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パーソンズ美術大学留学記 Week5 #070

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毎日学んだことをメモしているツイートを引用しながら、2021年9月27日~10月1日(Week5)を振り返ってみます。

これまではこちら↓


Design-Led Research(Semi-Structured Interview編)

今週のテーマは「Semi-Structured Interview」。半構造化されたインタビューとでも言いましょうか。先週に引き続き、デザインリサーチのプロセスの中の序盤にあたる、情報収集のためのデザインツールを学びました。

手順としては、まず「Project Object(自分たちの活動の目的)」を設定します。次に、Project Objectを実現するための「Learning Aims(知りたい/知るべきこと)」も設定します。デザインリサーチにおいて、解決策を考えるのはまだまだ先の話で、現状をどれだけ深く理解できるかに注力します。

ここまでの「Semi-Structure Interview」の下準備が済んだら、どのような質問をすれば「Learnig Aims」に叶う回答を引き出せるのかを考えていきます。ここでは、知りたいことを相手に直接聞くような質問は用意しません。何気ない日常会話を装って、いつの間にか相手の価値観に迫るという方法を取ります。

そして、実際にインタビューをする時についてですが、一番の注意点は「機械的に質問をしないようにする」ということです。いわゆる「アンケート」とは違います。作成した質問リストを読み上げていって、箇条書きのQAを手に入れることが目的ではありません。インタビューで得られたデータを統計的な処理をしたいわけでもありません。

相手の答えから気になる部分や、自分が想定していた質問に関係する部分を抜き出して、自然な会話を続けることを優先します。この事前準備した質問事項に囚われない方法が「Semi-Structure Interview」の真髄です。友達と話しているような気になってインタビューであることを忘れるような対話をすることが、その人の深層心理や価値観を理解するために繋がります

他にも「こちらの解釈を言わない」「インタビュアーから自己紹介をする」「プライベートな質問は仲良くなってから」「クローズドクエスチョンよりオープンクエスチョン」など、細かなコツ(Tips&Tricks)はあるようです。ただ、そんなテクニック論よりも、「相手のことを知りたい」という好奇心が大切な気がします。

来週からは、こうして集めた情報をいかに整理していくか(Sensemaking)について学んでいく予定です。


ノンネイティブ&内向的でも、英語で発言できますか?

授業内でのディスカッションに参加する時に直面している3つの壁があります。1つ目は、内向的であること。2つ目は、英語のノンネイティブであること。3つ目は、デザイン初心者であること。

英語やデザインについては知識や経験で慣れていくと思いますが、内向的なのは気質の話なので違う対処法が必要な気がしています。内向的である人が英語でディスカッションに参加するために必要なことについて、ノンネイティブ向けの英語の授業で気づいたことがありました。

英語の授業で、アメリカと出身国の違いの話になった時の話です。台湾の方が「授業の形式が違う。台湾では先生が一方的に教えるのを聞く講義スタイル(日本と同じ)だが、アメリカでは生徒も発言することが求められる。だから、私は内向的だけど、発言するようにしている」と言っていました。

これを聞いてクラス中が驚きました。先生も含めたみんなが、その人は話すのが好きな人だと思っていたからです。しかし、実際には意識して発言するようにしていたのです。このエピソードは「『参加するぞ』と覚悟すれば英語でディスカッションに参加できる」と私に勇気を与えてくれました。

幸運にも、参加している授業のほとんどが「心理的安全性」が高いコミュニティである気がしています。英語が拙くても、何を言っても受け止めてくれるという安心感があります。私に足りないのは英語力じゃなくて、一歩踏み出す勇気なのかもしれない、そう思わせてくれました。


Wicked Problem(厄介な問題)

デザイナーの心得で印象的だった話を書き留めておきます。キーワードは「Wicked Problem(厄介な問題)」。科学技術が社会を豊かにしたというけれど、世界は本当に良くなったのか?方程式やシミュレーションをすれば最適解が分かることだけが世界が直面する問題ではないよね?という話題です。

社会問題の解決のために「原因」を見つけようとすると、どこまでもたどれてしまいます。たとえば、「銃の問題」を考えてみるとなった時、銃の所有が認められているという法律が問題か、銃の安全装置などの技術的な問題か、銃が必要と思わせるような社会情勢の問題か、銃を使う人のリテラシーが不十分という教育の問題かなど、「銃の問題」と一言でいっても、様々な「原因」があります。解決策の話になっても、「だから、銃を禁止すべき」という人もいれば、「だから、各々が銃を持とう」という人もいます。

そんな社会問題に対してどんなデザインや解決策を思いついても、全員を満足させることは不可能というわけです。たとえば、高速道路を作ることは、交通の便が良くなって国民全体に良いことに思える一方で、高速道路を使わない人にとっては余計な公共事業に思えたり、高速道路周辺の人にとっては騒音問題の発生に思えるかもしれません。誰かにとっての「正解」は、誰かにとっての「不正解」になり得るのです。

「絶対の正解がないなら、何もできないよ」とデザインの手を止めることも「正解」ではありません。問題を解決し尽くした「理想の世界」がないのなら、「Wicked Problem」に溢れた世界を受け入れて、今できる最善を尽くす。そんな姿勢がデザイナーには求められているのかもしれません。

個人的には、仏教との関連性から「Wicked Problem」を理解しようとしています。まだわかりやすくお伝えできるほど落とし込めていませんが、自分の書いたメモからそのまま書いてみます。

大航海時代や産業革命などの過去からの因縁・因果で現在の社会が構成されている。その全ての関係性を理解することは人間の頭ではできないので、完全な解決策を編み出すことは不可能である。では、我々ができる最善策は何か。それは仏教が唱える、慈悲、八正道、善行為などに近いかもしれない。
・この概念は言葉では説明ができないので、各々が自ら悟るしかない
・これまでのパラダイムを相対化して、邪見から抜け出そうとする
・人間だけでなく、全ての生き物を大切にするという慈悲
・この世界は「一切皆苦」であることを受け入れる
・「善行為」のような今の自分にできることを地道にしていく

とりあえず、今の社会が「当たり前」と思っているパラダイム・常識をどこまで相対化できるか、仏教的に言えば「どれだけ『邪見』に気づけるか」から始めるということだと理解しています。


気にいった英語表現

最後に、アメリカに来てから聞いた表現の中から個人的に印象的なものをピックアップしてみました。

・Leverage Point:直訳は「てこの支点」。システム思考で使われる用語で、問題解決の上で介入(Intervene)するポイントを指す表現。

・Silver Bullet:直訳は「銀の弾丸」。問題解決の最善策。

・Golden Nugget:直訳は「金塊」。Transdisciplinary Designでは、デザインプロセスの初めの段階(Inquiry)で様々な情報を集める様子を「kicking up dust」という言葉をで表します。この例えの文脈で、集めた情報から今後に役立つ情報を「gold dust(砂金)」とも表現したことを踏まえて出てきた表現です。もともと「貴重な情報」という意味で使われているようです。

・Rabbit Hole:直訳は「ウサギの穴」。一つの疑問をさらに深掘りするという例えとして出てきました。「不思議の国のアリス」を思い出します。


まとめ

以上、Week5の振り返りでした。毎日のように新しい発見があるので、毎日が刺激的です。意識的に休む時間を確保しないと、圧倒されてしまいます。今週で秋学期の約1/3、2年間の約1/12が終了したことになります。

10月が始まり肌寒い日も増えてきて、秋冬の始まりを感じます。そろそろ冬支度を始めないと。毛布やダウンジャケットなどは日本から持ってきていないので、こちらで現地調達します。どこで買えばいいのやら。

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