排熱さえあれば、どこでも発電できる!!常識外れの発電能力により新市場を開拓する、フレキシブルな熱電発電モジュールとは - Startup Interview #006 株式会社Eサーモジェンテック
工場や発電所などからは、日々大量の熱が排出されています。大気中に放出され、ムダになってしまう排熱。この排熱を何とか再利用できないか考えるなかで人々がたどりついたのが、「熱電発電」でした。
熱電発電は、「熱電素子」と呼ばれる半導体を用いて、排熱と周囲との温度差を利用して電気を起こす方法です。蒸気でタービンを回すといった従来の発電方法と違い、熱エネルギーを直接電力エネルギーに変換できることから、排熱を有効利用できる方法として、これまでも多くの企業や大学が熱電発電の開発に取り組んできました。しかしこれまで、発電効率やコストの点で満足できる結果が得られませんでした。
このようななか、この熱電発電の分野に挑みはじめた企業があります。それが、Eサーモジェンテックです。
Eサーモジェンテックが狙いを定めたのは、全排熱の75%を占めると言われる低温排熱。排熱源であるパイプに密着できるフレキシブルな熱電発電モジュールを開発し、世界ではじめて実用化可能なコスト性能比を得ることに成功しました。
そんなEサーモジェンテックを創設したのは、自らを「携帯電話の父」と称する元パナソニックの凄腕技術者、南部修太郎(なんぶ しゅうたろう)氏。パナソニックで数々の成果を上げた彼は、なぜ起業の道を選んだのでしょうか。また、Eサーモジェンテックはどのような未来を目指しているのでしょうか。投資を担当したリアルテックファンドの室賀文治(むろが ふみはる)を交えて、熱く語っていただきました。
はい上がり、アイデアの実現に向けてひた走る
—最初に、南部代表がEサーモジェンテックを創業された経緯を教えてください。
南部 私は元々パナソニックで、30年以上にわたり半導体や液晶の研究開発とその事業化を担当してきました。実はその過程で、世界初となる商品の事業化にも何度か成功しています。特に大きな成果として、携帯電話にガリウムヒ素(GaAs)半導体を導入し、はじめて携帯電話を現在のように小さくすることに成功しました。それで誰も言ってくれないので「携帯電話の父」と自称しています。
その開発の苦労話は、拙著『ベンチャー経営心得帳』(2008年、アセット・ウィッツ社刊)に書いていますので、ぜひお読みください。
そのうち「今のままではパナソニックに代表される日本の大企業、ひいては我国の産業全体がダメになってしまうのではないか」と思うような様々なことを経験しました。それがきっかけで、次第に日本の新事業開発のあり方に問題意識を抱くようになりました。
その後、アメリカで、あるベンチャーキャピタリストと出会い、アメリカと日本の違いをひどく痛感することがありました。その方は、リスクを取って新しい事業をつくることに精力を注がれ大きな実績をお持ちの方で多くの方から非常に尊敬されていました。それで、アメリカと日本では「技術やリスクへの挑戦に対する尊敬度」に雲底の差があることを痛感しました。と同時に「今後、この人のような生き方を目指そう!」と強く思いました。
この一連の出来事がきっかけで「日本を、技術者が生き生きとリスクに挑戦できる社会にしたい」と考え、56歳でパナソニックを退職し、アセット・ウィッツという個人事業会社を設立し、残りの人生は、日本にもアメリカのような素晴らしい技術ベンチャーを輩出する仕組みをつくることに貢献したいと考えました。
—定年間近での退職は、大きなご決断だったと思います。その後、どのようにしてEサーモジェンテックの設立にいたったのでしょうか?
