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2023年のうた 第三期 夏・秋

2023年のうた

第三期 夏・秋

終わらないこのレコードが終わらないヒステリックな侯爵夫人

なんかこう打ったその場で歩きだすホームランとか打ちたいきぶん

じょぼじょぼと高いとこから低いとこよごれはすべて海にじゃぼじゃぼ

びきびきと破線にそってふた月分のカレンダーめくりとる午後

まだ青い葉をめきめきとのばしてる稲が穂をだしふくむ文月

文月のおのずからふる雨のついたち神祗釋教戀無常

むしむしの暑さに負けてコーヒーを水出しに切りかえる文月

天神裏の崖の途中の橘之助圓が最後に住んだ家

焦げた穴つぐきれのこと聞いてから火種の行方やっと教える

どう見てもただだっていう落ちたよな落ちないようなさげぞ楽しき

笑えないピエロばかりでなにもないコミック雑誌なんかいらない

蓋をして制限をする半夏生ギビングラウンドにギフトふる

書きつけられた言葉はすべてのこらず塵となるギビングラウンド

逆さまになった空へと真実が飲み込まれるのを見るだろう

衛星は回りつづけるたくさんの悲しみのうえまた日はのぼる

深々と癒えない傷を負った世界のユーモアのあるダスエンデ

地面に暮らす手元不如意がぐらぐらと塔をゆらしてたおす夏

アーバンなシティポップがうたわない腐った社会の根っこのところ

目と耳と口を塞いでしまおうと蝶は舞い花は咲く馬鹿めが

生臭い息といっしょに内部からにごりよどんだ熱を吐きだす

内側のよごれたものをできるだけ外に吐き出しまた息を吸う

言葉以上に語る言葉で話し合う言葉にばかり頼るもの

アメリカフヨウ真っ白なディスコベルとおくの角をまがる人影

制限をされてたときが目を覚ます最後のチャンスだったのかしら

どこかからどこかまで張られた一本の綱のうえまだ歩いてる

夏のれん日ざしのなかにぶらさがる風のとまった七月四日

どれほどに飾りをつけて並べたてても浮き彫りになるものはない

出すぎても出さなすぎてもさしさわる能あるたいこは芸をかくす

なんのこといっているのかわからんがあれにもこれにもあてはまりそう

雷の音はすれども降ってこずおながもなにかうちさわいでる

動揺し過剰に吸って吐いたのか煙ばかりが立ちこめている

植えといた道でひろったちょんまげの根っこをほればさむらいがいる

うだるよに暑いさなかにぶちぎれたジョンゾーンのいななくサックス

食パンにいちごのジャムをぬることで表と裏の意識が生ず

夢ならばそういうこともあんのかな信じてしまう夢みてるよに

くすんでた町の景色を変えたのは傍若無人な餓鬼の集団

ゴミ屑や排泄物を出すようなことぐらいしかできないけれど

あの鳥はなんと歌っているのかな音色だけしか聞こえてこない

いつまでもここにいられるはずはなくここから先はお別ればかり

目を閉じて見えてくるのはもうここにいないものとかそんなのばかり

こういうのなにがいいのかわからないだめなところはすぐわかるけど

こんなのはほかのどこにもないもので望みはすべてついえるさだめ

手にとって並べてこれの説明をしてもたいてい「で?」って顔する

このお皿いいねと言って抱いて寝る七月六日さらだきねるひ

中くらいの保冷剤が溶けてしまうまですこしの間だけ寝る

夏の風まわってとまる風車はかなくふわり紙の風船

華やぎはふっといきこめ一瞬の紙風船のぽんと浮くおと

雨の夜さっき近くを通っていったサイレンがまだ聞こえてる

ドビュッシーボードレールと花の香と渦巻く夕べの音のまにまに

夕方の空気の中に渦巻いている音と香りのメタフォース

ちょうどいい部分を知っている人がなんだかんだで一番強い

つるつると帯につかまり降りてくる悔やみきれない井戸替えの夢

大枡の二階でごろり横になり船ながめてすごす若だんな

関寺の小町踊りのはなやぎに誘われるまままた袖かえす

星合いの縁側にだす机かな五色の紙の七夕まつり

一〇スキを突破したってお知らせがメールで届く乞巧奠かな

小暑にはやや日の入りもはやくなり秋の七日のベガアルタイル

こびりつく汚れのほかは何もない欠乏だけに満ちた環境

溶けて見えなくなってゆく展開をする呼吸せず解放をする

はやぶさの七といったら左ぎっちょの掏摸または桂三木助

どこかまだ疑心暗鬼でいるけれど見ればやっぱりただものじゃない

目をまわしひとりはぐれる蜻蛉かなどちらを見てもまわる指先

なびくほどあかるくみえる青田かな曇天のしたむしあついかぜ

大枡の二階にみなを集めさせ徳と呼んどくれと若だんな

蜜蜂と遠雷をみて最後にはマサルが勝つと暗示をかける

すぐそばで見るためだけに遠くから何ももたずにギャロウズポール

本当の名がしるされた水と雪だがそれももうすべて手放す

なにか手にする人となにかいっばい手にする人となにもない人

いくらでも紙とインクで新しいおさつをすればいいんだからね

うまいのをうまいとおもえひけらかすうまさを逆にまずいとおもえ

漕ぎだせば橋の上から声かけられる人さわがせな若だんな

傘ささず鬼灯市をみてまわり風鈴のおときく万太郎

蒸し暑いさかりの四万六千日に龍子の龍もおりてくる

責任をおしつけているボトルの中の虫に前にいた誰かに

もう何も残っていない受け入れることを強いられること以外は

人情もほろびゆくよに見えにけり情けは人のためにはならず

返しきれずにいた恩をかたむきかけた今が好機とぎりにんじょ

忖度で悪いかってんだべらぼうめ金輪際まっぴら御免よ

ちょっとしたほつれができるそれだけですべてほどけてくずれちゃいそう

なむなむと聖観音に手をあわす大慈大悲を四万六千

大川端の石垣に傘が突き立っている四万六千日

どこまでも歩きつづけてまだ生きた心地がしない無慈悲な荒野

ふるさとを遠くはなれた空のしたどこにもたどりつかない荒野

汗まみれ両手をあげて横たわる生きるが目減りしてゆく荒野

川渡り荒野を歩く陽光が苛むように照りつけるした

べっとりと砂埃のつく汗のしみコヨーテのまつ荒野を歩く

線を越えどこまでもただ歩いてく未来がそこにあると信じて

遠くから歩いてきてもまだ遠い人間らしく生きられる場所

がちゃがちゃといさかうように鳴くおながよけい暑さがます午後一時

結局は自分のためにできるだけ掴みとってはすべて数える

目を開けてディアプルーデンス見回してディアプルーデンスぐるぐると

朝七時うなりをあげてエアコンが稼働している小暑のなかば

銀行ばかりやたら建つ広小路にも草の匂いの草の市

新しい秩序がそっと忍びよる筋書き通り素知らぬ顔で

どろどろと中の組織が溶けてゆき気化し膨らみぷしゅーとしぼむ

生きのびてただ生きのびていつの日か夢の底から溶け落ちてゆく

もうすでに最終幕の大詰めでなにをやっても手遅れなのか

