入とはいえ、クラブとしてこれくらいはやってほしいと目安にしていることを教えてほしい。ゴール数はどれくらい求めているのか?)
「今シーズンに関しては時間が掛かると思っています。得点を取るためには得点を取る場所にボールを運ぶ、正確なボールを入れるということも併せて必要になってきます。そうした態勢が整ったときにはリーグのトップスコアラーになってくれる可能性がある選手だと思って獲得しています。ですので、今年に関しては少し時間が掛かると思っていますし、夏の補強もそういったところも踏まえてチームが仕上がっていく中で、来年はリーグの得点王を獲ってもらいたいと思っています」


復興のACミランと北欧連合軍のFKボーデ/グリムト

 ルヴァン杯において58分出場したものの、まだ完全には見えない特色を検証する意味でも2020年9月に行われたヨーロッパリーグ予選3回戦・ACミラン(イタリア)vs FKボーデ/グリムト(ノルウェー)の試合からキャスパー・ユンカーの動きに注視し分析していきたい。
 ユンカーが所属していたFKボーデ/グリムトは1部リーグ(エリテセリエン)と2部リーグ(アデコリーグエン)を行き来するエレベータークラブであったが、近年は2019年に1部リーグ2位、2020年にはクラブ初の1部リーグ優勝と成功を収めているチーム。
 過去には2008年にローン移籍でビャルナソン(現ブレシア=イタリア、アイスランド代表)、2013-2015年にイバ(現大宮アルディージャ=J2)、2015年にローン移籍でセルロート(現RBライプツィヒ=ドイツ、ノルウェー代表)が所属している。
 2019年の成績によってヨーロッパリーグの予選1回戦からの出場権を得て、勝ち進み予選3回戦まで進出。今季のセリエAで第15節まで無敗を誇り、一時は首位に経つなど近年復活の兆しを見せる古豪ACミランと対戦することになった。

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 ACミランは、ベストメンバーから新型コロナウィルス感染症でエースFWイブラヒモヴィッチ(スウェーデン代表)、怪我でCBロマニョーリ(イタリア代表)を欠くものの、GKドンナルンマ(イタリア代表)、CBケア(デンマーク代表)、CMFケシエ(コートジボワール代表)、CMFベナセル(アルジェリア代表)、OMFチャルハノール(トルコ代表)など各ポジションに国際レベルの実力者を配する4-2-3-1のフォーメーション。
 対するエースのFWユンカー(元デンマークU21代表)が牽引するFKボーデ/グリムトは、LWGハウゲ(現ACミラン、ノルウェー代表)、RWGジンカーナーゲル(現ワトフォード=イングランド2部、元デンマークU20代表)、DMFベルグ(ノルウェー代表)、RBサンプステッド(アイスランド代表)、LBビョルカン(ノルウェーU21代表)、CBローデ(ノルウェー代表)などを配する北欧連合軍な4-3-3のフォーメーション。

ミランが圧倒すると思いきや…

 下馬評とは異なり互いに攻撃機会が訪れる拮抗した展開の中、15分に先制したのはボーデ/グリムト。そして決めたのはユンカー。しかし、直後の16分にフリーキックの名手、チャルハノールにペナルティエリア前でのミドルシュートを許しミランが追いつく。次第にミランの攻撃機会が増え、ボーデ/グリムトの全員が自陣で体を張る守備やGKハイキン(元ロシアU21代表)の再三のビッグセーブでなんとか凌ぐ押された展開に。そして31分、FWコロンボ(U21イタリア代表)のゴールでミランが逆転する。

 後半はミランが3点目を狙いに前がかりに来る。押される展開の中で与えたCKから再びチャルハノールのミドルシュートが決まり、49分という後半早々に突き放しに成功する。しかし、諦めないボーデ/グリムトは失点直後から丁寧なビルドアップからチャンスを生み出し始め、54分にハウゲのミドルシュートを突き刺しミランを追いかける。その後、59分にジンカーナーゲル、75分にユンカーにビッグチャンスが訪れるが、前半に比べて守備意識の高いミランに封じられ万事休す。ボーデ/グリムトの善戦叶わず3-2でミランの勝利に終わる。


