見出し画像

短編小説「体育館大便遺棄事件」

あのとき俺は、教育委員会の手が届かない腐敗した小学校で、いつも通り、体育の授業をサボるために保健室の体温計を摩擦で工作していた。空はいつにも増して青いような気がした。

不要な教師の中でも輪をかけて不要な体育教師に仮病報告に行こうとしていた矢先の出来事だった。

なにやら体育館の前に人集りができている。まるで炊き出しに群がる乞食のように。
どうやら体育館の中に何かあるようだ。

「おい、一体全体どうしたっつーんでい」

俺は一番幸の薄そうな女に江戸っ子口調で尋ねた。幸せそうな女には話しかけたくないからだ。

「体育館の中央にうんちが置いてあるってもう大騒ぎなの、これじゃあ体育の授業が始まりませんわ」

旧ニッポン放送のような音質で答えてくれた幸の薄そうな女を無視して体育館の中に入ると、そこには山盛りのうんこが遺棄されておりその周りをうんこと同じ色のジャージを着たくさそうな体育教師と悪臭で吐きそうな容疑者らしき人物が囲っていた。

「この中に犯人がいるのは確定しとるんじゃい、さっさと名乗り出んか。こんなホカホカのうんち漏らしやがって」

給料泥棒の体育教師が野毛山動物園の吠え猿のように知性を感じさせない言葉で喚き散らした。

「私達は犯人じゃない!」

「そうだ!こんな粒みたいなうんこはしない!」

「これはなにかの陰謀だわ!」

3人の容疑者が便だけに弁明している。どうやらアリバイがないらしい。すると給料泥棒は声を荒げて叫んだ。

「ええい、黙れ黙れ!こうなれば3人まとめて退学処分だ!!!」

「え〜3人は犯人ではありません」

気がついたら話に割って入っていた。別に正義感なんてない。真実を明らかにするという当たり前のことに加担するだけだ。

「そこまで言うなら根拠を示せるんだろうな」

給料泥棒は目を血走らせながら鼻息を噴射して距離を詰めてきた。

「まず、一人目の女だが馬鹿みたいにスカートの下にジャージのズボンを履いている。うんちを体育館の中央で漏らそうとする人間がわざわざ動きにくいジャージを履いてくるでしょうか」

「次に二人目の男。この男は百姓の息子だから職業柄、貴重な肥やしであるうんちを体育館に遺棄するような勿体ない真似はしない」

「最後に3人目の女だが、そいつは1ヶ月前から便秘で、そいつの腸内のうんちと遺棄されたうんちの量を足すとキャパオーバーであり、その女のうんち貯蔵容量を超える。あり得ないでしょう」


「た、たしかにそうだ…な、なら誰が犯人だと言うのだ!!」

余談だが俺はIQ10000だ。見下すつもりはないが給料泥棒のあんたとは頭の出来が違う。これから真実を解き明かしてやろう。

「え〜、犯人は体育教師のあなたですね」

周りを囲んでいた人間たちがどよめいた。何度聴いてもこのどよめきは気分がいいもんだみん。

「な、なにを言うか、根拠は示せるのか」

たじろいだ様子の給料泥棒はズサっと後退りした。まるで、山でクマと鉢合わせた登山家のように。

「まず、あなたはうんこ色のジャージを着ていますね。これはカモフラージュですね。万が一、うんち漏らし実行中に服にうんちがついても目立ちませんからね」

「そして、あんたの態度。周りは悪臭で吐きかけてるのにあんたは平然としている。これは嗅ぎ慣れた自分のうんちだからですね」

「そして、決定的な証拠です。あなたのズボンの裾に粒うんがこびりついています。その粒うん、DNA鑑定にまわしますか?」

張り詰めた空気の中、しばらくして給料泥棒は沈黙を破った。

「いつから気付いてたんだ?」

「あなた、最初にほかほかのうんちって言いましたよね。いつ漏らされたかわからないうんちがなぜほかほかだってわかったんですか?そんなことわかるのは漏らした犯人くらいです」

「負けたよ。仕方なかったんだよ。体育館は俺のテリトリーだってことを知らしめるためにマーキングしてしまったんだよぉぉぉぉ!!!」

その後、その体育教師は懲戒免職になり練炭自殺したらしい。マスコミは体育教師のうんち漏らしトリックを見破った俺を叩いた。SNSでも俺に対する誹謗中傷がどっさり書かれた。心神喪失しかけた俺はブータンに飛んで僧になった。10000のIQを活かして俺はブータンの国を豊かにするために生きることになった。

「これが俺の物語だ。さぁ、次は君の話を聞かせてくれないか?」



「症状が進行しているので投与する薬を変えてみましょう」

目の前の白衣姿の男はそう呟いて部屋から出て行った。俺は制服姿の男二人に繋がれて鉄臭い扉の向こうに押し込まれた。この悪い夢はいつ頃醒めるのであろうか。

ー完ー


書いた人 : 脳溶け夫

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?