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Road to 2027:日本代表トレーニングスコッドに選ばれた大学生を簡単な数字で見てみた

みなさんこんにちは
大学ラグビーがひと段落ついたのにもかかわらず永遠に大学ラグビーの試合を見ている今本です

さて、2024/1/30にエディージャパンの最初の招集となるトレーニングスコッドが発表されたわけですが、選ばれた選手の中に8人の大学生がいました
今回は彼ら大学生ラガーマンの今シーズンの活躍を振り返り、「どのようなプレーをしてきたか」「どのようなプレーが求められてくるのか」を考えていこうと思います

それでは1人ずつ見ていきましょう


佐藤健次:早稲田3年/HO/桐蔭学園

2023-24シーズンを振り返って

高校時代から花園で活躍し、大学でも順調にキャリアを重ねている佐藤選手は直近のシーズンで主戦場をHOに移し、フロントローとしてプレーするようになっています
HOとしての経験は短いながらも先発として長いプレータイムを得ていることからもポテンシャルの高さとチームへの貢献度が見て取れるかと思います

佐藤選手の特徴を三つピックアップすると、

  • ラグビー理解度の高さ

  • 圧倒的なワークレート

  • ボールハンドリングの質の高さ

といったものが挙げられるかと思います

直近では関東対抗戦の明治戦、大学選手権の法政戦と京産戦に出場し、合計で230分のプレータイムとなっています
HOの控えに入っている選手が交代で入ってきた後もバックローとして試合に出場し続ける機会も多く、信頼の証とも言えるでしょう

プレースタイルとしてはキャリーの多い選手で、相手によっては多くのタックルブレイクを見せたりと体の強さが特徴となっています
プレー参加数から推定するワークレートもバックローの選手並みとなっており、攻撃面でも守備面でも多くのプレーに関わっていることがわかります

アタック面で言うとボールタッチの多くがキャリーとなっている一方でHOの選手としてはパスの比率も高く、ティップパスやスイベルパスといった「自身がキャリーするように見せかけて横・後ろの選手にパスをする」のようなスキルが大学レベルでもトップのスキル水準を誇っています
相手ディフェンスにかなり接近したところからパスを放ることができるので相手としてもディフェンスの目を切ることができず、佐藤選手からのパスを受ける選手をかなりフリーにすることができているのが印象的ですね

ディフェンス面ではラック周囲にポジショニングしていることが多く、少しミスも目立ちますが相手を奥に押し込んだりと高い質を見せています
ワークレートの高さも相まってフォールディング=ラックを挟んで逆方向に移動して位置どりをすることも多く、相手が大きくボールを動かすようなアタックをした際には少し裏に変えるようなベクトルで位置を変えたりもしています

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

佐藤選手は非常にワークレートが高く、大学レベルでの同ポジションでは他世代も含めてトップ水準の実力を持つ選手であると思っています
一方でコロナの影響もあって直近ではインターナショナルレベルの試合を経験しておらず、大学レベルでも必ずしも圧倒しきることができてると言うことは難しいかと思います

対象となった試合ではラインアウトスローの成功率は25/28回と比較的高い水準を示している一方で、京都産業大学のようなスクラムに特化したFWを相手どると上手い試合運びをすることができなかったりと向上の余地は残っている状態かと思います
代表レベルでも同じくらいのセットピースの機会はあるかと思いますが、直近の日本代表の試合を見ても分かるとおりセットピースの安定というのは試合に勝利するにあたっての最低条件になってくることでしょう

新生日本代表でHOがどのような立ち回りをすることになるかはわかりませんが、セットピースだけではなくジェネラルな運動量や精度の部分でも求める水準は高いことが想像できます
早稲田ではゲームメイカーの多さと佐藤選手の戦術理解度の高さもあってゲームコントロールの中核にいましたが、代表レベルではより泥臭く、より愚直なプレーを求められることもあるかと思うので、今後の動向に注目していきたいですね

石橋チューカ:京都産業1年/LO/報徳学園

2023-24シーズンを振り返って

石橋選手はパワフルな京産のFWの選手を押し退けて試合に出続けるタレントを持っており、ド派手なプレーはなくともプレーの堅実さと安定感で京産のラグビーを支えている選手です

