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戦略PRは死んだ

※この文章は、感性の赴くままに書いているので、参考文献などありませんし、ファクトやエビデンスの提供を求められても提供できるものはありません。


戦略PRとは

みなさまは「戦略PR」というキーワードをご存知でしょうか?

PR業界や広告業界、マーケティング領域で10年以上仕事をしている方には多少の懐かしさを感じる部分もあるかもしれませんし、ある所では提案資料にも社内資料にも記載され、まだまだ現役のホットワードかもしれません。

このキーワードが世に普及し、空前のバズワードとして持て囃されたのは2009年頃、当時ブルーカレントジャパンで、現・本田事務所の本田哲也さんが、「戦略PR 空気をつくる世論で売る」(アスキー新書)という書籍の中で概念として提唱したことがきっかけでした。

本の中では、豊富なウイスキーのラインナップを有するサントリーが仕掛けたハイボールブームについての解説がなされています。売上が低迷しているウイスキー市場を盛り上げるために、ハイボールという飲み方が流行しているとする世の中の空気感をつくりだし、結果としてウイスキーが復権する社会現象を巻き起こしたという華々しい成功事例が紹介されています。

私もこの本をきっかけにしてPRの仕事を認知し、新卒でPR会社志望したという過去もあり、心に深く刷り込まれたコミュニケーション手法のひとつでした。

戦略PRはあり得るのか?

さて、令和6年を迎えたいま、まずは空気を作り、売りこまずとも売れる状態を作るとする「戦略PR」という打ち手は、まだまだ通用するコミュニケーション手法なのでしょうか。

トライバルメディアハウスの池田さんの新刊「マーケティングつながる思考術」では、戦略PRをマーケティングのひとつの処方薬としてカウントしています。内容を読むと、「空気は高い」として、300万円で空気づくりができるわけもなく、さまざまな施策を盛り込めば3,000万円〜5,000万円は最低でもかかる。と解説しておられます。

この時代に、「空気をつくって、商品が売れるようにしよう!」と、戦略PRを仕掛けようとする企業や組織が現れたら、世の中はどのような反応を取るでしょうか?

「空気づくり」を画策するのが国家レベルだった場合は、かなり高確率で反対勢力が現れます。5,000万どころか数百億円かけて「空気づくり」に取り組む万国博覧会の開催が、物議を醸しています

あるいは、アルミ缶を開けると泡が出てくるビールは、「泡ブーム」を巻き起こして、世の中の空気を形成しているでしょうか?(そもそも戦略PRとして取り組んでないという話はさておき)

ノンアルコール飲料は、そのカテゴリの商品を売るために空気を醸成したのではなく、自動車関連の法規制強化や、就労場所や就労時間が多様化し、「飲み会」自体が減ったことなど、さまざまな要因をもとにしたアルコールそのものへの忌避感と、それでも気分は共有していたいとする期待感から生まれた市場だと思います。

緻密なマーケティング戦略や市場調査をもとに、「空気をつかむ」ことはあっても、「空気をつくる」という作戦は、いまでも通用するものなのでしょうか。

相互監視・ガラス張り社会の限界

また、ネット上のインフルエンサーや週刊誌にこれだけ大きな力がもたらされているということも、「空気づくり」の難しさを助長しています。

ソーシャルメディアの登場で、黙殺されてきたマイノリティの権利が主張されるようになりましたが、その反面ネット上でも私生活でもn=1の違和感や憎悪は昔と比べてはるかに簡単に増幅され、社会の分断を招くことにつながっていることは否定できません。

もし、企業が恣意性を持って消費者をコントロールしようとしている事実が、インフルエンサーの力を借りながら可視化されたら、反対勢力が登場して、空気が壊れる可能性があるでしょう。

ソーシャルメディア上での言論の殴り合いが日常茶飯事に発生するネット社会においては、作為的な空気作りはほぼ不可能であると私は考えます。戦略PRはかつてのような影響力を持ち得なくなっているのです。

生き残るためには

では、現代のマーケティングにおいて、戦略PRの代替として、何が重要になるのでしょうか。消費者の心を動かし、社会の空気を変えるためには、新しいアプローチや革新的な思考が必要です。

現代のマーケティングの基本思想は、単に製品やサービスを宣伝するだけではなく、顧客の生活に深く根ざし、彼らの価値観やニーズに対応するものでなければなりません。

これまで戦略PRが成功してきた背景には、一時的な流行や風潮の創出だけでなく、マスメディアという一点豪華な情報接触フィルターを通して、消費者のライフスタイルや感情に訴えかける要素が含まれていたことが大きいと考えます。しかし、現代では、これらの手法が通用しにくくなっています。

消費者は以前よりも情報に敏感で、企業の意図を簡単に見抜くようになりました。したがって、企業はより透明性の高いコミュニケーションを心がけ、消費者との信頼関係を築くことが重要です。

ソーシャルメディアの本質的な活用

この変化の中で、ソーシャルメディアの本質的な活用は今後ますます重要性を増すように思います。ソーシャルメディアは、消費者とダイレクトにコミュニケーションを取ることを可能にし、企業のメッセージをよりパーソナライズし、関連性のある形で届けることができます。

しかし、これにも落とし穴があります。ソーシャルメディア上での過剰なセルフプロモーションは、逆に消費者からの信頼を失う原因となり得ます。

持続可能なマーケティング戦略

さらに、持続可能なマーケティング戦略の重要性も増しています。消費者は、企業が社会的責任を果たし、人権や環境の保護に貢献することを望んでいます。これは単なるイメージ戦略ではなく、企業が長期的な視点で社会に貢献する姿勢を示すことが求められています。

企業の社会的な意義を見直し、上辺だけでなく本質的な問題解決に取り組む企業姿勢は、よりよい社会をつくるという空気を醸成します。いま、恣意的につくれる空気は、これ一点なのではないかとすら思います。

デッド・オア・アライブ

最終的に、「戦略PR」というコミュニケーション手法の生死は不確実ですが、マーケティングの本質は変わりません。

それは、顧客および社会の心理を理解し、彼らのニーズに応え、信頼を築くこと。価値を創造し、浸透させることです。このことを念頭に置き、私たちは新しい時代のマーケティング戦略を模索し続ける必要があります。

ビジネスの世界は常に変化していますが、その核心にあるのは人間の心とその変化です。企業が成功するためには、常にこれを理解し、適応することが重要です。

私はもう、これからは「戦略PR」という言葉を意図して提案することは無いと思いますが、約10年間、私のPRパーソンとしての人生に寄り添っていただき、大変感謝しております。

……長い間!!!
くそお世話になりました!!!(土下座)

文・ウラタコウジ

※本記事にはアフィリエイトリンクを挿入しています。

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