痛みに満ちた日差しは強く明るくて優しい雨はまだ降らぬ

いつだって画面の中はゆめまぼろしの泥の沼リロードフィード

うたなのかおしゃべりなのか話すよに歌っているのか白鶺鴒

感覚を拡張させて意識するうつろい生起するにまかせて

全身をつかって感じふくらませ織り上げられてゆく世界像

まだなにもできていないということもすでにみていてしっているのか

呪われた電子音楽聴きすぎてほらこんなにも呪われている

どれもみなもとをただせば呪われた電子音楽聴いてたせいか

呪われた電子音楽ばかり聴いてる呪われた世界があるの

雨が好き暗いのも好き朝方の公園も好き夏の暑さも

革命ののろしがあがるバスティーユ火にくべられる番号カード

韓国じゃ極めて限度ぎりぎりに迫った極限豪雨という

ほのほのやぱくりぱくりと咲く蓮の花ふらりきて見る小石川

重くたれ膨らんできた莟が今にもぱくりと咲きそうなホヤ

じりじりと設定温度あげてゆくそのうち中がゆであがってく

鈍行で向かっていますゆっくりと忘れたころにつく予定です

さすらってながれながれて国をこえ誰かささやくかえるころだと

君たちはどう生きるかと問いかけて背中を橋にして渡らせる

窓のそと朗朗となくほととぎす夏籠あけのむしあつい朝

松の木の枝にとまって羽づくろい車のしたの日かげにすずめ

アフリカがニューヨークを経由して青山の地下で鳴ってるような

君たちはどう生きるかと問うひとに逆にクォヴァディスと問いかける

使徒たちにみすてられたる世界に戻りいまいちど罪を贖う

クォヴァディス問いかけられて気がつけば激しい雨が降りつづく日々

風がふき泡はきえゆくそしてまた人はすべてを忘れてしまう

ばらばらに散った欠片が名も知らぬ海辺にいつか流れつくはず

藪入りのはればれ空の青さかな縁と情けと忠のおかげか

藪入りが待ち遠しくてよもすがらさわいだ挙げ句お釜のおかげ

これまでの夏とはちがう夏がくる今まで通りが通用しない

昨日まで猫だったからおじさんが道で寝るのも仕方がないね

がじゅまるの薄い緑の葉の裏を見あげる先に日のあたる窓

室温が二九度をこえてても涼しすぎると感じる猛暑

地図にはあるが見ることのできぬ場所たぶんわたしはそこにいたはず

神聖な球形物体なんとよくできた世界とても真珠だ

音もなく揺れているのを眺めつつ涼しい風をおもいだしたり

もうここに人間が住むことはない悲しいけれどほとんど地獄

もう少し向こうが透けて見えるかもちょっとずつだが消えかけている

土手のした畦の斜面にぽっかりとどこかにつづく黒い空洞

どこからか呼んでるような声がして呼ばれたような気になってくる

草深い水辺に立ってXはYに出会った出会うべくして

特別な一回だったはずなのにそれをあっさり台無しにする

汗をふくしめった皮膚のそのしたを泡立つ溶岩がながれてく

横向きになって背中に風がくるついたりきえたりの扇風機

そんなことなんでもないというかしらなんにもないとそうもいかない

これ以上つづけることはできぬのかなにかが阻むせまい行く手を

手をもがれ足をもがれてうねうねとのたうちまわる炎天のした

空気まで焼けつくようにあついなか鈍くうごくゆびおりかぞえる

このひどく暑いさなかにへこたれずばらの小さな薄べにのはな

小暑末たかもすなわち巣立つころ次にひかえているのが大暑

推論はありとあらゆる言葉から血がふきだすように流れでる

限界はあっという間に力なくただようぼくらを飲み込んでゆく

ぼくたちはとても弱くてちょっとでも熱せられるとすぐに壊れる

這うようによろよろ歩く蚊がふわり最後の力ふりしぼり飛ぶ

薄曇り蒸し暑いけど昨日までより鳥たちの声はきこえる

うとうととしているところベッドからじっと見ていた腰掛けたまま

もうこれがふれてはならぬ傷なのかそうでないのかわからないのだ

がぶがぶとどんなに水をのんだってひからびたままわたしのなかは

近すぎてなんのことだかわからない残酷でもう手におえぬ夏

ホヤの花ふたつめもまた夜になり開いてるのにやっと気がつく

体のなかのひとつひとつの細胞にミサイルを撃ち込まれてく

地獄におちて焼かれても破壊しかそれを無にしてしまえぬのなら

無惨にも破れたままに捨ておかれだらりとたれた網戸のように

真っ暗なトンネルを抜けもう一度いつものことをいつも通りに

夕方にみっつめのホヤ開きはじめる少しずつ裏返ってく

夢のなか甘さがすっとひいてゆく影はさりゆきしなびてく皮膚

どこなりとうろうろなさって構いません新しいメシアよきたれ

どこまでも軒先テントと歩いてく雨がふろうと槍がふろうと

どこからも見えないとこで両腕がちぎれるくらい手をふっている

そうですかこんな短くなってんだ今にも消えちまいそうだねえ

このままどんと頭から突っ込んでゆき終わるのか何もできずに

月面を散歩していた人類も夏の暑さに外出できず

捕まえた獲物を口にくわえてるむくどりをただぼんやりと見る

そこにある見たままのもの書きとめる感じたままを吐きだしてゆく

癒しの手もしくは人を滅ぼすちから魂こえでるロウパワー

偏見と偽情報をたっぷりと食べて育ったのされた世代

永遠に滅びぬ愛を込めてゆく遥か神秘の喜びの上

マグダラのマリアの目には見えるもの奇跡と呼ばる大いなる愛

今夜ハンドルを握っているのは誰だあれはマグダラのマリアか

梅雨明けやさてあんな坂こんな坂げに思いやられる夏はきぬ

梅雨が明けようやく夏の支度をととのえようかと思いはじめる

切らなきゃと思ってた爪やっと切る何をするにも腰がおもくて

かたまってこびりついてる鳥の糞みたいにじっと横になってる

警告を出さずに急にやってくるデジタルのゆめ未来のよそく

なぜならばスマホがならす音楽はこの人生を語りはしない

念力をゆるめず大暑やり過ごしひと息つける日がきますよに

長いこととぼとぼ歩き旅をしてたどりついたはなにもないとこ

ひとりだけ取り残されて外側でむなしくいきてむなしくきえる

そのどこにあいだをへだつものはあるひかりのそこにわたしがきえる

だれひとりあなたのことはみていないいつかきっともぜったいこない

歩くのをもうやめたいと思うとき人ははじめて飛ぶ夢をみる

意味なき言葉の誓いは破られ感情の波に押し流される

熱風にそよぐ青田のさらさらにあいのて入れるよに鳴くかえる

カラヤンとベルリンフィルも今みると男だらけでなんか違和感

歌だとか詩なんてものはたいていはよむひともなく朽ちてゆくもの

河童忌や汗でしめった首まわり暑くて起きるよく晴れた朝

ざわざわと何もないのに胸のうちさわぎだすのはあわれむからか

もうすでに終わったことをあらためて終わっていると確認をする

もう別にここまできたらお前など死んでしまえとみないうであろ

大事なものがすりぬける失ってはじめてきづくセカンドスキン

とてもさびしい谷底で白いこならの木の枝にぶらさがってる

