「大ヒット作は運も必要だけど、継続は誰でもできて大きな価値に」8年週2でブログ更新するゲームクリエイター・カンさんに聞く継続の意義
こんにちは、Unity Japanのコミュニティ・アドボケイトの田村幸一です。私は普段、Unityを広く世の中に伝える、広報的な役回りをしています。
4月に公開した記事では、Unityを学び始めた人が抱える不安な気持ちをサポートするため、「Unity学習の“あるある失敗”とその対処方法」を3人の先生に伺いました。
上記の記事で、「Unity初心者がレベルアップするにはエラーの原因を知ること」と先生から助言をいただきました。そこで、6月には初心者がつまづきがちな「エラーの解説記事」を公開しました。
今回、「初心者がいかにUnityを学び続けられるか」をテーマに、8年間週2のブログ更新、インディーゲームのリリースを続けているクリエイターのKanさん(@Kan_Kikuchi)にお話を伺いました。
初心者がUnityを継続して学ぶのに、失敗しやすいこととは?ブログの更新がどう制作に活かされているのか?Unityを始めて2ヶ月のつじのさんが、初心者の立場からそれらの疑問をぶつけてみました。
学生時代に27本のゲームを制作。「継続」が価値だと感じた
つじの:本日はよろしくお願いします!8年間続く週2回のブログ更新や、継続的なリリースをTwitterで拝見して、それだけ続けられる秘訣を伺いたいと思います。
Kan:こちらこそ、よろしくお願いします。
つじの:まずは、ゲーム制作を始めたきっかけは何でしたか?
Kan:ゲームはずっと好きでしたが、初めて作ったのは大学の授業がきっかけです。経営情報システム工学科で、プログラミングを学ぶ一環でした。楽しくなって、その後も作り続けていましたね。当時は2Dゲームの制作に特化した「Cocos2d for iPhone」を使っていました。
つじの:Unityを使い始めたのはいつ頃からですか?
Kan:大学院修士1年生だった2013年頃です。Android用のゲームを作りたくて始めました。
大学3年生から大学院修士2年生までの4年間、ゲーム制作は趣味の一つでしたが、講義も少なく、1日10時間ほど費やしていました。4年間を振り返ると、それなりの数を完成させてきたので「仕事にできるのでは?」と。それで、ゲーム企業へ就職を決めました。
つじの:4年間で何本できたのですか?
Kan:27本です。
つじの:27本!すごいですね!
Kan:就活活動の面接でも制作したゲームを持っていくと、「こんなに作ってすごいね!」と好評でした。何本か作っていた就活生はいましたが、27本という人はなかなかいないようでしたから。
就活で受けた評価は、継続してゲームを制作する価値を感じました。ヒット作を生むには一定の運を伴います。でも、継続して開発するだけなら、やれば誰でもできることです。
ヒット作がなかったり、ゲーム企業で働いたりした経験がなかった自分にとっては、継続の価値はより魅力的に感じました。
みんな、正解や効率を求め過ぎて動けない
つじの:どのようにゲーム制作を学んでいきましたか?
Kan:最初は参考書を1冊読んで作ってみました。その後は、とにかく慣れることを目指して、思いついたアイデアを形にしていきました。
つじの:制作のほかに、面白いものを作るための考え方や、稼ぎ方なども学んでいましたか?
Kan:いえ、とにかく手を動かすことに集中していました。「このゲームは面白いだろうか?」「売れるだろうか?」と考えてしまうと、手が止まってしまいますから。仕事として本格的に稼いでいく段階になると、面白さや稼ぎ方を考えないといけませんが、初心者ならまず手を動かすことが重要だと思います。
よくTwitterで「どうやったらうまくゲームが作れますか?」とUnity初心者の方から質問をいただくのですが、「失敗したくない」「最短で作りたい」と正解や効率を求めている人が多いなと感じています。
つじの:正解や効率を求めるのは悪いのでしょうか……。
Kan:そもそも、ゲームにはさまざまな作り方があり、「これが正解!」というのはないんです。最短ルートを教えることはできますが、それでは応用ができなくなりますし、失敗して学べることも多いです。
また、「考えて作る楽しさ」を奪ってしまう可能性もあります。なので、Unity初心者ほど「正解」や「効率」を求めず、手を動かすのが一番ですね。
つじの:間違えたくない、最短で完成させたいという気持ち、痛いほどわかります……。それでも、自分の頭で考えることが重要で、次はより効率が上げられたり、工夫ができたりするんですね。
でも、慣れないUnityの操作を学びながらだと、1本作るのにも相当な気力がいりますよね?どのような気持ちで27本を作り切ったのでしょうか?
Kan:「何者にもなれないかもしれない」みたいな漠然な焦りが開発の原動力になっていて、それは当時だけではなく今も変わりません。
また、継続して開発しているからこそ、クリエイターとしての自分を認められたというのもあります。大ヒット作があれば、その実績が自信になりますが、自分にはそう呼べるものはまだなかったので。自信に繋がっていたのは制作を続けているという事実でした。
ブログ更新はゲーム制作の付加価値になる
つじの:技術ブログとして(:3[kanのメモ帳] を始めたきっかけは?
