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小説風日記「アクセサリー買いに行く」

比叡山の麓からその路線は、まっすぐ七時の方向に延びていく。街へ繰り出すのには、この情緒溢れる叡山電鉄に揺られるのが常である。その小さな箱に何度も映画でみた女優が、乗りこんできたときは、流石に幾度となくその顔を私は盗みみた。移住先にと選んだ場所がこのあたりであることには、些末な驚きがあるのみだった。

ターミナル駅は、大学の集結する京都きっての学生街のため人通りが多い。京阪電車に乗り換えるには、絶え間なく移動する人の網を、私はくぐり抜ける必要があった。電車に乗り込むと、そこから特急で一駅分運ばれれば目的地に着いた。

一乗寺に本店のあるラーメン屋も、ここらでは土地代の分割高である。注文の仕方もスマホからと手間を省く。そこで夕食兼朝食を私は済ませてから、ショッピングを開始する。

歩調を強める。なぜかコロナの収束後もブティックの閉店時間は、そのままなのである。有り難いことには、BIGTIMEは二十一時までやっていた。横幅の狭い階段を、一段踏み込むごとに気分も上がった。扉は開いていた。店内は広いが、暗くも明るくもなく照明は灯っている。ぐるりと、辺りを見回す。アクセサリーの類いは、入口から目と鼻の先にあった。

結局のところ、気に入ったリングひとつを購入した。ガラス扉付きの棚には、高価なシルバーリングも陳列されていた。どれも、デザインにピンとこなかったのである。


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