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【バトンインタビュー佐世保編②】DJやイベント企画を通し、佐世保の文化度を高める団体「桃源郷」さん

 どのように「まち」を自分ごととして捉え、何に価値を見出して取り組んでいるのだろうー。そんな疑問を、長崎や佐世保を中心に信念を持って活動する人にぶつけ、価値観を探るバトンインタビュー。



 佐世保市編第1回目に登場した、一般社団法人REPORT SASEBO代表の中尾大樹さんに紹介していただいたのは、佐世保を中心に活動する5人組の団体「桃源郷」さん。
 ある時はイベントでのバックミュージックを務め、そして、ある時はトークイベントなどを企画している。多様な「顔」を持つ「桃源郷」代表の脇川慎里さんに、これまでの活動と、佐世保に対する思いを尋ねた。

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▲代表の脇川さん

 佐世保出身。中学まで福岡、高校から約10年は東京に住んでいた。音楽が好きになったきっかけは高校3年生の時。一緒に暮らしていた兄がバンド「QUEEN」のベストアルバムを図書館から借りてきた。「なんだこのド派手な音と、ルックスは...!」。衝撃を受けた。それから、週に3、4回は新宿や渋谷などのレコード屋に通い、ビートルズ、オアシス...などイギリスのバンドを聴きあさった。親からの仕送りやバイト代を注ぎ込み、レコードプレイヤーも購入。2000年代になると、ジャンルは問わず、ボサノバ、ジャズ、ブラジル音楽など、いろいろな曲に触れた。
 2006年ごろ、家業を継ぐために佐世保にUターン。知り合いや友達は少なく、レコード屋や、本屋も少なかった。自分が楽しめる場がなくて、辛かった。
 モヤモヤしてた時に出会ったのが、現在、桃源郷メンバーである松尾孝彦さん。佐世保市比良町にあった喫茶店のマスターから紹介してもらった。
 「君、聴く音楽面白いね。DJやってみない」。松尾さんからそう声をかけられた。2015年ごろのことだった。

▼メンバーの松尾さん

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 基本インドアな性格で、クラブには怖くて行ったことがなかった脇川さん。「自分がDJ...。何をするんだろう」。不安だったが、すぐに解消された。実は、松尾さんは30年以上、DJとして活動。脇川さんはDJとしての基礎を、松尾さんにみっちり教えてもらった。

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 そして、本番。とある県内のイベントで、脇川さんは人前でDJデビューを果たした。心地よい雰囲気をつくるために夢中で音楽をかけ続けた。周りを見渡すと、お客さんたちはダンスを踊ったり、口ずさんだりしていて、楽しそうだった。そして、脇川さんの心が動いた。「楽しい空間は、自分たちで生み出すんだ」

 それから仲間を集め、現在では、福岡県や対馬市など県内外の計5人で佐世保を中心に活動をしている。年に1、2回のイベントに呼ばれ、地域の盆踊りや蚤の市でのバックミュージックを務めて場を盛り上げたり、アルカスSASEBOの広場でミラーボールを回してクラブさながらの気分を味わえる空間をつくったりした。

 脇川さんは、佐世保の良さは「やろうと思えば、自由にできる」と語る一方、「街のカラーは薄い」と感じている。街の個性は、コンビニや、ドラッグストアなどのチェーン店が濫立する街並みではなく、「ここに行けば面白いものがある」という魅力的なお店がどれだけ多いかで培われると思っている。だから、佐世保にもっと、変わった映画館や、古本屋、レコード屋などを増やしていく。そんな「文化度が高い」店に人々が行けば、さまざまなインスピレーションが沸き、面白い空間が生まれるのではないか、と妄想している。

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▲脇川さんの妄想図

 さらに、街がより個性的で、面白くなるためには、人々がどれだけ自発的に行動するかが鍵だとも思っている。人々が動くことで、面白いことが溢れていく。桃源郷は、そんな波及効果を期待して、人々の「何かやりたい」という思いをくすぐるように、佐世保市出身の写真家をゲストに呼んだトークイベントや落語のイベントを企画するなど、DJだけの分野に留まらず、活動の幅を広げている。

 今年は新型コロナウイルスの影響で、イベントは軒並み中止に。人前で曲を披露することや、イベントを開くことは難しくなった。それでも、活躍できる場を模索している。
 「きっとまた、街に音楽や写真展、演劇...など、文化的な働きかけはできるはず」。脇川さん率いる桃源郷は、これからどんな音色で、はたまたイベントで、佐世保を明るく彩るのか。ワクワクは止まらない。

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【編集後記】
 DJはディスクジョッキーの略称で、音楽を選んで再生、操作する人。discはレコード盤を指していたが、時代とともにカセットテープ、CDなどと選ぶ音楽の音源は広がってきた。取材時は、桃源郷メンバーの松尾孝彦さんの自宅で。部屋の一角にズラリと並ぶレコードの多さに舌を巻いた。

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▲松尾さんのレコード。本当にびっくりするほどレコードがずらり…。
▼レコードを選ぶ松尾さん

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 松尾さんと話をしていて印象的だったのは、「(DJの選曲が)『良かった』と言ってくれる人はいるけれど、『やりたい』と言ってくれる人がいない。そこまで熱量がないのは残念だ」ということ。
 熱量って本当に大事だと思う。どんどん周りの人を巻き込んでいく力もあるから。熱っぽい存在になるためには少しでも「やりたい」と思う気持ちに素直に、どんどん行動しちゃえばいい。一人で満足するのではなく、みんなで楽しい空間を共有すればきっと、より豊かな時間を過ごせるはず。
 取材後、そんなことを考えていると、カメラマンのさおりんが「DJやりたい」とつぶやいた。松尾さーん、ここに熱を持ってる人いますよ...!UNNYA DJの誕生はそう遠くない日かもしれない。

文・こけ
写真・さおりん
挿絵・hoNika




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