見出し画像

2024年のうた 第一期 冬・春

2024年のうた

第一期 冬・春

新年やまたふるさとが遠くなる二〇世紀は記憶のかなた

元日のポストはまるでオルゴールどこであけてもあけおめことよろ

かためを買った歯ブラシがあんまりかたくなかったのこれも時代か

力尽き年を越せずに一一時一一分で止まった時計

ごま煎餅をもらったひととあげたひと因縁のあるあの二人

つぎつぎと地震津波の情報が画面のうえで白くまたたく

百万の顔なき顔の虚ろな笑顔理性の時代こえた先

ギャラリーにひしめくイメージの種牡馬たちが見やる恥辱の痕跡

ブーニンのドキュメンタリー以降の録画の予約はみなキャンセルに

正月二日のいやな匂いと音と不穏な気配のする朝に

雑煮食い猫もおどりをおどる日にただひたすらに指がつめたい

年明けてまた思い知るまざまざと暗い時代に生きてることを

どこもかしこもコストカット型ではいざというとき非常に脆い

地震のニュース見るのをちょっとひと休み気分変え猿聟を見る

きゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃきゃ

隣からテレビみながら笑うこえ御慶のことば霞ゆきけり

今年こそ少しぐらいは人なみに生きてゆくことできますように

息苦しくてこのままきっと死ぬんだと思いつつ寝てまた起きる

ちょっと見るただそれだけでさざ波が音もなく立ち心乱れる

馬の首かき抱きつつ涙を流す十字架にかけられしもの

鶏肉を盗んでったと疑われくわんくわんと鳴く赤い犬

すぐ近くにも不安な夜を過ごしてる人はいる気づかぬだけで

捏造の修正をするための愛計画的な虐殺の愛

丘を越えエスカレータでのぼってくバリアがあってもう戻れない

正月の冷え込む真夜中にやってきてかっこんをするお猿さん

小噺の続きのように始まって調子かわらずなんとお時間

乾燥で少し鼻血が出てたのか微かに赤くなった鼻紙

冬晴れの睦月の千代田の真ん中で作業着姿の悪目立ち

半開きの扉をぬけて密入国してくる余計な思い出

占領下真冬のパリの片隅である不可逆の持続がとまる

死と排便への愛情とロマンスと暗殺と虐殺への愛

人生は刺激的だと偽って無敵の人を演じるタルラ

三が日明けたら次は石の日でそれが明けたら次は囲碁の日

Aという対象はかくかくしているように視えるから美しい

善の研究物質と記憶からの心的現象論序説

心的現象論序説からの廣松渉身心問題

飛んでいる玉虫見つけ走りだす七〇過ぎの生物学者

古典落語のつまるのとつまらないのが背中合わせの夜寒かな

燃え尽きたわたしの顔も信仰も炎の中の爬虫類館

もう必要としなくなるその日には大聖堂のドアを蹴破る

月待ちの二十三夜の明けた空すきとおるよな淡き朝月

心中を覚悟せむとや近松忌まわらぬ頸を切り苛んで

如意宝珠あつめて道が開けるか目の上にあるおできとなるか

おおさむこさむ小寒に山の小僧が春の陽気に泣いてる

三が日明けたら次は石の日で次は囲碁の日次は色の日

寒の入りそう聞くとにわかにそう思えなくもなくなる寒さかな

息をのみ夢中にさせて生命さえ奪うことすら許すのだろう

何が起きたのたましいにその声はいまだに嘘の塔の中から

心的な概念と心的な規範が同致することの幸運

ぼこぼこと踏み鳴らされるバスドラム気が触れたようなベースライン

両の手はよく似ているがそれぞれに違う種族に属す手である

前年の一一月に収録の正月番組みる人日

人日やおわったはずの昭和がいまもこだまする政治経済

複写を重ね増殖してく原型の存在しないメッセージ

雷輝き雨は泣く吾が呼びかけを吾が名を聞きいれたまえ

その道のいろはをすべて知っているそのひとが秘密の鍵をもつ

初薬師ゆれる稲穂のかみ飾り豊年挿しの干支のかんざし

手わたさる絽ざしの布に子や孫が独創的な刺繍ほどこす

皿のうえもりつけられた魚に心をすっかりみすかされてる

自転車で往きはなかなか進まずに還りはすうっとすんなり戻る

お世話になったみなさんに迷惑がかからぬように証拠隠滅

蘭奢待身に焚きこめた人間の踊る姿のおかしい極み

遠く連れ去る黒い風つめたく吹いて神殿は倒れて堕ちる

神こそが道を備えてくださるとあなたはそれを日々読んでいる

とぶように去りゆく日々の冬のそら日脚のびゆく寒のただなか

甲高くきいいきいいと鵯のなく声のはり春のいきざし

きらきらでてかてかしてる衣裳での謎なバレエと古城とワルツ

もやもやと指うごかしてティーレマン渾身のエモいウィンナワルツ

地中海クラブにみなであつまって同じ流行おいかけている

末端の凍りついてる管とおり冷たくなった血がかけめぐる

夢の中での死を賭したいつか約束した道が溶けて消えゆく

まだ空がとっても高く見えたころすべてがひかり輝いていた

にゃんこ金魚先生のトリビュート漫才をながす時論公論

風もなくしずまりかえるあたまやま池のほとりにのこった草履

寒い夜に冷やでもいいというところ燗でほしがる願人坊主

三十三年ぶりの高値でも被災地ではトイレが流れない

バブルがふくらみきったころ上野の本牧亭のあかりはきえた

ラテンのルーツをもっている青く甘いブルージーンのためのジャズ

輝く顔で歌いつつ線の向こうへハートランドが消えてゆく

抽象と雑音とあらゆる音のための場があり空白がある

明らかにひとつの時代が終わった日セイバンとキャロルの引退

ピラミッドからのぞく目と黄金の林檎とリヴァイアサン襲来

曇天のくうやくわずの寒のなか弥勒のわらう青ざめしかお

アンテナの上で体を寄せ合って鳥がぶつくさお喋りしてる

うっすらと明るくなってきたような気がしたけれどまた冬の雲

この先はそんなに長くないような気がしてきたり布団の中で

約束された道が溶け消えてゆくハートランドの夢の中の死

太陽は決して輝くことはない水晶の尖塔ぬらす雨

真夜中のダウンタウンの角まがるドアの前にはウィリーニンジャ

ペルディド星の孤児ピエールシルバードの時空をこえる旅路

時の支配者の手の中でピエールとシルバードが言葉を交わす

粒だったはやき流れに冬日和そりが合わずに乱反射する

新人に古参議員が教育をするしきたりが反民主主義

かなしくて布団かぶって寝たいけど時間がくればまた腹が減る

運命を暗示するよな嵐が迫り今にも崩れそうな空

飛び立とう翼を奮い起こしたらきっと空まで連れてゆけるよ

困難なとき乗り越えてまた戻りトゥギャザーするを現実にする

味噌汁がだんだん麺の入っていない味噌ラーメンになってゆく

