見出し画像

大腸がんの早期発見を可能にするトイレの驚きの仕組み

超高齢社会を生き抜かなければならない私たちにとって、病気予防は重要なテーマです。

厚生労働省の「平成28年(2016)人口動態統計(確定数)」によれば、2016年の死亡数は 130万7748人で、死因別では、多い順に「悪性新生物(がん)」「心疾患」「肺炎」となっていました。

もちろん、私の関心事は「大腸がん」です。

そこで、がんによる死亡数が多い部位を見てみると、「大腸」は男性の3位、女性の1位、合計でも2位となっています。これは見過ごせません。

がんにならないような生活を心がけることは必要ですが、早期発見・早期治療も必要です。

ですが、大腸がんの検診と言えば……そうです、「検便」です。

検便をやったことがある人であれば、どのようなことをしなきゃいけないか、すぐに分かりますよね。これがなかなかハードルが高いようで、検診率を上げる壁になっているようなのです。

検査するためには、うんちを採取して病院に持っていく必要があります。

まず、便器の中に専用の紙を敷きます。うんちが水の中に沈んでしまったら、うんちを採取できないからです。

つづいて、専用のキットがあるので、それを用いてうんちを採取します。先っぽがスクリュウのようになっている棒で採取するので、ブスッ、ブスッと、うんちを刺したくなると思いますが、それはダメです。うんちの表面を撫でるようにしてうす~くこすり取るのがよいです。

なぜなら、うんちの検査は、うんちに血が混じってないかどうかを確認するのがポイントだからです。

大腸がんは大腸の内側(うんちがとおる側)の粘膜にできるので、そこをうんちがとおるときに出血して、うんちの表面に血がつきます

それを確認するためには、うんちの表面部分が必要なのです。

ただ、この一連の作業って、敬遠されがちですよね。

なにせ、うんちをいじるのは慣れていませんから……。

そこで、今回は、トイレでいつものようにうんちをするだけで、血が混じっているかどうかをチェックできるトイレ、その名もシンギュラリティトイレ「GAIA(ガイア)※仮称」を、沖縄のインターネットベンチャーである琉球インタラクティブさんと共同で開発している医師・石井洋介さんに話を伺いました。

石井さんは、若い時に大腸がんを患ったことをきっかけに、自らが外科医となり、在宅医療や外来、そして日本うんこ学会の会長として課金の代わりに日々のうんこの状態を報告するソーシャルゲーム「うんコレ」を製作しています。というような感じで多彩な才能の持ち主です。


シンギュラリティトイレ「GAIA」のしくみ

いったい、GAIAとはどのような装置なのでしょうか?

まずは、うんちに混じっている血(ヘモグロビン)を検知する仕組みを説明します。

ポイントは「赤外線」にあります。

GAIAでは「赤外分光法」という赤外線を利用した手法を使っています。

赤外分光法とは、赤外線を対象の物質に照射して跳ね返ってきたところを測定すると、分子の種類によって反射の具合が変わってくるため、物質にどの分子が含まれているかがわかる、というものです。

つまり、ヘモグロビンが含まれていた場合の赤外線の跳ね返り方がわかっていれば、うんちの中に血が混じっているかどうかを判断できるのです。

詳細はここでは明かせないのですが、赤外分光法のうんちへの応用を石井さんたちが思いついたのは、医学ではなく、農学の先生たちとディスカッションをしている中でのことだったそうです。

まったく別の分野の技術がうんちの現場で使われるのは、とてもおもしろいですね!

すでに、マッシュポテトや家畜の便などに含まれる微量のヘモグロビンを計測するプロトタイプは完成しており、現在は実際のうんちを使用しながら、GAIAの商品化に向けて実験をしている段階だそうです。

理論的には可能でも、実際に家のトイレで使えるようになるまでには、まだ課題が残っています。

それは、うんちの出方には個人差があり、同じ人でもその日その日で出方が異なっている、ということです。

石井さんも実際に実験をしてみて「うんちが肛門から出て便器に落ちるまでの軌道は人によってかなりのバリエーションがあるうえに、同一人物でもその時の座り方によって異なるので捉えにくい」ということに気づいたそうです。

その他にもいくつかの課題は残っていますが、このGAIAが製品化すれば、かなり画期的です。

なぜなら、普段は医師ですらなかなか見ることのない“うんちの情報”を常にウォッチすることができ、病気のリスク発見につながる可能性も出てくるからです。

その他、GAIAではうんちの含水率(硬さや柔らかさ)も分かるので、便秘チェックにもつながります。以前の記事「あなたのうんちは7つに分類できる」で紹介した『ブリストル便形状スケール』が自動的に判別できるかもしれないのです。

大腸がんの早期発見はもちろんですが、うんちの状況を毎日ログすることができるので、食事や運動データと関連付けることで、腸内環境を日々の生活にフィードバックすることが可能になり、新たな健康管理ツールの誕生も期待できます。

未来のトイレはうんちをするだけの場所ではなく、デイリー人間ドックになりそうですね!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?