見出し画像

「コロナ禍でのプログラミング教育をより良くするには?」教育者のためのUnityミートアップ 大阪編レポート

2020年からプログラミング教育が小学校で必修化され、Unityもさまざまな教育機関で活用されるようになりました。

特に、大学では専門分野やカリキュラムの方針などで特色が分かれ、新型コロナウイルス感染症の影響による遠隔授業でも、各校で工夫を凝らして授業が進んでいます。

2022年6月18日に開催された「教育者のためのUnityミートアップ 大阪編」では、関西圏の大学でUnityを導入している先生たちが「どのようにUnityを導入しているか」「プログラミング教育でUnityを導入する利点」などを発表しました。本記事ではその実践例を紹介します。

(また、7月2日には同イベントの「東京編」も開催されます。参加者募集中です!)

コロナ禍で試行錯誤した新しい実習講義

奥出成希先生
ゲームボーイ、スーパーファミコン時代からのゲームプログラマー。現在、立命館大学映像学部や他の大学で主にUnityを使ったゲーム制作の講義を担当。Unity認定プログラマー、認定インストラクター。

新型コロナウイルス感染症の影響で遠隔授業が余儀なくされるなか、『新しい日常における実習講義の試行錯誤』と題したテーマで、立命館大学などで教鞭をとる奥出成希さん、その工夫を共有しました。

「授業がZoomでの実施となったことで、15回の授業を全て撮影し、動画教材を作りました。

授業では、​​まずダイジェスト動画を見てもらって全体像を掴んでもらいます。次に、全編動画を見ながら作業をしてもらい、わからない部分は都度挙手をしてもらってZoomで答えました。

遠隔授業での動画教材は効率的だと感じています。また、遠隔授業から教室での授業に変わってからも同じやり方で実施しています。

ただ、静かな教室でひたすらもくもくと作業する光景は、コロナ前の授業と比べると奇妙ですが……(笑)。でも、動画世代の学生からは『動画なので授業を見返すことができる』『先生の話を聞き逃してもついていける』と好評です」

また、奥出さんは文系学部や芸術系学部に所属する学生を多く受け持っています。そのため、プログラミングの敷居をいかに下げ、興味をもってもらえる内容にするかを重要視していると言います。

「まずはプログラミングをせず、基礎的なことを学んでもらいます。たとえば、エディタ操作の習得や3Dモデルの取り込み、ゲームオブジェクトにアニメーションを追加するAnimotorの設定などです。

それらで、キャラクターのデザインやゲームステージなど工夫できる余地を与えつつ、中間制作に取り組んでもらいます。

中間制作後は、ビジュアルスクリプティングを使ってより独創的なゲーム制作に取り組んでもらいます」

プレゼンでは中間制作の作品デモが映された

コロナ禍の約2年を振り返って、奥出さんは「まだまだ改善を繰り返していく」と語ります。

「動画教材は学生から評判の声はありつつも、作品の質が上がったとは言い切れないなと感じています。一方で、制作した動画をベースにすることで、次年度の授業企画をたてるのは簡単になりました。できた余力で、さらに改善していこうと思います」

プログラミングの基礎をUnityで徹底的に学ぶ

矢野浩二朗先生
千葉大学医学部医学科卒業後、マンチェスター大学生物学部大学院で修士号、リバプール大学医学部生理学科大学院で博士号取得。2004年よりケンブリッジ大学医学部生理学科博士研究員、2006年より同大学ペンブルックカレッジ シニアリサーチフェロー。2011年に大阪工業大学へ着任し、現在へ至る。主要研究テーマはVRの教育分野への応用。

矢野浩二朗さんが所属する大阪工業大学は理系学部が多く、学生たちは1年生の後期にC言語を学んでいます。そのため、前期ではプログラミング入門として、スクリプトをよく“観察”してコードを書くよう指導していると言います。

「授業では、Unityが提供している『あそびのデザイン講座』で、スクリプトの基礎的な書き方を指導しています。シンプルなスクリプトが解説されているのですが、学びは多いです。

たとえば、『{}を正しく入力する』『=と==の違い』『全角と半角を区別して入力』など、Unityを初めて使う学生にはとても重要なことが学べます。これらを踏まえてスクリプトをよく観察し、正しく入力できるよう指導しています」

また、3D空間のデザイン基礎も教えていると言います。「シーン」画面と「プレイ」画面の違いやオブジェクトの位置・回転・スケールを操作するTransformは、なかなか理解しにくいところ。そのため、3D空間のデザインを行うことで基礎を教えていています。

矢野さんはUnityを基礎から教えることに徹底しつつ、Unity「で」教えることにも工夫をこらしています。

「コロナ禍では遠隔授業が実施されたため、VRでプレゼンテーションを録画する『Virtual Presentation Space』というアプリを制作しました。バーチャル空間内でスライドを出して説明し、また録画も可能です。