雪になるといってた予報そのままの今にも降りだしそうな空

おお粒の初雪ふりぬ屋根のうえ風に舞い飛びみぎへひだりへ

乗合船に芸者尾上紫と屋敷娘の藤間紫

司馬遼太郎短篇傑作選で竹下景子が乳母の喜多

避難する場所の確保が不守備ならわたしなどすぐに消えるだろう

投げ込まれ何も見るべきものを残さずにこの世界から立ち去る

松とれてまた年こして小正月日脚のびゆくタイムフライズ

極寒のアローヘッドではアンディリードの口髭も凍りつく

うどんを茹でる鍋の湯気でまずは冷たくなった指を温める

高麗川の下流の茶店の猫が餌を食う絵高麗の梅鉢

高鳴きしあちらこちらで鳴き交わす寒のうちでも鵙はにぎやか

誰かは知らない誰かの光る君へ自署不能につき代書する

天国と尽きせぬ希望ゴールドの心の上に日は出て沈む

狂った夢を演じるように睡魔がまたしても目ざめ起きあがる

とびらあけ空気抜けてく音がする見るも哀れな侘びしきそびら

寒風の吹く朝に山茶花を啄みにくる目白と四十雀

心の中にまだ生きているからキング牧師の生誕を祝う

目玉焼きフライ返しから落っこちてひっくり返った小正月

寒風に残り少ない燃料を奪い取られてきわめて眠い

家にまつ女房もなく子供もいない吹きつける冬の風音

最後の決断を下し動き出す視野狭窄と証明の傷

分類して配置してゆくまるで動物園の動物みたいに

したがってある意味では私たちはみな生まれながらのプラトン派

藪入りに襟のほつれし新参が小豆の煮える夢を見ている

北国の寒さのなかの親鸞忌しずかに念ず妙好のひと

私は私の脳ではないし体も言うこと聞いてはくれない

日はさせど凍りつくよな強いかぜ雲がながれてときおり翳る

世界のへりの荒ら屋の二階で風に吹き曝されている気分

午前二時五番線にはブラックマリア静寂と熱をつらぬき

消え去ってゆくのを見てた解放されるここにもう昨日はいない

丁寧に説明するということはちゃんと説明するということ

丁寧な説明をしてゆくつもりだし現にそうしているつもり

あまりひきたくないけれどこの寒さでは風邪をひかずにいられない

巻いといた夏の簾がほどけてて垂れさがってた風の爪痕

寒中のつめたい風が吹くなかで木瓜の莟が色づいている

水挿しでやっとぽつぽつ表面に白い小さな根らしきものが

状況を知りも理解もしてないなんて虚言であると言いきれる

頭の中の黄金の焔を描く方舟の安息の地で

寒中に火の粉舞う亡者送り浅草寺温座秘法陀羅尼会

テレビの超人気者や選挙で選ばれた人がへんなのばかり

ちゃんと遊べぬ芸人とまともにお金の管理もできぬ政治家

記念碑の零度としてのエッフェル塔の前でとんがりポーズする

としとった斜陽の民がしがみつく権力と豊かさのまぼろし

まだちゃんと思い出せるか何回も頭の中で呼ぶ声をきく

ぶつかりあってふりそそぐ夢の場所ドアの後ろの猛毒のドア

この人を見よ本来のあるべきすがた勝利など存在しない

皇后のほほえみたえぬおもだちに心も和む歌会始

疑念払拭するというけれどそれもう疑念なんかじゃないですよ

なんとかの乱とかなんとかいっちゃって劇場化して格好つけてる

晴れてると昼間は設定温度二〇度で冷房がつくくらい

ジェラピケの化粧まわしを一回も見ることなしに終わった睦月

派閥こそ命脈だった議員には一大事かも知れませんけど

十分に深く見るならこの夕べすべてはそこに見えるままある

ベッドの脇に立っているヤマヤママンが元いた場所へ連れてゆく

靴下のゴムが食い込みすぎなのかしもやけ気味で痒い爪先

手のなかでまもり続けてきたものを自らの手で腐らせてゆく

エックスのポストでサーシャグレイの祖母が長崎の被爆者と知る

カンチョンカンチョンティオガミョンノムノムポゴシポッソヨンスジュンジュセヨ

寒中の雨がさあっと降りだして予報のごとく時雨模様に

穴ぐらへ落ちた泥棒いなおって三両というまで動かない

アダムが言ってた通り理解することはそれほど難しくはない

半分寝てる目で絶壁の縁に立つしゅわしゅわ人間爆弾

大寒にまた突きあたる壁のまえ立ちつくしてる雨の降るなか

にぎやかに繰り出してくる鳥の声もうすぐ止むか冬の日の雨

初大師雪の予報が雨になり午後にはやんで晴れてくるとか

寒中のつめたい雨にぬれてなお木瓜の花蕾のほころぶ手前

心は蛙見た目は子象コロちゃんが生まれ変わってサトがえり

度を越した金満家族の富豪ぶりに最前列も寝落ちする

見つかることを期待していつものようにまたここに来て待っている

わたしはただのディスコクローンもう誰もひとりで夜を過ごさない

お粥を食べて石炭を吐く男こそ夢のエネルギー革命

低劣なしもじものもの切り捨てて思い切った政治をおこなう

目も届かないほうっとするほど長い白浜の先で揺れる海

飛行機が赤と緑の灯りつけ頭のうえを通りすぎてく

社会が変わってしまうから裏金文化は永久に不滅です

わたしよりこの手の中のスマホの方が内外の世事に明るい

心を痛め逃げ隠れ衰弱をして泣いている暇はもうない

みんなしてゲームしている安全にプレイするならいいことである

泥濘に足をとられているようではずみがつかずうたにならない

いい刀とはよく切れてぎらついてても鞘に入っているものよ

水に酒ちょっと垂らした村雨をちょっと飲ませるような賃上げ

しくじることを恐れずにトライジーザスやってみろ消費人間

知らぬ間にいっぱいお金かき集めてきちゃってる秘書を雇いたい

最後に句点をつけると怒りの感情の表現になるらしい。

肉の破片が骨が飛び散るどちらの手でつかんだブラッドマネー

ここにいる人は理解しているのかそっと泣いてる宇宙飛行士

寒中の風と日ざしと御縁日手をあわせて南無地蔵菩薩

裏金を裏金じゃない裏金にする抜け道をつくる裏技

干しといた靴下とってほかほかの冬の日ざしのぬくもりを穿く

青い空ちぎれた雲のかたまりが風にまかせて南へ向かう

トランプがスミスながして監獄にヒアウィカムと洒落ているのか

ひとりいなくなったというだけでもこれだけのことがあかるみになる

マリアンの歌声と梵鐘が聞こえなくなるまで深くうずめて

顰めた顔を拭き去ればフラッシュバック知っているけど見せぬこと

間延びした面長のひと馬でくる乗ったひとより馬が丸顔

またたいてコミュニカシオンする光ゆらゆらゆらぎ微睡む意識

からっ風ふく冬ひより凧あげに興じる親子の初天神

風がまたつよく吹きだすなにがうそなにがほんとの鷽替の日に

凩に枯れ葉まいたつその下の木瓜のピンクの小さなつぼみ

