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ニューヨークで"事件"に巻き込まれた話 #081

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遭遇しました。Incident(事件)に。日本ではそんな経験なかったのに。

それは、ある平日の午前11時。マンハッタンにある学校に向かうため、地下鉄に乗った時のこと。飛び乗った車両には私以外に2人しか乗っておらず、かなり空いていました。私は特に何も考えずに車両で一番端の座席に座り、イヤホンで音楽を聴いていました。

同じ駅から6~7人組の若者も乗ってきました。彼らは私から一番離れたドアから乗ってきましたが、私を見つけるやいなや不敵な笑みを浮かべながらこちらに向かってきました。

そして、私を取り囲んだと思ったら、その中の一人が私に向かって何やら話しかけてきました。最初はイヤホンをしていてよく聞こえなかったので、そのまま無視をしていたのですが、しつこく話しかけてきていたのでイヤホンを外しました。

どうやら彼は「Where are you from?」と聞いていたようです。住んでる場所を答えればいいのか、出身国を答えればいいのかはわかりませんでしたが、その時は「From Japan」と答えました。

すると、「Money, money」と言いながら、私の隣に座ってきました。「あぁこれはお金を奪おうとしているのか」とその時になってようやく気付きました。「危害を加えられるよりは、お金を渡してしまった方がいい」という対策がふと頭に浮かんできていました。

しかし、その時の私はなぜかスッと立ち上がって彼らの包囲をどうにかかき分けて逃げていました。今思い返すと、私の本能が「逃げろ」と言って行動していたのだと思います。

たまたま乗務員のいる車両だったので、乗務員のいる方に逃げました。そのまま乗務員室を抜けて、隣の車両に逃げてなんとか身の安全は確保できました。その後の彼らの行方は知りません。

次の駅で同じ車両に乗っていた乗客の2人がこちらの車両に移動してきて、「大丈夫だったか?」と気にかけてくれ、握手をするなんていう一幕もありました。ただ、その後も心拍数はずっと高いままで、一日中手の震えが止まらず、頭が真っ白で何も考えられない状態でした。


その後の私が取った対応

・在ニューヨーク日本国総領事館にメール

一晩経って心が少し落ち着いてきたものの、どうすればいいのかわからなかったので、とりあえず在ニューヨーク日本国総領事館に「上記の出来事があり、どうすればいいのか」という質問のメールを送りました。なぜなら、在留届を提出してから総領事館からニュースが届いていて親近感があったから&日本語で連絡ができるからです。

在ニューヨーク日本国総領事館
https://www.ny.us.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html
email: ryoji@ny.mofa.go.jp

・MTA Police(地下鉄警察)とNYPD(ニューヨーク市警察)にメール

翌日、総領事館から丁寧な返事があり、MTA Police(地下鉄警察)とNYPD(ニューヨーク市警察)に一報することを勧められました。そのため、総領事館に報告した事件の詳細を英訳してメールを送りました。以下からメールで通報ができます。

【ニューヨーク市警察(NYPD)WEBサイト:管轄検索】
https://www1.nyc.gov/site/nypd/bureaus/patrol/find-your-precinct.page
【MTA警察(MTA Police)WEBサイト】
https://new.mta.info/agency/mta-police

すると数日後、ニューヨーク市警察から電話がかかってきました。要件は、報告した内容の再確認と、被害届を出すかどうかでした。私は、「怪我をしたり何かを取られたりといった被害はないし、彼らの特徴を覚えていないけど大丈夫か?」と確認したら、「それでも大丈夫」と言われたので、被害届を出すことにしました。

・被害届の提出

後日、電話で指定された警察署に向かい、被害届を提出しました。とはいっても、メールや電話で事件の詳細はすでに伝えてあったので、この場であらためて質問をされることはありませんでした。身分証明書として「パスポート」を見せて、現在の住所・携帯番号を伝えただけで、他には特別な手続きはありませんでした。

以上が事件に関する全体像です。


事件に備えるには

こうした一件があったので、では今後どうすればいいのかを考えました。

・危険そうな場所、時間帯を避ける

事件は昼間の電車内という、あまり事件に遭遇しそうにない条件で発生しました。とはいえ、自分にできることは事件の発生確率の高い条件に身を置かないことです。たとえば、地下鉄ならば乗務員のいる車両に常に乗る、日没後には出歩かない、治安の悪いとされる場所には近づかない、できるだけ一人で行動しない、などです。

