【エッセイ】ハムサンド

私はタイのとある店でサンドウィッチを食べていた。

半分以上食べ終わった頃だろうか、赤縁のメガネをかけた、いかにもジャンクフードが好きそうな見た目で、年齢国籍不詳の女性が店に入ってきた。

女性はカウンターに着くなり、

「ちょっとそこのあなた」

と、テーブルでサンドウィッチを食べる華奢な日本人女性に声をかけた。

赤縁メガネの人は日本人だったのか、と軽く驚きつつ様子を見ることにした。声をかけられた女性もハイと言いながらきょとんとしていた。知り合いではないようだ。


華奢な日本人女性がカウンターに来ると、赤縁メガネの女性は言った。

「注文したいんだけど、私言葉が話せなくて」

なるほど英語もタイ語もできないらしい。少し意外だった。きょとんとしていた華奢な日本人女性も納得したようで、「どれを注文すればいいですか?」と、隣にいる赤縁メガネの女性に尋ねた。

「うーんこのクラブサンドなんだけど~、具はなしで~、ハムだけ。って言ってくれる?」

私は耳を疑った。

確かにその店には、サンドウィッチから要らない具を抜いてくれるサービスはある。

しかし「ハムだけ。」とはなんだ。家で作る方が絶対早いし安いじゃないか。わざわざサンドウィッチの店に来てハムだけサンドを頼む意味はなんだ。しかもジャンクフードが好きそうな見た目で「ハムだけ。」か。本当にそれで良いのか。いや待てよ人は見かけによらない。実はジャンクフード好きという訳では無いのかもしれない。毎日ヘルシーな食事に気を遣っており、たまにはサンドウィッチでも食べようと思ったが、普通に注文するとカロリーが高そうだから具を抜くことにしたのかもしれない。しかしだとすれば、レタスやトマトは抜かなくて良かったのではないか。というかそもそもサンドウィッチはそこまでジャンクでもないか。にしても「ハムだけ。」って…

と考えているうちに、華奢な日本人女性は、顔色一つ変えずに分かりましたとあっさり答えていた。嘘だろ。この人は、ハムだけサンドを注文しようとしている隣の人に対して何も思わないのか。彼女は、「ハムだけ。」の注文を流ちょうな英語で店員に伝えた。店員も笑顔でOKと言い、厨房に注文を伝えた。「ハムだけ。」にここまで驚いたのは自分だけなのか。

「ありがとね~」と赤縁メガネの女性に言われた華奢な日本人女性は、いえいえ~と言いながら自分の席に戻っていった。


数分後、サンドウィッチを食べ終えた私は店を出た。

店を出る時、ハムサンドを美味しそうに食べている女性を見つけた。

あんなにも幸せそうな女性が、こんなにも偏見まみれの奴から絶対ジャンクフード好きそうとか「ハムだけ。」とはなんだとか思われていたのか、と客観的に見ると、何だか申し訳なくなった。

彼女は今ハムサンドを美味しそうに頬張っている。

これで良かったのだ。

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