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コマーシャルモデルから見た 医療用医薬品市場が抱える難題

こんにちは。Ubie Pharma Innovationの野上と申します。今回は、製薬業界とは接点があまりないビジネスパーソンの方向けに、医療用医薬品市場が抱える課題について、営業・マーケティングという観点から分析記事を書きました。(私自身、Ubieに入社する前は製薬業界とは縁もゆかりもなかったので、入社して課題の大きさに驚いた記憶があります。)是非とも国内の医療用医薬品市場が抱える課題の難しさと、その課題を解く事の意義深さ・社会的インパクトについて理解を深めて頂く一助となれば幸いです。

日本の医療用医薬品市場と製薬企業の費用構造

我が国の医療用医薬品市場規模(2020年度)は薬価ベースで10兆3475億円(※ IQVIA調べ ミクスOnline 2021/05/24掲載)で、市場規模としては6年連続で10兆円を超えているが、成長率という観点では前年度比で2.7%縮小している。背景にはコロナ禍の受診控えに加え、20年度の薬価改定が影響していると考えられている。

では、費用構造はどのようになっているのか。製薬企業といえば、莫大な研究開発費を投じて薬品を開発しているイメージが強いと思われる。内閣府の資料によると、確かに医療用医薬品業界の研究開発費率が約16%(50.8%×31.4%)と、他業種と比較して⾼いことが分かる。しかし、それ以上に営業・マーケティング費⽤など研究開発費以外の販管費⽐率が約33%(50.8%×64.6%)を占めている点に注目すべきだろう。

内閣府 第27回 社会保障ワーキング・グループ資料3-1 社会保障について(財務省提出資料)を基にUbie作成

薬価改定やコロナ禍による受診控えにより市場規模がマイナス成長を続ける中、製薬企業の大きなコストドライバーである営業・マーケティング費用を司るコマーシャルモデルが抱える課題は何なのだろうか。Ubie Pharma Counsultingでは現役の製薬企業のマーケッター等100名に独自アンケート調査を実施し、課題の背景について分析を実施した。

コロナ禍においても根本的には変化していない製薬企業のコマーシャルモデル

未曾有のパンデミックにより、製薬企業を取り巻く環境は大きく変化している。その中でも特に大きな影響を受けている業務の一つとして、MRによるディテーリングと、それをサポートするマーケティング活動が挙げられる。従来のMR活動では、対面を前提とした訪問数が重要視されてきたが、コロナ禍により病院往訪が難しくなる中、製薬企業各社はMR活動のオンライン化を余儀なくされた。結果として、2020年度の製薬企業におけるコール数(訪問数)は減少し、代替手段としてWeb会議ツールを用いたオンライン・ディテーリングや、オンライン講演会などを織り交ぜた「ハイブリッド型」のMR活動がこの1年で定着すると共に、製薬外資大手を中心に、営業所を廃止する動きも観測され始めた。

マーケティング活動はどうか。Ubieでは、コロナ以前/以後でマーケティング予算の配分変化について、製薬企業の現役マーケターを中心に独自アンケート調査(n=100)を実施した (図1)その結果、MR活動以外のマーケティング活動においても同様の示唆が得られた。医師向け施策においては、リアルな学会での情報提示に対する予算が減少する一方、ウェビナーや医師専用サイトへの予算が増加している。患者向け施策においては、最も多くの予算が割かれていた紙媒体の疾患啓発が減少し、疾患啓発サイトへの予算が増加している事が見て取れる。

(図1 コロナ前後でのマーケティング予算(MR活動以外)の増減傾向、Ubie調べ(2021年7月))

ただし、留意すべきは、あくまでもこれらの変化は「オンライン化」であり、デジタルを活用して、MR活動やマーケティング活動といった製薬企業のコマーシャルモデルを根本的に変化させる類のものではないと考えるのが妥当であろう。製薬企業のコマーシャルモデルはeディテーリング等や講演会等による医師向けの情報配信と、MRによる個別のディテーリングの合わせ技で進めるという状況が20年近く続いている。そして、それはパンデミックという強烈な外圧に晒されてもなお、根本的なあり方・提供価値は変化していない。あくまでも予算の大半はMR活動を中心とした医師向け施策に充てられ、面会方法が物理的な往訪や講演会がリアルからオンラインにシフト、あるいはハイブリッド化していると捉えるのが実態に即しているのではないか。

国内の薬価改定の影響で、国内の医薬品市場の成長が頭打ちになり、MR数自体は減少傾向にある中、コマーシャルモデルの抜本的な見直しは喫緊の課題ながら、ドラスティックに舵取りを変えるような取り組みは観測されていない。この背景には、様々な理由が存在すると考えられるが、既存のコモンプラクティスを上回る手段が市場に存在していなかった事が大きな原因の一つとして挙げられる。

情報が必要な患者さんに、適切なタイミングで情報を届けることの構造的な難しさ

既存の製薬企業のコマーシャルモデルは様々な課題を抱えているが、患者や医師の意思決定のタイミングに直接的にアプローチすることが難しい、という点が本質的な課題であり、製薬業界特有の難しさであろう。しかしながら、医師に対してはMRによる個別のディテーリングやeDTLを介した自社薬剤や疾患認知の向上といったアプローチが一定確立していると言える。

