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〈KS〉短編小説

   あらすじ

 大学生フェンシング、県大会、その決勝をけた一日。
 一年生の航道こうどう柊吏しゅりは、準決勝へとこまを進めていた。
 一六九センチ。大会に出場する選手の中で最小の騎士きしは、全国大会を目指して戦う。
 六人の若い騎士達きしたちしのぎけずる、青春群像劇ぐんぞうげき


   はじめに

 本作〈KS〉は、二〇二二年の十月頃に「小説で戦闘シーンを表現する事の練習」を目的として執筆した作品に、一部加筆と修正をした作品です。
 加筆と修正は、当時の文章力を壊しすぎない程度に抑えている事を、あらかじめご了承ください。
 また、本作では大学生の「フェンシング」をえがいておりますが、現実とは異なる部分が多分たぶんに含まれます。
 架空かくうの日本を舞台とした創作物であり、本作を通して違反行為への肯定、何らかのものへの批判、否定の目的は一切無い事を念頭に、お楽しみください。


   目次もくじについて

 本作ではnoteの「目次機能」による見出しを付けております。
 しおり代わりにご活用ください。


   〈KS〉

   01 最後の一分間

 ざわめきは引いた。
 強いライトの下、集中で引きばされ続ける一瞬が精神をけずる。
 ぴり、と静電気にはじかれるように、相手の動きと自分の動きが重なった。
 これで何合目なんごうめ細剣さいけんこすれ合う耳障みみざわりな音も意識には無い。あるのは一つ。残る一分間に二度、頭ひとつ分は高い相手のどうを突かねばならないという、義務感めいた勝利への渇望かつぼうだった。
 篠突しのつく雨のごと猛攻もうこう、それを払い、らすも、しかし、伸ばす剣先けんさきは届かない。
 れる。面の中が吐く息と熱でし暑い。視界を確保するためのスポットライトもわずらわしかった。
 ――そう思ってしまった。
 かすかにたわんだ緊張の糸が、相手の剣先の接近を許していた。面でまもられた耳の辺りをかすめ、試合上では無効な刺突しとつが恐怖としてみを作る。
(何秒間。何秒間を無駄にした……!)
 自刃じじんしたくなるほどの怒りを反撃の刺突しとつに込めて、引き戻そうとする相手の剣先を外へらしながらび込む。
 自身の剣先が相手の鳩尾みぞおちに突き立ったのは一瞬、確かな手応てごたえを記憶しながら退しさる。
 これで同点。相手も自分も第三――最終セットで有効打を四打。残る時間は覚えていない。ただ、突如とつじょとして動きを変えた相手に全神経が持っていかれた。
 長い手足を大きく、ゆるく開き、待っている。
 それに歯噛はがみするのもまた一瞬、牽制けんせいのつもりで放った刺突が思い切りはじかれ、その勢いに乗った相手の剣先がせまる。体を引いてもまだ、腹へ。
 渾身こんしんの力で身をよじり、引き戻した細剣さいけん――フルーレのつばで剣先を受ける。
(まだ試合は止まらない。……止めさせない!)
 そのまま相手の剣身に己の剣身を滑らせる。シリシリと音を立て、突き出したやいばはしかし、くうを突いた。
 腕が届かない。
 引く、める、返す、目まぐるしく肉体を動かす中で判断力をり減らしながら、延長戦を待つ相手をめ続けた。
 ここで逃がせば負ける、相手のくせつかんでいた。それでも届かないのは、生まれ持った体格差によるハンディキャップだ。
 相手よりも速く突いても、相手のふところび込んでも、腕が、脚が、あと少し届かない。
 時間も迫っている。
 これを最後にしようと決めたのは、互いに退しさった空白にだった。
 かすれた呼吸音が面に反響して、その音はどこか遠くに聞こえる。
 コンタクトレンズでおぎなっているはずの視界も白が強い。
 一つ、大きく息を吸った。
 その瞬間に、相手が動く。
 その映像は実際の視界よりも早く映っていた。相手が、この十四分の間に決め手を打ってきた動きと同じ動作でび込んで来る。
 それはデジャヴのように、予測と現実が溶け合って、そこに自分の肉体も溶け込ませる。
 理想の動き、理想の流れ、それに乗せるように、見える先に合わせて動く。
 判断とも反射ともつかない。体が動いた。そう言うほかに無い感覚。
 勝ちも負けも、この瞬間には無かった。
 ただ、見知った動きを紐解ひもといて活路を行くだけ。
 大きくたわんだ剣が、喉元のどもとせまった剣が、ブザーの音で止まる。
「ラッサンブレ、サリューレ」
 主審しゅしんから試合終了の号令がけられた時、相手に突き立ってたわんでいた剣身がはじけた。相手の剣先は、自身の首元を過ぎて止まっている。
 三つのランプが、勝ち取った二試合を示していた。
 相手、海樹うみきあかりは初戦のみ点灯。
 そして、残る二つは自身――航道こうどう柊吏しゅりに。
 震える手で面を外す。いつの間にか、審判員がかたわらに立っていた。
航道こうどう選手、大丈夫ですか?」
 呆然ぼうぜんとしたのもまばたき二回分、柊吏しゅりあわてて海樹うみきの許へ向かい、握手をわした。
 去りぎわに折れたフルーレの剣身けんしんを拾い、スタート位置について礼をする。
 じんとしびれる頭で会場に目をやると、大学の先輩達が何事かを笑顔で叫んでいた。一般席にも目をやると、両親が居た。そして、その隣にも一人。
 柊吏しゅりはようやく微笑ほほえんで、コートからはずれる。
 ベンチでは、仏頂面ぶっちょうづらの監督が待っていた。

   02 戦いの後

 男子トイレの中で、ほほる音が響く。
 柊吏しゅりは洗面台の鏡に向かい、右頬の赤くなった自分をにらみ付けた。
 ピストを出れば、弱い顔をした子供が現れる。
 けれど、ピストに上がっていれば、あの帯状おびじょうのコート、あそこに居る間だけは違った。違うはずだった。
 県大会準決勝、強敵として予想し続けて研究してきた海樹うみきあかりを前にして、その手足の長さ、プロポーションの美しさに完全に気圧けおされた柊吏しゅりは、相手に初戦の先取を許した。それも、試合時間を半分以上残して。
 続く二戦目。もう後が無い柊吏しゅりは初手こそ有効打ゆうこうだを決めたものの、そこで得意のインファイトは封じられ、時間経過による判定勝ち。
 そして決戦。あろう事かその最中さなかに、緊張の糸をゆるめてしまった。
 自身に対する怒りに震わせたこぶしを、柊吏しゅりは自分の腹に向けた。
 ぐ、と息が詰まる。まだ四年目の若手、されど運動の場で柊吏しゅりが輝けたのは、騎士きしでいる間だけだった。そのピスト上で、気を抜いた。
 不甲斐ふがいなさにくちびるを噛んでも涙が出る。だからこそ柊吏しゅりは、他の試合が始まる瞬間を見計みはからって、人の少ない離れのトイレに駆け込んでいた。
 蛇口じゃぐちひねり、水を流して嗚咽おえつを隠す。
 それゆえに、背後から入って来た人物に気付きづくのが遅れた。
 鏡に映る白いユニフォーム、左肩を区切るような青いライン。振り向いた先に居たのは、海樹うみきあかりだった。
航道こうどう……? どうしたんだ」
 先程までピスト上で柊吏しゅりに向けていたするど気迫きはくは無く、低くてもいたわような、柔らかな声音こわねあかりが言った。
「いや……」
 か細い柊吏しゅりの声は男子のものにしては高く、頼りない。それを耳にして、柊吏しゅりは奥歯を噛む。
「さっきの試合、まさかだった。背が低いからってあなどってたわ。ごめん」
 上目がちに見るあかりの顔は晴れやかで、それを直視できない自分がみじめたらしい。
流石さすがは今大会最小の騎士きし。俺はもっと精進しょうじんしなきゃな。騎士道きしどう精神あるまじき! ってね」
 ぽんぽんと柊吏しゅりの肩に置かれたあかりの手が、こわばっている。
 大きな手はそれを隠すように滑り落ち、あかりは小便器の方へと歩いて行った。
海樹うみきくん、僕は」
「今回は俺の負け。最後のカウンター、反射だったろ。努力の差で負けたって感じ」
 用を足したあかりはまた、柊吏しゅりもと――隣の洗面台に戻り、手を洗いだす。
「だから、今大会は優勝しろ。で、優勝した航道こうどうを、公式戦じゃなくても、どこかで――俺が負かす」
 鏡越かがみごしに投げられた視線は、試合中に見えるはずも無いのにつねに感じていた、真剣しんけんきっさきを思わせるするどさだった。
 その瞳のひらめきが、先の試合で喉元をかすめたフルーレを思い起こさせる。
「うん。負けないよ」
 赤くなった目で笑った柊吏しゅりも、あかりかたわらに映った。
 あかりはギラつく目をまばたきの内に消し去り、手を振って水を飛ばしながら振り向く。
「そうだ、今度トレーニングの話とか聞かせろよ。みにでも行ってさ」
 あかりの言葉に柊吏しゅりは目を丸くした。あかり柊吏しゅりも、大学一年生のはずだから。
「あー。航道こうどう、おまえ酒童貞さけどうてい?」
 続くあかりの言葉に柊吏しゅりは大きな目をさらに見開いて驚きの声を上げる。
 そんな柊吏しゅりを笑い、あかり柊吏しゅりの肩を無理矢理に組んでトイレを後にした。
「うそうそ、普通にファミレスとか行こうぜ」
 肩をつかあかりの手は、優しく、強く、柊吏しゅりも笑顔になる。
 競技館の外は、快晴だった。

