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詩を読む。

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日々読んだ詩集や、好きな詩についての書評・感想など。
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記事一覧

「人の世」にいつか戻るまで(伊藤悠子「この木を過ぎて」)

 最近、さびしい、という言葉を、数人の友人から続けて聞いた。それぞれに、親しい人と別れた…

雪、詩、白の譜(糸井茂莉『ノート/夜、波のように』)

 今日は夕方から雪が積もりはじめた。家に着くまでに通りの往来も少なくなり、いまいる部屋か…

「美しい」と書かない理由(田村隆一「腐刻画」)

 高校生や大学生の頃、発売を楽しみにしていた雑誌が何冊かあった。たとえば月刊誌『マリ・ク…

車中の曲と「青いかげ」(蔵原伸二郎「めぎつね」)

 今日はいつもの朝と違って、東京の西の方へと流れてゆく、少し空いた電車に乗った。車窓から…

高貝弘也詩集『紙背の子』(思潮社)書評 「愛しい光をのせた言葉の舟を追って」

 淡雪を思わせる純白の函から、黄みがかったやはり白い本を取りだす。  通常の単行本にある…

大手拓次 薔薇とともに彼方をめざす人

 人と話すのが苦手だった。幼稚園でも小学校でも一日中黙っていた。自分の外から聞こえてくる…

立原道造の灯した明かりのもとで

 駅からの帰り道。少しずつ早まる日暮れの時間に合わせて、家々にも明かりが灯りはじめる。夕食の匂いが流れる路地を抜けるとき、少し冷えた頬で眺める窓辺の光が好きだ。灯のまわりには人がいる。そう思うだけでほっとする。  立原道造の詩にも、明るい窓辺で親しい人たちが語りあう光景が描かれたソネットがある。その詩はこう始まる。 ささやかな地異は そのかたみに 灰を降らした この村に ひとしきり 灰はかなしい追憶のやうに 音立てて 樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた その夜 月は明

杉本 徹『ルウ、ルウ』(思潮社)書評「未来の夕映えに吊る薄青い、永遠」

 明けかかる空を思わせる青い衣をまとった一冊の詩集。そのやさしい青につつまれたページに…

遥かな場所からの返信として。伊藤悠子『まだ空はじゅうぶん明るいのに』『風もかなひ…

 伊藤悠子の第三詩集『まだ空はじゅうぶん明るいのに』(思潮社)では、積み重なる日々の記憶…

斎藤恵子『熾火(おきび)をむなうちにしずめ』(思潮社)書評  「むなうちにしずめた…

 斎藤恵子さんの新詩集『熾火をむなうちにしずめ』(思潮社)。書名にも表れているように、本…

金堀則夫『ひの石まつり』(思潮社)/ 「わたし」の核をあぶり出す火の言葉

 どんな詩集にも、詩とは何か、書く「わたし」とは誰かという詩作にまつわる問いや考察が少…

渡辺めぐみ『昼の岸』(思潮社)書評 「命の境界線上に立つ言葉」

 渡辺めぐみの第五詩集。そのタイトルは『昼の岸』という。「岸」とは、ある一つの共同体の終…

「死という眼鏡をかけて」歩いてきた詩人。 村上昭夫の詩「五億年」

 村上昭夫の詩集『動物哀歌』をはじめて読んだとき、震えた。 動物たちの姿を通して、地上や…

高階杞一+松下育男『空から帽子が降ってくる』(澪標)書評 「ある夕焼けの記憶とともに」

 本書の著者名は「高階杞一+松下育男」。名前の間の「+」は何を意味しているのだろう。そう思いながら詩集名をふたたび眺める。するとタイトルのうえに、「共詩」という文字が帽子のようにちょこんとのっている。 「共詩」とは、二人で一つのまとまった詩を最初から最後まで共同で作りあげることを指すのだという。いわば合作とも呼べる試みだ。交互に詩句を重ねるのは連詩と同じだが、何行ずつ書くかは決めず、たとえ連の途中であってもそれぞれがここまでと思ったところで相手に返す。  だから書かれた