マガジンのカバー画像

詩作品

19
noteに載せた詩作品をまとめて。
運営しているクリエイター

記事一覧

ほんの短い詩と詩。「雪みち」から「はるのはじめ」のひとひらへ。

 今年の秋に発行した詩誌「アンリエット」。  ここにどんな詩が並ぶのかは具体的には言えな…

[詩] 白い紙

わたしが生まれるまえ ながいゆきみちで 暖を取るためにまだ若い母が燃やした手紙を けさも…

[詩] あかつきやみ

黴臭く重い半纏にくるまれてはいるものの、北風が木戸をゆらす明けがたには頰の冷たさにふと目…

[詩] ヒヤシンス

家の近くに、だれも住んでいない古い木造の洋館が建っていた。屋根は雨に朽ちかけ、壁や柱の白…

[詩] 音楽

今夜、はつゆき、 降るのでしょうか 窓のそと 静まっていく足音に 目と耳が吸い込まれ 冬にな…

[詩] ペルピニャン発

ひとつの車輛のなかで いくつかの言語の息がささやきあう ねむたげな 真昼 長距離列車がよう…

[詩] 伝言

振り返ったひとが もういちど振り返るのを恐れ わたしは振り返らずに別れたのか 振り返ったときにはすでにいなかったのか 決して忘れまいと誓ったはずの数々の歩行やささめきも 思い出せない 振り返ったひとなど最初から存在しなかったのか そうした忘却があったことすらしだいに忘れ やがて すべての記憶も 記憶する力をも失うとしても いつもと変わらない窓から聞こえてくる 鳥のさえずり 登校する子らの笑い声 信号機が点滅する合図 車道のクラクション そんな取るにたらない朝の粒子を 見

[詩] 食卓

学生のころ ひと冬だけ イザベルの住む家で過ごした 石畳のうえで冷えたスーツケースを 部屋…

[詩] 水しるべ

濡れた木陰に 雨雲の疱瘡のように浮かぶ うすあおい花の球体を たよりない明かりとして 神楽坂…

[詩] 花びらと

食卓に 花びらが落ちている ちる音を いちども聞かないうちに また夜になり アパートの 隣の部…

[詩」 嗚咽

十年前には 花市がたち パントマイムに 歓声があがっていたはずの 広場には 飲みかけのペット…

空へと手放すために。

自分の外側にいま存在する、何かのために、誰かのために、詩を書く、のではなく。 わたしが忘…

[詩] 転居

雨は めぐりあえない花を追うように 路地を濡らしていった 荷物を送ったあとの 畳の 水の匂…

[詩」果実ひとつの

木陰で 偶然ひろいあげた 果実ひとつぶんの充実 これは 時間をかけて集められた 雨音の 静けさのおもさ はかりしれない時間と距離から 静けさはもたらされるのだとすれば てのひらの 青梅を流れる水音も それに寄り添うひとの感情も 見えない流星ほどに 遠い場所から届くのだから いま見えている雨粒からも すこし離れ 遠さのなかで 思い出せばいい 白い上履きでどこまでも駆けていった はつなつの 喧騒を包んでもなお 抜けるような青だった真昼の しん、とした広がりを あの涼しい浮力