かなしくてなさけないのにものすごくどういうわけか涙もでない

ちからなくくたびれた手でしがみつくそんなのだれも望まなくとも

閉ざされていつものように目の前にあるのだけれどとっても遠い

感覚で目でみることのできぬとこまでみえていた時は過ぎにし

相次いで四番五番が開きだす一号からずらりそろい踏み

ホヤの花ひらいてゆくのを見たいのにうつらうつらと睡魔がはばむ

明日を待って待って待ちくたびれてすべては遠い昔みた夢

日が長く忘れてしまうそしてまた許してしまう天からの雨

ISS通過中と冬冬冬がきたがなんかにている

じんじんと左の腕が痺れるくらいかたまったまますこし寝る

テーブルに自分でぶつけすりむいたすねの小さな疵がひりひり

木のしたのくねり流れる川のふちのぞきこんでた道灌橋で

だらだらとくねる坂道おりてきて道灌橋が休憩地点

六箇所のすべての花座さきそろう下むきなれどホヤはなやかに

思いやる気持ちを忘れたいのちは消える失われし夢のよに

あやふやな感情により強いられる確信のないつくった笑顔

目を閉じて眠りにおちてゆくごとに端のほうからわれ崩れゆく

熱にみち熱と熱とがぶつかって摩擦で熱がさらに増幅

現代の大不便者へらへらと世にはばかりて憎まれもする

現代の大不便者かならずや時代はかわる正しいほうへ

旅立ったあなたのために心よりの祈りを捧げるシンニード

裏庭に植えてた花はまたしてもあなたが去って枯れるのですか

無知の価値とは何を意味するものなのかわかるといった夢の中

土の匂いにからだをのばし永遠に横たわるずっと一緒に

木をすてて地面をあるく手をあげたあの小さい猿のなれのはて

人間が人間らしい活動を自然のままにできない自然

炎天のそこ熱だまり風もよわくて濁りなし憎らしいほど

自立せず個体としての存在もあやしいとしかいいようがない

現実にひねりつぶされされどまた非現実にもくいあらされる

瀬戸際のぎりぎりのとこどれくらいあとどれくらい歩けばいいの

ナイフも心も手も恐れもいらぬ痛みも時間もここにはない

檻も頁もいっぱいで見知らぬ友がまたしても鈍ったナイフ

ごくごくと飲んでとぷとぷみずけにみちたからだをごろり横たえる

空高くうえへうえへとたれさがるしたたるように深くのびゆく

全身がびくんとなって浮いたとこだれかがつかみ戻してくれた

環境が過酷なものになりすぎて強いものしか生き残れない

だらだらとからだじゅうから流れだすわたしの色が抜け落ちる夏

どこからか小さい声が聞こえてるわたしのなかのだれかの声が

銃をもちガレオン船でやってくるコルテスというコンキスタドール

跪かされて祈りを捧げるあかるくさかしい地獄のために

おちてますずるずるずるずるおちてますずるずるずるずるおちてます

七月の暑さものこりわずかなりすぐ八月がそれをひきつぐ

大きな鞄つみあげて紐でしばって町をでる西へ西へと

文月よこれまでのどの文月よりも最悪だった忘れない

振り絞り精一杯に鳴く蝉が息も絶え絶え途切れ途切れに

ちからつきおちてゆく花そのいのち限りに咲いてぽろりぽろりと

礎石に腰かけて四分音で一から一〇までの時間を数える

行列は通りを進み奇声も絶えて街を去るフリークスたち

朝七時なきだしたくもなるような暑さにぐるりとりかこまれて

垂れさがり溶けた花冠がねっとり糸をひいてしたたるホヤの花

住吉の岸辺の松をとりまいてはまぐりをつる本所のおどり

しゃばしゃばと冷たい水がはいる田の隅にあつまるとのさまがえる

やむをえず去年の春にいただいた包みをだしてあけてしまった

忘れられない夏になる忘れたくても忘れる人のいない夏

忘れることを学んでもまだひとつ行く場所があるソウルキッチン

山をまわって六頭の白馬の馬車でやってくる歌えハレルヤ

目を閉じてやっと見えてた音楽をそこにそのまま現出させる

遠い空みえるところもみえないとこもどこもかしこも遠い空

ででむしもころげおちるか八朔に動きすぎてもいけない世界

灰色の雲がひろがるその下で木の葉がぴんとあちこちはねる

将棋ならすでに詰んでる人生を雲のみねみね見おろすように

血のような赤い粘液たらりとたらす生生しさもホヤの花

時間は決して追ってこぬ流れ去りゆき戻らない今まで通り

溶けてゆくかたちをもった世界から全てがつながる別の段階

まだまだと命惜しまず身を惜しむ五右衛門はさぞ熱かったろう

ねむる間に葉月が過ぎてしまうほどゆっくり寝たい睡眠不足

藤田の指と鍵盤がただふれあっているだけなのにだけじゃない

よわよわとぬるめの水が蛇口から出てくるくらい余裕なさすぎ

そこそこの人間らしいいきかたをできていたならできていたのか

かなしくてあわれなひとがかなしさとあわれさかくしよむうたをよむ

ドローンが爆撃をする今夜また少し無実でなくなるわたし

人類の記憶がすべて沈んでく砂のうえにはあしあともない

ぐるぐると内臓の音だけさせてのたうちまわる半死半生

なにひとつ希望もなくてただひとり寝っ転がって静かにうめく

墓ぬらす雨もふらないからからのひどく暑い日ばかりの大暑

がしゃりがしゃりと秒針が時間をひとつひとつひねりつぶしてゆく

水でできてて物事を成し遂げることはない怠けてばかり、でも

ここに海がくる波がくる岸辺のこの大地の目を洗ってゆく

真実を叫びながら遠くへと去ってゆく宇宙の星のように

はしごをのぼる暗闇のなかで生まれた恥にまみれた神の猿

いつまでも忘れられない夏があるレリロラカモン一九八五

生きてゆくことにまつわる重圧が肉体のもつ重さにまさる

ぐんぐんとちかづいてくる最果てのどんなひかりもとどかないとこ

もうもうと立ちこめている霧のなか骨をさらして死にたえた森

どこまでが自分なのかがあやふやになってゆくよな八月四日

かすかにふいたあついかぜ青い稲穂のにおいかすかにいりまじる

さみしさはさみしさをよぶひとりきりすかしてみてる水の底から

わたしの中のあなの中なにかがそこでしんでいるハートとソウル

痛みからわきだしてくる悪臭と人間の手の届かぬところ

うにょうにょといくすじもつく裂け目から小さな赤い目でのぞいてる

ざらざらの底にべったりはりついて耳をふさいで目をとじている

もうなかはほとんどからの空洞で軽くつつけばくずれておちる

流されて流されるみの舟のなかはしにものほしみな月見かな

日の盛りひかりとねつが充満し砂にみじかき影おとす松

遠くから花火の音が聞こえます遠くの夏の夜のにぎわい

とてもよい骨を動かす方法の助言ですトーンボーンコーン

掘り起こすピカソを掘ってさがしだすテック大手が壁紙にする

ほの暗いひらいてとじる口のおくかすかにうめく声がきこえる

赤い雨あのとおいまち黒い雨あのとおいなつくもりだすそら

燃えているとても小さい火だけれど消えないようにかこむ両の手

ひっこめた頭のうえに大声や銃のけむりがただよっている