   03 対角線

 女みたいな奴だなと、改めて思った。
 背丈せたけあかりの首元までしかない航道こうどうは、不安をたたえた目であかりを見上げたまま、握手を終えていった。
 一八〇センチを超えるあかりを見上げてきた、女達と同じ種類に思える目。それを面でおおい隠せば、ユニフォームを着ていても分かる程度に筋肉はついていた。
 大会より前に見た映像の、そして大会中にの当たりにした、雷光らいこうごと刺突しとつを忘れる程に、その目を見たあかり航道こうどうに対する苛立いらだちを覚えていた。
 両者が開始位置に着く。礼も終えて主審の声を待つこの時間にいてもなお航道こうどうの構えは弱い。
「アレ!」
 試合開始を意味する主審の声を聞くやいなや、あかりは先制の一撃を航道こうどうの胸元に放った。
 試合前の監督との打ち合わせ通り、初戦の一点を奪い取る。そこからはえて航道こうどうに点を取らせ、カウンター。リーチの差を理解させるため盤外戦術ばんがいせんじゅつに、航道こうどうまれていた。
 続く二戦目、戦意を取り戻した航道こうどうが見せる軽やかなフットワークにあかり翻弄ほんろうされ、悔しさと高揚感の入り混じるまま、航道こうどうに逃げ切りを許してしまう。
 そして、三戦目。
 あかりのミスで剣先けんさき航道こうどうの面、耳の辺りに当たってから、航道こうどうの動きが明らかに変わった。速い。リーチの差が無ければ決着はもっと早かっただろう。息の詰まる素早い剣捌けんさばきは確実にあかりの隙を突いていた。
 あと半歩、あと二センチ、いや一センチ、その生まれながらの体格差に感謝しなければならない程、航道こうどうの動きは速い。
 フルーレがひらめけばその瞬間にはせまり来る、直線の歯牙しがなすだけで精一杯だった。
 しなはずのフルーレが、航道こうどうの物だけはつねに直線でせまる。芸術的な脅威きょういの剣。それを乗り越えるためには、航道こうどうのスタミナを限界までけずり、時間を待ち、延長戦に持ち込むしか無かった。
 そう考えていた。
 たがいに退しさる、その時までは。
 一呼吸の間、らぐ航道こうどうのフルーレ、そこを抜けた先の心臓部がいている。
 思うもなく勝手に動いた体が、あかりの得意とする流線状の刺突トゥシュが、ほんのわずかな力と微塵みじんも恐怖を覚えていない猛進で打ち破られた。
 視界に大きくたわんだフルーレがある。あかりの物では無い。あかりの剣は航道こうどうの首元を過ぎているのだから。
 真剣しんけんならば深々ふかぶかと心臓をち抜かれていただろう細剣さいけんが限界をむかえ、目の前で折れた。
 歯の根も合わず、開始位置に戻って面を外すと、全身が冷え切っているのに気が付いた。
 航道こうどうもまた呆然ぼうぜんとして、打ち寄せる勝利の歓声かんせいびている。
 試合後の握手や礼は、まともに行っていた自信が無い。
 感覚を失った脚で、あかりは競技館を出た。
 ミネラルウォーターをのどに流し込み、頭からかぶる。
 青い空の下、まぶしい緑も目に入らず、映るのは一瞬一瞬が明瞭めいりょうな敗北の一撃。
 当てなく敷地内に歩き出し、目に入ったゴミ箱にペットボトルを押し込んで、あかりは歩き続けていた。
 仲間や監督から掛けられた声は、聞こえてはいても意味は分からず、すでに頭に無い。
 あるのは「何故負けたのか」という虚無感きょむかんに似た疑問だった。
 どれ程歩いたのか、見覚えのない離れのトイレを見つけて、あかりはふらふらとそこへ入って行き、そして水音と共に聞こえる嗚咽おえつに息をんだ。
 おそおそる入口をくぐると、航道こうどうが、洗面台に突っすようにして泣いていた。
航道こうどう……? どうしたんだ」
 一も二もなく出た声に、航道こうどうの幼い顔が向けられる。敗者よりも敗北を噛むような辛苦しんくの表情。その双眸そうぼうだけが、恒星こうせいのように強く燃えていた。
 それだけで、あかりは全てに納得する。
 俺は、航道こうどう柊吏しゅりという男に負けたのだと。

   04 滑走路ピスト

 柊吏しゅりあかりは競技館に戻った。
 準決勝の二組、その試合の間には余興よきょうと称したトーナメント出場者の休憩時間が組み込まれていて、しばしの猶予ゆうよが与えられている。
 そのため、客席からも人が流れ、競技館の中はぽつぽつと通行人が見えた。
 その中の一人に、柊吏しゅりの目がまる。
 マゼンタピンクに染めた長髪をまとめ、奇抜きばつな服装に身を包む女性。
稚気ちき
 柊吏しゅりの呼び掛けに目を向けた稚気ちきという名の女性は、険しい顔で柊吏しゅりにらむ。
柊吏しゅり、気を抜くくらいならこんな場所に呼ばないで」
 冷ややかな声に、柊吏しゅりはもちろん、あかりの背にも冷や汗がしたたった。
 ごめん。そうつぶやいてうつむ柊吏しゅりの背中を、あかりが叩く。
「ま、まったくだ、お前の身長なら自分よりデカい奴としか当たらないだろ?」
 驚いたようにあかりを見る柊吏しゅりの顔は、また女の子のようなそれに戻っていた。
 対する稚気ちきは、一瞬、あかりにも冷ややかな視線を送り、再び柊吏しゅりを見る。
「おじさんとおばさんがいるからまだ帰らないけど、決勝もつまらなかったら適当に口実こうじつ作って帰るから」
 柊吏しゅりよりも少し背の高い彼女は、言いたい事だけ言い残して足早に客席へ繋がるエスカレーターを上がってしまう。
 二人はその背を見送って、試合後にも似た脱力感に見舞われた。
「あれ、彼女? きっついなぁ」
 自身の腰に手を置き、あかりは苦笑した。
「いえ、幼馴染で……」
 柊吏しゅりに言われ、あかりは目を丸くする。
「じゃあ優勝したらこくるんだ?」
 頭に「なるほど」とでも付けそうな程あっさりと言われ、柊吏しゅりはぶるぶるとかぶりを振る。
「県大会じゃたぶん、無理」
「はぁー、すげぇ女に惚れたのな」
 図星を突くトゥシュに、柊吏しゅりは悲鳴にも似た声を上げる。
 違う違うと言えば言う程に、あかりは笑い声を大きくしていった。
「いやいや、仲良いならまだしも、あの調子の子を大会に呼ぶとか、それ以外になんだよ」
 先の試合で見た連続の刺突トゥシュにも似た言葉に、柊吏しゅりは言葉も無く赤くなった顔をせるだけだった。
 そんな柊吏しゅりの背中を、あかりは押し出すようにして姿勢を正させる。
「まっ、今は試合だ。決勝、頑張れよ」
 微笑ほほえみ、あかり柊吏しゅりの元を離れて行く。その先にはあかりと同じく左肩を区切るような青いラインの入ったユニフォームを着た、学生達が居た。
 柊吏しゅりはその背を見送って、会場内に続く関係者通路へ踏み込んだ。
 通路は三人は並べる広さがあるものの、この時は柊吏しゅりの他に人影が無かった。ぎっ、ぎ、と外履そとばきの運動靴が鳴らす音だけの空間。
 ――フェンシングのコートを、ピストと呼ぶ。
 それは、フランス語で滑走路かっそうろを意味する言葉。それでは、この通路はさながら航空機を収める倉庫だろうか。
 そんな事が頭に浮かび、リラックスしている自分を認識した柊吏しゅりは、次にあかりと会ったら礼を言おうと心に決め、会場内に戻った。
 ピスト上では二人の騎士が舞うように細剣さいけんを振るい、刺突しとつ斬撃ざんげきをぶつけ合っている。
 柊吏しゅりから見て右側の選手が、左から突き出された剣先けんさきを払いながら面を斬り、主審が試合終了の号令を掛けた。
 サーブル。三つあるフェンシングの種目のひとつ、胴だけではなく、上半身全てが有効面となり、斬撃の許された種目。
 柊吏しゅりは余興として行われていたサーブルの試合に苦い味を思い出しながら、自分のベンチに戻った。