梅の木の枝にとまった鵯の風に逆立つぼさぼさ頭

つめたき水は変わらずに深きをながれ限界を眼前にみる

波止場にて朝な夕なに船を見て潮の満ち引き座って見てる

目を閉じていのる自分が発光をしているすがた想像をする

四枚の違うレコード同時にかけるようなイスパハンの市場

朝なのにまだ明け遣らぬ暗いそら外の気温はマイナス一度

今日もまた北風強くおびえてしまい心なかなかやすまらず

真っ白な紙に鋏を滑らせてどんなものでも切り出す至芸

名人とよばれるほどの芸であればあるほどに散りぎわはかなし

雷雲のした潮流にただ漂って流れのうえに浮いている

すべてまだおんなじままで変わらない骨を休める孤独と二人

かくも長き旅路の果ての果て辿り着くシベ二最終楽章

あと少しもう少しだけ長いこと寝てたら二度と目覚めぬ眠り

沢の水こおりつめたる時節でも日なたの梅の莟ふくらむ

うかびきてちょっと考えととのえるすぐに記憶の底へとしずむ

花粉とか裏金だとかミサイルが飛び交ってゴーグルそれをしろ

辛口の麻婆豆腐に花椒入れて汗ふきながら食べている

地獄にのまれるその前にお別れの口づけをビヨンドザペイル

尖った棒で豚の目に触れるよに孤独な人がしる胸のうち

いやだねえ貧乏たらしいにおいがこびりついててもう離れない

雲間から睦月の日ざし初不動ゆれておどろく厳寒のあさ

まだ梅は咲きそうにない初不動そろそろ木瓜は咲きそうだけど

中澤さんは茶髪のボブで両の手に指輪と長いピアスする

子どもの着物を親が着てつんつるてん襦袢の袖なしちゃんちゃん

少しずつ割れてた指の爪先がのびていつもの爪へともどる

その手の中にわたしの命を委ねることは本筋に反する

落下して生きることから抜け出して落ちれば落ちるほど浮上する

もう今はいないけれども音だけがまだ残りつづける睦月かな

つきつめたところでいえば植物が動物たちを養っている

ちっぽけで灰色をした虚しさと勝利宣言パーフェクトデイ

冬晴れにいのち尽きたるテロリスト飲み屋の椅子で聴いたブルース

むしってた畳のけばに唾つけて三度額にはっても立てず

底んとこ破れちまった網籠にボール何度も投げ入れている

暗闇につつまれたとき導きのひかりが灯る力能の塔

ジプシーのように彷徨い屋根のない黄色い月の下で揺れてる

冬なのに蚊がふやふやと飛んでいる日なたに立ったまばらな柱

結局またパフォーマンスオブウォーを引っ張りだしてきて読んでいる

高い山から日のあたる街路までそれぞれ違うビートを鳴らす

足音が聞こえるくらい近づいて来ているけれど気づきもしない

分断の溝が掘られた心の中で引き裂かれまた血を流す

夜も更けて江戸二の店の店先で納豆配る納豆坊主

目を閉じて息を殺して夢に見る許し忘れてキングダムカム

どこからともなくどこにもないところへこのどこでもないところから

あることを言わないことで不用意に表示をされる重要なこと

いつのよもいわぬはいうにいやまさるいわぬことこそほんとうのとこ

あるときは高杯でありまたあるときは向かいあってる顔と顔

目を閉じてなんにも見ないようにするさしこんでくる光といたみ

あちこちが花粉のせいか調子が悪い目がかすむランクムを聴く

夕方になると途端に冬らしい寒さが戻るランクムを聴く

希望を捨てず生きること深い呼吸をながくきびしく分け合って

時を待ちすべての過去を記憶する泣くまで笑い死ぬまで生きる

あっという間に夜になるたくさんのやろうとしててやれてないこと

ひとつずつ片付けてゆくはずだったのに前よりも散らかっている

きさらぎや死ぬのはいやと思いつつ一度は死んでみたいと思う

生きてるだけじゃ偉くないかといって偉い人にもなりたくはない

寒風がもう開こうとしてる莟に吹きつけて縮こまらせる

北風の吹くよく晴れた日に今年も春のパンまつり始まれり

失意のうちにある沈黙を聞くがよい霧たちこめる黒いやまなみ

わたしはここに来たことがあったでしょうかお名前を聞いた気がする

ゴスカウボーイといったらそれはもうフィールズオブザネフィリムのこと

ほっとくと驚くほどに手の甲がしわしわになって老いるショック

寒いので布団のなかにもぐり込み暇にあかしてうたなどを詠む

寒中の寒の戻りとでもいうような立春の前の前の日

昼すぎに突然かっと日がさしてくるそのきさらぎの二日灸

デートできる男の子募集の人からいっぱいフォローされている

ちゃんと短歌読んでくれるならデートできる子募集でも構わんが

かなうまで夢見つづけて笑いのために涙のためにただうたう

扇の裏にて明かされる謎のはじまりバビロニアのあこやだま

太刀を振り上げて馬に跨がり真壁六郎太が追い掛けてくる

雪姫の上原美佐がほとんど何を喋ってるのかわからない

裏切り御免と言い放ちぴょおんと馬に飛び乗る田所兵衛

春めいた日ざしの下の屋根の上ならんだ鳩に豆を打ちたい

春近し花ぼんぼりに浮かれ出る七福神の舞う浅草寺

節分や蕎麦をおおった海苔のつやドーナツ味の煎りたての豆

花粉のせいで身心がぼんやりしてるからなのかずうっと睡い

選択的没落貴族のその下のそのまた下の下の下

だれひとりもう喜んでくれなさそうな誕生日まであとすこし

春立つや愚のうえにまた愚をかさねかさねつづけ五十有余年

立春の松の梢にぴょんぴょんと目白たわむれ飛び去ってゆく

みなさんが好きなうた好きそうなうたぼくはちっとも好きじゃないのだ

だからさぼくのよんだうたをみなさんが好きになるはずないじゃないか

完璧にほど遠いまま書き足すことも削るもできぬ三十一字

灼熱の大地でひとが溶けてゆく横たわりまつのぼる朝日を

不可解な気品にみちた孔子の顔にむらがり拝むツーリスト

エックスのプロフィールみて意味もなく色とりどりの風船とばす

ただ大きな災害や事件事故が起こらぬことを祈る一日

何回もタイムラインに現れてまたかまたかのアキヤリバース

曇天の雪ふりそうな寒い日に鵯が法華経を唱える

雪のまじった冷たい雨に色づいた木瓜の花蕾が濡れている

畦道の茶色く枯れた芒の上にうっすら白く積もる雪

雪になり白くしっかり降り積もり雷も鳴る二月の五日

春立てどまだとっても寒いウィリアムSバロウズの誕生日

ちょっとずつ違うからこそちょっとずつ輝けるごちゃ混ぜって素敵

分厚くてとってもかたい殻の中いまにも睡り込もうとしてる

何回か挑戦したが最後までまだ読んだことがないエレホン

花の咲く前の梅木の雪化粧とけてしたたる二月の六日

てっぺんに雪をいただく松の木でひいよと啼いてかぶく鵯

