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見て聴いて嗅いで触れて、育む
行きたい場所が、またひとつ増えた。
◇
「周りのお母さんは、“夏休み嫌だ〜”とか“やっと夏休み終わる〜!”って言うんやけど、お母さんそんなこと思ったことないんよね」
わたしが小六くらいだったろうか。夏休みが終わるころに母が言った。
「お母さん、“もう夏休み終わっちゃうわあ”って思うんよねえ。始まるときは、“今年は何しよう”って楽しみなんよ」
当時、母は専業主婦。介護ヘルパーの資格を取りに自転車で奔走していたり、ボランティア活動をしていたり、PTA本部役員を務めたりしていた。
夏休みは、市のイベントに行ったり、地元の祭りに行ったり。父が貯めたお金で近場に旅行に行ったり、日帰りで和歌山に海水浴に行ったり、そんな過ごし方をしていた。
姉妹ふたりでただ遊ぶことも多かったし、エレクトーンのアンサンブルコンクールを翌月に控えていたから、鬼のような練習にも通っていた。だから母と過ごしてばかりではなかったのだけれど、だからこそ母は娘と過ごす時間に何をしようかと考えてくれていたのかもしれない。
◇
体験の場を与えたいと思う。親がしてあげられることなんて高が知れているのだから、何かを見て聴いて嗅いで触れる機会を、せめてあげたいなあと思う。
父や母が「どこかに連れて行きたい」と願って動いてくれたのも同じ動機で、ああ、親子なんだなあなんて思っている。
子どもの一年は大きい。大人も同じ時間を過ごしているのだけれど、子どもの一年はやっぱり貴重だと思う。一ヶ月が長かったあの頃には、わたしはもう戻れないから。
夏休みに出かける予定がすでにあちこち入っているから、新たに浮上した行きたい場所に連れていけるのは来年かなあ。おすすめは夏らしいから、やっぱり夏に連れて行きたい。
わたしは「夏休みだあ〜」と嘆いてしまう母でもあるけれど、夏休みだからできることをしたいなあとも思う。
子どもの今が今しかないように、今の子どもと過ごせるわたしの時間も、今このときしかない。なかなか大切に過ごせないけれど、ひとつでもたくさん楽しみたいなあ。
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