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実
2023年11月17日 16:09
本物はあまりに綺麗すぎるから、水面に揺れる月で精一杯だった。鏡に反射させた光をつないで、照らす先がわたしであること、なんだか申し訳ない。人工物と人工物との間をぬってあるくと、青い匂いも、ついぞたどれなくなってしまった。生やすことのできない月桂樹の種なんかを持て余している。あるけばあるくほど、ときみが呆れて呟いている間も、わたしはずっと、頭上の枯れ枝にとまる一羽の鳥だった。暗い夜だ。暗さがきみの言葉
2023年11月25日 01:00
香水他人のかおりが手首から漂う。さみしいのがばれてしまったかのよう。日差しの中でいちじく色のカーテンをまとうみたいに、肌は重たい衣をまとう。気をつけないと裾が地面についてしまうから、わたしずっと回っていた。自転をして、そうすればこの生活がずっと続いていくかのように。新しく、重たく、意味を持つのはいつも一瞬だけで、結局はただの砂に帰ってゆく。好きだと思ったあのパチュリの香りも、いまはもう枯れ
2023年11月10日 01:08
僕の表皮は異様に冷えていて、それが良かっただけだろうか。ほてった心を落ち着かせるだけの単なる国語辞典の僕。かわいいって言って、書かれた単語の一つ一つを齧って欲しかった。