   05 二大巨頭にだいきょとう

 大学生フェンシング県大会のBグループ、それに割り当てられたベンチに、大きな体をかがめ、しきりに細く鋭い息を吐く男が居た。
 錆湫さびくで重吾じゅうご。大学のフェンシングサークルに入り、急激にその才能を開花させた「若き巨人」だが、彼の心臓は体格に見合わない小ささだった。
 先のフルーレ個人種目Aグループ、その試合を何度も脳内で繰り返しては、三戦目で鋭さを増した航道こうどうの剣技に身を固くしてしまう。
 航道こうどうとその対戦相手、海樹うみきら二名の選手は、重吾じゅうごよりも二つぶん歳下だろう。その若さで学年入り混じる今大会をのぼめ、まして十センチ近い身長差をくつがえして、航道こうどう海樹うみきを倒した。
 海樹うみきの力強い剣技けんぎを押し退ける、鋭くはや刺突トゥシュ
 重吾じゅうごの体格では、海樹うみきよりも早く動くことは叶わないだろう。それを思うと、心臓を貫かれた海樹うみきの二の舞を演じるのではないだろうか。そう考えてしまって、震えが込み上げていた。
 中空ちゅうくうにらえ、硬直する重吾じゅうごひたい水筒すいとうが打ちえる。
 悲鳴は上げなかったものの、低くうめき、何事なにごとかと目を白黒させる重吾じゅうごの前に、背の低い女子マネージャーが立っていた。
あおい……何を」
 彼女に問えば、あおいは鼻を鳴らしてコツコツと重吾じゅうごひたい水筒すいとうを当て続ける。
「Bグループ、準備」
 言われ、重吾じゅうごの目の色が変わる。
 どれだけ恐れようとも、今の相手は航道こうどうではない。準決勝で当たるのは、四年生の桑野くわの花幸はなゆきという男。
 一九五センチの体躯たいくを立ち上がらせた重吾じゅうごは、はるか向こうの桑野くわの見据みすえた。
 その視線を感じたのか、桑野くわのも長い髪をった手を下ろして重吾じゅうごを見る。
 重吾じゅうごほどではないが、今大会トップクラスの高身長をほこ桑野くわのは、薄く笑って重吾じゅうごに手を振った。
 それが、重吾じゅうごの闘争心の撃鉄げきてつはじいた。

 ベンチに戻った柊吏しゅりを手振りだけで呼び、監督は隣に座るよう示した。
 柊吏しゅりは監督を指導者として尊敬はするものの、同時に苦手意識がぬぐえずにいる。
 一番の問題は監督が如何いかなる感情の時も表情の動かない、究極の仏頂面ぶっちょうづらである事だった。
 柊吏しゅりを座らせてからも監督は沈黙を通し、柊吏しゅりもまた時間がつ程に口が重くなっていく。
 そうしている内に、スピーカー越しにBグループの二大巨頭にだいきょとうが呼ばれてしまった。
 双方共にあかり以上の立端たっぱを持ち、幅二メートルのピストが狭苦せまくるしく見える。
 握手をわして開始線上に立ち、二つの巨躯きょくが礼をする。
「勝つのは錆湫さびくでだ」
 主審が選手らに準備を問うその間に、監督がつぶやいた。
 桑野くわのはプロの団体から声が掛かる程の実力者で、卒業を間近まぢかにしても、その技術は常にみがき続けられている。
 錆湫さびくでも同じく注目の若株わかかぶだが、大会前に監督が特に注意するよう言っていたのは、桑野くわのの方だ。
 何故、とく前に「アレ!」の掛け声が響き、柊吏しゅりは反射的にピスト上に集中した。
 錆湫さびくでよりは体の細い桑野くわのが、真っ先にフルーレの剣先けんさき錆湫さびくでに伸ばした。
 フルーレ種目には攻撃権・・・がある。初動を握った桑野くわのに対し、攻撃権を取られた錆湫さびくではフルーレをわずかに引いて、桑野くわのの攻撃に備える。
 桑野くわの錆湫さびくでの距離は、五秒を掛けて縮まりきった。一歩の間合いに入った瞬間、桑野くわのび込む。うねる剣が錆湫さびくでどうに吸い込まれ、わずかにどうらされたためくうを突く。
 バチッと叩き折るような勢いで目の前のフルーレをはじき、錆湫さびくでが動いた。
 桑野くわの剣身けんしんを踏み台に、錆湫さびくでの剣がねる。
 身をよじ桑野くわのより速く、いや、圧倒的なリーチによって、錆湫さびくで剣先けんさき桑野くわのの腹に突き立つ。
 審判機のランプが、錆湫さびくでの得点を表す赤に輝いた。

   06 攻防

 桑野くわの花幸はなゆきの剣はしなやかだ。
 つむじかぜごとらぎ、刺突トゥシュは鋭く強い。
 高身長のアドバンテージもあり、桑野くわのと当たった選手達は防御をすり抜ける剣先けんさきどうを突かれ、またカウンターで伸ばされた腕により背後を穿うがたれ、やぶれ去っていった。
 その桑野くわのの剣が届かない相手、天敵とも言える巨漢が、錆湫さびくで重吾じゅうごだった。
 錆湫さびくでの動きは決して速くは無い。そのわり、堅牢けんろうで重い。
 体幹をほとんど動かさないまま相手のフルーレをさばき、はじき、的確にどう剣先けんさきを当てる。
 錆湫さびくでの試合は一人分の足音だ。と、柊吏しゅりの先輩が言っていた。
 まさにその通りだった。攻撃権を奪われれば桑野くわのせわしなく逃げ、桑野くわのが攻撃権をれば、力強い踏み込みで錆湫さびくでを襲う。
 だが、そのことごとくがむなしかった。
 初戦は五対零で錆湫さびくでの物になり、二戦目を待つ一分間、桑野くわのは天をあおいでいた。
 時間がおとずれ、両者が再びピストに上がる。
 桑野くわのは試合開始直後、再び攻撃権を得る。オンガード――基本姿勢よりも少し腕を伸ばしたままに、り足に似たなめらかな動きで、桑野くわのは一直線の刺突トゥシュを放った。
 桑野くわのをよく見ていたのだろう。錆湫さびくでしなるフルーレを予測していた構えのために、脇腹わきばらしたたかに突かれた。
 桑野くわののフルーレを払い、錆湫さびくでの剣先が飛ぶ。それを上体を大きくらして避けた桑野くわのは、錆湫さびくでのフルーレを打ち払った。
 ぐには攻撃できず、しかし攻撃権を手にした桑野くわのが今度はいつもの調子で、しかし踏み込みは浅く牽制けんせい刺突トゥシュを放ち続ける。
 錆湫さびくでの身長で気付けただろうか。桑野くわの牽制けんせいを高めに打つ事でにじり寄る脚運あしはこびを隠し、錆湫さびくでが大きく斬り払うのを待っていたかのようとぐろを巻く桑野くわのの剣が有効打を与えた。
 わずか二十秒の内に、桑野くわのは二点取り戻し、退しさる。
 剣先けんさきを向けて攻撃権を得る錆湫さびくでは、しかし、動かなかった。
 会場内は静かだ。フルーレが風を斬る音さえ響く、静かに強靭きょうじんな剣のやり取り。
 双方そのまま得点に届かず、試合時間は二分が過ぎようとしていた。
 桑野くわのの直線が柊吏しゅりの目よりも速く動く。それを錆湫さびくでが崩す。
 フルーレの剣身けんしんを打ち、巻き取るようにして桑野くわのの姿勢までを崩し、錆湫さびくでの突き下ろした剣先けんさき桑野くわのの胸を穿うがつ。
 合計六対二。その焦燥しょうそうは会場内で反響し、柊吏しゅりの手に汗を握らせる。
 圧倒的すぎる体格差に桑野くわのの得意とする背後への攻撃は封じられている。その上で、ここまで隠してきた直線の刺突トゥシュさえ。
 立端たっぱがあれば勝てる競技ではない。まして錆湫さびくでのように動かない戦い方は異質だ。相手に飛び込ませ、動きの遅さをカバーする理性的な戦術。
 だが、桑野くわのさらに速く、さらに速く動き続けた。
 刺突トゥシュ雨霰あめあられ錆湫さびくでりかかり、桑野くわのが三点目を奪い取る。
 そこで、桑野くわのの動きがにぶった。瞬間、錆湫さびくでのフルーレがうなり声を上げて突き出される。
 その先に、桑野くわのはいなかった。
 刹那せつなの硬直をみずから生み出した桑野くわのは、錆湫さびくでの剣より早く退しさったのだ。
 突出した錆湫さびくでのフルーレが払われ、再び桑野くわのの猛攻が始まる。
 今度は彼の得意とするしなやかな動き、錆湫さびくでの体の外を突くフルーレは大きくしなり、それに当たるまいと錆湫さびくでの巨体がれる。その狭間はざまに、鋭い刺突トゥシュが真っぐ放たれた。
 緑のランプが点灯する。六対四。
 食らいつく桑野くわの錆湫さびくでの動きも速くなっていく。
 風を斬る音とフルーレ同士のぶつかり合う金属の音、攻撃権を追うので手一杯な柊吏しゅりは目の疲労に思わず強くまばたきをした。
 再び見えたのは、錆湫さびくで桑野くわの剣先けんさきたがいをち抜いた瞬間だった。
「アルト!」
 ブザーと共に、主審が三分間の経過による二戦目の終わりを告げる。
 審判機は両者の色をともしていたが、錆湫さびくでの得点だけが動く。
 七対四。
 一分間の休憩が二名に与えられ、桑野くわのは面を外して顔の汗をぬぐはらった。
 柔和にゅうわな顔立ちは複雑にゆがみ、今にも叫び出しそうな赤に染まっていた。

   07 枯死こし

 錆湫さびくで桑野くわのの三戦目を待つ一分間。
 会場内は人が居ないのかと疑いたくなるほどに静かだった。
 決して広大とは言えない競技館だが、この大会のために三百人をくだらない人間が集まっている。その誰もが、息をひそめて三戦目が始まる瞬間を待っていた。
 柊吏しゅりもまた、審判機に表示された七対四の数字をもくして見つめ、二戦目の攻防を思い返していた。
 初戦こそ絶望的とも言える錆湫さびくでのワンサイドゲームだったが、続く二戦目でその暗礁あんしょうは砕かれた。
 桑野の狂暴なまでの食らいつきにより、二戦目だけで見れば二対四の判定勝ち、決して錆湫さびくでに手も足も出ないとは言わせない戦いぶりだった。
 だが、だからこそ、合計点の七対四が壁として立ちはだかる。
 延長戦に持ち込む可能性は残したものの、初戦の大敗が先の柊吏しゅり以上に桑野くわのの心をむしばんでいるはずだ。
 柊吏しゅりがちらと遠くの桑野くわのに目をやると、彼は汗をふくんでれる髪をき上げて、面を着ける所だった。
 その横顔には蒼白そうはく紅潮こうちょうじっている。
桑野くわのさんは――)
 鬼気迫ききせま形相ぎょうそうを面に押し込めば、桑野くわのの足取りは美しいまでの所作しょさだった。みなぎる力をぎょしながら、騎士然きしぜんとした流麗りゅうれいな歩み、その一つ一つの重みを感じさせる。
桑野くわのさんは、何を想って戦うのだろう)
 ふとそんな妄想が走り出し、しかし視界のはしに現れた巨人に吹き散らされた。
 錆湫さびくで重吾じゅうご、彼は桑野くわのとは対極たいきょくに、重く、重心の乗った歩みでピスト上に立つ。