・見た目を工夫する

危害を加える人間も相手を選んでいます。私が聞いたアドバイスは、人種が特定されにくいようにできるだけ肌が隠れる服装(帽子、フード、サングラス、マスク、長袖など)をする、電話をしているフリをする、旅行者っぽい行動(記念写真を取る、荷物をたくさん抱えるなど)をしない、などです。

「なんでこっちがそこまでしないといけないのか」と悲しくなりますが、犯罪に巻き込まれないためには必要なのかもしれません。

・Pepper Spray(催涙スプレー)

以上の対策をしていても、事件に遭遇する時は遭遇するでしょう。そんな時のための最終手段として、Pepper Spray(催涙スプレー)を購入しました。今はポケットに忍ばせて、外出中は常に握りしめています。

ちなみに、NY州ではオンラインでの購入はできず、実際に薬局などの店舗に行かないと買えないという法律があるようです。しかし、隣のニュージャージー州ではオンラインでも購入できることがわかったので、ニュージャージー州に住む友人宅にAmazonで購入したものを届けてもらい、後日学校で受け取るという方法で無事に入手しました。

・犯人の特徴を覚える

万が一被害にあってしまった場合、その事件についての詳細を報告する必要が出てきます。被害にあった時間や場所、事件の詳細、犯人の特徴などを伝えられるようにしましょう。犯人の特徴は覚えていないことに今回気づいたので、日頃から周囲の人の服装などの特徴を気にするのも良いかもしれませんね。


マイクロアグレッション

事件があった当時は、「被害はなかった」と思って忘れようとしていたのですが、この動画を見て考えが変わりました(3:04頃から)。

この動画では初対面で「Where are you from?」と聞くのは、マイクロアグレッションに該当すると紹介されています。他にも、私の経験では街中で突然「Hi, China!」と言われたりすることもあります。

これらの言葉は「お前はアメリカ人ではないのだから、ここにいるはずの人間じゃない」という価値観が透けて見えます。私の見た目が「日本人(または東アジア人)」であることだけを理由に、ある種の偏見・攻撃にさらされていると言えるかもしれません。直接的な被害はないにせよ、ボディーブローのようにジワジワ効いてくるところがマイクロアグレッションの嫌な点です。

ニューヨークという比較的多種多様なバックグラウンドがあることが当然な地域でさえ時々マイクロアグレッションを経験するのですから、多くの人が似たような経験しているのは想像に難くありません。


トラウマ?と向き合う日々

実は事件から1ヶ月ほど経ったのですが、未だに外出する時はドキドキします。本能が「外は危ないぞ」と私に語りかけてきているようです。まだ体や本能のレベルでは恐怖を感じても、頭や理性で事件を克服するべく工夫をしています。「怖かったね。良く逃げたね。あなたには何も落ち度はないからね。」と自分を労うこともしています。

また、心理学的対応として「リフレーミング」をしています。被害がなくて良かった。被害にあった時の連絡先がわかった。おかげで学校の友人も増えた。催涙スプレーを買う対策もできた。noteに書くネタができた。など、今回の事件を解釈し直すことで、トラウマを避けるということをしています。

仏教では「二の矢に撃たれるな」という教えがあります。「一の矢」は事件そのものです。生きていれば自分の身に不幸が襲ってくること自体はどうしても避けられません。一方、自分の思考を意味する「二の矢」は自分自身でコントロールが可能とされています。何か嫌なことに遭遇した後に、その出来事を反芻することで自分に追い打ちをかけない方が良いという教えです。


まとめ

あれから事件のことを学校のクラスメートなどと話す機会があるのですが、怖い思いを経験した人が少なくないということがわかりました。一方、他の地域に住む人と話すと「そんな経験は長年住んでるけど一度もない」と言っていました。きっと、住む場所、その人が「強そうに見えるか」などの見た目、その時の運などで危険な目に遭ったり遭わなかったりするのでしょう。

ただ、今回の事件をきっかけに、特定の人種を憎んだり、アメリカを嫌いになったりしないようにしたいです。私がここで憎しみを抱き続けて、また誰かにそれをぶつけてしまうと、憎しみの連鎖が止まりません。「私でこの憎しみの連鎖を終わりにする。それこそが世界平和への一歩なのだ」などと壮大な話に繋がったり繋がらなかったり。というわけで、noteに記事を書いたことで今回の事件は一区切り。今後は引きずらないようにしていきたいです。

この記事がニューヨークで生活するあなたの安全に少しでも貢献できれば幸いです。誰か治安のいいオススメの場所をご存知でしたら、ぜひ教えてください(切実)。

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