ひとしきり咲いて落ちてくその下に次の花芽を出すホヤの花

直截に原水禁と連呼するそういう歌をいまはききたい

葡萄畑の近くのラマダインでひと晩やすみ南へむかう

そしてまだ猛暑はつづくそしてまた炎暑はつづくヒートゴーズオン

しみないしなにかにささることもないとてもやさしいことばのられつ

ごくごくとアイスコーヒー飲むときのわきたつ香り苦みと甘み

青い空いくつも白い雲うかべバタバタとヘリコプターのおと

夏がゆく湿気と渇きこもる熱おもむきもなくふくあつい風

夏の日があわく届いてくるとこに座布団しいて爪をきる午后

夜になりかちかちかちと途切れ途切れになく蝉もいとあわれなり

今日かぎり夏がゆくこと告げるよなジェレミーフレイツのピアニシモ

耳にそう聞こえたとおり言ってるひとはそういう意味で言っている

とまってた流れがついに動きだす一気になのかだんだんなのか

物干しの竿にしたたる立秋の雨のしずくのぽとりぽとりと

秋立ちていよいよ高き雲の峰わかき稲穂も意気ようようと

ちはやふる世のあれこれもすぎにけり降っては止んでいま秋はきぬ

音はせど空はまだらにあかるくてちょろっと降ってすぐによわまる

雨が降る久方ぶりに雨音をきくすぐ止んで蒸し暑さ増す

ペダルをふまず坂をおり橋をわたっておおつぶの夕立の雨

どんなに晴れて暑くても視界に影が落ちていて心がさむい

吹く風はすずしくもなるおのずから立ちたる秋にみな追いつけば

音はせど空はまだらにあかるくてちょろっと降ってすぐまた晴れ間

ひと雨で死にかけていた葉にうっすらと生気がもどる松葉菊

だめそうとずっとおもっていたものがやっぱりだめでさもあらばあれ

ぐずぐずと曇った空は簡単に晴れはせぬもの蝉のなく午后

ガスが抜けうごく意欲はありつつもなにもうごきがついてはこない

これがあなたの望むもの順番にこれがあなたが手に入れるもの

うやむやにされてしまった境界にゆびさきでひく良心の線

八月のとりつくしまもないくらい空虚なあつさすりへるいのち

気がつけば今日という日の太陽も照るだけ照ってもう沈むころ

空っぽでどこもかしこもがらんどうそんなとこからしぼりだしてく

あなたとは似ているようでまったく違う人間が見ている景色

あるものとないものたちがいりみだれ色をけしあう墨絵のように

仲がよいのかわるいのかぱたぱたときてちょっと離れてとまる鳩

しわがれた身にしみわたるわびしげな声で朝から鳴いている鳩

誰かが祈る誰かは盗む目がくらむほどの光に満ちた街

ぐったりとながれの底に沈んでくあたまのうえを急流がゆく

目を閉じて浮いてるなにかひっかかるものを静かに眺める時間

腕を組みひとり座って昼寝する首にめりこむ重たいあたま

背もたれにもたれかかると斜めから反射してくるするどい西日

放課後の窓際ひとり読書する姿をちらり見かけたあの日

土手のくさふかき緑のそのうえに真っ青なそら真っ白なくも

寒風がふきぬけてゆく土手のうえ筑波をながめふりかえり富士

いと高きところにありしホナンザよ主の名の下に祝福よあれ

ありそうなあったらいやなことばかりかんがえていて眠れなくなる

何回も夢で見ている光景をまた夢で見る夢らしい夢

暑いけどもう少しだけ休んでて無理に起きても疲弊するだけ

ハンドルに膝をぶつけたすり傷にきれいに赤い血がにじみでる

すこしだけものをうごかすそれだけでなかからおりがながれでてくる

修禅寺の死相の面は夜叉王の霊感よりいでしリアリズム

うまれつき怠け者だと人はいうでも労働は四文字言葉

手を叩きリズムの渦に飛び込みたくなるアフリカンヘッドチャージ

いくたびもすわりなおして八月の椅子で蒸れてるお尻と背中

ふきだした汗がだらだらとめどなくしたたる狭い灼熱の部屋

ぼとぼとと流れおちてく玉の汗ひからびるまでしぼりとられる

汗みどろ息があがって足ももうあがらなくなるそうとう危険

浅草の老舗の寄席でのりのりでろくでなしをうたうココシャネル

音曲にジャズやヨーデルぶちこんでボーンアゲイン端唄都々逸

あと少しそこで元へと戻るのか新しい道がはじまるのか

前にきていたものよりももっといい何かがくると信じています

雨が降りより青々とふっくらと息吹き返してる松葉菊

台風でかの実朝の伊豆のうみもう波われてくだけよせるか

ざさっと降って晴れたら蒸してまた降って気分的には亜熱帯

送風の音にまじって雨音が濡れた木の葉がひかってゆれる

存在のその喪失と死を嘆くシンジツゾンが本質を問う

夏の夜にウィーンフィルのワルツで踊るウィーンかたぎの老若男女

たぶんもう翼は石になっているでもまだとべる空たかきかげ

なりたいものになんでもなれる信ずれば生まれもつすべての色で

江戸には江戸の風が吹くようにベルリンにはベルリンの風が吹く

みなさんの暮らす世界の片隅に不法滞在しているような

底辺かそうじゃないかにかかわらず仕事したくはなくなる世界

両足のあいだに置いた送風機お山すわりでじっくり対峙

エックスになっているけど動物をみてなごむときまだツイッター

なにもかもおわってみれば思うよりあっけらかんとおわってしまう

とりあえず寝っ転がって考える抵抗しない立ち向かわない

この道はどこにも辿りつかぬ道どこにもゆかぬ旅だけつづく

もぞもぞとスティック状のパンねじこんで血の味のする口のなか

長い間ありがとうお疲れさまでしたすごく感謝しています

風つよく朝から火事のサイレンとあたり一面けむりのにおい

少しずつやったけれども足りなくてやっぱり今日も大汗をかく

少しずつずれてくことで大幅に悪いほうへとなだれておちる

しみじみと感謝したのにごたごたでいくかのこるか宙にういてる

ぎりぎりで今日という日にさってった最後までご苦労さまでした

八月一五日に聴くディファレントトレインズまだ線路はつづく

まだ昼の熱の残ったお布団に身を横たえる夜中の三時

すりへってくたくたなのにたかぶって寝つけずにいるもう朝の四時

われながら呆れてしまうそんなにもつらくきびしい日々だったのか

息をはき小さな声がもれるとききこえなかった音に気がつく

なにもかもいまはむかしの灰色の雲せまりくるむしあつき朝

まだ青い稲穂ふくらみ弧をえがくすずめもつどう食べごろをみに

今はもうかれらはみんなもういない記憶もみんなきえてさりゆく

本当にもう終わったのまた違う列車がはしるサイレンのした

誰にでも表の顔とその裏にひとつかふたつは顔があるもの

口のなかのぞいてみればその奥にぬめぬめとした本性がある

降り積もるかなしみのした芽吹くものまだ夜は明けぬインザゲットー

ばちばちに芝居がかっていながらもさらりさらりと二世松緑

惨めさがずるずる重く空しさを道連れにしてずり落ちてくる

熱の島ざっと降るのも局地だけ砂漠化してく環状の帯

ヤヤヤヤヤヤヤ暑い家ヤヤヤヤヤヤヤ暑い家オマガラシッド

猿のよに飛び跳ねまわるようになる前にバナナをひとつください

