たぶん、出会いたいから
もうずっとむかしに、当時の職場にやってきた短期バイトのお兄さんたちと仲良くなってカラオケに行ったことがあった。
そこで一人がアルマゲドンのテーマをいれた。エアロスミスの。
洋楽! しかもすごく壮大な!
有名ではあるけど滅多にカラオケで歌う人にはお目にかからない選曲かもと思っていたら、それを見透かしたようにお兄さんが言った。
「カラオケなんかすべて自己満でいいんだよ。自分が歌ってて最高ならそれでいい。だから俺はこれを歌う」
私はそのひと言になんだかやたら感銘を受けた。
お兄さんが有言実行とばかりに全力でエアロスミスを歌う姿も眩しく見えた。
流れてきた壮大すぎる音楽のせいかもしれないけど。
そのお兄さんの名前は忘れちゃったし、顔もぼんやりしか思い出せないけど、そのできごとだけはいまも覚えている。
私は音痴だけど人生にはカラオケでなにか歌わなきゃならない場面が何度かあるもので、そのたびにお兄さんの言葉を思い出して自分を奮い立たせてる。
(と書いていて、いまふとお兄さんがなぜわざわざあんなことを言ったかに気づいてしまった。すごく優しいのでは……)
でもお兄さんはきっと、そんな発言忘れていると思う。まして私がいまも大事に抱えてるとは夢にも思ってないだろう。
誰かの言った、言った本人も忘れてるみたいな言葉の数々が、ほかの誰かの心にきらきらと残る。
私にとって人との出会いの良さは、ここに凝縮している気がする。名もなき言葉の収集という点に。
でもたぶん逆のパターンのほうが多いんだろうな。何気ない一言がずっと傷になるみたいな。そういうの私にもある。たくさんある。
むかしはそういう言葉のほうが残ったけど、幸いいまはほどよく流れてくれるようになった気がする。そうして都合よくよい言葉ばかりを取り出す技術が身についてきた。
世の中はいつだってぐちゃぐちゃで嫌なものが多くて疲れちゃうけれど、ひょっこりと心に残る言葉やひとに出会えたりするから、いいなと思う。ほんの一握りだとしても、それがあるだけでこれまで生きててよかったと思うし、これからも生きていけるような気がする。
noteも、たぶんそのための場所かも、と思っている。
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