「エト、ヴプレ?」
 主審の声が、会場内に響く。いで二人分の「ウィ」という了解の合図のもと、主審が動いた。
「アレ!」
(相変わらず、速い……)
 たった数分の間だが、それこそが桑野くわのの本領であり、体にみ付かせた攻撃の構えなのだろうと理解させられる、美しく速い構え。
 思いながら一歩踏み出した重吾じゅうごに、眼前の桑野くわのは目まぐるしい速さでせまる。
『落ち着け! 冷やせ!』
 フラッシュバックする卒業生の声が、熱をびた重吾じゅうごの身体を溶融点ようゆうてん間近まぢかで止める。
 桑野くわのは直線の攻撃では足を開き、フルーレを巻くならば両の足先がこちらを向いて、並行へいこうになる。
 頭のしんだけを冷やした重吾じゅうごは、刹那せつなの間に桑野くわのの足を見た。
 足先は並行へいこう。直線に備えて固く構えた手首の力を抜き、桑野くわのの右手、フルーレの根元をにらむ。
(右、左、これは予備のれだ。……三、四、五、まだ)
 痙攣けいれんにも似た微細びさいな動きが、一分いちぶ目溢めこぼし許さずとらえられる。
 桑野くわのひじが外にれたのを見て、重吾じゅうごは先んじて剣を振った。
 鎌首かまくびをもたげたへびごと桑野くわの刺突トゥシュは、放ちざま重吾じゅうごの強烈な斬撃ざんげきはじかれる。
 刃の根元に命中した斬撃ざんげきに、桑野くわのの体制が崩れ、左肩ががら・・きになった。
 反作用はんさように任せたフルーレはめるように桑野くわのの背をけずる。
 重吾じゅうごの目のはしで、赤がともった。
 退しさ桑野くわのを逃がすまいと、重吾じゅうごは追撃をりかからせ、しかし面の前垂まえだれにはじかれる。
 瞬間で引きしぼり、重吾じゅうご桑野くわのどう、その中の狙撃そげきポイントを見る。
 息も整わぬ間に返してきた桑野くわの剣先けんさきは、明後日あさっての方向へ消えて行った。その、腹。赤。
 いで、巻き上げるように振られた桑野くわののフルーレが重吾じゅうご剣身けんしんを叩き、重吾じゅうごはその力に任せて背筋を伸ばした。
 桑野くわのが放ったカウンターの刺突トゥシュ重吾じゅうごの胸の前で止まる。桑野くわのは体制を整えるタイミングをいっしていた。
 その突き出した肩口にトゥシュをじ込む。赤。
 二戦目の攻防、桑野くわのは恐らく彼の理想とする動きを見せた。まさに、ちょうのようにい、はちのように刺す剣技けんぎ。激しい攻防の中で重吾じゅうごは恐怖に震え、無いに等しい休憩の時間はそれをしずめるのに必死だった。
 それがゆえに、悲しい。
 三戦目のやり取りは初戦の再現そのものだ。何故。思考はブレながらも重吾じゅうご桑野くわのに休憩を許さない。はじき、かわし、突く。繰り返す動きの中、その一つが下腹部かふくぶに命中した。
 剣を引き抜く流れに桑野くわののフルーレを巻き込み、桑野くわこあわてて腕を突き出す。
 重吾じゅうごは思い切り前に出た。
 フルーレのつかまでがくうを過ぎ去り、桑野くわのいた背中、その中心を剣先けんさきで叩く。
 赤。
「アルト!」
 主審の声が響き、桑野くわのが崩れ落ちる。
 震える体をいだように、桑野くわのは横になった。
 重吾じゅうごはその姿に、面の奥で涙をこぼす。
 敗北とは、これほどまでに恐ろしいのか、と。

   08 潮騒しおさいの中で

 結局、崩れ落ちた桑野くわのが立ち上がる事は無かった。
 錆湫さびくでに二度目の完全試合を許し、敗北した桑野くわの担架たんかで運び出され、会場内には不透明な待機願いだけが放送された。
桑野くわのは良い選手だ」
 場内の喧騒けんそうの中で、柊吏しゅりの隣に座る監督が言った。
「しかし、錆湫さびくで柔軟じゅうなんな剣の方が圧倒的に強い。だから桑野くわのが勝つ事は無いと確信していた」
 監督は選手の居ないピストを見つめて、仏頂面ぶっちょうづらを苦痛にゆがめるようにして言う。
「だが、桑野くわのも決して凡人ぼんじんじゃない。優秀だ」
 苦々にがにがしい表情の理由が、柊吏しゅりには分かった気がした。
 桑野くわのが運ばれて行ったのは、遠目にでも分かるほどに激しく上下する肩と腹から、過呼吸だったのだろうと推測できる。
 初戦の大敗を、それも、桑野くわのが得意とする背面への攻撃を錆湫さびくでに二度、二度も許した上で、再現してしまった。
 それが、彼にとってどれほどの苦しみか、柊吏しゅりには想像もつかない。
 まして、一度も剣が届かないなんて。
 ぶるりと震えた両手を組み、柊吏しゅり桑野くわのの存在を思考のすみへと追いやる。
 あの巨大かつ剛堅ごうけん錆湫さびくでが、今度は柊吏しゅりの前に立ちはだかるのだ。
 くせを見抜いたとて、相手がそう来る事すら理解している不動のとりでを、どう切り崩せばいいのか。
航道こうどう錆湫さびくで相手には限界まで我慢をしろ」
 イメージの中へ沈みかけた柊吏しゅりは、はた・・と監督を見た。
錆湫さびくでは非常に冷静な選手だ。だから、十分の一秒の単位でも、辛抱強しんぼうづよく耐えてすきうかがうんだ。どんな相手でも、お前の刺突トゥシュに反応できる奴はいない」
 監督の仏頂面ぶっちょうづらは、良く言えば常に真剣であるからこそだ。
 彼の言葉を聴き、柊吏しゅりはしっかりとうなずいた。

 競技館内のトイレの丁字路ていじろ、その男子側から出た重吾じゅうごに、どこかの女学生が小さく悲鳴を上げた。
 悪い、と言う重吾じゅうごおびえるようにして、桃色のラインが入ったジャージ姿が女子トイレへと駆け込んで行く。
 広い正面ホールに出れば思いのほか人が出ていた。その中で目立つのは、先程も目にした桃色のライン。桑野くわのの大学の生徒達だったか、彼のユニフォームを思い出しながら、重吾じゅうごは階段の方へゆっくりと歩き出す。
桑野くわのくん、体調悪かったの?」
「いやいつも通り、と言うか調子良い方だったろ」
(やはり、先程の試合についての話題か……)
 意識して視線を外すものの、桃色ラインの集団は階段の前にたむろしているために、話が耳に入ってくる。
「それにしてもさ、負けたからって『あれ』はないでしょ」
 重吾じゅうごの足が止まる。
錆湫さびくでが強くって泣いたのかよ、アイツ」
 瞬間。考える間も無く重吾じゅうごの腕が伸びた。こちらに背を向けていた桃色のジャージ、その襟首えりくびつかんで引き寄せ、胸倉をひねり上げる。
「お前に! 何が分かる!」
 激情が声としてとどろく。周囲に意識は行かず、重吾じゅうごはただ目の前の男をにらみ付けた。
 敗北を恐怖すらしない此奴こいつに、かげで人をそし此奴こいつに、桑野くわのと言う男がわらわれている事が我慢ならない。
 今にもなぐりつけたい衝動にこぶしを震わせながら、呆然ぼうぜんとして何も言わない男を前にして、重吾じゅうごの目から涙があふれ出した。
(……桑野くわのは、孤独だったのではないか)
 鬼の形相ぎょうそうで涙を流し、固まる重吾じゅうご横面よこつらが叩かれた。
 顔を上げ、振り向いた先に階段から下りて来たのだろうあおいが、あきれたような、怒ったような、複雑な顔で立っていた。
 再び硬直する重吾じゅうごの手を叩き、あおいは男を解放させる。
「何の話かは分からないけど、それで退場になったら殺す」
 冷ややかに言われ、重吾じゅうごは自分の体が一回ひとまわりは小さくなったように感じた。
 戻るよ。と言われるままに、重吾じゅうごあおいの背に着いて行く。
重吾じゅうご、相手選手に肩入れするのはやめて」
「無理だ、真剣に戦う彼らに敬意を持たないなんて」
 会場内へ続く廊下に、あおいの溜め息がひびいた。
「だが、だからこそ、俺は全身全霊で倒す。次の航道こうどうも、身長差を埋めるために血反吐ちへどを吐いてきたはずだ。だからこそ、俺も全力で応じる」
 重吾じゅうごの背筋がしっかりと伸びる。
 言いながら、重吾じゅうごは今更思い出した。
 そう、今見るべきは、航道こうどう柊吏しゅりだったのだ、と。