石橋選手の良さは先述したものも含めて

  • プレーの堅実さと安定感

  • セットピースで十二分に戦うことのできる高い身長

  • 試合の動きに対する判断力

といったところにあると感じています

京産には強烈な個の力を誇るポルテレ選手・フナキ選手・タモエフォラウ選手などがいますが、その中で石橋選手は「試合にフル出場するタフネスとワークレート」でチームに貢献しているということもできるかと思います
分析対象となった三試合はどれもフル出場しており、プレー参加から換算するワークレートも非常に高い物があります
エラーも少なくプレーの質も高いのでおそらくチームへの貢献度も高いことでしょう

LOというポジション柄ボールタッチは基本的にキャリーとなっており、スイベルパスなどの細かいパス機会もそう多くはないためにプレー比率的にも相手とのコンタクトが避けられない状況となっています
ポルテレ選手などに比べると相手を弾き飛ばすようなキャリーに関しては後手に回るような感じですが、一発で相手に倒されずに味方の寄りを待つことができるくらいの体の強さは最低限持っていますね
いざ倒れる際には少しイージーな倒れ方になってしまうこともあるのが少々の改善点でしょうか

石橋選手の良さはディフェンス面でさらなる良さを発揮し、特にワークレートと前への上がりの部分でスキルと思い切りの良さを見せています
関西ラグビーがそこまでFW周りで細かい戦略を使わないということもあってか石橋選手はキャリアーを絞ることができた時はグッと前に上がる様子を見せ、姿勢のコントロールと前に出るクイックネスも高いために相手が大きく前に進むことができていない状況でコンタクトシーンを生み出すことに成功しています

またラック参加の判断やポジショニングにも優れ、京産側のディフェンスのギャップや相手の動きに合わせてフォールディングやスライドを使ってきちんと穴を埋めてくれる存在でもあります
移動とポジショニングを決してサボらないため、タックル回数に極端な多さはなくとも「そこに人がいることで相手の選択肢を削る」という面で多大な貢献をしているようにも感じました
DFラインの上がり下がりも非常に丁寧ですしね

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

石橋選手はLOとして日本代表のキャンプには招集されていますが、U20でも同様に招集されているので直近の活動ではどちらに重きを置いて動いていくのかは正直見えないところではあります
U20としても石橋選手のタレントは逃せない部分でしょう

一方代表に限って考えると、FL選出のサウマキ選手がどのようなポジション選考になるか、また今後代表資格を得ることになるであろう外国出身選手の動きによるところもあるかとは思いますが、現段階としてはディアンズ選手やファカタヴァ選手などとポジション争いをすることになることが予想されます

しかし、それらの選手に比べると現時点で石橋選手のネックになるのが身長と体重といった身体的な要素です
大学レベルでは最長身レベル(東洋のウーストハイゼン選手などの特殊な例を除く)ではありますが、インターナショナルに一度目を向けるとLOの中では比較的小柄で、体重もかなり軽量の部類に入ってくることになるかと思います
FL登録を考えたとしても、もう少し増量・肉体改造は必要になってくることかとも考えられますね

プレー面で言うと、もう少しキャリーを含めたコンタクト場面でのインパクトが必要になってくるようにも感じています
特にディフェンスでは日本代表が大躍進をした2019年のW杯では日本代表のLOの選手たちが揃って高いワークレートとタックル成功率を誇っていました
石橋選手も大学レベルではトップパフォーマーですが、このプレー水準を世界を相手に見えせることができるかはかなり重要な要素になってくるかと思います

また、今回の試合では見られなかったパス周りのプレイングに関しても代表では求められることになるかもしれません
エディー・ジョーンズHCの掲げる「超速ラグビー」がどのようなプレースタイルを指しているのかはわからない部分が多いですが、単にポッドといったポジションの固定化が著しい戦略よりも、より自由に素早い移動とボール回しが求められるようになる可能性もあり、「味方の動きを見てポジショニングする」の一段階上、「味方の動きを読んでボールを大きく動かす」ようなスタイルも求められていくかもしれませんね