夜になりしきりに鳴いているかえるネットで見ると雨雲はない

真夜中のディスコネクトなコネクション月も星もない真っ暗な闇

夜になりしきりにかえるの鳴く声が異常に蒸してる熱帯夜

何でこんなに暑いのか教えてよ溶けずに聞いていられるうちに

もう起きていられぬほどに心身ともに疲れきり寝待ち臥し待ち

雲で日が翳ってきたと思いふと見れば開いているホヤの花

いったん散った花座から花芽をのばしまた返り咲くホヤの花

ばらばらとうるさいくらい物置の屋根うちつけてたけどすぐにやむ

八月やみはらしだいの青かえで松島うかぶ静かなるうみ

半熟の黄身を割らないようにして食べたつもりがどばっと出てた

生きるとは終わることなき闘争でブロックなんて意味ないじゃない

人類に自由と富と繁栄をブロックなんて意味ないじゃない

人々に自由と愛と革命をブロックをする終わることなく

一〇分でみっちりはなす親子酒ふかみこくます文菊の芸

希望をしてもいつだって希望したそのものはなぜか手にできない

有害な物質がまう空のしたプラごみが浮かんだ汚染水

左手にもってるものを右手でさがすくらい寝ぼける寝れた朝

夏の日の熱気と音と人のうみビルの谷間のティーエーゼット

驚いてびくりと起きる昼寝かなたぶん自分の鼾のせいで

畦道で雀が食い散らかした稲穂の残りを鳩が啄む

ひっそりと静まりかえり光と熱が凝固している残暑かな

うたうよりほかにないじゃあないですかききたかないとおっしゃろうとも

好きなだけ夢見ることはできるけどそのほとんどはかなわない夢

不思議に思う孤独についてどれほどの抱いた夢がついえたか

だんだんとおいおとろえてゆく人とがんがんあつさましてく世界

気づかずに話しかけても無視したり聞こえないふりしているのかも

立秋もただ猛烈に夏らしい暑く蒸してる毎日でした

曇ったと思えばすぐに照っているいずれにしても残暑は残暑

かさぶたがむずむずかゆい夏休み膝さすりつつつながる記憶

見上げればにごった水のはいいろのそこを覗いているような空

なにひとつ甘くはないよなにひとつもってないから甘くはないよ

おお神よこのままずっとわれわれは正気を失ったままなのか

ぱらぱらとかえるの声が真夜中にへんにまのあるわびしい響き

誰ひとり関心ないと思うけどわたしは今も息をしている

生きていて申し訳なく思う日もあるにはあるしないはずがない

鳥まつる鷹がしずかに手をあわせ念仏をする南無阿弥陀仏

雨降って晴れて再び降って晴れスコールをお見舞いされる処暑

ハッシュタグ短歌でポストしていますエックスというSNSで

アメリカを偉大な国に戻すより重要なことフィードミーナウ

まわりじゅうそこらじゅうから見えないすべてを見ている触手がのびる

きこきことこわれたドアの蝶番みたいな声でないてる蛙

カーテンをざっと開けたらぱたぱたとすずめがにげるアイムソーリー

とうきびのひげをかぞえる地蔵盆あたたかくしめった南風

簾が風にあおられてちらちらはいる日のひかり水辺の気分

ふらふらと風に吹かれてバランスをフェンスのうえでとっている鳩

へんなとこひっかかってて閉まらない雨戸がたがたいわせて閉める

処理水が安全ならば干上がった水瓶にそれ注いどいてよ

ひどい暑さの夏時間いきてくことは楽じゃない魚がはねる

にぎってもひらいてみても何度やってもこの手のなかになにもない

つくつくぼうしの鳴き声をようやく耳にす八月二五日

よわよわと村雨雲をよぶほどのいきおいもないつくつく法師

死ぬるまでつくつくつくと法師蝉ないてわめいて心おきなく

見上げれば真っ青なそら白いくも窓のガラスにかめむしが這う

高くて低い雲の峰あたまのうえは抜けきった真っ青な空

楽にしてなにもしないでしたいときそれをしてよいきたいとききて

あおいろの空いちめんにこだまする表情をもつ和音の変化

へんなのをへんなところにあれしてるなにやらちょっとへんてこなひと

もう十日経つというのにこの前の火事のけむりのにおいがのこる

物置のなかで鳴いてる秋の虫この熱帯夜いつまでつづく

灯台のあかりの見えぬ暗いそら打ち枯らしたる羽根で飛んでく

寝つけずにうだうだとうつ寝返りとメモ書きされたぐだぐだなうた

蓑をつけ笠をかぶって棒をつき俵せおって柿のかたびら

残暑の日差しさえぎって村雨雲をよんだふりする法師蝉

最終章は詩的かつ予言的マイクを渡せ愛は何時か

ちっぽけなバターロールにかじりつきごろ寝している送風機前

ざらざらでかたくつめたい手触りのコンクリートでできてることば

また少し季節がすすむなにもかもおまかせをして運ばれてゆく

アラームをとめてから見る探してる本が全然見つからぬ夢

屋根の上もくもくもくと雲がわき隣の屋根へ流されてゆく

みみかきにいっぱいもった粉薬つけるとこなきひとりものかな

人生に棲みついているゴウスツが息をふきかけみな吹き飛ばす

覚えてますか太陽を感じたときをオールデイドミノダンシン

処暑なれど暑が処されたるようすなく蝉のこえすらきこえてこない

残存し蓄積されてはりついて満ちゆくほどにむなしさがます

日のひかり照れば照るほど真っ黒な影に世界は塗りつぶされる

ここはもう立っていられる場所でないだからしずかに膝をついてる

見聞きして小首かしげてみるくらい何がどうすりゃ膝をつくのか

丸美屋の麻婆豆腐中辛でふきだす汗がとまらなくなる

誰ひとり気にしたいとは思わないわたしの椅子に座っています

公園でサングリアとか動物に餌をやるとか映画みるとか

終わりなく始まりもないいつまでも回りつづける心の風車

デイヴィッド・バーンのライヴに行った夢はじまる前だけ見ておわる

待ちかねた客がバーンの振り真似をステージでするところだけ見た

スコールやゲリラじゃまるで降り足らぬ残暑を雨で洗い落とせよ

秋の田も炎天下ではかなわぬと飛んで木陰に逃げこむすずめ

すいすいと同じ速度で自転車とならんでしばしシオカラトンボ

何もかも質屋に入れて中国でどぶを掘り岩の上で暮らす

螺旋の中の円のよに車輪の中の輪のように心の風車

弧を描きまたいまここへ舞いもどるほんの一瞬未来へ飛んで

がじゅまるの葉がぽろぽろと落ちてゆく厳しすぎたか今年の夏は

歌うなら今しかないと思うべしどこまでつづくこの残暑はと

残暑とは残虐な暑と身をもって痛感させられる残暑かな

ブリキでできた太鼓を叩け工場を占拠しろ群衆の声

記録はどんどん捨てられて記憶もどんどん捨てられるさよおなら

意図的に忘れさせると忘れたことを忘れるくらい忘れてく

あすもまた同じ日がくる来るべきものは来ないのにあすはまたくる

いざ開け奈落の淵よまだ深く落ちねばならぬ深き眠りに

天気について話すのも政治について話すのもそう大差ない

何もせず通り過ぎてく八月が暑さに耐えた記憶しかない

どれもみなゲームの中の出来事じゃないのだそこで人が死ぬのだ

