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withコロナの美術館巡り

もうだいぶ前になるんですが、再開された各地の美術館、ほとんどが人数制限・事前予約制ということで、今がむしろチャンスなのでは!?と思って行ってきた話をば。

何がチャンスか?

何がチャンスか、というとですね、私、現状の美術館ブームが苦手でして。

なぜ、朝から何時間も並ばねばならず。
なぜ、人の隙間から苦労して四苦八苦して絵や作品を見なければならず。
なぜ、急かされながら見なくてはならず。

…なのかが、わからない。

なぜ美術館や博物館はそういう過剰混雑な状態をコントロールしてくれないのだろう、とずっと不思議で不思議で。
暑い中も寒い時も何時間も並ばせて。あれ、館側の怠慢だと私は思っていた。混雑が最初から予想されているのに、なぜほったらかして並ばせるのだ。一部でもいいから高齢者や子どもを優先して予約制を導入するなり、整理券制を導入するなりせずにいるのだろう、と。

最近は少しずつよくはなりましたけどね、混雑状況のリアルタイム発信が始まったり、整理券制度が導入されたり、一部では予約も始まったり。それでも中に入ればやっぱり混んでいて、ゆっくり作品に向き合うことすら難しいものが多かった。

そんな混雑がほとほと嫌で、もう何年も大きめの美術展には行ってませんでした。太田記念美術館あたりはいつも人数の程がよいので、そういうとこや地方の小さな美術館・博物館にはたまに行ってましたけど。

それがまあいいのか悪いのか、このCOVID19禍で人数制限ありの完全予約制が実現しまして。
やろうと思えばできんじゃねーか!って気持ちですけども。またいずれはフリーな混雑放置スタイルに戻りかねないので、今のうち!チャンス!!と思って余りまくってる有休を使って行ってきた次第です。今回は東京都美術館と東京国立博物館。上野の森でダブルヘッダーです。

鑑賞としては快適でした。ただ同時に、考えることも多かった。
タイムリーな記事があったのでリンク貼っておきます。

◆アートは不要不急?コロナでどう変わった? 美術手帖・編集長にきく

事前予約の便利さと不便さ

どちらの展覧会も共通のシステム(etix。全国の美術館・博物館・劇場でも採用が多いですね。 https://etix.co.jp/event/1 )でした。

美術館・博物館サイトから、該当の企画展の公式サイトのチケット販売ページにアクセスする形。
入場券と時間指定券のセットでの購入が原則ですが、無料観覧券(企画展によっては前売券や招待券)を持っている人は時間指定券のみの予約(もちろん0円)も可能。
都美は支払はクレジットカードかd払いのみ、東博は左記に加え当日現金払も対応可能。
チケットを購入するとQRコードが表示されて、スマホ画面か印刷したものを当日入口で提示、スキャンして入場となる。

私はスマホから予約しましたが、そんなにわかりづらさも手間も感じませんでした。ただこれ、クレジットカード不携帯・非Docomoユーザーには困りますよね…。
一応、こうしたシステムを利用できない人のために現地での予約枠も用意はされているのですが、事前予約が優先されているので、当日行ってもあるかどうかはわかりません。
今はCOVID19感染予防のための暫定措置だから、と言えても、これが恒久的になるのはプラットフォーム不足と言わざるを得ないと思います。振込、コンビニ決済、ペイジー決済、キャリア決済など決済手段拡大が必須かな、と思います(本当は現地現金精算も欲しいところですが、感染予防の観点で係員との接触をできるだけ排除するのは理解できるので、当面は事前決済でよいかとは思います)。
また、高齢者層で今でもいわゆる「ガラケー」を使用していたり、学生層で携帯所持を制限されていたりするケースも事前予約は難しい。
インフラのないうちにシステムだけが走っていくことは緊急時はやむを得ないとは思うのですが、未来に向けては再整理を望みたいな、と思いました。

入場規制・感染予防対策の状況

・東京都美術館
館そのものの入口では係員の事前予約制についての案内のみ、企画展入口にサーモグラフィ、マスク着用チェックあり。
平日でもあり、予約時間枠(20分ごとに区切られて、各時間帯100人程度の人数制限)の最後のほうに行ったせいもあってか、全く並ばずにするすると入口へ。スマホをかざしてQRコードを読み込み、入場です。
音声ガイダンスを借りる予定はなかったのですが、アナウンスが杉田智和氏(銀魂!)だったので借りることに。ここまで感染防止の意識が徹底している感じだったのが、現金のやりとりのしかた、ガイダンス機の受け渡しなど、急にゆるんだ感じだったのは、館の係員ではなく別の会社の方なんでしょうかね?