南部 アセット・ウィッツを創業した当初は、ベンチャーを支援するさまざまなアプローチを試したのですが、なかなか思い通りにはいきませんでした。そうするうちに「自分で技術ベンチャーを創業する方が面白いかな?」と思いはじめたのです。
そんな思いを抱いていた2006年に、ある焼却炉メーカーから熱電発電に関する技術調査の依頼がありました。これが私と熱電発電との出会いです。それまで熱電発電の原理は知っていましたが、研究開発や実用化状況については何も知りませんでした。
調査を進めるうち、当時の熱電研究の多くが実用化からはかけ離れていることに気づきました。当時は熱電素子の材料に着目した研究が中心だったのですが、実用化するには、むしろ素子を組み込むモジュールの構造や、温度差のつけ方などを工夫することが大切なのではと思ったのです。また、排熱の75%が300℃以下の低温排熱なのに、ほとんどの熱電発電の研究開発が600℃~800℃の高温排熱を対象としていたことにも大きな疑問を抱きました。
また当時、半導体業界では薄くて曲がるフレキシブルなモジュールが量産されていることを知っていましたので「フレキシブルな熱電発電モジュールをつくり、低温排熱源であるパイプに巻き付ければ、排熱を高効率で発電に利用できるのではないか」と考えました。しかし、当時の研究開発のトレンドから外れていたためか、残念ながら全くそのメーカの方々からは相手にされませんでした。
—それは・・・、残念ですね。
南部 大変残念に思いましたが、しかし、アイデアそのものは本当に面白く時流に合っていると確信していたので、そのアイデアを形として残しておくために、自費で特許として出願しました。
そしてその1年後、タイミングよくNEDOで「研究開発技術シーズ育成調査事業」の公募があり、そのアイデアで応募したところ、幸いにもに採択されました。「このアイデアを埋もれさせてはいけない」という、神様のお導きだったのではと思っています(笑)。そしてこれをきっかけに「フレキシブルな熱電発電モジュール」の開発事業化に向けて動き出しました。
当時パワー半導体用の高温接合技術を研究していた菅沼克昭教授(大阪大学)と知り合ったのは、その頃です。教授との共同研究によって、熱電材料を基板上に高速・高密度で実装できるようになりました。私たちのアイデアに興味を持っていただいた菅沼教授には、大いに感謝しています。
その後2013年に、無事出願していた特許が成立したので、Eサーモジェンテックを創業しました。リスクはありますが、競走優位性が確保でき事業化できると確信したので、自信を持って勝負をかけたのです。
—リアルテックファンドとの出会いはいつだったのでしょうか?
南部 NEDOの「シード期の研究開発型ベンチャーに対する事業化支援(STS事業)」を知ったことがきっかけです。
これはNEDOが認定した民間のベンチャーキャピタル(VC)が投資した会社にNEDOが助成金を提供してくれる制度で、ベンチャーにとっては非常に効率がいい資金調達方法です。そのため私は、いくつかの認定VCに相談をすることにしました。その1社が、リアルテックファンドでした。
リアルテックファンドの創設者が藻類ベンチャーのユーグレナであると知り、「技術ベンチャーとして成功したユーグレナなら、研究開発のリスクに対する理解があるだろう」と期待して連絡を取ったのです。
室賀 南部さんからはじめてメールをいただいたのは、2015年の7月ですね。STSの初回エントリーがちょうど終わってしまったタイミングでしたが、非常に面白く有望な技術だったので、次回の公募に向けてお会いすることなりました。
当時、たくさんのベンチャー企業からSTS事業の相談を受けていましたが、なかでも南部さんの熱量は飛び抜けていました。お話をするうち、私は南部さんのご経歴にも感銘を受けました。私たちがVCとして技術ベンチャーの支援活動をはじめるずっと前から、日本の課題を解決するため、自力で泥だらけになって取り組んでこられた。本当に大変な苦労があったと思います。
また、技術ベンチャーの経営者はアカデミア出身の方が多いのですが、南部さんは最大手のメーカーで実際のものづくりに長年関わってこられた方です。研究開発から事業化にいたるハードルも理解されています。これも出資を決めた大きなポイントでした。その後、STS事業に一発で採択されていることも、南部さんの経歴と知見の価値を証明していると思います。
圧倒的な発電効率を誇る、独自のフレキシブル熱電発電モジュール
—先ほど、Eサーモジェンテックは世の中の研究開発トレンドとは違ったアプローチで成功を勝ち取ったと伺いました。こちらに関して、もう少しくわしく教えてください。