Kan:大学時代に制作したゲームアプリの宣伝として始めました。一時期は更新をストップしていましたが、転職時のアピール要素としてブログが使えそうだと思い、2014年から更新を再開して、週2回の更新をしています。2017年に独立してからも続けています。
つじの:ということは8年間継続されているのはすごいですね。
Kan:学生時代は「ネタがあれば書くスタイル」で、月10回更新するときもあれば、1回だけのときもあったりで、不定期だったんです。でも、やはりプログラミングの世界は技術の進化が速いため、継続的な学びが欠かせません。いかに知識をインプットし、さらにそれをアウトプットし続けているかが自分の価値につながりますから、それを証明するためにも定期更新が向いていると考えています。
つじの:週2回更新には、どのような手順で取り組んでいるのでしょうか?
Kan:ゲーム開発をしながら、ネタになりそうなものをリストアップします。そして、リストを見ながら毎朝書いています。私は朝が集中力があるので、その時間を執筆に当てています。毎朝1時間を執筆の時間として確保し、常に2〜3本のストックを用意しています。
つじの:フローをしっかり組んでいるんですね。
Kan:あとは、制作だけに集中できるような環境づくりを心がけています。
たとえば、トイレットペーパーやティッシュなどの日用品は、どれを買うか調べるのは無駄な時間なので、Amazonで最初に表示されたものを買うとか(笑)。テレビやYouTubeを目的もなく見たりもしません。小さなことですが、積み重ねていくとそれなりの時間になります。とにかく、ゲーム制作に時間を割くための時間を大事にしています。
つじの:ブログ更新の再開は転職のアピールだったとのことですが、独立した現在でもブログを続ける理由は?
Kan:一つは、再就職の備えです。また企業で働きたいと思ったときに、継続的に更新された技術ブログはアピールポイントになると考えています。作ったゲームを企業の人に見せることもできますが、よほど知名度があって相手が知っているゲームでないと、あまりアピールポイントにならない可能性があります。
でも、Unityを使ってくれている人なら「あのブログの人ね!」と、ある程度知ってもらえています。私がどんなスキルをもっているかも伝えやすいです。
もう一つは、リリースしたゲームの宣伝に使えるからです。宣伝のために更新しているわけではないですが、間接的に宣伝・拡散の要因になっています。
(2022年1月に公開した「Unity系技術ブログの週2更新を7年続けて、いくら稼げたのか【お金】」でも、宣伝や再学習のためにブログ更新をしている旨が語られている)
つじの:PV数や収益が目標ではないことが、意外でした。
Kan:PV数や収益を稼ぐには、初心者向けの記事を出したほうが効果的です。でも、そうしてしまうと込み入った技術の話が書けなくなり、スキルのアピールができません。あくまで、ブログは再就職するときの保険で、継続して書くことが目標です。
つじの:他にもブログが活かされていることはありますか?
Kan:新しい機能に着手しやすくなりました。ゲーム制作をしていると慣れた機能ばかり使ってしまいがちなのですが、「ブログのネタにしよう」と思えるようになりました。一度でも触っていると、次に使おうと思った時に着手しやすいですから。
「したい人10,000人、始める人100人、続ける人1人」ゲームを1本作れるだけで、素晴らしい
つじの:現在はどんなゲームを制作していますか?
Kan:最近は、カジュアルな対戦ゲームが流行っているのもあり、ポーカーのような対戦ゲーム『猫ヤクザの仁義にゃき戦い』を作っています。本物の猫の画像を使ったカードで対戦をする戦略的カードゲームです。
また、1年ほどかけて進化型育成ループVRRPG『イカサマ異世界で俺様仏様』も制作中です。『猫ヤクザの仁義にゃき戦い』のリリース後に、VRゲームの制作にまた力を入れるかもしれないです。
同じ種類のものを作るよりも、新しい機能を取り入れて制作するほうが好きなので、いろんな領域に挑戦したいですね。
(これまでKanさんが制作したゲームはこちら)
つじの:ゲームのリリースを楽しみにしてます!最後に、これからUnityを学んでいく人たちにエールをお願いします。
Kan:私が好きな言葉に「したい人10,000人、始める人100人、続ける人1人」があります。作家・俳優の中谷彰宏さんの名言です。
SNSにはすごいゲームを開発している人が多くいるので、「自分なんて……」と思うかもしれないですが、Unityを始められただけで「したい人」の1%に入っています。さらに、ゲーム制作を継続できたら「したい人」のなんと0.01%になれるのです。
つまり、始められただけでもう十分に自信を持って良いと思いますし、さらに継続してゲームの完成まで出来ればそれは自分で思っている以上に凄いことで、とても価値のあることです。挫けそうになったら、「したい人10,000人、始める人100人、続ける人1人」という言葉を思い出してください。