館内は係員が普段より多く歩いていて監視していたようでしたが、特に距離についての目立った声掛けなどはなく。混雑もほぼなかったため(多少、人気作品で停滞するくらい)、距離についてはさほど気にせずに閲覧できました。20分の時間帯の頭に行くと集中するのかもしれません。
目安90分とは言われていましたが、別に追い出されるわけではありません。予約時間にもあまり早く行き過ぎないほうが密集を避けるという意味ではよいと思います。
普段の展覧会ではぐるっと全体を見たあと好きな作品だけもう一度見るためにさかのぼって戻ることが多いのですが、その動きはさすがに不穏すぎて(目立ちました…)同フロア内でしかできませんでした。
まあ、やっても止められることはないとは思いますが…。

・東京国立博物館
「きもの展」は平成館ですが、検温は博物館自体の入口でサーモグラフィで行っていました(東博の中は広いので全館に設置するのは大変だからでしょうかね)。そこではチケットは見せるだけで、QR読み込みは平成館の入口で。
企画展のチケットで全館に入れるのは通常どおり変更なし、ただし常設展(総合文化展)も事前予約は必要です。

「きもの展」のほうが、見に来ている人の距離感は少しゆるめでしたが、どちらもおおむね同じような雰囲気ではありました。緊迫感はそんなになかったです。マスクは皆さんきちんとつけていたし、大声でしゃべる人もおらず淡々と観覧していましたし、距離を無理に詰める人もいませんでした。
そういう面では不安なく観覧できました。わざわざ予約して見に来る人という段階でかなりマナーの面では篩にかけられているようには思いますね。

それにつけてもずっと大混雑してきたような展覧会でこの人数制限で採算は合うのでしょうか。係員の人員は削減されているにしても、チケット代が上がるわけでもなく、しかし、予約システムの利用料はかかり、感染予防対策にコストはかかり…合うはずないですよねえ。
もう少し感染状況が落ち着けば人数枠は少しずつ増やしていけるでしょうが、チケット代に跳ね返る部分はある程度は致し方ないのかもしれないな、と思います。

どんなエンタメでも同じことですが、感染させないことと潰れないこととのバランスの見極めが求められていくんでしょうね…。

トーハクのキャラさんたちもマスクしておりました。

展示の感想も一応。

そんなに美術には詳しくないのでざっくりした感想ですが。
久々にじっくり時間をかけて見られて楽しかったです。写真や映像では見えないものが美術品には多いですし、立体的なものは角度を変えて見たいですし、現地に足を運ぶのはやっぱり貴重な経験です。

欲張って東京都美術館から東京国立博物館まで、1日で2つの展覧会を梯子したんですが、一番の感想は体力落ちてるなー!でした(笑)
自粛期間もテレワーク中も、毎日一時間以上、散歩はしてたのですが、6月からはフルタイム勤務に戻り、しかし休日はイベントもなく出かけることがなくなったので「終日動く」のってこんなにきつかった!?ってびっくりでした。帰りは死ぬほど眠かったです。慣れって大事ですね…。

東京都美術館
「TheUkiyo-E2020〜日本三大浮世絵コレクション展」2020/7/23-9/22

太田記念美術館、日本浮世絵博物館、平木浮世絵財団の日本三大浮世絵コレクションが一堂に会する展覧会。これまでそれぞれのコレクションをここまで集めた展覧会はなかったそうな。前期後期入れ替えありで合計450点。

構成としては浮世絵の歴史という縦の時系列が中心で、作家論という横軸を重ねてはあるものの、俯瞰視が強い印象でした。浮世絵師だけでも60名分、紹介されてるということもあって、個々を深く掘る展示内容ではなかったです。なにしろ200年分だもんなあ。

印象的だったのは、キュレーターはあまり写楽を高く評価してないのかな~?と思わず考えてしまうほど、写楽があっさり扱われてたこと。私はあの写楽の黒雲母摺が大好きなんですが(距離を取りつつも角度を変えてなめるように見てきました)、「おおう、これだけか…」ってなった。もともと制作点数は少ない作家だけどそれにしても。
でも、こうして歴史を追いながら見ていくと「ああ、写楽って仇花だな」って強く実感します。一瞬の火花のようにセンセーションを巻き起こして消えてったんだろうな、と。急に現れて人の顔を異様に誇張する役者絵描いて、ってそりゃ評判悪いよねえ、アンチも多かったと見る(笑)現代の作家達の盛衰にも重なるところがあるな、と思いました。

この展覧会でないとできないし、とても面白かったのは、同じ作品でも当然、収蔵館によって刷りの時期も品質も違うわけで、それを並べて比較してみる体験ができたこと。一点ものの芸術品ではなく、庶民が読み捨てる雑誌、ポスターのような存在だったのもよくわかりました。団扇絵とかね、典型ですよね。

また、単館では揃わない揃いものがばーんと揃うのもこの展覧会ならでは。
「摺物」という金持ちがオーダーして描かせた、いわばオートクチュールの浮世絵は贅沢で見ごたえありました。

展示は菱川師宣に始まり、春信、歌麿、写楽、国貞、北斎、広重ときて、最後は国芳。少し、おしまいは駆け足で尻切れな感じはするものの、90分で回れるはずのない、たっぷりたっぷりの大展覧会でした。
(結局、2時間かかりました)

