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短編小説「コオロギ」

俺の名前はアブラコオロギタカシ。最近問題になっているコオロギ食のせいで周りに名前をバカにされている。せめてエンマコオロギならマシなのに。

おまけにADHDを抱えているせいで仕事がままならず、上司からパワハラを受けている。

最近、ファッションADHDが多すぎて目も当てられない。俺のような本物の障害者は目が違うのだ。

上司「お前さ、話聞いてる?どんだけ同じミスすんの?ほんとに人間?あ、コオロギか。いやコオロギじゃねぇな。便所コオロギか。便所コオロギじゃ食用にもなんねぇな。汚いお前には似合ってるけどな。」

俺は涙が溢れないように上を向いて歩いた。

「アブラコオロギ君、また絞られてたね。
大丈夫?」

唯一、気味の悪いデブおじの俺に話しかけてくれる葛城先輩だ。

葛城先輩は仕事もできて時期幹部候補と名高い美人。そんな人がなぜ俺なんかに構ってくれるのか唯一の謎だった。

「はい、これコーヒー!」

「ああ、すいません…私はあまりコーヒーが好きではないんです。」

歳下の葛城先輩の気遣いもこうして無碍にしてしまう自分のプライドが憎い。まぁ本当にコーヒーは好きではないが。

「そっか!じゃ元気出してね!」

葛城先輩…好きだ…

その夜、俺は決意した。葛城先輩への想いをラブレターに込めて渡すと。

「葛城先輩、いつもこんな俺に優しくしてくれるあなたにいつしか好意を抱いていました。俺はあなたを幸せにすると誓います。ので、婚約してください」




「などと記述されており、アブラコオロギ容疑者は架空の人物に向けてラブレターを書いていたことが警察の家宅捜査で判明しました。」

「たった今、速報が入ってきました。アブラコオロギ容疑者の自宅で発見された身元不明の遺体が、アブラコオロギ容疑者が務める会社の上司の虎馬英夫さんのものであることが歯形から確定しました。」


俺には死刑判決が下され、二ヶ月で執行日がきた。おそらく利権に集るクソ政治家共が俺の名前から連想されて当然のコオロギ食の評判が悪くなることを恐れ、猛スピード死刑となったのだろう。奇しくもコオロギの寿命も二ヶ月程度だそうだ。

絞首刑台で俺は全力で鳴いた。醜くても美しい音色で鳴けることを証明するために。




閻魔様「罪を犯したお前は来世は虫だが、どんな虫がいい」


「エンマコオロギがいいです」

ー完ー


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