風呂上がりパンツ一丁で投稿す大事なとこを隠してるうた

冬生まれ夏はやっぱり不得手なり二ヶ月分の暦をめくる

西武からリブロへ抜ける深海を遊歩するよな連絡通路

弥陀の本願を聞き正因をえる解放されるダンスマカブル

平熱が三六度ないくらい体温越えの敷居が低い

横になり息苦しさをやりすごす朝の空気と折り合いつける

トリプルで発生してた台風も野分けられずに二百と十日

大仏の鼻の穴からこの残暑けちらすような野分のかぜを

ももとせが経ちてまたくる九月一日もくしめいする秋の蝉

瓦礫からアルモヤールの足だけが夕焼け空は血のような赤

運動は外側で起き内側は沈黙のまま朝日が昇る

とても明るく輝く星に導かれ太陽よりもまだ高く

振り落とされずまだここにしがみついてるぐるぐる回る星の上

ぐしゃぐしゃと重なり合った黒い線かたち定まることなき不安

戦争のパフォーマンスとアナーキーヴァイオレンスと横山SAKEVI

横山と教授について考える不思議なほどの遠さと近さ

何でそう前の方へと行きたがる打っ飛ばされるかもしれぬのに

荒れ狂う獣性まとうアイコンの多くの謎にみちたままの死

張り詰めていた空気がひしゃげるジーアイエスエムバーミーアーミー

感情を振り切り抉る恐怖とはいかなるものか現象と声

ぱったりと風はとまったままになり音をたてずにざわめくこころ

空っぽのガラスの瓶のなめらかでない表面と小さな気泡

ぎりぎりでまだ生きてるといったけどまあぎりぎりもぎりぎりのとこ

指先で盆を引き寄せ蓋を取りお茶を一口飲む型も芸

折り曲げた小指の先でこりこりと頭掻きつつはなす圓生

小遊三のふんわりとした蜘蛛駕篭のあら熊さんの十八番のループ

夜の海くらい波止場に流れつき手繰り寄せられキャリードアウェイ

終わらない夜中の正午やめとこうまた夢になるキャリードアウェイ

元々がぬかるみだから何をやっても結局はぬかるみになる

ざわざわと水が水路を流れてく夏の終わりの雨降りの朝

折々にあかりもさしてぽつぽつともうやんじゃいそうな秋の雨

かんかんと金属音と秋の雨あしばばらしてきっかり正午

二度咲きの花座の花もすべて落ちホヤにも夏の終わりが来たり

少しでも目をはなしたらその隙に行方不明になっちゃうことば

葉は落ちて灰褐色に一年も残り少なくなりゆく九月

必要なのはお金ですちっぽけな自己満足が目的じゃない

また明日は暑くなるのを知っているのか自重する秋の虫たち

毛布一枚かけるけどがっと寝返りうつたびに足から抜ける

まだ残暑なにもしないで床のうえにごろごろごろごろ寝転んで

晴れたなら晴れただけまた勢いを立て直して戻りくる殘暑

風にあたってばかりいて殘暑の頭にぶくいたんで重くなる

泣き言をはいてるだけで歌となり惨めにいきてしんでゆくだけ

いつだっておんなじことの繰り返し走ってゆけど何ひとつない

いつだって言葉遣いにけちつけるあなたは摩擦きっと摩擦だ

いつだって起きる摩擦をどこかしら楽しむようなそれが大人か

人間はひとそれぞれに違うから近くに寄れば摩擦も起きる

霧の中から現れてまた霧の中へと消えてゆく田中泯

海あおく秋の気配のまじるかぜ立石と梵天鼻の松

やれ蓮にもどりし残暑さっと斜めに降る雨つぶの広重忌

野分けらる前に刈られし稲の田にぼとぼとと降るおおつぶの雨

たくさんの愚行が愚行をよぶ騒ぎ死線に迫り夢は途絶える

身をくねらせて這うように人々の心の中へ潜り込んでく

のびするとお臍でちゃって恥ずかしい服がどんどんちいさくちぢむ

ぬるぬると始まりも終わりもない連続のなかに溶け込んでゆく

ちょっとだけ処暑が処暑らしさの片鱗を見せただけで処暑が終わる

べちょべちょに湿ったとことからからに乾いたとこが隣り合ってる

ジャニーズや自動車だとかテレビとか民主主義とか資本主義とか

避けてゆき近づくことすらしなかった台風がくる半信半疑

もうこれが残る最後の後退で消えゆくための最後の出口

成功のチャンスを掴むためならば何でもします成功したい

じむぐりを飲ませて訳がわからなくなってるうちに生き肝をとる

潮風にあたって育つ大葉子の葉をもとめいざ鎌倉の海

隙間から吹きこむ風が冷たくてあの暑い日がもう嘘のよう

雨はやみ簾はひらり揺れている台風はまだ御前崎沖

来るという噂は聞いていたけれど噂のままで消えたインニョン

壁のなか壊れたガラス丘の庭かたちある花テストパターン

禿鷲の未来を生きる歓待の紫水晶の腕の中

間違ったことをするよう差し向けるかもしれぬものラヴとハピネス

この二〇年ずっと無慈悲に切り捨ててきたじゃない君の番だよ

べこべこべこやどっすんとからだのなかで戦争してるようなおと

まああれが気圧のせいというやつか熱低なれど侮りがたし

重陽のしとしとしとと雨の音こころのそらもしとしととふる

重陽の衣裳かさねてきくのわた五度めのしゅうぎ九月九日

熱低の出がらしのよなじめじめとひどく湿った空気だけくる

今はもう背後にすべて後退し遠い灯りがまた燃えている

悲嘆に満ちた原野を越えてあの遠く隔たった光のなかへ

ブラタモリみていてなぜかあのひとを思い出してる秋だからかな

五〇〇日もの糠にくぎ四〇〇〇越える石にきゅう闇夜のにしき

どん底の薄暗がりであれこれと小細工しても闇夜のにしき

かろやかにことこまやかにみたままに飛びこんでくる光そのもの

稲刈りの終わった田んぼの水たまりすれすれのとこ飛び交う蜻蛉

結局はまた元通りなにごともなかったかのように残暑かな

失速に歯止めをかける時がくる今度は君が落ちてく番だ

もしそこに傷が見つからなくっても傷があなたを見つけるでしょう

傀儡師に頭剃られた山芽ちゃんのびたそばから尼僧の修行

ふわふわり生け垣こえる揚羽蝶ちょっと涼しい白露の朝に

梅の木をひらりとかわす揚羽蝶ぐるりと松をまわって屋根へ

新鮮な酸素を取り込めなくなって記憶のデータが消えてゆく

揺さぶって変化うながすこともない浅草地下のアウトサイダー

崖っぷち越えたら次の崖っぷち二百十日も二十日も厄日

良識の囚人がいま落ちてゆく果てしなきイマジネーションの死

半分はもうとうにすぎ秋の空気を駆けおりるあと四ヶ月

草の露しろくついても夏のよなつよい日ざしにまろびてきえる

芸術の教養というもの身につけて了簡の狭いこという

まだらに黄色くなっている葉っぱがなかなか落ちず踏ん張っている

燃料が足らなくなって倒れ込むしきっぱなしの電気じゅうたん

ああ早く九月になればなんてこと思えなくなるながびく暑さ

うわべだけどの言葉にも生きた血が通ってるよな感じがしない

とことことジャッカルがきて水を飲む黄昏時のナミブの砂漠

取ることも置きっぱなしにすることも常に可能な空白世代

エックスでみる動物はみんなかわいい人間はそうもいかない

真っ直ぐににょきっと伸びた茎の先やっと小さな葉が顔を出す

