【短編】贋僕、贋冒険小説を書く
江東区から舟が出るというので僕そこへ。贋港。最近なんでも贋物だ。本物の回復。むつかしい問い。しばらく思考は放置だろう。
僕含めみんな大学生。時代の潮流に順当に乗って大勝利。その気分はたとえばフェラーリ612スカリエッティの助手席に乗せてもらって高速道路を逆走している生活感覚。家族が問題ないと言う。だから問題ない。
「アニョハセョ」
外国籍彼女と贋港で待ち合わせ。
昨今の贋物ブームに乗って贋ケチャやってる贋無人島に行き、僕は彼女とデートして贋初体験する計画。そこでの僕らの設定は中学生。現地では学生服が用意されてる。詰襟と胸元リボン。贋修学旅行ってわけだよ。贋キス贋セックス万歳。忘れちゃいけないのは彼女も贋彼女だってこと。贋韓国産贋彼女。もちろん長澤まさみ似に整形済。もちろん贋処女膜。贋コンドーム使用。そして贋避妊失敗。
贋妊娠。
贋結婚。
贋出産。
贋家族。
贋育児。
贋の山盛り。僕は贋人生にそぼろ状の期待を賭けている。
「投げ遣りニダ」
「うん投げ遣り」
僕の話聞いて贋彼女笑う。嗚呼。芯から可愛い。
贋無人島は大賑わいだった。いま贋ケチャ見てる。仕合せだ。群集と一体化した時に滲み出る子供じみた安堵感。
けど群集の一人が贋ケチャに文句。眼前で踊る贋ケチャの踊り手が実は黄色人種が全身に黒ドーラン塗って誤魔化してること声高に指摘。みんな気付いてること今更ね。無粋だなあ。
「贋物でも贋物だと言うまでは本物ニダ」
おおお彼女、頭、良い。
その後、僕らは捕まった。列島の外、贋大陸の人たちが首謀らしい。攻めてきた。本当のこと分からない。雁字搦めの拘束。意図不明。使途不鮮明。意識の混濁。最近はいつだってそう。立ち往生。如何ともしがたく折合の付け方が分からない。
そこから僕らは一瞬の隙を突いて逃げ出した。
「どうせ捕まるニダ」いじましい努力を無に帰す言葉。
「そろそろ贋彼女契約が終わるニダ。延長料金を払うニダ」ままならぬ金銭問題。
贋彼女去る。帰り道分からない。後姿、すがる思い。
見捨てられたんだ。勝手な解釈。それでも僕走る。徒労が翌朝に訪れると知りながらの作業。
唇を噛む。
砂粒が口中に混じる。
贋心臓、高鳴る。
むつかしいことなにもない、ままごと遊び。
再び拘束された。
殺すと言われた。嬉しかった。涙が出るほどに。これで終われる。来世があればの話ですが、どうか次は良い時代が築けますように。
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