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【感想】読書感想文「私たちが星座を盗んだ理由」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0036

優しく、美しく、甘やかな世界が、ラストの数行で、残酷に崩壊する快感。景色が反転し、足元が揺らぎ、別な宇宙に放り出されたかのような、痛みを伴う衝撃。かつて、まだ私たちが世界に馴染んでいなかった頃の、無垢な感情を立ち上がらせてくれる、ファンタジックな短編集。ミステリの醍醐味、ここにあり!
難病の女の子を喜ばせるため、星座を一つ消して見せる男の子を描く表題作ほか、5つの物語のすべてに驚愕のどんでん返しが待つ傑作短編集!

『私たちが星座を盗んだ理由』(北山 猛邦):講談社文庫|講談社BOOK倶楽部
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000206531

ネタバレあり感想。

面白かったー。
「驚愕のどんでん返し」と謳われている短編が詰まった本作。
ほのぼのとした世界が、終盤でガラッと様相を変えるので、その反転が意外で面白い。

私たちが何気ない日常を営んでいる裏で、悪意もまたひっそりと忍び寄ってきている......。
そんな、何かが背中の届かないところを這っているような不安やもどかしさが、読書中絶えず付き纏ってきている感覚を覚えた。
これが癖になって楽しい体験でした。

以降、一編ずつ感想を書いていく。

恋煩い

本書の中で一番好きなお話。
神社で行うおまじないに、スズメバチと黒い服が登場することで、おおよその察しはつくけれど、「恋煩い」というタイトル通り、主人公のアキが盲目的におまじないを信じてしまっていることが、読者的にも騙されてる感が強くなって面白い。
そして最後の一文の破壊力は抜群。ゾクゾクきた。
淡い恋物語が、恨みつらみの物語に一変する構成が最高でした。

(不勉強で「プロバビリティの犯罪」って言葉、はじめて目にしたけれど、「未必の故意」とは違うのかしら……。)

妖精の学校

同じく本書収録の「終の童話」のような童話的雰囲気を醸し出し、現実世界ではない何処かのファンタジーかと思いきや、現代日本の領土問題がテーマの一部という、社会派の面も持ち合わせた作品。
最後の数値は緯度経度。
調べないと分からないが、検索をかければ、どこのことなのかが分かる。
お話の舞台がどこなのかを知ったうえで、もう一度読むと、色々腑に落ちることが多いと思う。

嘘つき紳士

騙してたはずが騙されてました、相手の方が一枚上手でした、という系のお話。
主人公が明確に犯罪を遂行しているので、他4編とは少し趣が異なるかも。
悪人に徹しきれない主人公の心理描写に胸を締め付けられる、切ない犯罪小説かなって思いました。

終の童話

正正真正銘ファンタジー。
異世界ミステリ系、異能ミステリ系が大好きなので、読んでて楽しかった。
犯人の信念にも共感できるし、でも主人公側の想いも分かるから切ない。

「(前略)しかし自らの正しさを信じて犯罪に身を投じる者も、この世にはいるのです」

本書 P287

このセリフ、自分自身のことを言ってたんだなあ。

ラスト、主人公は結局どういう決断をしたんだろう。
「人の温もりなどない」という描写から、石像のままにしたとも読めるし、温もりがないことを改めて確認して、それでも一瞬だけ人間に戻す決意をしたっていう想像もできなくはない。
こういう余韻の残し方、好きです。

私たちが星座を盗んだ理由

姉を見殺しにして、罪悪感に何年も苛まれて、罪の自白までして、いざ告白というときに相手は子持ちであると判明するという、主人公の報われなさが際立つ作品。
空から星座を盗んで、それを首飾りとして渡すという、これだけ読めばロマンチックなのに、作中ずっと不穏な空気が漂っていて、そのアンビバレントな読み心地がとても好みでした。

内容とは全く関係ないけど、冠座の件でアリアドネが出てきて、直近読んだ「アリアドネの声」と繋がったのが個人的ミラクル。
色んな作品に触れてると、こういうのがたまに起こって、ちょっと嬉しくなる。

「恋煩い」という叶わぬ恋物語で始まった本書が、同じく叶わぬ恋物語で締めくくられるのが構成として綺麗で、そして残酷でもあるなあと感じました。


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