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女の思考力と可愛げ

「卯岡さん、絶対キャリアウーマンになるんやろな」

中三の冬。すべり止めの私立高受験からの帰り道で、彼は言った。

「えっ、なんで」
「えっ、なんで? バリバリやってく感じやん」

共に試験を受けたメンバーでぞろぞろと歩道のない道の端を歩きながら、彼は不思議そうな顔をした。

わたしは、(いやいや、キャリアウーマンになんてなりたいと思ったこともないんだけど)と思いながら、「そんなことないわあ」と適当に流した。


彼は特にだったのだけれど、中学くらいまでのわたしは、周りに買い被られることが多かったように思う。

ハキハキしている・生活態度がマジメ・生徒会役員をやっているという諸々の条件が、男子生徒から見たわたしのイメージを、「お堅くてとっつきにくそうな人」だと作りあげていたらしい。

その彼とは中三ではじめて同じクラスになったのだけれど、席が近くなったとき、「卯岡さんって、ほんまは話しやすい人やってんな」と言われた。「ほんまは」も何も、わたしはどこでもわたしだったのだけれど。


話すきっかけさえあれば「話しやすい人」にはなれたのだけれど、口が達者で意見を述べれる性格をしているからか、なぜか「俺・俺らとは違う」と見られがちだった。諸々の条件のせいで賢いと思われてしまって、「卯岡さんは俺らとは違うやん」と勝手に線を引かれたりすることもあった。

……実際には生徒会役員だからって賢いわけではないのだけれどね。

女子同士では特に何も感じなかったけれど、男子は「俺より賢そう」だと思った相手(異性)には、ちょっと距離を置くのかなあ、なんて思っていた。

思ったことを意見することは、きっと可愛げがないのだろうと思っていた。親に理詰めで言い返すたびに「可愛げがない」と言われてきたこともあって、わたしは自分のことを今でも可愛げがない女だと思っている。客観的に「あ、これは“可愛いっぽい”言動かもしれない」と思ったら、あえておふざけ方向に走ってしまうところもある。


高校のとき、仲の良かった女の子がいて、その子はとんでもなく可愛くて、モテにモテていた。ただ、同時にとんでもなく成績が優秀だった彼女は、「あたしより頭がいい人がいい」が口癖で、「いや、そんな人ほとんどこの学校におらんやん」と返しながら、そういう価値観もあるのか、と思っていた。

彼女のいう「頭がいい」は、地頭ではなく、偏差値というわかりやすい指標だったみたいだけれど。

「男の方が賢くあってほしい」という願望は、男女ともに多かれ少なかれあるのかもしれない。


女のわたしより知識面や思考面で上に立っていたい、というような思惑がちらほら見え隠れする男性に、大人になったあと何度か出会っている。

もしかしたら、別にそれは「女のわたし」だからじゃなくて、「年下のわたし」かもしれないし、「誰であろうと上にいたい」だけかもしれないけれど。

そういう人が求めているわたしの反応は、素直に驚いたり感心したりして笑う、なのだろう。
わたしの意見なんていらなくて、ただ「すごい」と言ってほしいのだろうなと思う人は多かった。時には、そんな自分がバカっぽいなあと思いながら、気持ちを汲んでヘラヘラしていたこともあったっけ。


noteでは考えていることを書き綴っているけれど、これだって、見る人が見たら、きっと可愛げのないやつだなあと思うのだろう。

別に見知らぬ人に可愛げを振りまきたいわけではないからいいのだけれど、「ものを知らない女子(ここはあえて“女子”)」に「仕方ないなあ」というていでものを教えたい男性って、どういう心境なのかな。

ニュースだってそうだ。アシスタント的な立ち位置に女性アナウンサーがいて、そのアナウンサーに解説する立ち位置に、年上の男性アナウンサーがいることは多い。何でなのだろうなあ。


過去の恋愛で、ことごとく「女の子」として見てもらえなかったために、「可愛げさえあれば違ったのか……?」と悩んだ。

勝気でものを対等に言える子より、「えー、そうなのー?」と言える子の方が、わたしから見ても可愛く思えたし。

ちなみに、好きになる手前で終わった想いではあるのだけれど、冒頭の彼のことは、ぼんやりといい感じの人だなあと思っていたことがあった。でも、もし好きになってしまったとして、うまくはいかなかっただろうなあ。

どうやら、卯岡さんは賢い=キャリアウーマンになりそう=ひとりで生きていける女性、って思っていたようなのだ。


実際にはわたしは賢くなかったし、専業主婦志向だったし、ひとりで生きていけないメンタル弱めなので、彼の見立てはすべて外れていたのだけれど。


そんなことを振り返りながら、でも、結局わたしはものを考えて言語化することをやめられなかったんだよなあ、と思っている。



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