しろく積もった雪のうえ山茶花のくれない色の花弁いちまい

今か今かと待ってはいても大抵は見てないときに花は咲く

眠らなければ夢は見れない疲れ果て釘のベッドに横たわる

鶏のチャーメンとチャプスイをテイクアウトして香港の庭園へ

今年も足が凍って飛べない鳥の救出動画を見る季節

雪が溶け水滴がつく松葉から水分補給している目白

調べてもなにも明らかになりはしないだってそれ裏金だから

吉原についてしりたきゃ志ん生の廓噺をきくといいやね

吉原についてしろうと宮川曼魚の江戸売笑記などよむ

火を消すように上から下へさっと手をおろす仕草でイヤダヨウ

日を追って海沿いの道ひた走る王国がくる黒き惑星

見ることができるようになるでしょうか電波にのって飛んでゆく声

中に着るシャツを一枚追加してみたけれど寒いものは寒い

春めいた明るい日ざし頭の中では第九のピッコロが鳴る

雪が降り寒い日すこし続いたがそれでも飛んでくるのが花粉

おじさんが小さなことに感動し毎日短歌詠んだりしてる

エッフェル塔がオリンピックのメダルになることバルトに教えたい

後ろ前脱がずに両手袖から抜いてぐるっと回しちゃんと着る

終にその日が近づけばわたしにも見えるであろうおんなじように

金属は丈夫で硬く輝いてオイルを塗れば錆びつきません

スレッズとブルースカイにあらためて孤独の味を味わわされる

ルールとかレギュレーションの変更もゲームの中に含んだゲーム

周りの人にあわそうとあくせくしてる夢をみるこらえず起きる

肉食系のフードライターが肉欲がとまらないと仰った

安売りの期間のうちにロイヤルブレッドでポイントを荒稼ぎ

雪もとけ日ざし春めき梅と木瓜ほぼ同時期に開花する

何事もうまくいくはずよいほうへ向かうはず泣くひまはない

雨を降らせばうぬぼれた夢を見る小麦を撒けば足に花輪を

人間の音楽のそのまた先にある音楽の音を楽しむ

ごとごとと雨戸をあけた瞬間に旧正月のまぶしい朝日

食べたあと口に残った胡椒の粒を噛んで潰してひりひりり

春節に小澤征爾と小柳枝を悼む言葉でうまるエックス

自由をおそれ動かずにどこにもゆけず逃げだせず今もまだここ

殿様がやはり源氏は金沢にかぎると言ったとか言わぬとか

悪魔と青くて深い海の狭間で待っている絶体絶命

細い光のスリットつかまえる処女飛行中の少女のために

カンなんてどこ探してもなかったしあったとしてもばか高かった

準備のできたものからひらく梅と足並みをそろえる木瓜の花

どれくらい遠いとこまでゆけるのか並木の道の向こうのアケロ

読み返せ一回読んだだけではたぶん読んでたようで読めてない

真打になってだんだん顔だちも噺家らしく仕あがってゆく

いうことがおかしきひとのめでたさようっすら思い出して忘れる

波の底マリアンの呼ぶ声がする救ってくださいこの墓から

タクシーの中にひそんでいるスパイ監視する道路のキャッツアイ

街道をゆきかう人の菜の花忌みちはまじわりまたはなれゆく

初午やうっすら暗い藪下のみち土手の上には馬の糞

いやな世にあっても終始機嫌よく嘘をつかずに生きてゆくこと

コダーイのハーリヤノシュを子守唄がわりにうつらうつらとしてる

今ごろになって気がつく昨日のあれがやはり腐っていたのだと

年とって卵をうまぬ雌鶏を浅草寺まで奉納にゆく

約束の二十五年をそのままにこの面差しでいついつまでも

父と子と精霊の名において血を流すスティグマ緋色の至福

失敗がさらに大きな失敗を呼んできそうなぎりぎりのとこ

如月の春の日ざしのあたたかさ蛇口の水はまだ冬のまま

はりついた埃が壁の上のほうふわふわ揺れてたまに目につく

プチブルを踏みつけにしてブルジョアが取り縋りつく泥船の艫

老若男女全方位ソフトハードを混ぜこぜに撒き散らす害

行くときはぴっちりしめた上着の前が帰りは全部ひらいてる

途端に崩れるフルハウス引き取りそのまま保持しテイクホールド

本物は感じられるし争いは正しくはない入力をせよ

鶯がぴょんぴょん歩き黙々と朝の食事を啄んでいる

ようがすかこうめえても昭和の生まれチョコもハグも滅相もない

薄められ目減りしているだけなのにはて恐ろしき執念じゃなあ

地球上のすべての排他主義そしてレイシストを抹殺したい

調子が落ちてスタミナ不足そこに眠気が追い打ちをかけてくる

この分じゃ三月末にはまたすっかり葉桜になってるだろう

来るべき未来の中に生きるより暇をつぶしている方がよい

ただの夢ただの空間ファンキーに足留めされて恐れを捨てる

霞むよな空に目のゆく西行忌おもいつきつめひとり咳する

ほんのちょっとの間だけ寒いの我慢するだけで終わっちゃう冬

春めいて思いもかけずあたたかな涅槃に紅く咲く木瓜の花

春一番が雨戸をたたく夜になってもまだ吹きおさまらない

中国にドイツに抜かれそのうちにインドに一気に抜き去られる

南からあたたかい風北からはつめたい風が吹く入滅日

九のうちすべての九が無駄になるそして電車を待ち続けてる

ぶらさがりひざまずき賽子をふる浅いところで酔って溺れる

風強くぐらぐら寝床ごと揺れて生きた心地がしない真夜中

今朝は怒風激しく吹きまくり飛ばされそうで寝入るも難し

咳こんで胸の痛みは増すばかり風で小砂や花粉が舞いて

青い蓮華が咲きほこり鯛が押しよせ泉の水が湧きいでる

ことことと賽の目切りの豆腐が煮えて思い思いに揺れている

月がかがやく夜空には雲ひとつない心はそこにかけてゆく

けつまずき転がり落ちてゆく人を静止したまま眺めつづける

音もなくばらばらにされ感覚もこなごなになるまで砕かれる

堕落してまだ自堕落がたりていないとうたに詠むなり安吾忌に

座り込み膝をさすっているふりをしながら押している足三里

小さくしぼんでゆこうとしてるところを無理にそらしてのばしたり

春浅し空またうっすらと曇る窓辺の色も浮いては沈む

半蔵門から四谷の見附までぶらりとしただけの江戸散歩

石垣に触れた手指のにおいを嗅いで歴史感じる江戸散歩

そして世界は回り続ける人々は冷たくなって燃えている

すぐ後ろ心の路地のパラノイア同期がずれて押韻のそと

貧しくなった日本の民草に特売品のコアラのマーチ

そそのかす女の眉にそそのかされて塩辛さがす壺の底

転調し変奏され元の主題はどこにもあってどこにもない

瘧を病む光源氏に護符をのませて足三里にも灸すえる

電池が切れて何度もとまる横になりちょっと休んで生き返る

団体の小学生に文菊がみせる本気のまんじゅう怖い