南部 先程も述べたように、排熱を発電に利用したいというニーズは昔からたくさんあったのですが、従来の研究開発は発電材料が中心で、発電モジュール構造に関してはあまり検討が進んでいませんでした。しかし私の考えでは、熱電発電を実用化する上で重要なのは、材料ばかりではなくモジュール構造もです。そこに着目したのが、私たちEサーモジェンテックの出発点です。
従来の熱電発電モジュールは、セラミック基板を使った肉厚で硬いものでしたので、世の中に広く存在するパイプ状の排熱源にはそのままでは密着できません。そのため熱回収効率が悪くなってしまいます。モジュールの製造コストに対して、得られる電力が少なくコスト性能比が悪く実用化は難しいとされてきました。
対して私たちの熱電発電モジュール「フレキーナ🄬」は、極薄フレキシブル基板の上に電子冷却用として実用化実績のあるBiTe(ビスマステルル)系の熱電素子を高速高密度に実装した構造です。1つ1つの素子が非常に小さいため、素子がない部分の基板が少しずつ曲がることで、基板全体がフレキシブルに動きます。また低コストで製造できますし、パイプなどに密着できるため排熱を効率よく回収できます。つまり、従来品にないコスト性能比が実現できるため、実用化が可能な発電モジュールなのです。
また、私たちは効率的な温度差のつけ方に関しても独自のノウハウを蓄積しつつあります。こういった特許にできない「ブラックボックス化したノウハウ」も、将来ほかの企業と戦う上でも非常に重要だと考えています。
災害に強い分散型電源システムの構築が目標
—現在、会社はどのようなフェーズなのでしょうか?
南部 カーボンニュートラルが叫ばれはじめたことで、私たちへの期待は非常に高まっていると感じています。
現在、毎月10件ほど新しいお問い合わせをいただいており、累計の問い合わせ数は400社を超えました。大企業との共同開発プロジェクトも複数進行中です。社員数も、創業時の3人から30人にまで増えました。来年度以降は、製品販売の売上も増えると見込んでいます。熱電発電の分野ではフロントランナーだと自負しています。
室賀 Eサーモジェンテックには、大企業から「一緒に課題を解決してほしい」という相談が本当にたくさん来るんですよ。うちの投資先のなかでも桁違いに多いと思います。まさに、オープンイノベーションを絵に描いたような企業なんです。
そしてさらに特徴的なのが、資金の調達先です。普通のベンチャー企業はVCから資金調達することが多いのですが、Eサーモジェンテックの場合は、共同開発先の大企業がほとんどの資金を出しているんです。「ベンチャーと共同開発はするが資本政策はVCに任せる」といった大企業が多いなか、このような事例は本当にめずらしい。Eサーモジェンテックの製品に対する期待値の高さが見て取れます。
—今後はどのような分野に製品を提供する予定ですか?
南部 今のところ、「IoT」「省エネ」「電子冷却」「ウェアラブルデバイス」の4つの分野を考えています。なかでも、メインは「IoT」と「省エネ」ですね。
「IoT」は一時期騒がれていましたが、実はまだあまり普及が進んでいません。最近ようやく、電池式のIoT機器が少しずつ増えてきました。しかし大きな工場のIoT化には、何千、何万ものセンサーが必要になります。それだけの数のセンサーの電池を定期的に交換する手間と労力は、非常に大きなコスト負担になります。
そこで私たちは、「フレキーナ🄬」を搭載したIoT用の自立電源を商品化しました。この自立電源は「フレキーナ🄬」と電源回路、放熱フィンなどから構成されており、パイプ状排熱源にかんたんに装着できます。排熱で自立発電できるので、電池交換はもちろん不要です。私はこの製品が、IoT普及の起爆剤になると確信しています。現在サンプル販売を開始しており、すでに200社以上から問い合わせをいただいています。
—排熱から生み出した電力でIoT機器が動作する。非常にサステナブルな仕組みですね! 他の分野についても教えてください。
南部 「省エネ」は、排熱を電力に変えること自体を目的とした分野です。マーケットは非常に大きいのですが、IoTと比べて桁違いに大きな電力(kWクラス)が求められるので、技術的にはより高いコスト性能比が求められます。技術開発を進めて、最終的にはMWクラスの発電を目指すつもりです。「省エネ」用の自立電源も来年~再来年にかけて、本格的に立ち上げていきたいと考えています。
また「電子冷却」や「ウェアラブルデバイス」の分野に関しても、いくつかの企業と、具体的な活動を進めているところです。
—将来的には、どのような社会を実現したいと思っておられますか?
