おなかの底に穴が開く
ばくん、とおなかの底に穴が空く。
——ああ、やばい。
なんとかしようと、息を吸う。とにかく深く、深く吸う。吸い込んだ空気の冷たさを感じはするけれど、うまく呼吸できている気はしなくて、何度も、何度も息を吸う。
大きく息を吐き出して、穴に抵抗できなかったことに嘆く。暗闇はそこにまだあって、わたしを飲み込もうと構えている。……ブラックホールみたいに。
もやもやすることが重なると、穴は開きやすく、広がりやすくなる。このもやもやは、「気にしない」と自分で言い聞かせることしか晴らす方法がなくて、かといって言い聞かせたところで無意味なことも多い。結局、自意識過剰なんだろう。
声は上滑りして、笑顔は嘘くさい。わたしをもうひとりのわたしが見ていて、憐れんだり、嘲笑ったりしている。かっこ悪いなあ。情けないなあ。いつまで経っても、みっともないままで。
そんな風に思う自分すら、まるで芝居をしているみたいに思えて嫌気がさすけれど、嫌気がさすと思っている自分のことも、自分を守っているようで嫌になる。堂々巡りだ。
気になることをいちいち直接聞くことはしない。これも相手のためではなくて、ただの自己防衛なのだろう。不快にさせたくないと思う。不快にさせるかもしれないと思っていること自体が、思い上がっていることなのだけれど。
特に思い当たる原因もなく穴が開くこともあるのだけれど、それも、見て見ぬ振りを決め込めていたはずのもやもやが、急に息を吹き返してきたせいであることも多い。
穴が開く。わたしが落ちるのを待っている。
落ちるわけにいかないわたしは、浅くなった呼吸を繰り返しながら、それでも何とかこの場所にしがみついている。
お読みいただきありがとうございます。サポートいただけました暁には、金銭に直結しない創作・書きたいことを書き続ける励みにさせていただきます。