一方、患者向けの施策としては、疾患啓発サイトや紙媒体を通じた疾患啓発を実施しているが、「自分自身がその疾患に関係があると認知していない層」へのアプローチには、構造的な難しさが存在している。本来であれば、医療システムの入口である「自らの症状から受診すべきかを意思決定」するタイミングで正しい疾患の情報が認知される必要がある。しかしながら、多くの場合、患者は医療の専門家ではないため、自分が感じている症状について受診をすべきなのか、或いは、どのような病気との関連があり得るのか、という点について解釈することは難しい。結果、どれだけ疾患啓発のコンテンツを配信したとしても、自分事として捉えていない層に対して効果的なアプローチを行う事が構造的に難しいという課題が存在している(図2)。当然ながら、患者が受診をしなければ、治療は開始されず、薬剤が処方される事もない。

(図2 ペイシェントジャーニー別にみたマーケティング施策のカバー範囲と課題例 Ubie作成)

マーケティング施策におけるROI (費用対効果)計測

より実務的な観点で言えば、マーケティング施策におけるROI(Return On Investment:費用対効果)測定の難しさも、既存のコマーシャルモデルの課題として挙げられる。先述のアンケート調査では、多くのマーケティング担当者が既存の施策のROIに関して、何らかの課題を持っている事が見て取れる。(図3)マーケティング活動の課題について「より費用対効果のある施策が求められるが代案が無い」という回答が4割強を占めたことは、前述の通り、より魅力的なオファリングが認知されていないことの証左とも言える。また、前年踏襲型で予算投下がなされているが、そもそも成果が出ているのかが不透明という回答も4割近い票を集めている。

 何より、約9割の回答者が既存の施策について費用対効果の測定精度向上の必要性を感じている点に注目すべきだろう。この回答結果の背景には、施策と結果(処方)を埋める変数をデジタルに計測する手段が存在しないことが挙げられ、ここに現在のコマーシャルモデルの限界が存在していると考えられる。

(図3 製薬企業におけるマーケティング活動の課題感 Ubie調べ(2021年7月))

医師向け施策という観点では、あくまでもデジタルチャネルはサポート的位置づけであり、最終的には医師とMRのコミュニケーションを通じて、施策と成果の間をつなぐというアプローチ自体は今後も大きくは変化しないと考えられ、製薬企業としては、デジタルチャネルとMR活動とのベストミックスを追求するしていく動きが継続していくだろう。

ROI計測の難しさは、医師向け施策以上に、患者向け施策において顕著である。現在の患者向け施策は、現在の患者向け施策の多くは発信に重きが置かれROI計測自体が難しく、前述の通りそもそも自分が患者であるという自覚がない潜在層にはリーチが難しいという構造的な課題を抱えている。

日本では医療用医薬品の直接的なプロモーションが規制されている為、製薬企業が生活者に対して実施が出来る施策は、薬剤ではなく疾患自体の啓発である。その為、多くの製薬企業が、診療所や病院に掲示・配布するパンフレットやポスターといった紙媒体や、疾患啓発サイトを用意するなどし、発信に重きを置いた疾患啓発活動を展開している。しかしながら、あくまでも疾患啓発である為、そのサイトを見た人がどれだけ受診をして、その結果、どれだけ自社の薬剤処方につながったのか、という成果を結びつける計測自体が構造上難しいという課題が存在する。

実際に、施策別の費用対効果測定状況を調査したところ、デジタル施策として予算配分の増加率が最も高い医師専用サイトを通じた発信において、「費用対効果は測定出来ていない」との回答が16%であるのに対し、同じく予算増加率が高い疾患啓発サイトを通じた疾患啓発においては、40%が「費用対効果は測定出来ていない」と回答している(図4)。

(図4 施策別に見た費用対効果測定状況 Ubie調べ(2021年7月))

本来であれば、顧客や市場から得られる情報をデータ化し、そこから得られる示唆を施策に反映させることで機動的な施策展開が可能になる点こそにデジタルの強みがある訳だが、その強みを活かし切れていないというのが実情であろうと言えよう。

月300万人の「受診をすべきか」という意思決定のタイミングに寄り添うUbieのソリューション

Ubieが提供する症状チェックサービス「ユビーAI受診相談」は2021年12月現在、月間300万人以上に利用されている。

「ユビーAI受診相談」は、生活者の適切な受診行動の支援を目的としており、ユーザーは気になる症状から関連する参考病名と、近隣の医療機関を調べられる。現在はシンガポールでも同様のサービスを展開するなど、その規模を着実に拡大している。

多くの患者にとって、自分の症状から何の疾患かを想像し、疾患情報を検索することは容易でない。そして、症状から無暗に検索を続けるものの、結局自分はどうすればよいのか?という不安な気持ちは拭えないケースが多いのではないか。

Ubieはそのタイミングに寄り添う。検索ではなく相談、すなわち、ペイシェントジャーニーでは見落とされがちな発症から受診に至るタイミングで正しい疾患情報と医療機関の情報を提供することで、すべての人々が適切な医療に案内される世界を実現していく。

従来、適切な治療に出会えて居なかった患者さん、その患者さんにお薬を届けることが出来ていなかった製薬企業、その双方に新たな価値を届けることでUbieは新たな製薬コマーシャルモデルを創造していく。

Ubie Pharma Innovationでは共に働く仲間を募集しております

上述の通り、医療用医薬品市場が抱える課題は非常に複雑で、何十年も決定的な解決策が発明・社会実装されていません。Ubie Pharma Innovationでは、そんな複雑な課題を解決し、人々が適切なタイミングで適切な医療に出会う事が出来る世界を作る仲間を募集しております。
Ubie Pharma Innovationでのキャリアに興味をお持ち頂いた方は、是非以下の採用サイト並びにUbie Pharma Innovationメンバーのnoteをご覧いただけますと幸いです。



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