ドアのまえ決心つかず佇んですでに見えてた道を見つける

最大化増益搾取業界の嘘思考の制御と統制

演奏と指揮をじっくり見ていたいドナウに謎のバレエぶちこむ

老木にまばらに咲いた梅花の枝そぼ濡れる雨水の雨に

物干しの竿にいくつもしたたりし雨水の粒ひかる雨あがり

ヒューマンエンジニアリングの時代の教養を持ち合わせていない

吸って吐きより深く吸いしみ渡らせて引きとめながら加速する

ジュビリーテンペストエンジェリックカンヴァセーションカラヴァッジオブルー

確実に知っていることそのすべてを知ることにあまり意味はない

生命の大きな線がそこにある順番を待ち場所におさまる

どれほどに非道く踏みつけにされようともインティファーダの火は消えず

多喜二忌の季節はずれのあたたかさ二回目が覚め三度寝をする

南風つよく吹き込み雨が降り土と木と水と春のかおり

あたたかな陽気のせいか半袖でピエロウミリアーニ聴いている

二月に夏日記録して夏は猛暑になるという沸騰地獄

生あたたかく春が殺しにやってくるゆっくり握りつぶされる

残りつづける思い出も名づけられたらそれはもう単なる記憶

とっても速いお気に入りコズミックカーアクセルを踏み走りゆく

誠実さへの気違いじみた要求と徹底された無関心

掛け布団の下に毛布二枚重ねているからか寝汗かいてる

冬にまたもどりし雨の薄暗い部屋でずるずるうどんをすする

連日の風に散りたる梅花の霧雨に濡れはりついた道

どんな手段をとろうとも何度でもわれらの心を解放する

演芸図鑑在りし日の紙切り芸正楽自賛の昇り龍

四方から風が吹いてる慄きつつ言葉が崩れる音を聞く

より強くなりつながりを断ちきってもう一度だけチャンスを掴む

春まだ浅い雨の夜どこか近くでなにか獣がさわいでる

仰け反り倒れ目をまわす三味の市になりきる圓生の猫定

いてとけた土の雨水にうるおいしころに激しさ増す寒暖差

消費期限過ぎたジャムパン食べながら最高値の速報を見る

猫の日に猫耳つけた衝撃のコスプレ姿のしゅと犬くん

替わり目で気温気圧も不安定円安株高にゃんにゃんにゃん

かんがえをあらためるにはおそすぎるくだりつづける帰らざる河

スペースをクリアにしてみなはなればなれになる明日は新しい日

これはもう眠れないかと思っても深い呼吸を繰り返すうち

春雨や降っているのかいないのかこのまぼろしのような世界に

春雨や美人の大きなあくびが門のところの犬にもうつる

ちらちらと散る梅の花びらのよに雨にまじって雪片が降る

さわがしき世よちとやすめつれづれにわれ寝てすごす早春の雨

ほんの一〇分くらいだけ人間のスイッチ切ってまた生き返る

川に流され片足を墓に突っ込み雨のなか裸足で踊る

口の中では甘い味グラスの中で苦くなるワインになる血

久方に朝のまぶしい日がさして余計にさむい放射冷却

ほとんど誰も読まないものをせっせと書いて無駄に疲れ果ててる

こんなもの誰が読むかと思いつつ頭をしぼりいとくずを縒る

人間が人間ゆえに人間のいやな部分を抑えつけない

閻魔さま見て地獄の釜ではなく開いた口が塞がらなくなる

薄紅色の椿の花が日あたりのよい場所にほたりと落ちる

感情の流れにまかせ全てをわすれ祝福をする終末日

白雪に赤く流れる音もなく最後の夜の最後の犠牲

飛び込んだ炎の中で微笑んでサティを前になにも語らず

ピアノ二台四本の腕二〇本の指で弾く春の祭典

降りそうでまだ降ってない春の雲うすら暗くてどんより寒い

ちょっとだけあれを読もうと思いつつなかなか手がでないこともある

ちょっとだけ左の目から涙のような水分が染み出してくる

青いおおいぬのふぐりが冷たい雨に濡れながら田の畦に咲く

おなじ嘘おなじ間違い繰り返し昨日の約束を待っている

投げ込まれ水の中でも微笑んで屠殺の前の雌牛のように

蹴散らされ雲ひとつない春疾風ごろりと横になった自転車

雲一つなくてまばゆき木の葉かな風にぐらぐら幹ごと揺れる

強風に負けじと春の日ざしのもとであかあかと花開く木瓜

逆らって冥府の河が流れゆくお手紙をかく窪んだ器

風が吹き吹きぬけてゆき遠くから遠くの風を呼びつづけてる

爪が割れたりする前に爪を切る深く切れないすぐのびる爪

消えることなき炎すら頭の中で焼き尽くすジャングルレッド

話すのは理解不能な諺だけ聞くものまで無にしてしまう

老木のまばらに咲いた梅花が風に吹かれてさらにまばらに

タクラマカンやゴビの砂漠で吹くような風がここでも吹いている

春一番を押し返す西高東低冬型の気圧配置

背が低くあんまり風の影響を受けることなく咲いている木瓜

今年よりも来年の風は強く吹くその次もそのまた次も

今年よりも来年の夏は暑くなるその次もそのまた次も

心のどこか奥ふかくどちらの端も燃えあがる夜通しずっと

生意気で卑劣なまでに悪戯なあまり上手に歩けぬフィンク

すっかり風もおさまって電気を消してゆっくりと戸を閉める夜

何日も忘れつづけていたことを今日はしっかり思いだしてた

白く小さいぽつぽつが育ってるのかいないのか水挿しの枝

異常なパーティアニマルがアブノーマルな性癖を告白する

八時ちょうどに過半数確実の行き着く先の倫理の審査

春の風ふくきさらぎの顔面の黒き仏とアニュビスの像

幾日も北風が吹くそれだけで疲れてしまいとても眠たい

今日を生き踊りつづける夜もすがら両端の火に焼かれるよりも

高い木が横たわらずにいる不思議ふるい世界がまわりつづける

ブンザリというAIがAIの反乱を阻止する夢を見る

ときどき寒くなる暖冬の劇的に変化してゆく二月かな

白く小さいぽつぽつがちょっとぷっくり膨らんできてる閏日

たくさんの日本人女性たちが自分のことだと思い込んでる

閏日にもはや未来がないような気がしてきてしまい逃げかえる

このどうしようもない社会のように変わらない君はだめな人だ

早世へ吹っ飛ばしてく両端の燃える炎の焼き尽きるまで

古いのも新しいのの中にはあって予期せぬときに現れる

雨のおと風の吹くおと地面も揺れてばかりいて眠れなくなる

日のひかりあかるくなりし三月のあいもかわらぬ薄暗い部屋

げすい奴らがぬるくやってるぬるい世界がどうか滅びますよに

どうにもならなそうなものをちょっとだけどうにかしながら凌いでる

松の木のてっぺんの枝にきてひと休みしてく番のひよどり

三月は苦手です世のみなさまにおかれましては謳歌されたし

永遠といってた時間おもいだす夢を見ていたのか知らんけど

夜があけるこの内部にはわれわれはどこにもいないどこにもいない

