[詩] 花びらと
食卓に
花びらが落ちている
ちる音を
いちども聞かないうちに
また夜になり
アパートの
隣の部屋では
泣きやまない子どもをあやすひとが
こちらに聞こえないように
小さくうたをうたっている
遠い病棟にいる
わたしの赤ん坊も
眠ろうとしているだろうか
夢のなかでだけ
きつく抱かれ
音をたてることができた まだ温かい
花影に
わたしも いつか
小さなうたを
教えよう
雪のいちばんきれいな場所を
決して踏まないような
泣きかたで
目覚めると
花びらが落ちている
ひらく音にさえ
いちども
気づかないうちに
初出:「孔雀船」90号