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詩ことばの森⑩「航海日記」

わたしは、日記を書く習慣はないのですが、あこがれはあります。「断腸亭日乗」や「高見順日記」といった日記文学の世界に心ひかれます。日記を続けて書くことは、子どもの頃から苦手なのですが、おかしなことに日記帳を買うのは好きです。最初のページをひらいて、何も書いていない真っ白な紙面を見ていると、今もなぜか心ときめく気分になります。未来の日記帳を前に、幻の海図を探る少年の冒険心のような感じでしょうか。遠い海を眺めている時の自由な気持ちにも似ている気がします。

航海日記     
 
未来の日記帳を目の前にして
言葉を記し 言葉は引きつがれ
心を残して 心は育まれていく
だが 夜に筆を走らせた日記は
覚めきらぬ朝の薄い光に
文字を虚しく浮かばせている
 
明日を思いわずらうことなく
オールのグリップを握り船出する
人生の海原で 僕はひとりぼっちだ
水面にひかれた船跡ばかりが
形状を崩しながら漂っている
 
水底に沈んでいった 難破船のなかに
宝の箱が眠っている夢物語
少年が憧れた 
まばゆい言葉の一つひとつが 
僕の背中を 押し進めるのかもしれない
帆船を走らせる 風の力のように
 
飛翔しつづける渡り鳥の群
まだ見ぬ島々の幻影
汽笛を鳴らし 灯火をかかげては
無限の海洋ですれ違う 
見知らぬ船との出会い
いつか紙面が尽きるときまで
波は罫線となって 繰り返し寄せてくる
 
 
 
 
 
 

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