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短編小説『バンドマン』

俺の名前はケント。25歳バンドマン。中学生の頃からギターをやっているが、指をうまく動かすことができない。それゆえ、メンバーとセッションすると必ず音ズレが発生する。

当然メンバーからダメ出しされ、我慢できない俺は喧嘩をふっかけ、バンドを解散させてしまう。毎回、結成しては解散を繰り返すことから、俺は周りから”バンドクラッシャー”の異名で恐れられていた。

俺は高校卒業後、プロのミュージシャンを目指すためにギターの専門学校へ進学した。プロを志す人たちが全国から集まっていることから、授業のレベルも段違いに高い。俺は毎回先生に音ズレを指摘され、イライラが溜まっていた。

我慢できなかった俺は堪忍袋の緒が切れて、ライブ中に暴れ狂うカードコバーンのようにギターを叩き割った。限界を知らない俺は壊したギターを黒板に目掛けて思いっきり投げた。慌てた先生は警備員を呼び出し、俺を学校の外に追い出した。俺は2日で学校を退学になったのである。

退学した俺はアングラなライブハウスへ出入れするようになり、マスターの使い走りをしながら、ミュージシャンとしての活動を続けた。とは言え俺の演奏技術はマスターからも不評だった。そのためライブに出してもらえず誰もいない時ぐらいしか演奏を許されていないのだ。

こんな俺だがライブハウス外なら演奏してもいいんじゃないかと考えた。俺はライブハウスの使い走りを辞め、路上ミュージシャンに転向した。早速アコースティックギターを持って、駅周辺で弾き語りを始めた。すると皆俺の演奏を聴いては嘲笑し、トマトを投げてくる輩まで現れた。

身の危険を感じた俺は路上ミュージシャンを辞めて、路頭に迷った。ミュージシャン一本で生きてきた俺はギター以外のスキルがない。そのギターのスキルでさえあまりの下手さでそれ一本で食べていくことは困難だった。絶望した俺はせめてロックらしく死のうと薬物を大量摂取してオーバードーズの道を選んだ。

ー完ー

とろろ魔人

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