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短編小説「失恋」

麻衣に振られた後の俺の行動は早かった。
キッチンナイフで首を掻っ捌いて命を奪ってしまった。

麻衣と出会ったのはFラン大学の写真部の新歓だった。
3年の滝川という男しか所属していなかった廃れた写真部に俺と麻衣が新入生として入部した。

麻衣は俺に挨拶もしてくれたし話すと笑顔だった。
外部に撮影に行った時も一緒に記念写真を撮ってくれた。
俺が麻衣の虜になるのにはそう時間はかからなかった。

親睦は十分に深まって好感度も上がっていたはずだ。
その証拠に俺のアパートでのサシ飲みを承諾した。
なのにあいつが俺を振った。

男として見れない、良い友達でいたい。
それに私は滝川と付き合っていると言ったんですよ!?

頭に血が上り俺は麻衣を殺したが、情状酌量の余地はあると思う。思わせぶりな態度を取り続けてきた麻衣にも原因はある。

麻衣の死体を処理する方法を考えていたが一向に思いつかなかったので、Yahoo知恵袋で質問することにした。俺はわからないことはなるべく自分で考えずに人に聞いて解決する人間なのだ。

一連の流れを知恵袋に書き込むと2秒で回答がきた。

「ホームセンターに行ってください。そして電気ノコギリと肉切り包丁とハンマーを購入してください。死体は風呂場に運び熱湯に浸し柔らかくなったところを切断してください。骨はビニール袋に入れハンマーで叩き割り細かく砕いてください。最後に圧力鍋でコトコト煮込んで完成です。お好みでオリーブオイルを垂らすとさらに美味しくなります。」

俺は激怒した。この回答者は人の家に圧力鍋がある前提で話を展開しているのだ。人のことをなにも考えていない証拠だ。しかし、せっかくなので実践することにした。

ホームセンターで材料を買い揃えた俺は早速作業に取り掛かった。お風呂場に横たわる麻衣は悔しいが美しかった。その瞬間、俺は死んだ麻衣に異様な興奮を覚え10万円の一眼レフに手が伸びた。

俺は一連の作業を写真に収めポートフォリオを作成する方針を固めた。まずは手始めに全裸にひん剥いた麻衣を様々な角度で収めた。

2日後、熱湯に浸して膨張した麻衣を見た時は流石に不快だったが芸術とは醜さを受け入れることだって麻衣は言ってた。いつだってそうだ。麻衣は俺を答えへと導いてくれた。教育された芯のある女だった。

それが今では電ノコで細かく切り分けられた肉塊なんだから世の中わからない。麻衣も人間いつ死ぬかわからないってよく言っていたからな。本当に残念でならない。

圧力鍋なんて小洒落た物はないので普通の鍋で丁寧にコトコト煮込んだ。凄まじい悪臭を放つ麻衣に俺は憐れみを感じつつ味見をするとこれが意外と美味い。

その瞬間俺は麻衣を失った悲しみに襲われ号泣した。
そして麻衣のスープの写真をインスタに投稿してさっさと床に就いた。

バイブ音が鳴り響いているのに気づいて目を開けてみるとなんと投稿した麻衣の写真に666いいねがついていたのだ。俺は自己承認欲求が満たされていくのを肌で感じていた。失恋の辛みも忘れるほどに。

俺はインフルエンサーとして生きていく方針を固め、颯爽と大学に向かった。

「よう、久しぶりじゃんね。麻衣と連絡取れないんだけどなにか知ってる?」

開口一番にそうおっしゃってきたのは滝川だった。

「知ってるけどここでは話せないから家に来てもらっていいすか?」

滝川を家に招き入れた俺はすかさずアイスピックで滝川の目を突き刺した。喚いたので次に喉を刺した。間もなく動かなくなった滝川を早速調理しようとしたがとんでもないことに気づいた。

滝川は憎くて嫌いで臭い奴であり俺にとって価値のない人間だった。
つまり芸術ではなかったということだ。

broken heart のみ芸術だったなんて皮肉な話だ。
俺の芸術は崩れた。broken artだ。

インフルエンサーになる道を諦めガソリンを購入した俺は電車を乗り継いで国会議事堂に到着した。ガソリンを浴びて大切なメッセージを伝えるべくライターに火を灯した。


ー完ー


脳溶け夫



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