歌舞伎好きとしては、やっぱり役者絵は好きですねえ。鳥居派は現在も歌舞伎座の絵看板を担当していますが、あの独特の筆遣いが400年近く継承されてるってすごいことです。
宗十郎はしかし綺麗な顔してんな~とか、団十郎は鼻高いな~とか思ってたんですが、昔の人は浮世絵と実物を見比べて「全然違うじゃねえか!」とか言わなかったんでしょうかね。
国芳くらいまで来ると結構写実なのかな、と思うんですが。気になる(笑)

後期展示はまだこれからなのでまた時間を見つけて行きたいと思います。

あ、音声ガイダンスの特別ゲストが神田伯山で、途中いくつか講談のさわりを聴かせてくれるんですが、ナレーションの杉田さんを薄く感じるほどの濃さでした(笑)


東京国立博物館
「特別展きものKIMONO」2020/6/30-8/23

東京国立博物館、きもの展。8/23で閉幕でした。
最後のほうは入場整理券も完売するほどだったようで、何よりです。

今回はこの特別展のみで常設展は見ませんでした(さすがにダブルヘッダーで時間的体力的限界ががが)。
トーハクはめちゃくちゃ久々でした…へたしたら若冲のプライスコレクション(2006年!!)以来か?と思ってたら、さすがにそこまでではなく、2011年の「空海と密教美術展」には行ってました。覚えてないだけでもう一回くらい行ってるかも??

てことで、「きもの展」。
こちらは主に室町以降の「着物」に着目した風俗史展。最後は近現代、私達の時代までつながっていて、大変に面白かったです。
中世の小袖に始まり、江戸と京都、男の着物、近現代のモード、とザーッと追いかける展示。
伝和宮、伝天璋院篤姫の着物や帯、信長、秀吉、家康それぞれの着衣、江戸火消半纏などは見ていてテンションあがりました。

きもの展では、メトロポリタン美術館の浮世絵をいくつか借りる予定だったようなんですが、今回のコロナ禍でできなくなり、プリントの展示に。
その中にいくつか、それこそ「TheUkiyoE-2020」で展示されているものと同じ作品、シリーズ、連作があって、順番を逆にしたほうがよかったなあって思いました(本物を見た後プリントを見ることになっちゃったものがいくつか)。着目はどこまでも「着物」なので、展示の浮世絵も浮世絵としての表現ではなく、そこに描かれている着物の意匠、流行に着眼されてるんですけどね、それがまた視点が違って面白かった。

今でいう型紙・デザイン画の起こり、「雛形帳」が面白かったですねえ。
財政が緊迫して贅沢を禁じられた中から江戸では全体は地味でも一部で遊ぶ、「粋」というブームが生まれて、そんな中でも特に大阪の豪商達は絢爛な衣装は作ってた、とか、浮世絵師達や入内した徳川家の和子のファッションが京都の着物の流れに影響を与えた…つまり今でいうファッションリーダーの存在は今も昔もあるんだな、とか、いろいろこれまで意識したことのない視点で着物を見ていくのは楽しかったです。
中でも「男の美学」コーナーは国芳の武者絵と実際の火消し半纏を並べたり、浮世絵「国芳もやう正札附現金男」全10枚をずらりと並べたり(ファッションの解説になるキーワードが壁一面に書かれている)、見ていて滾りましたね。

近現代コーナーは、明治期以降、特に銘仙という「大量生産品」に大きくフォーカスしていく一方で、現代への技術継承というテーマも並走するんですが、中でも久保田一竹の辻が花の連作は凄かった…あれだけで億以上の価値だよね、多分(震)。
展示の最後現代の着物がテーマで、さらにオーラスがYOSHKIMONOってのがなんというか、風俗というものの逞しさ、しなやかさを感じてすごいなーと思いました。

600年前の着物がそのまま残ってる奇跡、危うい状態のものをなんとか未来に残そうとする動き(尾形光琳の「冬木小袖」修理プロジェクト。この小袖、柄がもう薄く消えかかっているんだけど、その状態でもなお美しくてびっくりです。)、新しいものを生み出そうとする動き。
たかがファッション、されどファッション。着て楽しむことがそのまま生きる喜びに繋がること。着物で来場されてる方も多くて、そうして装って出かけることも含めて展覧会を楽しんでる、うきうきした空気。今も昔も変わらぬ喜びが確かにそこにありました。

東博らしいっちゃらしい、ある種の軽薄さなんだけど、リラックマが見返ってもわかんないよ~(笑) グッズはあんまときめかなかったな~。


いずれの展覧会も本当ならオリンピックによるインバウンド需要めっちゃ見込んでたんでしょうね…そうなってたら死んでも行かなかったんで、私にはラッキーでしたけど(笑)

今後の各種展覧会がどう舵を切っていくのか注目しつつ、せっかくの機会なのでまた時間を見つけていろいろ足を運んでみようと思います。

いただいたサポートは私の血肉になっていずれ言葉になって還っていくと思います(いや特に「活動費」とかないから)。でも、そのサポート分をあなたの血肉にしてもらった方がきっといいと思うのでどうぞお気遣いなく。