青木恵斗:帝京3年/FL/桐蔭学園

2023-24シーズンを振り返って

青木選手は桐蔭学園時代から遺憾無くその実力を見せつけてきた、世代最強格の選手といって差し支えないでしょう
コロナで一定期間大学レベルでの代表活動がなかったために世界を相手取るような経験こそ少ないものの、コンタクトシーンでの強さは外国出身選手と比べても遜色ない水準にあると思います

そんな青木選手の強さは

  • 留学生にも負けない圧倒的な体の強さ・推進力

の一点特化型と言うことができるでしょう
もちろん他の水準も高いものがありますが、この「体の強さ」と言う点において大学レベルでは他の追随を許していないと思います

主要な立ち位置を9シェイプとしながらもエッジに立つこともあり、どのエリアでも強いコンタクトを見せています
積極的にボールを受けにいくというような感じではないのでボールタッチは少なめですが、一度ボールを持つとパスに意識を割かずにコンタクトができる分推進力が強く、外国出身選手顔負けの相手を弾くようなコンタクトをするのが特徴です

ダブルタックルを受けた時は抑え込まれるシーンもありますが、基本的に1対1では無類の強さを誇り、毎回のコンタクトで相手を必ず1人は弾き飛ばすほどの強さをどの試合でも発揮しています
強さに合わせて走力もあるのでラインブレイクをした時はそこからグッと前に出ることもでき、キック処理にも回るために走行距離もかなり長い方では無いかと思います

一方プレーにムラっ気があるようなイメージもあり、全体的に見るとワークレートに極端な良さが無い試合も散見されています
個人的な印象としては「試合が競れば競るほどギアが上がる」ようなプレイヤーであるようにも見えていて、相手の強さに合わせてリミッターが外れるような印象も受けています

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

こちらに関してもまだまだ明らかになってはいない要素が多いとは思いますが、青木選手の走力的なワークレートの高さはポジティブに働く要素であるように思っています
ただ、ムラっ気のような「一貫して高水準のパフォーマンスをキープできない」と言う部分に関してはさらなる向上は見込めるとも感じました

どのような選手と比較するのかといったところも難しいものがありますが、手元にあるスピアーズのピーター・ラピース・ラブスカフニ選手(2019・2023年日本代表)のデータを参照すると、今の水準よりもさらにディフェンス面でのワークレートを上げていくことが求められてくるように思います
青木選手のタックル数が1試合平均で7回強なのに対してラブスカフニ選手は20回以上となっており、タックル数という点に関して言えばまだまだパフォーマンスを上げる余地はあるということができるかと思います

また、他の選手に比べると試合の流れや動きに対する読みがうまく磨かれていない印象も感じました
帝京の選手たちの一人当たりのワークレートが高いこともあって、その場の動きに対応することができれば致命傷にはならないような試合展開になることが多く、落ち着いたプレイングを見せていますが「勘が鋭い選手」に比べるとうまくギャップや穴を埋めきれていないようにも見えました
むしろ、このあたりの読みとワークレートが上がると完璧に近い仕上がりになるような気もします

土永旭:京都産業2年/SH/光泉カトリック

2023-24シーズンを振り返って

土永選手に関していうと誠に申し訳ないのですが自分の認識が甘く、「U20に選出された」以上の印象を持っていなかった選手でした
しっかりと試合を振り返ってみていく中でその良さをじわじわと実感することができたように思っています

強みをリストアップすると、

  • 安定したボール捌き

  • 距離と高さの出るキックコントロール

  • 攻守のトランジションやその場の状況に応じた動きの切り替え

といったことが挙げられるでしょう

プレイングスタイルとしては落ち着いたゲーム・テンポメイクをしながら共産の強烈なFW陣をうまくコントロールしていたような印象で、特筆すべきはラックやモールからのボックスキックを含むキックインプレーでのタイミングと精度にあるかと思います
ジェネラルプレーの中に入ってくるようなロングキックは少なかったものの50−22を狙うようなキックも競り合いからの再獲得を狙うようなキックも蹴ることができ、長短とタイミングの調整がピカイチだったように見えました