   09 幕開まくあ

 桑野くわの花幸はなゆきは目を覚ました。
 体のしん、特に脳髄のうずいしびれている。目を開けているはずなのに、焦点しょうてんが定まらない。
 白く像を結ばない視界におびえ、また呼吸が乱れる。
 ――また、とは。
 デジャヴを感じながらも、思考や記憶までがかすんでいて、怖い。
 その中で、花幸はなゆきは左手に違和感を覚えた。
 固いベッドに横たわっているはずなのに、波に揺られたような感覚の中、左手だけがつなめられている。
 温かく柔らかな手に握られた、自分の手。
 恐怖心がぬぐわれ、徐々にしびれも引いていく。戻りゆく視界に、ミディアムヘアをらしてうつむく女子が映る。
 二つ歳下の後輩、野副のぞえ香澄かすみだった。
「……かすみ」
 しゃがれた自分の声を聞きながら、花幸はなゆき香澄かすみを見つめる。声に気が付いた香澄かすみは、泣きらした目を見開いて花幸はなゆきと目を合わせた。
「おれは…………倒れた、のか?」
 自明じめいと知りながらも、花幸はなゆきは他に言葉を見つけられなかった。
 香澄かすみはなすすってうなずく。
(何故、泣いているんだろう……)
「先生を呼んで来ますね」
 そう残して、香澄かすみは部屋を後にした。扉の閉まる音が響くと、空調のうなる音だけの、真っ白な部屋に閉じ込められる。
 冷たい部屋の中、け布団から出た左手だけが、ぬくもりを残していた。

 ピストわきに主審が戻り、会場内に決勝戦開始のアナウンスが響く。
 Aグループ、何度も身長差をくつがえし、勝ち抜いてきた最小の騎士きし航道こうどう柊吏しゅり
 Bグループ、騎士きしの前に立ちはだかった、難攻不落なんこうふらくとりで錆湫さびくで重吾じゅうご
 両名がピストに上がり、握手をわすと、会場内は水を打ったように静まり返った。
 柊吏しゅりの手をすっぽりとおおってしまいそうなほどに大きな錆湫さびくでの手にしっかりと握り込まれ、柊吏しゅり錆湫さびくでと目を見交みかわした。
航道こうどう、お前は怖い奴だ」
 かすかに上げた口角、そこから出た言葉に柊吏しゅり眉根まゆねを寄せる。
「怖い……?」
「ああ。敗北をもたらす、怖い奴だ」
 口をきいてみると試合の印象とは随分違うのだな。そう思った自分の妙な冷静さを理解して、柊吏しゅりも少し笑う。
「僕も怖いです。錆湫さびくでさんに剣が届かないんじゃないかって」
 重吾じゅうごは一段と力を込めた握手をして、それ以上に言葉は無く、構えの線へ退いて行く。
 柊吏しゅりもまた、面を付けて主審の確認に先んじて構えた。
「エトヴプレ?」
 準備を問う主審の声に、二人分の「ウィ」と言う声がひびく。
「アレ!」
 初戦の一合いちごうが同時に衝突しょうとつした。優先権の不明な斬撃ざんげきめいた刺突トゥシュが、音を立ててはじかれ合う。
 柊吏しゅりは先制を取るべく真っ先に動いた、だが、重吾じゅうごもまた、今大会で初めて先制攻撃を仕掛しかけて来たのだ。
 双方、意図せず、反応も許されない速度でぶつかったために、二振ふたふりのフルーレはえがいて引き戻され、再び強烈きょうれつ刺突トゥシュり出され合う。
 一つ、二つ、直線の刺突トゥシュからみ合い、はじかれ合い、また直線上へ。
 異様な空気感のまま膠着こうちゃくするも、柊吏しゅりは他の動きを取ることができなかった。
 重吾じゅうごに思考の隙は与えられない。それでいて、こちらも気を抜けば長大なリーチと威力いりょくで貫かれる。
 ――ならば。
 突き出す流れに腰のひねりを加え、柊吏しゅりは何度目かにせま重吾じゅうご剣身けんしんいだ。
 ばちん・・・と大きく外側へはじき出された重吾じゅうごのフルーレを見て、柊吏しゅりひねった腰を撥条ばねに、次なる刺突トゥシュを放った。
 柊吏しゅり自身でもとらえかねる速度の突きが、重吾じゅうご脇腹わきばらを刺して、柊吏しゅりの視界のはしで、緑の光がともった。

   10 剣戟けんげき

 あかりの攻撃が雨ならば、重吾じゅうごの攻撃は噴石ふんせきだ。
 今まで手を抜いていたのだろうかと疑いたくなるほど猛攻もうこうくぐり、柊吏しゅりはフルーレをち放つ。
 いなづまごと刺突トゥシュくうを突いてむなしくれる。
 重吾じゅうご退しさっていた。かと思えば一息ひといき彼我ひがの距離を詰め、うなるフルーレがせまり来る。
 この重吾じゅうごの戦い方は、客席から見れば「ようやく本気なのか」と思えるかもしれない。
 だが、柊吏しゅりには重吾じゅうごに近付くたびけものような荒い呼吸が聞こえていた。
 彼は必死なのだ。必死で、本気で負けると思っている。だから不得手ふえてでも足運あしはこびを限界まで速くして、柊吏しゅりさらなる得点を許すまいとしている。
 一対零、それから一分は過ぎたか。そう思う間におそい来る剣先けんさきなして、半歩退く。
 ぴくり。あごを引いて重吾じゅうごが反応した瞬間を逃す事無く、刺突トゥシュ見舞みまう。
 防御のために振った重吾じゅうご篭手こてはばまれるも、柊吏しゅりは冷静に腕を引いた。
 遅れて重吾じゅうごが振り払うためにスナップする。震える剣は、すきだ。
 胸へのフェイントを掛け、重吾じゅうごの剣が防御に動き、いた重吾じゅうごの右腰に柊吏しゅり剣先けんさきが突き立つ。
 柊吏しゅり重吾じゅうごはじかれたように距離を取り、再び同時にび出した。
 フルーレの剣先けんさき同士が衝突しょうとつし、双方やおら・・・剣を引き、また同時の刺突トゥシュ
 柊吏しゅりえてこれを正面からぶつけた。
 はじかれる剣が、ひねる腰が、しかし動かない。
 思い出したように息を吸う間に、重吾じゅうごのフルーレがしんぞうへ突き刺さった。
 後悔の怒りを脚に流し込んで、距離を取る。
(我慢をしろ、耐えるんだ……!)
 監督の言葉を反芻はんすうして、基本姿勢オンガードに戻る。
 相手は城でもとりででもない。重吾じゅうごの面の奥に、爛々らんらんと燃えるとらの目を幻視げんししながら、柊吏しゅりは瞬時に深呼吸を終えた。

 早鐘はやがねの心臓に合わせて素早くピストをる。前へ、後ろへ。
 航道こうどう射貫いぬかれた脇腹わきばらが、ありもしない痛みを訴えている。
(怖い。……怖い。敗北とは、死だ……!)
 試合で劣勢をする時、重吾じゅうごはいつも過去の声を聞いていた。
『お前のせいだ』
『なんでシュートを決めない』
『パスを寄越よこせば』
『お前でさえなければ』
 それは重吾じゅうごの頭を冷やし、胸を黒くがし、フルーレに込める力を増幅させる。
 無音のいかづちだ。そう思う間に、重吾じゅうご退しさる。
 航道こうどうの腕が伸び切るより早く、大袈裟おおげさなまでに取ってしまった距離を駆け抜けて埋める。
 風切る剣は、まだ届かない。
『お前の足が遅いから』
 引きしぼった剣先けんさきさえもらされる。
 その刹那せつな航道こうどうが止まった。重吾じゅうごの思考も止まり、汗がしたたるのを感じて退きかける体を止める。
 その一瞬、真下からせま航道こうどう剣先けんさきは、さいわいにも重吾じゅうご篭手こてに引っかった。
(――速い!)
 歯噛はがみする間もなく次なる剣が振るわれ、それがフェイントだと気が付いた時には、重吾じゅうごの右腰が穿うがたれていた。
 焼き切れた思考はもう用を成さない。幾度いくたび衝突しょうとつするフルーレをどこか遠くに感じている。
 その中で、真っ赤に燃えるような、誘う点。
 本能で航道こうどうすきを突いた一撃だった。
(ようやく、一つ)

   11 想う人々

 り返される猛攻もうこうの果てに、審判機が四対四の数字を表示して、ブザーが鳴りひびいた。
 初戦は柊吏しゅり重吾じゅうごも全てを出し尽くす勢いで剣の応酬おうしゅうが続き、最終的に同点で時間をむかえていた。
 休憩時間は一分。二人共ピストを離れて肩で息をしている。
 階段状に並ぶ客席に着き、ピストを見下ろす視線を手元のスマートフォンに落として、わずらわしい画面を暗転させる。
 稚気ちきは手前に消える重吾じゅうごから視線をはずし、遠くで面を取って呼吸を整える柊吏しゅりに目をった。
 拭揚ふきようという小さな町で共に育った柊吏しゅりが、たった今り広げられた激戦の当事者なのかとなかば疑いたくなりながらも、稚気ちきは膝に乗せた手を握り込む。
 稚気ちきはフェンシングに打ち込む柊吏しゅひを見るたびに「どうしてそこまで」と、思わずにいられなかった。
 顔が白くなるほどに息を乱し、客席からも分かるほどに手足が震え、それでもなお、ピストをにらむ目は燃えている。
 稚気ちきよりも背が低く、女の子のような顔立ちは昔のまま、努力してきたえた体はそれでもまだ細い。
 柊吏しゅりの顔が、面に隠された。
 ピストに向かう柊吏しゅりの姿と、地区予選を勝ち抜いて県大会への出場を報告してきた実家の玄関先、門灯もんとうに照らされて、頼りなく八の字に上げた眉の柊吏しゅりが重ならない。
『絶対勝つから。まだ、県大会だけど……見に来て欲しい』
 その言葉を思い出して、稚気ちきは両手を胸に当てた。
「つまんない試合したら、帰るから」
 誰にも聞こえないように、稚気ちきは小さくつぶやいた。

