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「良太」 5話完結 短編小説

 コンクリート駆ける流星を見て、良太は何本目かの煙草(たばこ)に火を点けた。
 町と外を繋ぐトンネル、そこへと続く三叉路(さんさろ)を一望できる縁石の上、尖らせた唇で煙草をつまんだ少年、良太が座っていた。
 昼間は焦(じ)らされた、その腹いせだ。そうとでも言うように急ぐ車たちが、トンネルから現れ、トンネルに消えていく。
 時折あんまり速度を出すので、煙に紛れたまま光の粉のようになる車もあった。
 その光景を見つめる中で、良太はちらちらと周囲を見回す。
 良太は何かを探しているわけではない。ただ夜闇に立つ物影が人の形に見えて、背を冷やすのだった。
 未成年の良太が、運輸トラックの占有する路端(ろばた)で喫煙し、その足元には空いたビールの缶を転がしている。そんな姿を咎(とが)める人がいるのではないか、またそれとは異なる恐怖を振るう者が訪れるのではないか。
 そう思ってはウィンドブレーカーを鳴らして身を捩(よじ)るのだった。
 また、その緊張感は瞬間的に無くなることもあった。
 咥(くわ)えた煙草、それを強引に燃焼させては残骸を吹き出す。これを繰り返す時は緊張など鳴りを潜めていた。
 味など無い煙、ただ身近なあの人々が吸うものだから、真似て咥え、燃やしては放るを繰り返す。
 好きとも嫌いともつかない、ただやってみるの延長にあるその行為は奇妙にも良太を落ち着かせ、肩を持ってくれているようにも感じられた。
 煙は好きかもな。
 吹き出した煙が幾つもとぐろを巻く姿を見て、良太は独り言(ご)ちる。
 その声を聞きつけたように、また一つ乗用車が通り過ぎた。それもまた良太の背を冷やす。
 トラックに紛れて乗用車が通るとき、良太は赤いランプを警戒していた。
 いや、もしかしたら良太は誰かが来るのを待っていたのかもしれなかった。
 通り過ぎようとした車がスピードを落として、駐車場も店も無いこの場所に停まって、そうして扉が開かれる音を。
 おい、と声を掛けて、少し空いた距離から見ず知らずの人間が接近してくるのを。
 ビニール袋に詰まった缶と箱が潰れきるその時まで、良太は待っていたのかもしれなかった。
 結局、夜空が青に変わろうとしたので良太はゴミを置いたまま縁石を立った。
 刹那、前方の道を特徴的なパンダカラーが通り過ぎた。
 ランプはついていないが、間違えようのない車体。良太はその夜一番の冷や汗を吸った上着を、帰宅と共に洗濯籠に詰め込んだ。

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