学生からは、『VRを使っての解説が対面授業みたい』『アバターでどこを指しているかがわかるので、重要な箇所が理解しやすかった』と好評でした。

また、『視る自然科学』で人体の構造について教える授業があります。その際は、アバターを骸骨にして、骨について解説しました」

骸骨アバターで講義する様子はテレビでも取り上げられた

そして最後に「Unityを学ぶことでプログラミングの基礎を学べたり、新しい授業スタイルを実践できたりします。Unityはゲームエンジンですが、ゲーム業界志望者以外の学生にも大いに活用できるでしょう」とプレゼンを締めくくりました。

プログラミング教育の展望とビジュアルスクリプティングの有用性

喜家村奨先生
1995年、英国オックスフォード大学 コンピュータ研究所に留学、CSP理論の研究に従事、1998年放送大学 教養学部卒業、2003年奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士課程修了博士(工学)、2014年から帝塚山学院大学の教授を務め現在に至る。

帝塚山学院大学の喜家村奨さんは、発表の冒頭で「デジタルクリエイティブの重要性がどのように増しているか」を3つの観点から語りました。

1つ目は「社会の変化」です。経済の拠点が仮想空間にまで広がる「メタバース」やブロックチェーンの技術を使った「NFT」などの普及により、デジタルクリエイティブの重要性は今後も上がることが期待されます。

2つ目は「学生のスキル向上」です。プロでなくとも手軽に動画編集や音楽制作ができるツールが増え、学生もそれらを使いこなしています。今後は3DCGやリアルタイム3D技術なども同様の流れが起こるのではと喜家村さんは見ています。

3つ目は「情報教育」です。喜家村さんが注目するのは、2022年から高等教育に導入された「情報Ⅰ」という授業です。

「『情報Ⅰ』は、プログラミングと情報デザインの両方を1つの科目で学びます。

ここでの情報デザインは、問題解決のために、情報を整理し、受け手にわかりやすく伝達する手段として語られています。今まで、芸術色が強かったデザインを科学的・工学的に理解することを目指すのです。

また、情報デザインとプログラミングを1つの科目で学ぶことに、意義があると考えています。これまでデザイナーとエンジニアはそれぞれの領域で学んでいたため、両者に隔たりがあるのが課題でした。しかし、『情報Ⅰ』では、それらを包括的に学ぶことにより、両者の垣根がなくなっていくと期待しています」

一方で、高等学校でのプログラミング教育の方針に懸念があるとも言います。現在、小学校ではビジュアルプログラミング言語「Scratch」、中学校では教育目的に特化して作られた日本語プログラミング言語「ドリトル」や「なでしこ」を学びます。

しかし、高等学校のプログラミング教育は一気に難易度が上がり、PythonやJavaScript、VBAなどを学ぶ方針になっています。喜家村さんは「いきなり高度な言語を学ぶことで、プログラミングを嫌いになる生徒が多いのでは」と懸念を示します。

そこで、提案するのがUnityのビジュアルスクリプトの導入です。

「ビジュアルスクリプトは、ノーコードなのでテキスト型のプログラミングが苦手な生徒も興味を持ちやすいです。細かな文法にも悩まされないため、プログラミングって細かくて難しいから向いてないと自信を無くしてしまった生徒にも適しているでしょう。

また、プレイボタンを押しても何も起こらないと、生徒は一気に悲しくなってしまいます。ビジュアルスクリプトだとプログラムの実行が可視化されるため、どこで間違えているかがわかりやすいです。

Unityのビジュアルスクリプトを導入することで、プログラミング嫌いを避けることができるのではと感じています」

7月2日、東京でも教育者ミートアップ開催します!

教育者のためのUnityミートアップ 東京編」が7月2日に開催されます。

東京では、「短大でのUnityを使ったものづくり」、「15年に渡り歴代学生たちが引き継ぐナンバリングタイトル開発の歴史」、「セミナーやハンズオンセッション、資格取得などUAAの特典活用」といったテーマでお話があります。また、セミナー後には、先生同士の交流を深める懇親会も実施されます。

東京編の詳細は以下のURLからご参照ください。​​下記のMeetupからのお申込みにはUnity IDが必要ですが、お持ちでない方も「参加申し込みフォーム」よりご参加いただけます。

ご来場をお待ちしております!

「教育者のためのUnityミートアップ 東京編」
2022年7月2日(土) 受付14:30 開催時間15:00 - 19:10 
会場:渋谷ソラスタコンファレンス(〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂 一丁目21番1号 渋谷ソラスタ 4階)
https://meetup.unity3d.jp/jp/events/1358

【Unity IDをお持ちでない方のための参加申し込みフォーム】
https://forms.gle/Ft3SY8hMnFhtcPf7A

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!

最後までお読みいただきありがとうございます。ぜひTwitterもフォローしてください。