見出し画像

初対面 [後編]

twitterの裏垢で知り合った気になる彼との初対面の記録。
前半はこちらから。



プレゼント交換をしたあとも私達は時間を忘れて延々と話し込んでいた。

「DMでこんなに話せてしまうんだから会ったらやばいだろうね」って前から話していたけど、本当に会ったらずっと話してた。

この時、予想外だったのがホテルの部屋の配置だった。
予約サイトではソファがある部屋のようだったが、実際にはソファではなく、マッサージチェアとデスクチェアしかなく、私たちは向かい合って座っていた。

ソファで隣同士に座っていたらだんだん距離が近くなったりして…♡なんて妄想も虚しく、私達は人間が最も距離感を感じてしまうと言われている正面座りのポジションから動けずにいた。

もしかしたら私がマッサージチェアに座った時点で襲いかかってくる可能性も…?と思ったりもしたが、一向に彼は攻めてくる気配がない。
時々私の手に触れたり、足に触れたりはするのに、なかなか体に触れようとしない。ずっと話してる。
人生でこんなにソファに座れないことを後悔する日が来るとは想像もしていなかった。


私が描いたタブレットで描いたイラストを見せると「かわいい〜」と彼が身を乗り出してきた。
パーマをかけた彼のふわふわの頭が目の前にある。

「わんちゃんみたいだね」

つい無意識に彼の頭をもふもふ撫でていた。

「あっ、ごめんなさい」

はっとして彼の顔を見ると、彼はじいっと私を見上げていた。

彼が一歩前に乗り出してぎゅう、と私を抱き寄せた。

ーーあ、わわわ…

私も自然と下からしがみつくように彼を抱きしめ返した。トトトトと早い心臓の音がする。あったかい。

ーーああ、本当にいたんだ…

彼の存在をやっと感じて、ちょっと涙がじわっと出て、へへへっと変な笑いで誤魔化した。


「シ、シャワー浴びてくるね…!」
と彼は慌てた様子でシャワールームへ消えた。


ーーつ、ついに…!?

私はどうにもこうにも落ち着かなくなって、彼が買ってきてくれたチューハイの缶をプシュっと開けてベッドの端っこに小さく体育座りした。変な汗が出てくる。
できる女はここで化粧直しとブレスケアをキメるのだろうが、そんな余裕はなかった。

ーー初めてのセックスでもあるまいし、
  というか、ついこの前までそこそこ遊んでたくせに
  何を今更恥じらってるのか自分!
  おい!しっかりしろ!


しばらくすると彼がズボンだけ履いた状態でシャワールームから出てきた。
歳の割に細く締まった体がランプシェードに照らされて浮き上がっている。私はそれに見とれてしまった。

彼が私の隣に座った。

「……ねえ、ほんとにいいの?」

と彼がまっすぐ見つめてきた。

私も彼を見つめてこくんと頷いた。



彼の唇が私の唇に触れた。

触れるだけのキスはあっという間に求めあうようなキスになり、
彼の指が私に触れる。

なんでそんなに的確に狙えるのかわからないほど
あっという間に私はトロトロに溶かされてしまい、

次は私が…と彼のズボンを下ろしたところで、
予想外の展開がそこにあった。



勃ってない。


半起動とかじゃなくて戦闘力0の時の。全く反応していない。

ーー……え?
  私、結構喘がされてましたけど、え??
  そんなことある???
  私じゃ興奮しなかった???

確かに彼は40代半ばで若くはないけど、今まで聞いてた話によるとそこそこ性欲もあるようだし、ひとりですることもよくあるとか言ってたのに…???

今までこんなことがなかったから頭の中に「!?」が飛んでは消え飛んでは消えた。

ーーいや、そんなことないはず…!
  慌ててはいけない…!

イロイロやってみる…と、なんとか大きく……?

ーーおおおいける!もう少し下もいってみよう…

とか違うところに手を出しているうちに本丸がまた元気なくなってきて…

ーーうわあああああ

焦ってもう一回本丸に戻ってみるものの再起動せず……

その後自力で再起動させた彼によって、なんとか挿入まで至ったものの、すぐに中折れしてしまい…

彼も焦ったのか、また彼のターンに強制送還され、敢え無く私だけ昇天させられてしまったのだった…

私ってそんなに魅力がなかったのかな……

「ごめんね…」
と肩を落としていたら、彼がポツリと話し出した。

「ごめんね、今日実はかなり緊張してて。来る途中も事故るんじゃないかってくらい心臓バクバクしてて。初めて会うから、どこが気持ちいのかなとか探してたらそっちに集中しちゃって、いいところ探すのに必死で…ごめんね、ウラちゃんのせいじゃないから」
彼が本当に申し訳なさそうに謝った。

ーーあ、この人、
  自分も緊張してるのに私が緊張しないように
  一生懸命気を遣ってくれてて、余裕なフリしてて
  こんなに真剣に私のこと
  気持ちよくしようとしてくれてたんだ…
  全部私のために…

ドアを開けた瞬間の彼の緊張感や、速い心音、緊張をほぐそうと一生懸命に話してくれていたのも思い出して、急に彼が愛おしくなってきて、ぎゅうと抱きしめた。

この時ハッと今まで自分がいかに自分本位なセックスしかされてこなかったなかったんだろういうことと、自分もいかに自分本位なセックスしかしてこなかったんだろうってことに気がついた。

また1枚、彼に服を脱がされたような気がした。

勃たなかった原因をいろいろ真面目に考察して説明してくれてるのも可愛いと思ってしまっているからもう完全に彼に陥落させられているのかもしれない。

「一生懸命優しくしてくれてありがとう」
精一杯のお礼を彼に伝えた。


そのあとも彼の腕に頭を乗せて話をしていると
「あっ、もう帰らなきゃ」
と彼が起き上がった。
深夜3時半。彼は日が昇る前に家に戻らないといけない。

淡い光に照らされた彼の腹筋が美しくて思わずお腹にキスをした。


「…またねと言ってもいいですか」
と彼が聞いた。

また会えるなんて元々思ってもいなかったし、いつ私は日本を離れることになるかも分からない。
しかも今日は全然彼を満足させてあげられなかったし…

胸がいっぱいになってまた涙がじわっときて、

「また会ってくれるんですか」
とかすれた声で聞き返したら

「ウラちゃんがいいと言ってくれるなら」

ーーいいに決まってるじゃないですか…

と言いたかったけど、それを言う余裕がないくらい胸がいっぱいで、黙って頷くしかできなかった。


彼がドアノブに手をかけたとき、なんだかものすごく遠くへ行ってしまうような気がして名前を呼んだ。彼は戻ってきてぎゅうと抱きしめてくれた。

ーーああ、このまま夜が明けなければいいのに…

そんな映画みたいなセリフが言えたらいいのにと思いながら、代わりにぎゅうと強く抱きしめた。

彼も強く抱きしめ返してくれた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?