[詩] あかつきやみ
黴臭く重い半纏にくるまれてはいるものの、北風が木戸をゆらす明けがたには頰の冷たさにふと目覚めることがあった。すると、二階のすみのほうから咳が聞こえてくる。それはいつもすぐには止まらず、ときおり風のするどい悲鳴にもかさなり、ぼくは怖くなって泣きだしてしまう。泣き声が高まれば誰かがとんとんと階段をかけあがる音がし、二階はしずかになる。
入ることを禁じられた奥の部屋にもう長いこと臥せっているのが母というものだと知ったのは、ぼくがようやく、しゅ、べに、あか、ひ、だいだい、き、しろ…