世の亡ぶ兆しのように照りつける秋の空から真夏の日ざし

改造をしても泥舟だったのに再改造でなにになるのか

今日もまた誰とも喋ることはなくあっという間に終わったようだ

変化して力生みだせんのかな社会が変わるの嫌なくせして

滑りさる時間と消えてゆく光とても静かで感覚もない

さあみんな踊って歌い立ち上がり自分のすべきことをしましょう

鶺鴒とおぼしきこえがしたようなまだ真夏日の九月のなかば

真っ白に日を受けひかるカーテンをひゅるりとのぼる飛ぶ蝶の影

ふつふつとサフランいろにあちこちで湧いてでているうずもれまいと

灰色の底の小さな低い雲ときおり日ざし遮る白露

空模様くずれるてまえ消えてゆくうつくしい時さまざまの夢

時によりただひとことで社会には存在しない人となる人

ぽんこつがぽんこつならではの感性や共感力であれします

涙なき戦争がくる境界も国境もないゲームのような

情緒ぐらいならまだましで生存すらもが不安定化する夏

さっきまでそれほどでもなかったのに今はなんだかとても悲しい

まだ夏の暑さが残る時期だけど氷のような言葉が刺さる

坂のぼりおりて迷路のような路地ぬけて港であの日をさがす

音をたて揺れているのは何かしらこぼれて落ちたかえらないもの

何遍も低く轟く雷鳴と白々と降りだす秋の雨

あっけなくボタン押したら行っちゃったするっと手から逃げてくように

寂滅の焔のように揺れていてささくれ立った忘れえぬ音

人間が生っちょろくて青臭くちっともできておらぬものなり

雨雲をレーダーを見てチェックをしてもしばらく雨は降りません

隙間なく精緻に言葉を連ねる空しさよ美は乱調にあり

返り血を浴びることなく剣の目で見て一閃机竜之助

光なく音も滅した構えから調和を乱す雑念を断つ

テレグラムサムを初めて聴いたのはまだくりくり坊主だったころ

ゴングを鳴らせ革命の子供たちその歌声の不滅の響き

ここにまたいつものように夏がきて悪びれもせず居残っている

寝転んで八枚切りの食パンをもそもそ食んで小腹をみたす

夜にこめひろいあつめたばらばらのうたにもならぬ小さなおもい

がたがたのこま送りしたうごく画で視界をよぎるあの夜の花

秋はまだうっすら浅く寄せるのみ夏のなごりばかりが深まる

南からあつくしめった空気が流れ込んできてはりついている

しみじみと芭蕉が詠んだ秋らしい秋はどちらにおられましょうか

あっちではこっちが悪いといっているこっちではその逆のこという

ゆっくりと用心深く歩いてく地図ももたずにおのれのなかへ

「あなたの」とだけ書きしたためる残りはすべてまっさらなままにして

ふるしきに人間のふかいおかしみつつんでみせる志ん生の芸

志ん生とラフマニノフ交響曲第一番の業の肯定

捲きおこる風も物憂きころとなり草も靡かん柳条湖の夜

灼けた道まだ夏めいた青い空ところどころにかげおとす雲

今日こそが今年最後の猛暑日で明日はおそらく秋の真夏日

自転車のかごにつめこむ米五キロこれでしばらく命をつなぐ

じっと窓から眺めてるただ待っているいつの日か季節は変わる

太陽が黒い大きな穴となりのぼるのを見るソーラーロッジ

咳こんで痰がからまりまた咳をする糸瓜忌のまだ暑い朝

朝方につくつく法師の声がする漸く夏のおわりの序曲

秋の真昼はまだ暑い蝉らの声も遠ざかり沈黙をする

うち晴れて猛暑日となる子規忌かな秋のきざしは帰り去ったか

待っているこの反復が終わるまでそして頭の裏からはいる

指輪を与えよ呼び声が聞こえてる今こそこの腐食をうたえ

大地ひきさく洪水と走る冷気と燃え上がるヒーリンハンド

腐食した世界をうたうヘイナウナウと差し伸べられる癒しの手

つばめさるころだというがまだそんな秋でもなくてずうっと残暑

いやだねえそいつぁちょっといただけぬ眉をしかめていう芥川

ぐるぐると草はらのなか歩きまわって袋いっぱいいなごとる

ぐるぐるとすごい速度でまわりだす思惟の手前の直感の渦

くりかれにふたつのあちらそれぞえすべつべつながれこちらといっしょ

耳すませ夏の昼間の暑いとき目を閉じてきく亡きひとのこえ

灼熱とひどい湿気のただ中に放り込まれたこの夏ずっと

何かが燃える音がする何かが変わる今夜メリーゴーラウンドで

わかります仰りたいと思ってることはだいたいわかりますから

暴力に満ちあふれてる世界にインターナショナルデイオブピース

がちゃがちゃとずっと流れる水と皿なくした椅子がまだ目にうかぶ

がじゅまるの黄色くなった葉はすべて落ちまだらがひとり生きのびる

曇り空低い気圧と高湿度エアコンだけはよくきいている

いくつものにじんだ墨のような雲たれさがる空はえとむしの音

戦士は決して手をゆるめない降伏しないこの土地は渡さない

明け渡さない降伏しないなりすますものもない世界の終わり

秋の雨からだが冷えてしまわぬように首にタオルを巻いている

保冷剤くるんで首に巻いていた夏にいっぱい使ったタオル

西風が雨を運んでやってくる夜の長さが昼に追いつく

お腹いっぱい食べさせろ国家にはわたしを生かす義務があるはず

バッジつけ全力ダッシュで夢かなう政治ごっこはこれでおしまい

ぼくに大菩薩峠を教えてくれたのは今村仁司でした

濁流に流されてゆく竜之助ただ運命に翻弄されて

生きるも死ぬもひとつなら流されるまま行きて帰らぬ死出の旅

照りつける日ざしが焼いた地面の熱をすっかり冷ます秋の雨

丸まった毛布そのまま手繰り寄せくるまっている秋寒の朝

控えめに様子うかがい鳴いているひよどりのこえ秋めく空気

どんよりと曇っていると秋のよな日ざしがさすとまだ夏のよな

五時のチャイムのメロディと救急車のサイレンが交錯している

想像界のインフレと現実界の欲と金よごれてく街

雪崩に足を踏み入れるそれはもうこの魂も覆い尽くした

王がきてテュペロのうえを歩まれるそしてテュペロの重荷を背負う

まだ夏の名残とどめる蛇口から出てくるちょっと生ぬるい水

手だけなら孫のかわりをしてくれるこやつで背中ばりばりと掻く

てれすこを開いて干して干物にすればすてれんきょうと名がかわる

くくるくっを開いて干して干物にするとひひりひっと名が変わります

季節の閾こえたのか夕方の蛇口の水はもうただの水

秋空の青にぼんやり白い月どこかでなくはしじゅうからかな

消えてゆく砂に残ったあしあとの世界が空のしたで泣いてる

どれくらい低いとこまでいけますかあの牛たちの泣き叫ぶ声

寝苦しさあの蒸し暑さうそのよにうすら寒さに目が覚める朝

飛んできた鳩がかしゃんと物干しの竿にとまってあたり見まわす

秋ととせいれかわりゆくいれものとかわらぬようでかわりゆく風

線や形のかたまりがどれほどのまるいシールを奏でられるか

もこもことうっすらかかるひつじ雲すかして見える秋の月光

もうすでに冷たくなってしまっていますどこをどうすりゃ適温に

空を買い空を売り空に向かって両手をあげて空に尋ねる

