130作を超える物語要素を含むナラティブなボードゲームを振り返り、17年以上にわたる歴史を追う
ふるあた! 皆さん、こんにちは。秋山です。
本記事は『アナログゲームマガジン』内で連載している推理ゲームの古今東西を調べてレポートする『推理ゲームふるあた』の第4回です。連載ではありますが、いままでの記事をすべて読んでいただく必要はなく、本記事から読んでいただいても大丈夫です。
最初に恒例の宣伝を、すこしだけ。
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前置きは以上! それでは、はじめていきましょう。
はじめに
今回のテーマは、物語要素を含むナラティブなボードゲーム、です。
この表現いかがでしょうか?
けっこう考えて、いちばんしっくり来るキーワードにまとめたつもりなのですが、ひとによっては「物語要素? ナラティブ? なんじゃそりゃ」と首をかしげるかもしれません。それに「推理ゲームの話じゃないの?」と疑問を覚える方もいらっしゃることでしょう。
なので、まずは、その説明から始めさせてください。
世の中には、ほんとうに様々なボードゲームがあります。たとえば『チェス』や『将棋』のようなゲームは、大元にあったであろう戦争や対決のようなテーマが、高度に抽象化(アブストラクト化)されたため、ストーリー性の存在しないアブストラクトゲームと呼ばれます。
アブストラクトゲームでない、一般的なボードゲームにおいては世界観の表現や雰囲気作りのために、イラストやストーリー、フレーバーテキストが用いられますが、それらがゲームに深い影響を及ぼしたり、寄与することは多くありません。
たとえばデッキ構築型ボードゲームの代表作『ドミニオン』(2008)は日本でも有名なゲームで、遊ばれたことも多いでしょうが、ほとんどの方はバックストーリーをご存知ないと思います。じつはプレイヤーは、亡き父君から3つの屋敷と7つの銅貨を受け継いだ若き領主なのです。父君の想いを胸に、自らの領土(ドミニオン)を拡大することを誓うところからゲームは始まるのです。
個人的にはハートウォーミングなエピソードなので気に入っていますが、ゲームの知名度を考えるに、このバックストーリーを知っている方はすくない印象です。理由は、多くの方にとって『ドミニオン』の本質は、デッキ構築が面白いゲームであって、領土云々というのはフレーバー(風味、香り)に過ぎず、ルール説明時も言及する必要がないレベルの情報と判断されているからでしょう。
一方で、バックストーリーが充実しており、ルール説明時に思わず言及したくなってしまうボードゲームも、ないわけではありません。たとえばクニツィアの協力ゲーム『ロード・オブ・ザ・リング~指輪物語~』(2000)はトールキンの『指輪物語』の看板を背負っているだけあって、その世界観は壮大です。攻城戦をテーマとした2人用対戦型ゲーム『ストロングホールド』(2009)のルールブックには、小説かと見間違うほどの長文ストーリーが掲載されており、つい読みこんでしまいます。
これらのゲームは、たしかに物語要素を含んでいると言えるでしょう。しかし、これらの物語要素は、デザイナーがプレイヤーのために用意しておいた物語を受け取るストーリーに過ぎず、8年ほど前からデジタルゲームのせかいで注目されているような、デザイナーが用意した世界観の中で物語を体験するナラティブとは、すこし扱いが異なるように感じられます。
それでは、ボードゲームにおけるナラティブとはなんでしょうか?
わたしはゲーム性あるいはゲームの本質と呼ばれるものは選択だと考えており、ゲームとはすなわち損得勘定だと捉えています。
AとB、ふたつの選択肢を突きつけられたとき、どちらの選択がより自分にメリットをもたらすか、より勝利条件に近いかを検討し、いずれかを選ぶこと。これがわたしにとってのゲームです。
ボードゲームの場合、選択肢を与えられたとき、判断基準になるのは数値で表現されることが多いです。たとえばAを選ぶと1金、Bを選ぶと1勝利点。ゲームに勝利するためには勝利点が必要だけれど、より効率的に勝利点を稼ぐにはお金があった方がいい。だからゲームの序盤のうちはAを選ぶべき。多くのプレイヤーは、こういった思考を経て選択しているのではないでしょうか。
しかし、以下のようなケースでは、いかがでしょうか。
左右の道は、フレーバー的に差別化されていますが、ゲームとしては同価値のように見え、どちらがよりプレイヤーにとってより有利なのか損得勘定できません。したがって、どちらを選ぶかはプレイヤーの気分次第となり、その結果、悪い結果に見舞われたとしても、プレイヤーは「運が悪かった、運ゲーだった」としか思わないでしょう。
それでは、選択する直前に、オープニングストーリーを思いだすことができていたら、いかがでしょうか。
この山賊に関するストーリーを思い出すことができれば、硝煙のにおいが漂ってくる左の道は、がぜん危険な気配がします。プレイヤーは右の道を選んだ方がよいと気がつくことでしょう。
ストーリーを読み解いて、選択して、自らがゲーム内のキャラクターになったかのような体験が得られる。これが、わたしの考えるナラティブなボードゲームです。
前段が長くなりましたが、後もうひとつだけ。
どうして、ナラティブなボードゲームを、推理ゲームに関する記事で扱うのか。それは、ナラティブなボードゲームが、推理ゲームにとっての母親と言えるからです。
推理ゲームは、物語を読み解いて、推理を重ね、犯人を当てる、言ってみればナラティブの極致(きょくち)です。従来のボードゲームの文脈からは大きく逸れてしまい、突然変異的に発生したとしても、一大ムーブメントには至りません。ムーブメントの発生には、デザイナー側にもプレイヤー側にも共通言語、すなわち「かおなじみ」のような関係性が求められるのです。
まず、ナラティブなボードゲームが発生し、その土壌が育まれたことで推理ゲームが生まれ、シリーズ数を重ねることができたと言えます。したがって推理ゲームの過去を学ぶには、その前身とも言えるナラティブなボードゲームを当たる必要があると言え、それが今回の記事となります。
もはや、ここまででひとつの記事になっている気もしますが、そろそろ始めることにしましょう。今回は8種類にカテゴライズした推理ゲームのなかから、物語を推理する要素を含むナラティブなボードゲームについてです!
ナラティブなボードゲームの年表
まずは、おおきく捉えていただければと思うので、ナラティブなボードゲームの歴史がひと目で分かる年表を用意しました!
はじまりは1987年、現在は『クトゥルフ神話TRPG』として知られる『クトゥルフの呼び声』のボードゲーム版『クトゥルフの呼び声:ザ・ボードゲーム』として制作された『アーカムホラー』を発端として位置づけました。
いかがでしょう『アンドールの伝説』や『TIMEストーリーズ』、日本発のタイトルを除くと、ほぼすべてが北米から発表されていることが分かります。いったい、どうしてでしょうか?
ここから先の有料部分では、シリーズごとに分類し、各シリーズごとの発売点数を俯瞰した後、ナラティブなボードゲームが誕生した経緯や、これからの方向性を見ていきます。最後には、今回の記事を書くために調査した、ナラティブなボードゲーム134作のリストも用意しています。
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