見出し画像

「食べる音楽」リターンズ

No.12 南蛮渡来の粉モン文化?

アツアツの素晴らしいパンを
ご婦人方、ご希望の方に
さあ、さあ、さあ、こいつが熱いうちに
食卓の準備をして!
さあ、ご婦人方買っておくれ
おいらの熱くて最高のパンを!
こんなに熱いのを味わったら
おたくら真っ赤になっちまうよ
アツアツの素晴らしいパンを
ご婦人方、ご希望の方に!
作者不詳(16世紀イタリア)<アツアツの素晴らしいパン>より

 過日、堺で開催されたコンサートに、リューティストの高本一郎氏、濱田芳通氏率いる古楽アンサンブル「アントネッロ」と共に出演した。堺は戦国・安土桃山時代にかけて南蛮貿易の拠点として栄えた港町である。イエズス会宣教師ルイス・フロイスは堺を「東洋のベニス」と称し、「日本で最も経済的に豊かな港であり、国内の大部分の金銀が集まる」と報告している。このことからも当時の繁栄ぶりがわかるというものだ。

 そして南蛮貿易の拠点となっていたということは、当然そこにヨーロッパの文化がいち早く伝えられていた、ということでもある。音楽についても同時代の西洋音楽が宗教曲、世俗曲を問わず、宣教師や商人らによって持ち込まれていたに違いない。そんなわけで、堺でルネサンス・初期バロック音楽を演奏するということは、フィレンツェのメディチ宮でメディチ家のお殿様が作詞した作品を演奏するのにも匹敵する、素敵な体験ではないかしらん、とひとり感慨にひたってみたりした。

 さて終演後、現地で打ち上げをする時間もなく、少々残念な気持ちで一同最寄り駅へと歩き出したのだが、ふと目を上げるとそこには煌煌とライトアップされたたこ焼きチェーンの看板が!そう、打ち上げをする時間はなくともたこ焼きを「ひとふね」平らげる時間は十分あるではないか。音楽家たちは看板に引き寄せられるが如く、ほとんど小走りとなって店へと殺到した。

 だが、ここで大阪人であるリューティストが我々を引き留めてこう言った:「踏切の向こうにある店が気になりませんか?」。確かに氏の指差す方向にもう一軒たこ焼き屋が見える。その場にいた全員が地元ネイティブの意見を全面的にリスペクトし、その店へと向う。しかし、我々が到着する直前に大量買いの客が来訪したため、音楽家たちは6人分のたこ焼きが出来上がるのをひたすら待つはめになった。だが焼きたての味わいは格別である。鰹節の代わりに刻んだわけぎをたっぷりとのせたそれは、これまた大阪名物である「ネギ焼き」にも似た味わいであり、大きめのタコは噛めば噛むほど味わい深く、我々は至高のB級グルメを堪能したのである。

 店主がおまけしてくれた最後のひと玉を口に運びながら、大阪の粉モンはもしかしたら南蛮文化の影響なのではないか、とふと思いついた。どうにも気になり、その後調べてみたら……なんとお好み焼きの起源は、安土桃山時代に千利休が作らせていた「麩の焼き」である、という説があるではないか!堺および大阪の皆様、「南蛮文化と粉モンについて」というテーマで試食会付きレクチャー・コンサートはいかがですか?

お気に召しましたらサポートをお願いいたします。今後の作品制作に役立てたいと思います。