永遠に満たされつづけいつまでも満たされきってしまわないもの

エアコンをなまじつけるとあったかい風がでてくる宵の秋かな

呆気なくひきさがるのかあんなにもしつこく暑い夏だったのに

猛烈にむしむししてた残暑からすぐ目のまえの秋のただなか

低い空とぶ飛行機の唸る音また目を閉じて時間を跨ぐ

寝ているときにみる夢とアーティフィシャルなインテリジェンスの夢の夢

畦に咲く白彼岸花にかこまれてマイノリティの赤彼岸花

明かしえぬ夜の王国のひかりのこ裸足でおどる頭のなかで

教えてほしい変節はいつおとずれるいつ熱はさがりはじめる

今お使いの物差しはそのうち使いものにならなくなりますよ

自転車のタイヤの空気いれる間に血に飢えた蚊が足にむらがる

くよくよと考え倦ねているうちにやがてすべては疲労にかわる

行ってくる戻ってくるも何もせずただ側溝の蓋ふんでいた

気が抜けてへなへなしてる精神は地上にしか住まう場所がない

骨の髄まで資本主義その精神がしみこんでいるひとともの

うねりから別のうねりが生み出され噴き出してくるさらなるうねり

繰り返す音の連なり浮上する波に掻き消えまた繰り返す

言ってることの半分は真実だけどもう半分は思い込み

まだこんな真夏日となる暑さでも土にもぐって戸をふさぐのか

ぽろぽろと選択肢から落ちてゆきあれもできないこれもできない

自転車の窓辺にゆれる白い手が無限にぞめく夏のなみかぜ

半分しめたカーテンのしめてない方ひらひらと舞う揚羽蝶

今日もまたなすところなく日が暮れる悲しみがまたうす汚れてく

さとふるをやらない最後のひとり目指すのもまた一興である

ナミビアの砂漠の生き物みるようにイパクサのライヴ映像みる

細やかに実に微細に編みなされてる社会のコンプリケーション

真に単純な意識があったならそれはただちに無意識である

苦にまみれ娑婆の奈落を這いまわるなくになけない蟲みちにけり

水を空気で薄めたような湿り気のなかでいき蛙化してく

名月を見あげずにただ俯いているなにもかももうとおくない

名月やとにもかくにもこの通り秋がくるまで生きのびました

陽子プロトン中性子アトミックシティ檻の鍵アイアムフリー

光のなかににじみゆくまじりあう色そしてすべては去ってゆく

さびしさは石つむようにつもりゆくつんではくずれくずれてはつみ

しわくちゃのもう真っ白じゃなくなったごみ同然の弱き漏出

南に向いた向かいの斜面真下からもやし工場の水の音

夜もふけて道をへだてた暗く静かなこどもの城を眺めてた

どんよりとしたくらいそらふっているのかいないのか九月が終わる

元々はどぶのほとりの曼珠沙華いまは塀沿い道端に咲く

道端がひねられねじれ折れ曲がる街のはずれの小さなカフェで

瞬間にそこにあるなみおとをきくゆらぎのなかでつたわるギフト

「2023年のうた」の第三期。季節は暦の上では夏から秋にかけて。だがしかし、今年はこの間ずっと気温が三十度を越える日が続いていた。ほとんどが真夏日だった。立秋を過ぎても、ましてや秋分を過ぎても、まだまだ暑さが残っていて、この三ヶ月間の季節はずっと真夏だったといってもよい。四十度近い体温越えの気温となる猛暑日も多かった。いや、体感としては、ほとんどずっと猛暑であったような印象すらある。そして、この九月の終わりになっても、まだかなり暑いのである。なんだかんだいって、とても湿度が高い。これがかなり体にこたえる。ほんのりただよっている秋らしさも、その秋らしさの本領をまだまったく発揮できずにいる。ずっと夏が終わることなく続いている。これはもうわたしが知っている夏ではまったくないように思える。夏というのは、もうすこしとりつくしまがあり人情味が感じられるところもある暑い季節ではなかっただろうか。今はもう夏というやつにちょっとでも近づくことさえいとわれる。

天気のことばかり話していても仕方がないので、そろそろ短歌の話をする。ここにまとめられている短歌は、猛烈に暑かった夏の三ヶ月の間になされた激闘を記録したものである。はるかに度を越している猛暑で、もう本当に死ぬかと思った。というか、普通だったら死んでいただろう。今まだこうして生きていらられて、こんなことを書いていられるのが、不思議なくらいである。たぶん、連日の猛暑日のうちのどこかで、食べ物もエアコンもなく弱りはてて熱中症で野垂れ死んでいたとしてもおかしくはなかった。あのままいけば、間違いなく、どこかで死んでいたに違いない。実際に自分でも死ぬのだとなかば思っていた。わたしは何ひとつとして自分ひとりではちゃんとできない人間なので。本当に死にそうになったら、その運命を甘んじて受け入れなければならないのではないかとも思っている。そんな、ちょっとばかし過酷な明らかに死が間近に差し迫っている状況の中で、なんとか短歌だけは毎日欠かさずに詠んだ。逆にいえば、短歌を欠かさずに詠むことだけを自分に課して生きていたといってもよい。詠むために生きるというか、生きるために詠むというか。ここにあるのは、そんな日々の激闘のなかで生まれた歌である。切羽詰まっているものもあれば、あまりそうではないように思われるものもある。いずれにしても、これらはすべてこの三ヶ月間の激闘のなかにおいてわたしの内部の奥深いところから絞り出されるようにして出てきたことばである。それは間違いない。そして、それらのなかには何か共通して人間のギリギリのところのフィーリングのようなものがそこはかとなくこめられているのではないかと思われもするのだけれど、どうだろう。もしも、そんなものはちっともないとあなたが思ったとしたら、それはひとえにわたしの力不足によるものである。何卒ご容赦いただきたい。あんなにも死にそうになりながら激闘したというのに、誠に残念なことではあるけれど。

未発表短歌も無駄にいっぱい詠んだ。明日の体調がどうなっているかわからない。もしかしたら短歌を詠んでいられるような状態ではないかもしれない。なんていうことを始終考えていたので、詠めるときにひとつでも多く詠んでおいて、何かのときのための短歌のストックを作っておこうとしていたのだ。それがために、かなりの未発表短歌が無駄にできてしまった。また、諸般の事情により前回のまとめに追加していなかった、今年の第二期の春夏の分の未発表短歌も、今回のまとめにあわせて収録をした。もしよかったらそれらの一応没の短歌もちらっと見てみていただきたい。大きな声ではいえませんが、まだ誰の目にも触れていない珍品が見つかるかもしれませんよ。

最後に、余談ではありますが、創作活動を続けてゆくためのサポートも何卒よろしくお願いいたします。お気持ちなどもろもろのことなどに何か十二分の余裕がございますようでありましたら、是非ともよろしくお願いいたします。お待ちしております。恐惶謹言。

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