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炊飯器を買うつもりが魔法の鍋を手に入れた話

「炊飯器を買おう」

私はそう高らかに宣言した。

宣言したのはいいけれど、別に釜の中で米が踊り狂うような高級炊飯器を求めているのではなく、普通のただお米がそこそこに炊ける炊飯器。

そこそこでいいのだからたいした事ではない。では何故そんなにまで高らかに宣言する事になったのかというのはこの1年の夫と私の戦いがあったからだ。

炊飯器が欲しい男 vs 炊飯器まだいらない女

この1年夫は家電量販店に行くと事あるごとに炊飯器コーナーに行き吟味しつつ、これがいいんじゃないかなと一言も買うなどと言っていないのにあたかも炊飯器を買いにきた風を装っていた。

炊飯器にご飯を少し放置しただけですぐにカピカピになる為、カピカピご飯を見つける度に「やっぱり炊飯器いるってIHのやつ」と言い、私はどんな炊飯器でも放置すればカピカピになるだろうと心の中で思う。

かくいう私はというと、安いお米をマイコンの炊飯器で炊こうが魚沼産コシヒカリを釜で炊こうがどっちでもいいといったくらいご飯に興味がない。

小さな小瓶に入っているような美味しいおかずの事を『ご飯のお供』なんて言うが、私にとってご飯がおかずのお供なのだ。ご飯のお供では桃太郎がご飯で、猿、雉、犬がおかずになるけれども、私の場合はおかずが桃太郎でご飯が猿、雉、犬という事になり主従関係が逆なのだ。何言ってるかわからなくなってきたがとりあえず、おかずありきのご飯なのである。だから、水の分量さえ間違っていなければ大概のご飯は美味しいと思っている。

それに今使っている3合炊きのピンクのマイコン炊飯器は、10年程前私が一人暮らしをする時に親戚に買ってもらった物だ。なんというか、一人暮らしという不安な生活を支えてくれた炊飯器でもあるので、使える内は使いたいという思いもある。

そんな1年間の炊飯器攻防戦を繰り広げた私たちの戦いに遂に終止符を打つ時が来た。

ギフト券を頂いたのだ。いろいろ考えたけれど2人で使える物を買おうと頭を捻ってはみたものの、今特に欲しいものがなかった。けれど、期限もあるし、悠長にしている時間はない。そこで私は立ち上がり堂々と宣言した。

「炊飯器を買おう」

夫は「自分の欲しい物買えばいいのに」と言ってくれるが待ちに待った炊飯器だからか内心嬉しそうだ。ネットで調べながら極力ギフト券内で買えて、IHの5.5合で尚且つ見た目がおしゃれな物というので探した。そして、これだ!と思う炊飯器を見つけた。予算は少しオーバーだが、それ以外の条件はクリアしている。

「これだね」と2人の意見が合致した。

しかし、私はバタバタしていて購入を後回しにしてしまっていた。

そんな中2人でホームセンターに出かけた時のこと。たまたまそのホームセンターに炊飯器コーナーがあるのを見つけたので、ネットで購入するつもりだがとりあえず実物を見ようと探してみた。残念ながら欲しいと思っていた商品は置いていなかったのだが、私たちはあるものに目を奪われた。


電気圧力鍋

なんとなく存在は知っていたけれど、どうせお高いんでしょ?5、6万くらいするんでしょ?なんて富裕層の家にあるものだと思っていたのだが、炊飯器とほぼ同じ価格で買える電気圧力鍋が売っていたのだ。もちろん高いのもあるのだけれど。

あまり知識がなかったがよくよく見てみると電気圧力鍋は、ある程度ほったらかしで煮込み料理やカレーや私の大好きな豚の角煮、なんでもかんでもどんとこいって感じでおかずを作ってくれるらしい。なんならご飯も炊いてくれる。
桃太郎イコールおかずの私にとってはこっちの方に目移りしてしまう。ほったらかしておかずができるなんてもはや魔法ではないか!

夫に「え、なんかこっちの方が良くない?」と言ってみる。炊飯器が欲しかった夫はなんて答えるだろうと待ってみた。

「え、こっちの方がええなぁ」

1年間温め続けた夫の炊飯器への想いはあっさり砕け散った。

よし、炊飯器じゃなくて電気圧力鍋にしよう。いいギフト券の使い方なんじゃないかと私たちは再び合致した。
誰に言うわけでもないのに「なんかあの炊飯器よく見るとあんまりおしゃれじゃなかったよね」なんて自分たちに言い訳をするかのように話した。

そして遂に届いた電気圧力鍋。

電気圧力鍋が届いてから私たちは食材を買いに行った。記念すべき電気圧力鍋最初のメニューは肉じゃがだ。
一昔前お見合いの席で得意料理は?という問いに対する答えの中で好感度が抜群に上がるで有名な料理だ。

しかし残念ながら私はしゅんでる系のおかずを作るのが苦手で今まで肉じゃがを作ったことはなかった。
夫と付き合いだした頃、夫の口からこぼれ出た「筑前煮食べたいな」を健気に拾い上げ自宅でレシピを見ながら作って家まで持って行ってあげたのだが、味が全くなくて夫に作り直してもらった過去を持つほどの実力の持ち主、それが私。

味が染みないし、野菜も柔らかくならない。煮崩れなんて気にする余地もない程、料理としてレベルが低い。だから、私は肉じゃがも作ったことがなかった。けれど、一度だけ食卓に肉じゃがが出てきた。それは夫が作ったもので味も美味しかった。夫はできるけれど私はできない。夫の好物の肉じゃがを作ってあげたいと思ったけれど、作る自信もなく作ってあげたいけれどという思いだけが積み重なるばかりだった。

しかし今の私にはコイツがいる。
ピャピャッと魔法をかけて肉と野菜を肉じゃがにしてくれる魔法の鍋が。

鍋に具材と調味料を入れて

スイッチオン!


あら不思議、時間は少しかかったがほったらかしでできた肉じゃが。


レシピより小さく切ってしまってじゃがいもがかなり崩れてしまったが、それでもかなり美味しそうなにおいがキッチン中に立ち込めた。そして、出来上がった肉じゃがを夫と2人で食べた。

じゃがいもが柔らかくて味もしゅんでて「美味しい美味しい」と2人で食べた。それは私がいつか肉じゃがを作ってあげたいという小さな夢が叶った瞬間だった。この電気圧力鍋のおかげで私は肉じゃがを夫に作ってあげることができた。ほとんど手は加えてないけれどそんな事はどうだっていい。日々の食卓に夫が好きな料理のレパートリーが1品増えたというだけで嬉しい事だ。

電気圧力鍋、それは本当に魔法のようだった。けれど、炊飯器だって釜で火加減を調節しながら炊いていた時代の人にとっては、ほったらかしでお米が炊けるなんて魔法だったのだろう。魔法みたいな事がどんどんと当たり前になっていく。この電気圧力鍋も数年後には、当たり前の世の中になっているのかと思うと、少し寂しい。いや、私が知らないだけでもう既に当たり前なのかも知れない。

人に圧力はかけたくないし、圧力をかけられたくもない。けれど、料理にはどんどん圧力をかけていこうと思う。新しく我が家にやってきた魔法の鍋で。


そして、毎回この電気圧力鍋で調理した料理を食べながら思い出すのだろうか。購入する時にギフト券を使い忘れた愚かな自分のことを...。

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