味方の動きに対する反応もよく、ラインブレイクに素早く反応したり味方の動きに合わせてラックでボールを持ってから動きを切り替えてパスまでのタイミングを測ったりと、動きとしての柔軟性があるように感じます
アタックのテンポを極端に早めることがないため一つ一つのラックが安定してパスもスムーズに動くため、結果的にアタック全体のフローが滑らかなアタックとなっていたようにも思います

ディフェンス時はSHの基本となるFWの選手の移動の指示を出したりといったタスクをこなしながら、大まかにはラック裏→ラインの裏といった流れで移動しながらDFで構造的に生じるギャップを抑えるような動きをしていました
一方でタックル精度の部分で改善の余地は見られ、他のSHの選手と比べても若干低めの成功率にはなっていました

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

SHで日本代表というとサンゴリアスの流選手と齊藤選手が二大巨頭となっている印象もあり、それ以外のSHの選手が国際試合でゲームタイムを伸ばすことができていないのが現状としてあると思います
流選手が代表からの引退を表明したこともあり椅子は空いている状況下とは思いますが、TOP4のチームがキャンプに呼ばれていないこともあって「エディー・ジョーンズがどのような選手を本当に求めているのか」といったところは不透明です

数値的な要素で言うとパス回数は一般的回数となっていて、それ以外の要素に関しても外れ値のような「極端にこのプレーが多い」もしくは「ミスが多い」といった要素はそこまでないように感じています
そのため、実際に日本代表として選ばれるために必要な要素としては「テンポ」と「位置取り」といったところになってくるのではないかと個人的には予想しています

共産のラグビーはゲームメイカーがそこまで多くないこともあって全体的なペースがゆっくりめで、ガンガンBKがアタックラインを動かすようなラグビーではなかったと記憶しています
土永選手の本来のアタックテンポをなかなか試合から見てとることはできていないのですが、エディー・ジョーンズHCが掲げているのは「超速ラグビー」であり、おそらくは土永選手が今アタックを動かしているテンポ以上のペースになるのではないかと勝手に予想しています

位置取りに関してももう少しアジャストというか、求められている距離感・位置関係を身につけていく必要性も感じています
土永選手は利き足が左ということもあってかキック処理に回る動きも多く、普通のSHに比べると少しDF時のポジショニングの重心は後ろになっているように感じました
うまくフロントラインとバックフィールドの間の空間を埋めているとは思いますが、この辺りの距離感に関してはエディー・ジョーンズHCも違う感覚を持っているかもしれません

伊藤耕太郎:明治4年/SO/國學院栃木

2023-24シーズンを振り返って

惜しくも準優勝という結果になりましたが明治はここ数年の中でも一段階レベルの上がったラグビーを見せており、伊藤選手は確実にそのアタックスタイルの中で中核にいたように思います
廣瀬選手が縦にアタックのバリエーションを増やしていたとすれば、伊藤選手は横にアタックの広がりをもたらしていたと思います

強みとしては

  • ボールの動かし方のグラデーション

  • 自分でボールを持ち込んで前に出られる強さ

  • 攻撃的な姿勢

といったものが見られました

伊藤選手は明治のSOという役割に恥じないゲームコントロールを見せており、9シェイプでもらう時はポッドの近く、直接SHからもらうときは少し外に立っていたりとポジショニングの段階でアタックを規定するような動きを見せており、パスの深さや長短も自由にコントロールすることができるのでアタックに階層性と幅感でバリエーションが生まれていました

昨シーズンまではしっかりと見ることができていなかったのですが体の強さも兼ね備えており、キャリーで相手を弾いたり振り切ったりと明治らしい「前に出る姿勢」を遺憾無く発揮していたように思います
キャリーの脅威があるので相手ディフェンスとしても伊藤選手を選択肢から切ることができず、伊藤選手の相手に接近してパスを放るスキルも相まって相手が崩されるシーンも何度も見られていました

