立原道造の灯した明かりのもとで
駅からの帰り道。少しずつ早まる日暮れの時間に合わせて、家々にも明かりが灯りはじめる。夕食の匂いが流れる路地を抜けるとき、少し冷えた頬で眺める窓辺の光が好きだ。灯のまわりには人がいる。そう思うだけでほっとする。
立原道造の詩にも、明るい窓辺で親しい人たちが語りあう光景が描かれたソネットがある。その詩はこう始まる。
ささやかな地異は そのかたみに
灰を降らした この村に ひとしきり
灰はかなしい追憶のやうに 音立てて
樹木の梢に 家々の屋根に 降りしきつた
その夜 月は明