28回のプレッシングと2本のシュート

ではここからは、ユンカーのプレーに焦点を当てて追う。

・プレッシングの頻度
・ポストプレー
・我慢の展開でも乱れない精神

 以上の3点がミラン相手に見えてきたユンカーの特色である。特筆すべきは計28回に及んだプレッシング。ユンカーの周りを囲むハウゲやジンカーナーゲルに比べて自由に動き回ることは少なく、その分プレッシングを欠かさないこと、カウンターの機会にはポスト役に回りハウゲやジンカーナーゲル等に繋ぐことを終始徹底していた。前述の二人にボールが渡った際はゴール前に顔を出し、グラウンダーのクロスを呼び込みゴール。ミラン戦の先制点はこの形で生まれた。
 この試合でユンカーが放ったシュートはゴールを含めてなんと2本だが、焦るような様子はほとんど見せずプレッシング、ポスト役の仕事を全うしていた。ノルウェーリーグの映像を確認すると、当然ながらミラン戦に比べてルーズな展開からハウゲやジンカーナーゲルとのコンビネーションでゴールを量産する姿が確認できるが、冒頭に紹介した西野TDの言葉にはミラン戦のユンカーの姿が色濃く影響を与えているのではないかと推測する。
 浦和の過去にはゴールマシーンという触れ込みで海外から移籍してきたものの、JリーグのDFの間合いや日本の精神性に適応できず去った者も数知れず。圧倒的なチームを相手にし、さらに勝利を掴めるかもしれない気が急くだろう展開でも落ち着きを持って与えられた任務を全うする姿を見て、獲得にGOサインが出された可能性はある。 

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       ポストプレー(01:48)

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プレッシング→相手GKへのコース消し〈計27回目のプレッシング〉(78:06)


杉本と闘莉王にヘディング習おう

・空中戦の弱さ
・既存浦和FWとの特色被り

 その中でも懸念する点として挙げるとすれば、186cmという身長にも関わらず苦手としているのではないかと思われる空中戦。数度あった空中戦のほとんどでボールの軌道の憶測を見誤る、もしくは競り合いに負けている。同胞で空中戦を得意としているシモン・ケアを相手にしていたという部の悪さがあるものの、その他のシーンでも競り負けることが多いことは気になる所ではある。ノルウェーリーグでもヘディングでのゴールは少ないようだ。

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      ヘディングシーン(16:49)

 そして、これは浦和のメンバーとの兼ね合いだが、興梠、杉本、武藤と持ち味が被るのではないかという点である。どちらかというと3人共セカンドトップのような役割を好み、相手の背後を狙うというよりも中盤の位置に降りてボールを呼び込むシーンが多い選手であり、彼らが2トップで並ぶと同じ様な動きをしてしまい相手CBにとっては守りやすい状況になることが多い。ユンカーもそこに加わってしまうのではないかという懸念がある。ただ、ボーデ/グリムトではミラン戦後に他リーグへと飛び立ったハウゲ(ACミラン)、ジンカーナーゲル(ワトフォード)という強力なウィンガーを配していたため、ユンカーが必要以上に献身的にならざるを得なかったというチーム事情もあるだろう。


ミラン戦・柏戦でのユンカーの違い

 最後にユンカーのJ初出場となった柏戦を題材に、ミラン戦で見た特色や懸念点の答え合わせをしたい。

・プレッシングの頻度
・ポストプレー
・我慢の展開でも乱れない精神

 プレッシングに関して、ミラン戦で見せたような献身的なディフェンス及びポストプレーが見られた。これは2トップの相方である杉本にも同様に見られる現象であり、リカルド・ロドリゲス監督が浦和のFWに強く求めているだろうタスクでもある。乱れない精神に関しては58分のユンカー交代後に試合が大きく動いたため材料不足とした。

・空中戦の弱さ
・既存浦和FWとの特色被り

 GK鈴木彩艶のゴールキックがユンカーを狙って度々飛んできたが、ほとんどを上手く回収できなかった。空中戦を苦手にしているというのはかなり確かかもしれない。そのことにも関連して来るが、空中戦に強く、献身性の高い杉本との相性は良いかもしれない。2トップのどちらかが降りて守備をし、どちらかが前で張るという、つるべの関係性が2人の中で上手く成立しているように感じたからだ。ユンカーのシュートの上手さと杉本の空中戦の強さはそれだけでも相手DFの大きな脅威となる。
 ユンカーに見られていた性質もボーデ/グリムトとは変わって、前への意識を強く出す場面が多く見られた。この先も前所属先ではあまり見られなかった彼の新しい面を見られるかもしれない。

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