DFでも攻撃的な姿勢を見せることが多い伊藤選手ですがそれが裏目に出ることもあり、少し外寄りのポジショニングをしている一方で安易に前につっかけてしまうこともあり、上手い相手にはタックルを含めたディフェンスの動きをすかされてしまうようなシーンも見られています
外方向へ動く相手への対応もずれが生まれてしまうことが多く、比較的裏を取られるシーンが多いようにも感じました

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

これまでの経歴的には抜擢にも近いセレクションと見ることもできるかと思いますが、今シーズンのパフォーマンスをきちんと見ている人からすると当然のセレクションであるようにも思います
最近の日本ラグビー界に求められているであろう「スキルの高い和製SO」ですし、近年SOを担うことが多かったワイルドナイツの松田選手やスティーラーズの李選手とも違うようなプレースタイルの選手ではないでしょうか

数値的に見るとすればアタック面ではいかに新生日本代表のゲームモデルに適応できるかといったところが鍵になってくるでしょう
「超速ラグビー」が掲げられる新生日本代表としておそらくSH・SOのハーフバックスに求められているテンポの水準は高いことが予想されますが、明治も大学レベルでは比較的早いテンポでボールを動かす傾向にあり、店舗としての差異はそこまで感じないことがイメージできるかと思います

一方ディフェンスの水準に関しては向上・改善が求められることも想定され、数値的に見えるタックル精度の部分もそうですし、何よりもディフェンス時のポジショニングの感覚は大学時代と変わってくるのではないかと思っています
中央エリアにはCTBの選手が配置されることも多い近代ラグビーではSOの選手は裏かエッジ寄りにポジショニングすることが多いかと思いますが、伊藤選手はディフェンス時に前につっかける傾向もありますし、スピードとしても世界基準で見るともう少し伸ばしていきたいところでもあると思うので、ディフェンス勘の調整は必要になってくるかもしれません

また、明治は10・12・15にゲームコントローラーがいて、どの選手もキックに長けているためにバックフィールドに立つ選手がそこまで固定化されていないという実態があります
代表レベルで求められるポジショニングは想像しかできませんが、近年の傾向も考えるとハイボール処理というのはSOの選手にもある程度求められてくることが想像できます

大学レベルではそもそもハイボールを戦術的優先度を高く蹴ってくるチームは限られてきますが、イングランドをはじめ世界基準では何度も蹴り込んでくることは想像に難くありません
そのため、伊藤選手はこれまで経験したことがないレベル感でのキック処理が求められる可能性もあることでしょう

秋濱悠太:明治3年/CTB/桐蔭学園

2023-24シーズンを振り返って

秋濱選手は土永選手と同じく、「実力は知っていたけどそこまで注目していなかった選手」の1人となります
廣瀬選手や平選手といった体の強い選手の傍で堅実・愚直に自分に求められている仕事を全うし続けることのできる選手であると思っています

12番の廣瀬選手がゲームメイカーの役割を果たすことも多い明治のラグビーにおいてはキャリアーとしての役割というよりもダミーやラック参加といった「少し地味なプレー」に関わることが多く、分析した3試合通じて見てもボールタッチの回数はそこまで多くないことが見て取れるかと思います
動き的にも大きく位置どりやポジションを変えるようなものが少なく、移動距離的なワークレートではもっと高水準の選手が他にいるかもしれないとは思っています

一方でプレー一つ一つを注視するとその精度と安定感に気づくことができ、例えばディフェンスを挙げると、そのポジショニングゆえにエラーが起きにくいという状況はあったとしても3試合では一つのタックルミスも起こしていません
タックル自体の質も高く相手の足をしっかりと殺すように腕を締め、じわじわと前に出られるようなことも少なかったように思います

アタック面でもラック参加はきちんとしていますし、サポートコースを含めたランコースのチョイスもよく、上手い具合にトライを取るシーンも見られています
エッジでも中央エリアでも周りとの連携でラインブレイクを起こすこともできるのでアタックにモーメンタムを生み出すことができ、ダミーとして走り込んだりラック参加したりと勤勉さは見せていると思います