 休憩時間は残り二十秒。汗をぬぐい面を付けようとする重吾じゅうごの背中に声を掛けようと思ったのは、これで何度目だろう。
 あおいはズボンのすそを握りめた。
重吾じゅうご!」
 面を着け終えた巨体が振り向く。重吾じゅうごの表情が見えない。
「……らしく行こう」
 わずかな沈黙の中で思い出した言葉が、口を突いて出ていた。
 らしく行こう。このサークルに入った直後、速く動けない事に悩む重吾じゅうごに、あおいが掛けた言葉。
 重吾じゅうごまでの距離は、少し遠い。
「ああ」
 短く答え、重吾じゅうごの背が離れて行く。
(……がんばれ)
 声に出さず、あおいさびしい微笑びしょうで彼を見送った。

 柊吏しゅりよりも少し遅れて、重吾じゅうごがピストに上がった。
 相変わらず大きい、しかしあかりのように細く長い手足というわけでは無い。剣は届く。まだ、あきらめるには足りない。
「オンガルド」
 主審による構えの指示に従い、基本姿勢オンガードを取る。
 休憩を熾火おきびとなった闘争心が、再び燃え盛るのを感じる。
 意識的な脱力とみ付いた緊張に剣先けんさきが震える。
「プレ?」
 略式の確認に、覚悟の声。
「アレ!」
 審判の声が響いた。
 び出す柊吏しゅりに対し、重吾じゅうごは動かない。これが怖かった。
 マッチ間に与えられる休憩時間、この間に重吾じゅうごは冷静さを取り戻している。
 どうする。考える間にも柊吏しゅりすくい上げるようにトゥシュをり出した。狙いは低め、へその辺りへ。
 上から振り下ろされる重吾じゅうごの剣、そのつば柊吏しゅり剣先けんさきを叩き落とした。
 れた剣先けんさき重吾じゅうごまたの間を抜けて、柊吏しゅりは腕を伸ばし切ってしまう。
 見上げた先から、柊吏しゅりの左胸へと重吾じゅうご刺突トゥシュが駆け抜ける。
 赤いランプがともった。
 剣を引くのは間に合わない。退しさ柊吏しゅりに、重吾じゅうごは大股の一歩でせまり来る。
 柊吏しゅりはそこに、立ちはだかる城を幻視げんしした。

   12 後退

 追いすが重吾じゅうご剣先けんさきを払う。
 後退の最中さなかにあった柊吏しゅりは、着地と同時に前傾した。体幹がブレているが、構わず刺突トゥシュを放つ。
 重吾じゅうごの体が柊吏しゅり剣先けんさきと同時に奥へ。ここで逃がせない。無理にでも脚を出し、とにかく剣先けんさきを当てる事だけを考えた。
 その目的だけは、果たされた。
 柊吏しゅり剣先けんさき重吾じゅうごどうに触れ、しかし審判機は緑の光をともさない。
 審判機が検知する圧力を剣先けんさきに掛けられなかったのだ。
 頭を冷やすべく、柊吏しゅりは距離を取り大きく息を吸う。
 重吾じゅうご気圧けおされたように動きを止め、じりと足を前に出すだけだった。
 沈黙の時間は己でさえ邪魔になる。詮無せんなあふれ出す思考を前進で振り払う。重吾じゅうごは防御の姿勢で動かない。
 柊吏しゅりのフルーレは中段に構えられ、狙うべき場所を示していた。

 航道こうどうの動きは人並ひとなみはずれて速い。
 重吾じゅうごは同点で乗り越えた一戦目を踏まえて、二戦目では得意とする体幹崩しから試合の流れを奪うつもりだった。
 しかし、航道こうどうは素早く重吾じゅうごの剣に対応し、さらなる攻撃を加えてくる。
 後退と同時に無理な体勢で食らい付いてきたのがその証左しょうさだ。
(恐ろしい……)
 だが、その歯牙しがわずかに届かず、二戦目の零対一は動かない。
 安堵あんどの息を漏らして、距離を取った航道こうどうにらむ。たった数瞬の内に息を整えたのか、航道こうどうは再び電光石火でんこうせっかの勢いで重吾じゅうご腹目掛はらめがけてんで来た。
騎馬兵きばへいごとく腰だめのフルーレは何処どこを見ている!?)
『落ち着け、冷やせ。らしく行こう』
 熱した頭に二人分の声、桑野くわのの姿、様々な人達に背中を押された。
 重吾じゅうご航道こうどうと入れ替わるように前に出た。入れ替わりの刹那せつな航道こうどう刺突トゥシュ、その剣身けんしんを叩いて攻撃権をぎ取る。
 航道こうどうの頭だけがその動きに反応していても、腕や足が着いて来ていない。
 重吾じゅうごは、航道こうどうの背を、剣先けんさき穿うがった。

 いつだって、対戦相手は思うように動かない。
 二戦目が幕を開け、一分足らずで二点を奪われた航道こうどうを見て、彼の監督を務める東海林しょうじ壱馬かずまくちびるを噛んだ。
 錆湫さびくでという、冷たいマグマのような選手の本質を見抜けなかった自分に腹が立つ。
 錆湫さびくではただ冷静に堅牢けんろうな剣を振るう男では無かった、それほど単純では無かった。
 いつだって壱馬かずまはあと一歩の読みが足らない。だから、負け続けてきた。
 もしも自分ならば、航道こうどうように初戦は乗り切れなかっただろう。
 己の指導の元、素晴らしい選手としてピストの上で舞い、戦う騎士達きしたちほこらしく思いながらも、毎度のごとく、壱馬かずまは歯噛みした。
 俺がもっと目のえた監督なら。俺がもっと先を読む頭を持つ監督なら。
 女々めめしいと知りながら、もしも、もしもが脳裏をめぐり、それを払うべく爪を立てて両手を握り合わせる。
 今思うべきは一つ。
航道こうどう、頑張れ……!)

 試合時間が二分を経過した。
 もつれた足を見逃す重吾じゅうごでは無い。容赦無ようしゃな柊吏しゅりの胸元はち抜かれ、三点目を奪われた。
 残り一分。
 荒い呼吸、酸素の間に合わない視界は薄靄うすもやに沈み、手足は厚い手袋をしたような感触。握っているはずのフルーレが遠い。
 じっとりと水中にあるかのような進みで、重吾じゅうご剣先けんさきせまる。
 思考だけが速い。体は何十秒も遅れているみたいだった。そのせいで、重吾じゅうご剣先けんさきつばで受け止める形になってしまった。
 剣先を押さえられた重吾じゅうごのフルーレが大きくたわむ。かと思いきや、剣先けんさき程近ほどちかい辺りで折れた。
 その、いびつなフルーレが、柊吏しゅりの左肩に当たり、ユニフォームを貫く。
 その痛みで景色が急激に速く回り――いや、柊吏しゅり自身がころげていた。
 視界の左側で、重吾じゅうごが持っていたはずのフルーレのつかが揺れている。
 主審の声や観客の悲鳴はどこか他人事ひとごとで、柊吏しゅり呆然ぼうぜん天井てんじょうのライトを見つめていた。

   13 時間

 駆け付けた医療班に、航道こうどうはその場での応急処置を希望した。
 胡座あぐらをかき、左腕を差し出す航道こうどうに気を取られ、重吾じゅうごは監督に差し出されたえのフルーレを取りこぼす。
 かしゃあん、と音を立てて落ちたフルーレに多くの人が目を向けた。
 だが、航道こうどうはじっとピストの方向、審判機を見つめている。重吾じゅうごを含め、恐らくこの会場内の誰もが彼を気にする中で、航道こうどう柊吏しゅりだけは戦い続けていた。
 試合としての勝敗でもなく、実力という言葉でも足りない、しんの部分での敗北を、重吾じゅうごは感じた。
 傷は浅いらしいが、肩の関節近くを負傷した航道こうどうに医師が再三さいさん説明をするも、聞く耳を持たない航道こうどうに軽く首をかしげた医師を先頭に、医療班は会場のはしけて行った。
 試合が再開されようとしている。
 それぞれが所定の位置に戻り、客席の騒ぎも徐々に引いている。
 航道こうどうもまた、何事も無かったかのように面をかぶり、ピストに立った。
錆湫さびくで選手」
 主審の声に重吾じゅうごあわててピストへ戻る。
 面をかぶろうとして、今まで装備したままだったと思い出し、航道こうどうよりも少し遅れて構えを取る。
「落ち着け……冷やせ……らしく……らしく……」
 ね回る心臓に小さな声で言い聞かせ続ける。
「プレ?」
 主審の声に。
「ウィ」
 一際ひときわりんとした声が響いた。重吾じゅうごは声を出していない。
 会場内が静まる。
「アレ!」