諦めず努力をかさね夢をかなえたいっちゃんの急なおでかけ

テレビみてこのひと白髪ふえたなと白髪まじりのあたまが思う

政治改革で社会が変わると大変ですから火の玉になる

いつどこに割り込んでくるかわからぬうかれ神やら気まぐれ狸

心がとても広く何をされても怒らない余裕のある大人

想像の紙のうえ一文字一文字が手を組んで練りあるいてる

頭からラストトレイン飛びのって汽笛ならして昨日にのこす

われわすれうまくいっているふりをする地獄などないハッピーハウス

あの声はびんずいかしらと思いつつ二度寝する春の寒い朝

ねもごろつつんだ雛あられこぼしたりかるしとおどろく万太郎

おれたちは一円でもより安く買いたい安いものをより安く

聴こえるか聴こえないかのぎりぎりのところのセラーほぼ聴こえない

創造的に退化する創造的進化の天然自然流

涙もかれたあきらめの蟹の味この町の夜うばっちゃいなよ

落ちる影振り返らずに逃げるよな明日の呼ぶ声ラストトレイン

安っぽいその感情と毒されきったその心ドロップデッド

性質の差をゆるゆるにして空間の均質性へ溶かしこむ

みるものがみられるものとならむとしそのみなげこむ深きまなざし

アキヤリバースの空き家をみるたびに昭和大赦が思いだされる

山からの雪解けの水かと思うほど水道の水が冷たい

春の日の薄いヴェールで隔てたようなよそよそしげな暖かさ

かたまって石のように冷たくなってしまったから何も見えない

色褪せる内部のどこかつい目の前で消え去った探してたもの

どれくらい速く動くか青く見えるか考えるブルーサンダー

まだ読みかけの本があるまだ読んでない本があるそれだけがある

二度寝して電車の座席に横たわり寝てる人を見る夢を見る

現実と夢との境目でゆさぶられ自分を見失ってゆく

啓蟄の二月に戻ったかのようなどんよりしていて寒い空

もうこれで死んじゃうんだと思った途端もっと書きたくなってくる

水挿しの水につかるかぎりぎりのとこの子が根になりかけている

視界から消えてしまった空の色はてしなく塗る深い青色

わたしの靴に足をいれ物事をおんなじようにご覧ください

さあっとかすかに音を立て春の夜に大粒の雪が降っている

佃煮の小えびのひげが刺さりそうあのちくちくがたまらないのよ

夜半から雨になりけり春の雪まばらに白く梢にのこる

南岸を低気圧が通過中で雪が降ったり咳ばかりでる

真っ白な屋根に残っていた雪もすっかり溶けてなくなった午後

新しい資本主義なんてまやかしとボードリヤールがわらってる

これまでに何度もその言葉を聞きそして這いあがった何回も

二十二の顔に砕けて崩壊してくカイドスコープスタイル

ゆらゆらとまだ定まらず揺れているおもむきのないさびしい野辺で

精一杯でこれだけでしたそれだけのことでしかないことでした

白抜きの読点しろてんといえばアリストテレス形而上学

何気ない繰り返される動作の中でゆっくりと綻んでゆく

このごろは昭和の終わりの生まれがへんに涙もろくなっている

春らしい明るい日ざしそれなのにまた明日は雪が降る予報

永遠に消えてしまった深い青ひとみの中のディーパーブルー

わたしはそこの中にいる髪を引っ張りこの外に出してください

革ジャンを着込んだ子規が動くたびぐじゃぎゅううと変な声で啼く

うっすらとまた降り積もる春の雪すごもりむしも出るに出られず

今はもう照る日ざしの下で水音をたててとけゆく春の雪

ぽたぽたと松の枝から滴って一夜に積もり昼には消える

雪が降りそして溶け梅は散り木瓜の花びらも散りはじめている

もやもや深く流れる川を前にしてなかなか渡れないでいる

こころみよ腫れ物君よ血でそまる竜舌蘭の刺をかざして

人の皮ときどき脱いで踊れたら天使とともに飛び交いながら

もう今はなにひとつ問題ないと遣り過ごすことは許されない

谷越えて山越えて吹く春の風ふきさらされた城址の木碑

ふるさとの平野をびゅうと吹きぬけるよく晴れた日の春の北風

目の前が青く冷たい灰色からだんだん赤みを帯びてくる

墨堤でうたをうたえば業平の言問うすがた水面にうかぶ

長命寺首だけの犬の六助にも桜餅にもこんにちは

まだ少しもしこの先があるのならそちらの方へ歩いてきたい

しばられた生と世界の重みから解き放たれて飛ぶスピリット

話しができる爪先が微笑みながら降りてこいとか言っている

空襲で命おとしし芸妓をしのびぽつりと一句万太郎

頭の中が引きちぎられて新しく組み替えられてゆくような

ちゃんと目を瞑って寝てないせいでひだり目だけが赤く痛む朝

マムシは二人目三人目を咬むハブは三人目四人目を咬む

針の穴ほどの手なみの乱れから一気に崩れ落ちてく調子

進もうとしてるところに次々と立ち現れてくる阻むもの

魂のこもったこころ手にしてもすでに手遅れ絶望の淵

この星を離れる時がやってきた財布はもって行かなくていい

新しく組み替えられて頭の中が引きちぎられてゆくような

あれから十三年まだ近いようでいて遠くにも感じられる

あおあおと晴れてうっすら霞む空おだやかに春めく震災忌

あかあかと春の日ざしを透かして揺れる薔薇の新芽の芽吹きかな

ジャースキンフェンドリクスの哀れなるものたちに今の時代を聴く

気づかないうちに大きくずれていたことにようやく気づく三月

武州ガスといえば灰野さんだよとしゅと犬くんに教えたいワン

近づけるところまでなら近づけるだが検問は開いていない

少しずつ剥ぎ取るように破壊され穴開けられてゆく夢を見る

なにごとも承知しているつもりだけどんより空をおおう春雲

あれから何年と数えてばかりの春まだ浅き曇天の朝

ざらざらとトタンの屋根に打ちつける冷たい春の雨の降る午後

昭和の人はハグしない青年局は口移しとかすごいする

人間の仲間であると人間に思われるとは思わないけど

缶にする可能なうちに捕まえて缶にぶちこみ缶詰にする

怒らせないでこの暗い時代を生きてゆくことにうんざりしてる

風の音ごうごうとなる夜のそら低いところを飛行機がとぶ

南から北から強い風が吹き暴力的に吹きあれる春

春の雲うっすらところどころを翳らせて風に流されてゆく

とうふぃとラッパふく音なんべんもテープでながす移動販売

ちっぽけな欠片になってしまっても消えないものは決して消えない

枯野はも緑の萌ゆる花の盛りのあればこそ枯野となりぬ

大気の中に波が立ち見えない道をレーダーラヴが駆け抜ける

リトルジョニージュエルの奇妙な事件とてもクールなウィンクひとつ