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

しかし、いくらまだ新生日本代表の形が見えてきていない状況とはいえ、世界を基準に考えるとワークレートや精度を研ぎ澄ませる必要は出てくるのではないかと思っています

秋濱選手は明治の第一線を張るだけあってどのプレーも高水準ですが、ポジショニングの影響もあってプレーへ関与する回数が少なく、プレー精度の基準になるプレイングの母数が少ない形となっています
大学レベルではFWへの依存度も高く明治のアタックスタイルもあってBKのプレー参加が減る傾向にはあると思いますが、もう少しアタックにもディフェンスにも関与していきたいところではないかと思っています

2023年のメンバーからどれくらいメンバーが変わってくるかはわかりませんが、おそらく現段階で秋濱選手がメンバー入りを争うことになるのはワイルドナイツのライリー選手やヴェルブリッツのフィフィタ選手ではないかと思っています
彼らと比べてしまうと秋濱選手のワークレートは現段階では若干低い水準にあると見ていて、一つ一つのプレーから生み出すことのできるモーメンタムのレベルも最低限彼らの水準まで上げていきたいところでしょう

高本とむ:帝京4年/WTB/東福岡

2023−24シーズンを振り返って

後出しにはなりますが、高本選手は「いつか日本代表に選ばれる(ことになってほしい)」と個人的に思っていた選手の1人で、他の追随を許さない決定力とプレーの安定感を特徴とする帝京の両翼の1人です
逆サイドの小村選手と並んで帝京のアタックにスピード感をもたらしていました

高本選手の強みを挙げるなら

  • トライを取り切ることができる決定力

  • チャンスを生かしチャンスを作ることができる走力

といったものが考えられるでしょうか

大学レベルのWTBの中では比較的長身に入る恵まれた体格から見せるストライドの長いランニングは、スピードもさることながら微妙なコースどりの変化で相手を一気に引き離すことができ、少しアングルを変えたところからも一気にスピードを上げることもできる加速力も強みかと思います

スピードを落とさずランニングフォームからの一連の動きでキックできるのもいいですね
ハイパントを見る機会はありませんでしたが、大外でグッと前に出て相手を前に引き出してから裏に蹴り込み、再獲得ないしはプレッシャーをかけるシーンは何度か見られていました
キックが右利きということで他の選手と役割が被ることもあるかと思いますが、長い距離も蹴ることができるのは間違いなくいい方向に働くでしょう

アタック時のポジショニングとしてはレーンを大きく外れることなくエッジに位置取っており、あまりオプションとしてのポジショニングはしていなかったように見えました
常に外で勝負する姿勢を見せているというか、外勝負に絶対的な自信と信頼がある感じですね

ディフェンス時も同じようなポジショニングですがWTBの位置どりとしては若干前に出ているような印象で、裏を完全に井上選手や山口選手といったキックを得意とする選手を後ろに置いてフロントラインをほぼ13人にするといった形が帝京の戦略的なチョイスだったように思います
コンタクトも強くタックルの狙いもいいため、ディフェンスはかなり手堅く動いていたように見えました

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

WTBの選手も2023年から大きく変わってきそうな雰囲気があり、TOP4を除いたチームからのセレクションでは代表経験の多い選手はいなくなっています
近年はアイランダーを中心とした外国出身選手で固められることも多かったですが、世代交代の時期も来ているのかもしれません

超速ラグビーを標榜するのであれば当然バックスリーの選手にも決定力と走力は求められてくるかと思います
高本選手は大学レベルでその二つにおいて高い水準を見せてきましたが、世界を舞台にどれくらいその実力を発揮できるかは未知数ということもあり、成長と実力発揮が楽しみになりますね

数値目標からは離れますが、世界的に見てもWTBの選手はエッジに立つことも多いことからハイボールをはじめとするキック処理のスタンダードも高めていく必要があるように思います
帝京ではうまくキャリーしていれば相手を圧倒することもできていたためにキック処理からのボールの動かし方の判断は難しくなかったと思いますが、より高いレベルになればなるほど「エリア取り」と「ボールキャリー」、「味方へのパス」などを含めた様々な選択肢が湧いてくることになります
その選択肢の中からより良い選択肢を選ぶこともバックスリーの選手には求められていくでしょう

