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【進化心理学】われわれサピエンスは遺伝子が操作する乗り物に過ぎない

総合的な思考基盤を養うことをテーマに、読書した知識を引用・解説していくnote。

本稿では「利己的な遺伝子  (著:リチャード・ドーキンス」より、進化心理学におけるナレッジを紹介していく。

【読んでほしい人】
・新興学問を学びたい
・生物学に興味がある
・人間の行動の源泉を知りたい

本稿の引用書籍

進化心理学の作品の中でもかなり大事な概念が詰まっており、個人的にもとても大好きな1冊。それではみていこう。



#1進化心理学とは


進化心理学は、日本ではまだまだ認知の少ない、比較的歴史の浅い学問となっているが、アメリカではマーケティングなどにも応用されている。

ヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で生物学的適応であると仮定しヒトの心理を研究するアプローチのこと。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

ヒトの心理メカニズムの多くは生物学的適応である、というのはヒトが弱肉強食世界の中で生き残るために有利なように進化してきた名残が、いまも色濃く残っているということである。

━━━たとえば、緊張した時に手汗をかくのは、敵から逃げる時のすべり止めになっただろうし、長期的記憶をもつのは餌の保存や自分の敵が誰なのか覚えておくのに有利だったろう。


私はこの学問はあらゆる基本的概念━━━われわれが常識としている━━━をひっくり返すと思っている。

常識というのはたとえば、ヒトは理性的でそのほか動物とは一線を画す賢い生き物だ、というものだ。

本当に賢いのであればなぜ、だめだとわかっているのに甘いドーナッツを我慢できなくて、なぜこれほどまでに勉強に集中できないのだろう?

それはわれわれサピエンスの脳が何十万年前━━━狩猟採集時代━━━から変わっていなく、現代に適応していないからである。

われわれサピエンスは賢い”スーパーマン”ではなく、ただのコントロールされている物体に過ぎず、その主は遺伝子なのである。

          ***

#2遺伝子が主でわれわれは従?


遺伝子が主、というのはわれわれが何を好み、何を嫌い、どのように決定するかはすべて遺伝子が決めているということ。

個々の利己的な遺伝子の目的はいったい何なのか。遺伝子プール内にさらに数を増やそうとすること。
※遺伝子プールというのは全人類の遺伝子の集合体

―――遺伝子は自らを増殖するために人間や犬猫の身体を一時的にのっとっているのだ。


そして他の個体に相対して有利な行動をとっている種が生き残り、その結果市場には有利な行動をとる遺伝子が多くなる。

遺伝子は、それ単独で「優れたもの」としてではなく、遺伝子プール内の他の遺伝子を背景にして働く際に優れたものとして淘汰に残る。

相対して有利な行動、というのを説明しよう。

たとえば、ある大きな1フロアに150人の人間がいたとする。

そのうち50人がじゃんけんでグーのみを出す、他はそれぞれ50人ずつチョキとパーのみ出すように指示されている。(負けたら即退場のルールだ。)

手あたり次第にじゃんけんをすれば勝ったり負けたりするだろうが、グーのみ出す人は周りをよく観察して相手の手を盗み見することを覚えた。(進化だ!)

するとどうだろう、チョキはグーに狙い撃ちにされるし、パーは相手の手が分からないので勝つこともあるが負けることもある風な偶然に左右される。

そしてグーは負け試合はしないので、相対的に数が増えていく。

さらにルールを追加してみよう。
1時間に1回、各自仲間を1人連れてきてOKとする。(繁殖!)

すると、グーはさらに2倍になり、大方グーが占めることになる。

ここで突如、グー専門で出していた1人がパーも出すことができるように進化した。(見た目からはだれが進化したのか見分けがつかない前提)

するとどうだろう。

今まで勝っていたグーは負けることが増え、数が減少していく。一方パー組は増えてく。チョキはグーに狙い撃ちにされて絶滅したので負けることがないからだ。

すると次は突如、パーを出す個体がチョキを・・

相対的に有利な行動と個体が存続する仕組みのイメージはこれくらいで問題ない。これと似たことがどの生物でも起きている。

社会はこれをさらに複雑にしたものに過ぎない。

異なる個体の遺伝子の利害が多様化していけば、常に、嘘や騙しや、コミュニケーションの利己的な利用が起こるだろうと考えなければならない。

大事なのはこれは各個体(=動物)が好き勝手に選択しているわけではなく、遺伝子レベルで先天的に決まっているということだ。


もちろん一見は、自由に選択しているように見えるだろう。明日の朝ごはんをパンにする人も白飯にする人も、食べない人もいる。確かに”選べている”。

だが、大きな視野で見たときに、ヒトはより長く生存し、繁殖するようにデザインされている。その大前提のもとで選択しているにすぎない。

だから多くの場合、異性の目が気になるし、こってりした食べ物が好物となる。━━━無茶なことをして女の目をひくぞ!

それはたまたまそのような思考・行動をする種が多いのではなく、過去の先祖の時代に、そう行動する方が生存率が高かったのでそれらの遺伝子が現代にも多いのだ。

―――逆に異性の目を気しない種はセックスができず、こってりしたカロリーの高い食べ物を嫌いな種は栄養不足に陥って死んでいった。

個体の死と繁殖の成功がでたらめに起こるのではないため、長いあいだには遺伝子プール内の遺伝子頻度が変わるという結果を招く。

個体のとって最善な戦略(=進化的に安定な戦略(Evolutionarily Stable Strategy))は、個体群の大部分が行っていることによって決まる

          ***

#3海外で流行りのミーム(=meme)なんだ?


#2で遺伝子による先人からの情報引継ぎが多いことは理解されたと思う。最後にちょこっとだけ進化心理学において大事な概念であるミームを紹介する。

ミーム(meme)とは、人類の文化を進化させる遺伝子以外の遺伝情報であり、例えば習慣や技能、物語といった人から人へコピーされる様々な情報を意味する科学用語である

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

人間の生活様式が、遺伝子ではなくむしろ文化によって大幅に決定されていることを示唆している。

異性の目を惹くことや、カロリーの高い食べ物を食べること、ヘビには気を付けることなどが、生き残った先人からの遺産となっている。―――そのおかげで生存率はUPUP

一方で、ヒトが共通して持っている情報のほかに、世界各国で異なる情報を持つものがある、それは文化だ。

旋律や観念、キャッチフレーズ、衣服のファッション、壺の作りかた、あるいはアーチの建造法などはいずれもミームの例である。

遺伝子は死んだらそこで終了だが、ミームは何世代も形に残る。

遺伝子を媒介にして時を渡ってくる遺伝情報VS個体を媒体にして時を渡ってくるミーム━━━


なんともこれは興味深い。遺伝子が指示するのはより長く生きて、子孫を繁栄すること、つきつめればそれだけだ。

一方で各個体が近視眼的に━━━生活をより豊かにするためなど━━━創作したもの、それがミーム(=文化)だ。

遺伝子の本能に従いながら、文化という余暇を楽しむことこそがサピエンスであることの喜びの1つと感じる。

━━━FIN


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