 出血か、痛みか、いずれにせよ柊吏しゅりの頭はき通っていた。
 残り四十七秒をきざみゆく審判機はきちんと一秒ごとに動く。先手に駆け出した柊吏しゅりむかつ体勢の重吾じゅうごも、一挙一動が空気の中にある。
 此処ここ、と打ち込んだ刺突トゥシュ重吾じゅうご剣身けんしんはじかれた。
 しかし、重吾じゅうごの動きはにぶい。余波か迷いか、れるフルーレに自身の剣をすべらせながらどうへと。重吾じゅうごはそれを避ける。だからこそ、ワルツを踏むように重吾じゅうごの剣を押し込みながら、前へ。
 剣身けんしんを伝って重吾じゅうご動揺どうようが分かる。その波の狭間はざまで、柊吏しゅりは剣をね上げた。
 音も無く飛び上がったフルーレが重吾じゅうごの腹をけずり、向こう側へ抜けていく。
 退しさる中で、柊吏しゅりは緑の光を見た。
 お返しと言わんばかりに重吾じゅうごの剣がせまるのは理解していた。その映像に合わせて噛み合うように回転する。
 ――そんな事をすれば背をたれる!
 叫ぶ恐怖心を溺死できしさせて、柊吏しゅりは根拠の無い自信に身を任せた。
 つばに受け流された重吾じゅうごのフルーレがむなしくれるのを見たのは瞬間で、次に映ったのは重吾じゅうごの腹。そこに押し当てるように剣先を向ける。形だけ伸ばし切った腕を認識した途端に、柊吏しゅり退く。
 重吾じゅうごもまた、弱々しく後退した。
 二試合目はこれで二対三。全体で六対七。まだ。
 構える前に一つ息を吸う。瞬間、重吾じゅうご剣先けんさきが眼前に伸びて来ていた。
 空冷くうれいを受けた頭で剣をはじき合う。重吾じゅうごはそれに乗った。
 柊吏しゅりが詰めようとすれば退さがり、さらに踏み出せば突いて来る。
 重吾じゅうごは落ち着きを取り戻したようだった。
 柊吏しゅりは奥歯を割れんばかりに噛み締めた。
(限界まで。辛抱強しんぼうづよえる……!)
 決勝戦を控えた柊吏しゅりたくされた言葉を、掘り起こす。
『つまらない試合にはしない』
『今大会、優勝する』
(この、目の前の壁を、突き崩して!)
 得点の寸前すんぜんり返す攻撃権の奪い合いの中で、柊吏しゅりは大きく剣を振りかぶった。
 横に真一文字まいちもんじの光。
 背を見せるように体勢を崩した重吾じゅうご肩甲骨けんこうこつへ、流星のごと刺突トゥシュを。
 その最中さなかで、ブザーが鳴った。
 衝突しょうとつしてたわむフルーレから送られる信号は、もう受け付けられない。
 六対七、二試合目の時間が、切れた。

   14 勝者

 三戦目の開始はすぐだった。
 呼吸を整えている内に審判の号令がかり、重吾じゅうごそろって柊吏しゅり基本姿勢オンガードを取る。
「アレ!」
 号令と共に来たのは強烈きょうれつ刺突トゥシュ
 砲弾ほうだんのようにんできた重吾じゅうご剣先けんさきらしきれずに、柊吏しゅりの左肩の先に当たった。
 双方退いて仕切り直されたピスト上、今度は柊吏しゅりが先に前へび出した。
 重吾じゅうごの防御は柊吏しゅり刺突トゥシュよりも速く、ゆえ柊吏しゅり剣先けんさきが腰骨の辺りに突き立つ。
 怖い。試合の直前に重吾じゅうごが言った言葉が柊吏しゅりの頭を過ぎ去っていく。
 再び先んじて動いた柊吏しゅりに対し、重吾じゅうごは大きく体を開いた。
 誘われるように踏み込みかけた足を攻撃の起点として、剣先けんさきの届くギリギリで踏みとどまる。
 二条ふたすじの光が重なり合い、フルーレが柊吏しゅりの物だけはじかれた。
 かた重吾じゅうご剣先けんさき柊吏しゅりにらんでいる。理解できても防ぐすべを持たない柊吏しゅりの胸を、フルーレが穿うがつ。
 ――敗北をもたらす。それは、ピストに立てば誰しもがそうなる。
 逃げる重吾じゅうごを追って、雷撃らいげき刺突トゥシュ
 平行に構えた鏡のように、航道こうどう柊吏しゅり錆湫さびくで重吾じゅうごしのぎけずり合った。
 必殺の刺突トゥシュが八度、わされ合う。
 まだ一分とたぬ間に、柊吏しゅり断崖絶壁だんがいぜっぺきへと追いやられた。
 ここで五点目を奪い、延長戦か。奪われて、敗退か。
 九度目の攻撃権は柊吏しゅりの物となった。実直に放つ最速の剣が巻き取られる。
 巻き取れるものならと、柊吏しゅりは腰をひね重吾じゅうごのフルーレ諸共もろともじくを無視した回転を加える。それに気が付いた重吾じゅうごは反対方向へ腰をひねり、わきめ、大樹たいじゅと化して立ち止まる。
 じゃりりり、と耳障みみざわりな音と落ち着いていくフルーレの振動、二人は瞬時に剣を引きしぼり、柊吏しゅりは次なる刺突トゥシュへ繋げる。
 重吾じゅうごは止まり、防御の姿勢を見せている。
 考える間も持たずに、柊吏しゅりは真上へんだ。
 驚愕きょうがくに片脚を退重吾じゅうごの心臓。一点に集中した光線。
 貫いた剣はしかし、何も得なかった。
 光はともっている、だが、審判が、人間が柊吏しゅりに攻撃権を認めなかった。
 絡んだフルーレを払ったのは、重吾じゅうごだった、と。
 着地の足でピストを蹴飛けとばして後ろへ。
(まだだ。限界まで。辛抱強しんぼうづよく、える!)
 重吾じゅうごすでに前へ出ていた。刺突トゥシュと同じ動作をもって重吾じゅうごの剣を打つ。
 弱い。距離が足らない。
 柊吏しゅりのフルーレを大きくまたぐように、重吾じゅうごのトゥシュが、柊吏しゅりの右肩をち抜いた。
「アルト!」

   15 敗者

 叫び声が木霊こだまする。
 拭揚ふきようの町、その一角にある高架下こうかしたしげる雑草にまみれて、柊吏しゅりは叫んでいた。
 言葉にならない叫びはよいやみまれゆくそらに似て、暗くかなしい。
 手当たり次第に雑草をむしり、地面を叩き、涙をぬぐざま自罰じばつした。
 それはいくらかすると電車の音にき消されて、またあらわれる。
 最早もはや、何をやんで、何に泣いたのか分からない。
 それでも抑えきれない衝動しょうどうが、顔中からあふれ出した。
 変声期を終えてもなお高かったはずの声はしゃがれて罅割ひびわれ、けものじみている。
 嗚咽おえつも子供のようでありながら、化け物に聞こえた。
 それを確かに聞く理性が、憎かった。
 柊吏しゅりはただ、泣き叫び続けた。

 あかりは帰りのバスの中、天井てんじょうかられ下がるモニターに映るバラエティ番組を、無感動にながめ続けた。
 決勝戦が終わり、閉会のセレモニーをる間、ずっと考え続けていた。
 柊吏しゅり錆湫さびくでのフルーレが真剣しんけんだったなら、と。
 それならば、フェンシングという競技としての試合でさえ無ければ。速さにいては。考えては二人に失礼な事だと吹き消し、それでもまた、狼煙のろしのように上がり続ける考え。
あかりあかり、あかり。おい!」
 肩をさぶられて、窓外そうがいに見慣れた風景があるのに気が付いた。
 バスはあかりの寮に到着していたのだ。窓際であかりを待たざるを得なかった友人を除いて、バス内には誰もいない。
「疲れてんなら部屋行って寝ろ。風呂は明日でも良いだろ」
 追い立てられて、あかりは通路に出る。
「か、ば、ん!」
 足元に置いていたスポーツバッグを受け取りながら、あかりが「ごめん」としぼり出した声は、余りに小さかった。

 花幸はなゆきは街灯の明かりが届かない歩道橋を歩いていた。
 よく晴れたよいの空。錆湫さびくで空洞くうどうめいた面に似ているなと思いながら、手摺てすりに指を乗せて、トラックが行きう大通りに目を落とした。
「先輩!」
 先を歩いていたらしい香澄かすみが、悲鳴に似た声を上げて花幸はなゆきの手を取る。
「へっ……変なこと、考えました……?」
 きょとんと目を丸くする花幸はなゆきに、香澄かすみは大きな目をさらに大きく丸くして顔をせる。
「すみません! 勘違かんちがいでした!」
 その姿に、花幸はなゆきは自然と笑みをこぼす。
流石さすがにそこまでは無いって」
 肩に掛けたかばん、それを抑えていた方の手を、香澄かすみの小さな頭に乗せる。
「ありがとう」
 花幸はなゆきはそれだけ残して、先を歩いた。
 遅れて、香澄かすみの足音が後ろから続いてくる。
 香澄かすみの家は、花幸はなゆきの街とは全く違う場所にあることを、彼は知らなかった。

 競技館が震えている。
 力無く礼を終えてピストを降りる柊吏しゅりを見つめて、稚気ちきは膝を抱えて背中を丸めていた。
「つまんないよ」
 つぶやいた声は、彼女だけの物だった。
 会場内に満ちる歓声や悲鳴が、すぐ隣に座る柊吏しゅりの母親にさえ届けさせない。
 そそくさとハンドバッグを膝に乗せ直して、後に続くセレモニーの間、稚気ちきはぶすっとした表情を審判機に向け続けていた。

