マガジンのカバー画像

Moon Wood Dialy

110
その名の通り、月曜日と木曜日に更新される約500文字の雑文。都内に住むある四十代会社員の虚実入り乱れた日常生活の記録。
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

熊の惑星(2023年流行語大賞より)

熊の惑星(2023年流行語大賞より)

20XX年。巨大宇宙船アーバンベアは建造者であるジョンソン博士率いる一万人の乗組員を乗せて、地球沸騰化により荒廃した大地を後にした。彼らは漆黒の宇宙に未来を賭けたのである。
しかしその直後、船内で男たちが次々と蛙になってしまう蛙化現象が発生。約4年経過した今、乗員はほとんど女だけとなっていた。

「王手飛車取り」
セーラー服に腕章を巻いた女が冷たく言い放った。薄暗いバーで酒を飲みながら横目で対局を

もっとみる
屋形船での忘年会

屋形船での忘年会

人はなぜ屋形船に乗るのか。「そこに海があるから」と言う人もあるが、事実は自ら確かめるほかない。

政府が莫大な借金を抱えながら安穏としているのは国内各所の箪笥という箪笥に巨額の預金が眠っているからである。我が職場も例外ではない。曖昧な根拠に基づいて徴収された「会費」はいつしか膨大な額に膨れ上がり、これを持て余した幹事はデフレ緩和、市場活性化等を図る名目で資金放出を決定。こうして本年は屋形船で忘年会

もっとみる
三鷹跨線橋に捧ぐ

三鷹跨線橋に捧ぐ

「わたし、何で冬子っていうか知ってる?」
「冬に生まれたから」
「あたり」

そう言うと冬子はつまらなそうな顔をした。
僕は気まずくなり、何か話すことを探した。

「ここ、太宰治がよく来たんだって」
「読んだことあるの?」
「ない」

「あずさ」が警笛を鳴らして通過し、子どもたちが歓声を上げた。

「もう塾来ないの?」

冬子がボソッと言った。
僕たちはいつのまにか跨線橋の端にいた。

「高校受か

もっとみる