矢崎由高:早稲田1年/FB/桐蔭学園

2023−24シーズンを振り返って

今年が早稲田に入学して1年目の選手ですが、試合で見せたパフォーマンスは下級生とは思えないほど高水準にあるプレーだったように思います
桐蔭学園時代から世代でも最高水準、上のカテゴリーに入れても遜色ないレベルのパフォーマンスでしたが、早稲田入学後もメキメキと実力をつけてさらにレベルアップしたプレーを見せていました

矢崎選手の特徴は

  • 国内でも最高レベルのランニングセンス

といったところに特化しているように思います

もちろん全体的なアタックセンスは高水準なのですが、特にその中でもランニングに関わるスキル・嗅覚といったところで大学レベルを飛び越えた水準のプレーを見せており、どんなチームを相手にしてもトライを取り切ることのできる決定力を持っています
トライの取り方もゴール前の混戦から中盤での攻防までどのようなシチュエーションからでも可能性を見出すことができ、間合いの取り方のうまさとステップのキレから独走まで持っていくことができます

ポジショニング一つをとっても様々なレーン上に立つことがあり、アタックの様々な段階で選択肢として有効な位置どりをしています
京産との試合で見せた中央をうまく抜き切った最初のトライを見てもわかるように、外で相手を置き去りにできるスピードを中央エリアでも発揮できるようなポジショニングも見せていました

そのためかボールタッチの回数も多く、ラインアウトからの1stフェイズでポッドのサポートやパサーに入ったりと、アタック面でのセンスや視野もあることがわかります
ボールタッチのほとんどのアウトカムはキャリーとなっていますが、ボールをもらう前・もらう瞬間・もらった後の動きも上手いために一つのプレーでアタックの流れを変えることができるのも一つの強みですね

一方ディフェンス面で見ると重心は少し後ろに残っており、決定的な必要性がなければ内側の選手の移動・タックルを引き出すような動きを見せています
ディフェンス時も幅広い位置どりをしていますが、タックルの多くが中央エリアで起きていることから、外側のエリアでの積極的なディフェンスは現状では無いということもできるかもしれません

Road to 2027:代表へのチャレンジに向けて

矢崎選手がポジション争いをすることになるWTBやFBというポジションで現在キャンプに召集されている選手の範囲では、プレースタイルや実力に差異こそあれ「経験値」という点においてはどの選手も比較的イーブンな状態であると踏んでいます
あえていうのであればWTB登録ですがヴェルブリッツの高橋選手などが現時点では経験値で一歩進んでいるといったところでしょうか

そこで大学レベルとトップレベルでバックスリーの選手に求められる能力や動きとった部分で何が違うかを考えた時、真っ先に思いつく要素としては「キック・キック対応」といったところかと思います
大学レベルではある程度のレベル以上の学校ではキック距離に大きな差はなく、ハイボールを積極的に使うチームも限定的ということもあってキックが戦略的に果たす役割はそう多くはないというのが現状かと思います

早稲田もエリア獲得のキックは多く蹴り込んでいましたが戦略面での比率は小さめで、競り合うようなキック戦略はそこまでなかったように見ています
さらに早稲田には久富選手や野中選手、伊藤選手といったSO役となる選手も多いために矢崎選手がバックフィールドで対応するシーンも少なく、特にハイボールの対応はそう多くなかったのではないでしょうか

ランニングスキルに関しては今の段階でも十分に勝負できうる水準には達していると思いますが、海外の選手の動きやスピード感といった部分に関して見るとU20の大会でもかなり苦労していたように見えます
攻守ともにポジショニング勘の調整は必要になってくると思うので、今後のコーチングと成長は注視していきたいところですね

まとめ

エディージャパンになって初めてのキャンプということもあって、セレクションに関しては正直挑戦的な要素があると見ています
インターナショナルの経験値はかなり低く、日本代表の試合運びも見えていない現状では批評もかなり難しくなっています

ただ、そんな中で大学生にある程度焦点が当てられたのは大きなことだと思っていて、今後の大学ラグビーの発展具合によってはより多くの大学生がセレクションの舞台に上がることも可能だと思います
まだまだ未知数の部分もありますが、期待してみていきたいですね

今回は以上になります
それではまた!





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