 ベンチに戻った航道こうどうを座らせて、壱馬かずまは他のサークルメンバー全員をねぎらい、決めておいた言葉を投げかけ、涙をこぼした。
 項垂うなだれる航道こうどうに、それは見えなかっただろう。
 だが、それを見たサークルのメンバー達は同じように泣いたり、沈痛ちんつう面持おももちでセレモニーをむかえた。
 歓声の雨が、重く降りしきる。

   16 KNIGHTS

 ざわめきを払った。
 試合開始の前の基本姿勢オンガード、その動作を大袈裟おおげさにして風を切る音を立てる。
 海樹うみきあかりの働きで集められた人々が押し黙り、小さな体育館にいた、安いピスト上の空気が一気に張り詰める。
「アレ!」
 主審を務める東海林しょうじ監督の声で、柊吏しゅりが先に、遅れてあかりが動き出す。
 相変わらず長い手足で、するするとトゥシュをなされ、二ヶ月の練習の成果がうかがえる。
 だけど。
 その念を踏み込む足に込めて、柊吏しゅりの一点目が決まった。

 錆湫さびくで重吾じゅうごは全国大会のなかばで負けた。
 しくも似たような剣技をきたえてきた四年生を相手に、延長戦の一手が届かなかった。
 だから、渾身こんしんの力でトレーニング器具を引く。
 はち切れそうなほど太い腕は、県大会の頃よりも一層きたえ上げられている。
 引退までの残る三大会、敗北の苦汁くじゅうかてに、重吾じゅうごうなり声を上げた。

 花幸はなゆきは同学年の友人達よりも一足先に、引退ねがいを監督の元へ提出していた。
 県大会の後、四年生にはまだ、あと一度のチャンスがある。
 それに加え、花幸はなゆきにはプロへの道が示されていたが、それも同時にっていた。
 引退のむねをメンバーに伝えた日、三年の頃から花幸はなゆきに付き従い、良きマネージャーとして活躍した香澄かすみに恋心を伝えられ、花幸はなゆきはそれを断った。
 歳上の彼女が遠方に居ると嘘をき、髪を切った花幸はなゆきは就職活動に従事じゅうじした。

 総合点、七対七。
 延長戦に突入した。
 一点先取で決まる戦い。三回戦の間り広げた激戦を塗り替える剣戟けんげきで、柊吏しゅりあかりのフルーレが舞う。
 あかり柊吏しゅりの剣をはじき、胸元へ突き出した剣先けんさきはしかし、かすめただけ。
 柊吏しゅりは素早く体をらし、あかりの剣を外へとはじき出す。
 想像だにしない膂力りょりょくで飛ばされたフルーレがあかりの手を離れ、迷い無く撃ち出された柊吏しゅりのフルーレが鳩尾みぞおち穿うがった。
「アルト!」
 掛け声はあったものの、海樹うみき陣営からは試合の取り直しを求める抗議の声が上がる。
「やめろ、やめろってば! 今のは俺が悪い。スタミナ切れ」
 降参するように手を挙げたあかりに止められて、海樹うみき陣営の男達は不満そうに引いて行った。
「……くっそー! 柊吏しゅり! お前」
 癇癪かんしゃくを起こして地団駄じだんだを踏みながら、あかり柊吏しゅりと面をぶつけあった。
「っあかりには、負けないよ!」
 息を切らしながらの柊吏しゅりに言われ、あかり金切かなきり声を上げて地団駄じだんだを踏む。
「次、次!」
 交流戦は、柊吏しゅりあかりが初戦を飾っていた。

 稚気ちきのスマートフォンが震える。
 通知の一覧に、柊吏しゅりが画像を送信したとだけげる文字。
 タップして開いた先で、何人もの騎士達きしたちが肩を組んで笑っていた。
「…………あーあ! つまんない!」
 喫茶店内に響いた稚気ちきの声に、常連しか居ない店内が、笑い声で満ちた。


   あとがき

 本作〈KS〉は、私が創作の方針を固める過程で執筆した作品です。
 当時、イラストを描く事を中心として、時折、小説や詩を書く中で、より多くの人に作品を見てもらうには、そして、見た人が心に残してくれる作品を作るにはどうしたら良いのかと、悩み続けていました。
 絵を描く筆は速くなく、友人から漫画を描く事を提案されたりもしましたが、幾つもの絵を描き続ける漫画にイマイチ熱意が出せず、そこに思い至って、小説を真剣に書こうと思い始めたのです。
 しかし、内輪へ向けた小説も、友人達の心に残る事はなく、そんな中で「あぁ、この人達は私自身に興味はあっても、私の作品には本当の意味で興味が無いんだな」と気付かせてくれる切っ掛けがありました。
 その事実に気が付き始めてから、インターネット上の、作品だけで関わる事を目指したくなり、頭の中にファンタジー作品を描く事が浮かび上がったのです。
 しかし、その為には今まで小説で描いた事の無い「戦闘描写」が必要であり、その練習として、再び内輪向けに書いたのが、本作〈KS〉だったのです。

 この頃、東京オリンピックの中継で観たフェンシングの大会を思い出していました。
 ルールも詳しくは知らず、選手の詳細も知らないまま観ていたのですが、熱い戦いに胸を膨らませたものです。
 そういう記憶があったので、大学生のフェンシング大会を舞台として、戦闘描写の練習をしようと思い至ったのです。
 そして、〈KS〉を書いた感触や反省を元に、過去にnoteで連載した、ファンタジー世界の闘技場で起きた一幕を描く物語〈剣闘舞曲〉が生まれました。
 〈剣闘舞曲〉は、現在制作中(第一章の最終話まで投稿済み)の〈パラレルジョーカー〉と同じ世界の物語であり、五年前の出来事を描いた小説です。
 〈KS〉とは世界もテーマも異なる作品ですが、作者の視点だと、薄く繋がりがある。
 不思議な繋がりですが、五年間も創作を続けていた軌跡を感じられて、言葉にできない感慨があります。

 ここからは、本作の登場人物、その関係性などについて書いていきます。
 まずは、本作〈KS〉の主人公、航道こうどう柊吏しゅり
 本作のタイトルは、彼の頭文字から来ています。
 というのも、柊吏という人物は、私が友人と交流する中で生み出したキャラクターで、その際に「フェンシングサークル所属、背の低い大学生」という設定まで決まっていたのです。
 そして、彼を主人公として小説を書こうと考えた時に、偶然「Knights」つまり騎士という意味の英語に、柊吏の頭文字が入っている事に気が付いたのです。
 Knightsの頭と末尾を取って〈KS〉。
 柊吏無くして、本作は書けませんでした。
 柊吏は、物語の後もフェンシングを続ける事でしょう。
 どれだけの間――例えば、プロになるのかどうかは分かりません。
 しかし、本作での出逢いと敗北は、柊吏を大きく成長させた事でしょう。

 続いて、柊吏の幼馴染である三ツ川みつかわ稚気ちき
 苗字は作中で登場しませんでしたね。
 彼女も柊吏と似たような流れで生み出した人物で、柊吏を出すなら稚気も出さなきゃだろう。と思い、登場させました。
 稚気と柊吏が今後どうなるのかは、誰も分かりません。
 稚気が素直になれば、柊吏との関係が変わっていくのかもしれませんね。
 ところで、「稚気」という言葉が日本語に存在します。
 幼い様子を表す言葉ですが、私が彼女の名前にこの言葉を選んだのは、そういう幼い心を忘れない事の良い点を描きたかったからです。
 子供っぽい事は、欠点として扱われる事が多いのですが、そういう心も忘れちゃいけないよなぁ。という、そういう気持ちで。

 柊吏と稚気以外の人物は、本作を書く中で新たに創作しました。
 柊吏と共にフェンシングを続けた海樹うみきあかり
 己の在り方に迷い、騎士道を外れ、有り触れた道を選んだ桑野くわの花幸はなゆき
 圧倒的な強さと、それに比例した恐怖心を持つ錆湫さびくで重吾じゅうご
 彼らのその後は、作中にてほんの少し先まで描きましたが、そこから先は明確にしていません。
 しかし、幾つかは決まっています。
 例えば、重吾は己を鍛え抜き、恐らくプロの選手になっていくでしょう。
 また、花幸を様々な面で慕っていた野副のぞえ香澄かすみは、彼女が諦めなければ、花幸と結ばれる未来もあるでしょう。
 短い期間で見れば、辛い事があったとしても、長い目で見れば、報われる人々だけであって欲しい。
 〈KS〉の世界では、現実に近いが故に、取り返しのつかない描写を避けました。
 道は、人が死ぬまで続くものですから。
 彼らが生き抜き、辿り着いた先は、幸福であって欲しいという願いを込めて。
 それはまた、現実への願いでもあります。

 ここまで読んで下さった方、誠にありがとうございます。
 もしも私の作風を気に入って頂けたなら、過去作も楽しんで頂けたらと思います。


   追記:人物イラスト

 二〇二四年、九月十三日、本作〈KS〉の主要人物を描き下ろしました。
 ご自分の中でのイメージを壊したくない方は、見ないようにご注意ください。

 また、画像の中の数字(10min)は、何分で描き終えたかというメモ書きです。お気になさらず。

主人公。少年とかボーイッシュな女子に見える、男子。
溌剌としたイケメン。試合中は髪を固めてる。
でかい優男。チャラチャラしているが、生真面目でもある。
デカい、ゴツい、繊細。故に強い。
壱馬さん単品で描くのは変だったので、ヒロインという事にした。

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