久々に電子メールというものを書いて送ったような気がする

考えたってしょうがない誰ひとり考えてなどいないのだから

昭和歌舞伎の格調たかきにおいかな一力茶屋の仁左衛門

艶に演ずる大輪のはな一力茶屋の十五世仁左衛門

弁明はわからぬことをわかるようにしてはじめて弁明となる

春の午後すでに団扇であおいだり花粉せいでくさめしている

呼びかける声もう何も恐れるものはここにない夜が近づく

孤独な心もつことは壊れた心もつよりもずっとましだよ

引っ掻いた瘡蓋になってるとこをまた引っ掻いてちょっと血が出る

ああでもないこうでもないと考えて結局どっちにもならない

続くもの続かないもの続けても続けなくても意味のないもの

なんでもできる気分になったりなんにもできない気分になったり

誰かに読んでもらうため対面執筆セミナーで教わりたい

突然にまるで大波かのようにはげしくおそいかかるさみしさ

高々と輝いているその下で火に油を注ぐ愚者の金

断ち切れぬ連鎖の上に積み上げるさあ歌えチェインギャングソング

もう何もしなくていいといってくださいもう何もしたくないから

あっさりと未来は未来であることを手放しどこかに去ってゆく

うっすらと白く霞のような雲ふわりふわりと十六団子

忘れ物してきたような気がしたけれど思わぬとこから出てくる

塀沿いの日かげになった道ばたに白く小さい水仙が咲く

奥底の見えないくらいちっぽけな虫けらにしか見えぬでしょうが

澄み切った瞳を通じ見る世界夜明けを告げる無慈悲な光

止まらずにそれを続けるアクションを決して止めるなリズムの奴隷

舌先を執拗に舐め回されて妙な気分になる夢を見る

夢に出てきた自転車修理店の店主がすけべ兄さんだった

断っておくが舌先を舐めていたのはすけべ兄さんではない

聖パトリックの祝日のクローバーの緑にまじる苜蓿

ひとのうえからひとのうえふわりふわりととんでゆきこっちにこない

風呂あがり団扇でぱたぱたしながらマーラー八番を聴いている

方法を理解しようとしてもムダ見た目通りのものはないから

年老いたものは忘れてゆくだろう魔法をかける祈りの言葉

人間を虫けらと呼ぶ人間の出来損ないのような人間

いつの間に戻してたのかいつもの場所にいつも通りにある不思議

冬型の気圧配置の小町忌に烈しく北風が吹いている

春の日ざしの温もりも生きる希望もみな北風にくじかれる

北風に吹きさらされてふるえつつまだしがみついてる木瓜の花

春荒れの風にびゅううと吹き飛ばされてデラシネが帰ってこない

側面にワレモノ注意と書かれてる茶色い箱のような心

噂にきいたアラビアの騎士たちの無数のひかり血の色の海

南から風が吹いたら春真っ盛り北から吹けばまた真冬

うっすらと曇る空からうっすらと日がさしてきて花粉に咽ぶ

どこさがしても見つからないのは最初からここにはなかったからか

暇つぶし動画ばかりを見せられて暇じゃなかった時間もつぶす

緩和されじゃぶじゃぶだった時代にも渇ききってるままだったのに

風で外れてた留め具を直したがまた春の疾風が吹くという

ばらばらに分裂してる街の明かりがひとつずつまた灯り出す

手を伸ばして信義に触れよイエスがあなたの祈りを聞いてくれる

風もなく日ざし明るく穏やかで雉鳩も呑気に啼く弥生

春分に何かが終わりその先は終わってしまった後の世界

かげになる屋根のむこうに青空がかぶさるように彼岸中日

ああこれでこんな日々ともおさらばで二度とは戻れぬ春分の日

どんよりと朝の陽気が一転し雪が降ってきそうな春分

雷鳴を合図に雨が降りだして今は激しく風が吹いてる

水が小川に流れ込むまた見失ない永遠が手の中にある

受話器をとればあなたも信者です電話で赦しお届けします

物置の屋根を透かして月あかりまだ風つよき春分の晩

何回も奥さんが映るといえば思いだすのはカートワーナー

揺れるというか揺さぶられスマホに続き鳴り響く防災無線

強風がうるさく吹きつけている中での緊急地震速報

雲ひとつない春空のした何もかも不安だらけなこの世界

後方でダンスして手を振っている高倉善と越永小百合

刻まれた言葉が金の風となる海は涙の緑の色に

キャデラック墓場から抜け出してきてゲリンといってまた戻ってく

体から抜けだしてってしまいそう俯せに寝て息をひそめる

たぶんもう終わりなんだと頭ではわかっていても腹におちない

眼をとじて耳をふさいで消しさって沈黙と夜の淵にしずむ

飛び抜けて何がすごいというわけじゃないものにこそある価値がある

早口でなにかさかんにはなしてる雲雀の声が聞こえたような

アルタで最初に買ったのはPILのTシャツだった気がする

棘をもつ緑のままのソウビの花を刺客の手からまもるため

雨音をきいていたのを覚えてる雷がおち深くなる闇

分かるとか分からないとかいうことじゃないことすらも分からなくなる

どんよりと曇った空をぼんやりと眺めつづけて思考硬直

うつむいて両手の平のなかに顔埋めるだけで泣きそうになる

ちりちりとみぞれまじりの雨の音してたそばから日がさしてきて

経済的なゆとりがちっともなくて短歌なんか詠んでられない

三月の肌寒い午後アシンクを聴きしめやかに死をかんじてる

見えるもの見ているように思われるものすべては夢の中の夢

計画を計画立てて実現し正しい方へ向けぶっ放せ

ぼろぼろのブックカバーを千切らぬようにそっと開いてニーチェ読む

校庭のはしの桜がちらちらとまぶた閉じれば散るのが見える

桜の樹の下には沢山の苦しみや悲しみが埋まっている

春らしい声で鳴いてる鳥たちのようにわたしも歌えたならば

せちがらい世でござんすな安いのはあっという間に芯だけになる

苦しみと悲しみをみなすっきりと拭き取り水に流せたならば

そのもてる魔力をすべて使いきりわたしの首を絞めあげたのだ

なにひとつ問題はないけど今はそれを続けることができない

もうだれも思い出したりしないはず忘れたことも忘れられてる

いつまでも忘れずにいてくださいね思い出せなくなったとしても

濁ったり少し澄んだりまた濁ったり靄がちっとも晴れぬ春

春の雨しずくになって物干しの竿のしたからぽたりと落ちる

沈んでたものがそのまた下に沈んでく二度と浮かびあがらない

さまざまな高さにのぼるあげ潮がひとつの場処で渦巻となる

最初は痛くありません不思議なことに三回目には膝をつく

その場所を奪い取ろうとするものが微笑みながらバックスタバー

ジャジャジャジャーンがベートーベンでジャジャジャジャジャジャジャジャジャーンはピストルズ