南部 「フレキーナ🄬」を使った自立電源は、排熱さえあればどこでも発電できます。私たちの理想は、この自立電源を様々な場所に設置し、工場毎、地域毎の熱電発電ユニットとして、分散型の電源システムの構築に貢献することです。大規模な地震などが起こっても電力供給が可能な、災害に強い持続可能な社会をつくるには、このような取り組みが非常に重要だと考えています。
もちろん、これは私たちだけでは実現できません。パートナー企業や大学などとチームを組んでプロジェクトを進める予定です。
リスクに挑戦することで称賛される社会を目指して
—南部さんが会社を経営する上で、意識されていることはありますか?
南部 私は元パナソニックなので、やっぱり松下幸之助さんが大好きです。会社を経営する上でも、幸之助さんの「人を大切にする」「リスクを取って挑戦する」といった考えを大事にしています。
技術ベンチャーの仕事は、世界にないものをつくることです。すんなりいくことはほとんどありません。もう本当に並大抵の苦労ではない。これまでも当然、失敗続きでした。しかし失敗を恐れてリスクを取らない選択をしていても、何もはじまりません。重要なのは、「失敗を真摯に受け止めて、どうすればクリアできるか検討すること」なのです。まさに「七転び八起き」ですね。「何としてもこの技術・製品を世に出したい!」という強い思いを持って、成功するまで何度も挑戦する。そしてはじめて画期的なものができるのだと思います。
—目標に向かって粘り強く取り組むことが大切なのですね。採用面では、どのような職種の人材を求めておられますか?
南部 これまでの採用はエンジニアが中心でしたが、会社の規模も大きくなってきましたので、これからは営業や事務など、さまざまな職種の採用を進めていこうと思っています。
もっとも私は、新しい技術を売るには技術の知識が必要だと考えています。技術が分かってはじめて、お客さまの要望に沿った提案ができるのだと思います。
そのため弊社の技術メンバーには、日ごろから営業能力をみがくことを要望しています。技術と営業の両方に関わりたい方にとっては、理想的な環境だと思います。
—入社を検討している人に対して、特にアピールしたいことはありますか?
南部 私たちは熱電発電に関する世界のフロントランナーだと思っています。言い換えれば、弊社で技術の腕をみがけば、すぐに世界の第一線に立てるということです。世界の最先端で戦うことにより、たくましさや粘り強さもおのずと身につきます。
室賀 まだまだありますよ!先ほどもお話したように、Eサーモジェンテックの大きな特徴は大企業との共同開発が多い点です。なので、入社後すぐに大企業とのプロジェクトを担当できると思います。さまざまな企業とともに、アイデアを形にしていく。これは、非常にエキサイティングでやりがいのある仕事だと思いますね。
南部 そうですね。大企業とのプロジェクトを円滑に進めるには、「口先よりも行動すること」や「コミュニケーション能力の高さ」も非常に大切です。これらの能力を持っている方には、ぜひうちで活躍してもらいたいですね。
—最後に、Eサーモジェンテックに興味を持った方々に一言メッセージをお願いします。
南部 今の日本には「金儲けしたから偉い」という価値観があるように思います。しかしこれが日本の技術力・産業力が低迷しているひとつの原因だと思います。リスクに挑戦して、時間をかけて苦労し新しい事業をつくることに対して、多くの日本人は非常に冷ややかなのではないでしょうか。
対してアメリカは、新しい技術への挑戦やリスクテイクする行為に対する尊敬度が非常に高い。新しく画期的なことに挑戦して失敗しても、その失敗の仕方が納得できるなら拍手でたたえ、成功すればそれこそ、みんなが立ち上がってスタンディングオベーションです。私は日本でも、このようなカルチャーをつくる必要があると思っています。
Eサーモジェンテックは、リスクを取って挑戦することの素晴らしさを結果で示していきたいと考えています。私たちと一緒に日本を元気にしたいと思われる方は、ぜひ当社の門を叩いてください。待っています。
株式会社Eサーモジェンテックでは現在、熱電発電モジュールの研究開発業務に携わる研究開発職の方を募集しています。
詳しくは以下をご覧ください。
(リクルートページURL:https://e-thermo.securesite.jp/recruit.html)
構成(インタビュー):太田真琴