何もかもあまりにいびつ何をいま見せつけられているのだろうか

雨がふり春をまってた土が空気が生命を取り戻してく

犬の目で狸の釜に勝った小勝の先代が狸の小勝

みずからのもつ低劣さと道化ぶりを伝染させることで勝つ

しとしと雨が降るなかで雨宿りする雉鳩がぼそぼそと鳴く

何回見ても見つからずもう何を探してるのか分からなくなる

列になり穏やかなれど着実に喜びのない小径を歩く

なあみんな手を繋いだらラヴトレインに乗り込んで出発しよう

春なのに枯れてしまったかさかさの固まったままうごかぬ心

かなしみに満ちた時代をとてもかなしく生きているかなしみの民

世界がそれを待ち焦がれ求めるならばその時は遠からずくる

ものすごく悲しいけれどそれなのになぜか少しも涙がでない

ぐるぐると救いもとめて頭のなかで鳴り続けてるアンダータ

今はもうおぼえていないころのよにも一度またそばにいられたら

あまりにも多くのことが起きていて笑ってしまい申し訳ない

このケースただ真実をそれだけの証明をせよコンフィデンシャル

起きたまま小さな針の穴覗き想い起こした夢を見る夢

だんだんと空気が薄くなってゆき時間はゆるみ間延びしてゆく

焦らずにゆっくりやるよだれからも早くしてって言われないなら

無限に言葉はあるようで使える言葉の数には限りがある

なにを見てなにを聴いてもうわのそら本を読んでも文字を追うだけ

足並みは知らず知らずのうちにあう周り気にして見ているうちに

たくさんの流れのなかを次々と人がならんで流されてゆく

枯れはててたおれかけてる雑草が藁をつかんであらがっている

めいかいな武満らしさのまろやかさ明日ハ晴レカナ、曇リカナ

不可能を可能にすると約束し魂を買う影なき男

時たまに緑色した斑点が超自然的に発生する

スレッズに短歌を投げてみたところアルゴリズムがちょびっとひるむ

おすすめをもっとこちらに引き寄せたくて短歌をよんでなげつける

いつだっておんなじ距離でついてくるわたしの背後にできる余白

たぶんそうかも知れないしそうじゃないかも知れないけれどたぶんそう

南風せきのどたんと朝の雨ぽつぽつしずくつく窓ガラス

思いきり両手をのばし手繰ろうとしても届く範囲は知れたもの

作りおいてたコーヒーを冷蔵庫から出してそのまま飲む日和

いつまでもずっとあるとは限らないドアの向こうはもぬけの殻に

寒々と雨の降ってた昼前とすっかり晴れて春めいた午後

過ぎ去ったゆめまぼろしを追いかけて時流の底に埋もれて辿る

ザイールの冷たい泥の沼深く今ここに死が存在してる

しみついた身ぶりの抜けぬ頭の後ろ寝癖をつけて春の朝

すっかりと移り変わってゆく町をゆきかう人はみんな旅人

覚めない夢は覚めないと思い続ける覚めない夢の中の夢

本物の桜はまだ見てないけれどスマホの中では散っている

静けさとカーテン越しの春の日ざしと鳥の声それだけがある

かちかちと秒針が目盛りを通過するごとにわたしは老いてゆく

見るものも感じるものもつまるとこすべては夢の中で見る夢

そこはとっても薄っぺらわたしの骨と皮膚の間にある世界

たましいもすっかり抜けたようになるいきなり春に深く抉られ

凪いでいてすっかり観念したように言葉をなくし立ちすくむ春

三月に二十八度になるような異常気象ももう風物詩

なみなみと汲んできたのに知らぬ間にわたしの中はからからになる

やっぱりちょっと悲しくてそんな場合じゃないというのに悲しくて

痕跡を見失い迷路の中で日々はめぐりて涙にかわる

エフアールアイシーティーアイオーエヌ狂ったように摩擦に夢中

さようなら何もわたしにもたらすものがなかった日々よさようなら

もはやこれまで。約二年間、七〇〇日以上にわたりみっちりとうたを詠み続けた。意地になって必死になって続けてきてみたのだが、ちっともそれでなんらかの新しい道がひらけるというようなことはありませんでした。いくら詠んだって特にこれといった反応もないし(いつもいいねとかすきとかしてくださるとてもやさしいみなさんには、本当にこころより感謝しています)、そんな創作の活動を積極的にサポートしてくれるような人も誰もいてくれないようなので、もうここらでやめてしまおうかなと思ったりしているところである。しばらくは作り置きしてある作品を少しずつ出してゆく予定だが、それがなくなったら、そのときは一巻の終わりということなのかもしれない。などといいつつ、今日はエイプリルフールなので、もしかしたらそのときがきても終わりにはならなかったりするかも。だけど、とりあえずは、少しばかり当初予定していた以上にかなり時間がかかってしまうことが容易に予想されえるものの、短歌を一〇〇〇〇首詠むという挑戦だけは何とかして達成したいと、今はすごく思っている。ただし、そんな挑戦だって、わたし以外の人にはそんなの本当にどうでもいいことでしかないのだろうし、自分でもあんまりちゃんと数えていないので、どこがゴールになりそうなのかも本当はよくわかっていない。もしかしたら、これは永遠に終わることのない挑戦になってしまうのではないか。と、そんなことを考えていたら、自分でもちょっとどうでもよいことのように思えてきてしまっている。とりあえず、とりあえずは、もはやこれまでなのである。ちょっといろいろありすぎて疲れてしまった。ほとんどは短歌とはまったく関係のないことでであるけれど。うたを詠むことは、ちっとも嫌いになっていないし、そのほかのことの苦痛にくらべればちっとも苦痛に思うということもない。だが、わたしは基本的に本当にだめな人間なのである。誰にとっても本当にどうでもいいことしかできないのだから。本当にどうでもいいだめ人間なのである。もはやそういうことぐらいしかわからなくなっている。なにもできなさすぎて、いつもと同じようにうたを詠むことすらできなくなってしまっている。何ひとつとして簡単にできるようなことはなくて、そのせいで本当にしたいと思うようなこともできないままでいる。どこかにぽんと五十両ぐらいふところに投げつけてきてくれる左官の長兵衛のような人はいないものか(そんなことばかりいっている)。生きるということは、本当に難しい。もはやこれまで。自分でも自分自身の不甲斐なさを不甲斐なく思うばかりである。

付録


この記事が参加している募集

#今日の短歌

39,568件

お読みいただきありがとうございます。いただいたサポートはひとまず生きるため(資料用の本代及び古本代を含む)に使わせていただきます。なにとぞよろしくお願いいたします。