vol.44 伊藤碧「『自分』は移り変わる。」
「大学生活をもっと充実させたい!」「やりたいことを見つけたい!」という想いを持ちながらも、なかなか行動に移せない北海道内の大学生に向けた連載企画「Knows」。
編集チームが独断と偏見で選んだ面白大学生の人生をお届けします。今回は第44回目。ゲストは北海道教育大学函館校国際地域学科3年の伊藤碧さんです。
↓が伊藤さんInstagramです。
自分は何をしたいのか、自分の表現したいことはどんなことなのか。
やりたいことがわからず燻っていた伊藤さんですが、大学1年生の頃、あるきっかけから伊藤さんの人生が変化していきます。
アーティストやクリエイターとして活動を続ける背景にはどんな思いがあるのでしょうか?
プロフィール
北海道教育大学函館校国際地域学科3年
グラフィッククリエイター(イラスト、アートワーク、デザインなど)としてマルチに活動する傍ら、リキッドライト(オーバーヘッドプロジェクターを使った空間演出)を駆使したアーティストとしても活動している。
函館西部地区に位置する、古民家を活用した学生を主体とするコミュニティ「わらじ荘」の住民。長万部壁画プロジェクト『ミツメカク』のメンバー。
「荘」
「ミツメカク」
自ら動いて状況を打破する。
ーでは早速、幼少期の頃からお話をお願いします。
「物心ついた時から絵を描いていました。一人でいる時間が好きで、黙々と絵を描いたり自然の中で遊んだりすることが多かったです。小学生になってからも絵を描くことは好きで、お便りや、文集などに描いたりしていました。その頃から何かを「制作する」ことが好きだったし、親しみを持っていました。」
ーその頃から絵を描くことが好きだったんですね!中学生の頃はどんなことをしていましたか?
「中学生の頃は何かを制作することからは離れていましたが考えてみれば、今の活動に行動的な自分に通ずる成功体験がありました。それは合唱コンクールでの経験で、私のクラスは合唱コンクールにあまり意欲を持ちづらい人が多かったんです。
その中で自分は『どうしても賞を取りたい!』と思っていて、人一倍熱意があったので、どうしたら賞を取れるのか考えて工夫していました。最初はあまり熱心に取り組めない人が多かったんですが、一人一人相談に乗ったり、先生に相談したり、練習のスケジュールを組んだり、自分ができる限りのことを尽くしました。
そうしていくうちに、『コンクールで賞を取る』という目標に向かってみんなで頑張れるようになって、最終的に3年生のコンクールで優勝することができたんです。
表彰式の時にみんな『碧いけー!!』って声援を送ってくれた時はすごく嬉しくて、ボロボロに涙を流しました(笑)。この経験から、自分のできる限りのことを努力する力が身についたと同時に、自分の熱意は周りの人にも伝わるということを学びました。」
ー中学校の経験を通して自ら成長したのですね!高校ではどんなことをしていましたか?
「高校ではサッカー部に所属していて、ひたすら部活一筋で頑張っていたんですが、部活中に怪我をしてしまって、サッカーを辞めるのかどうか迫られる時期がありました。
キーパーとしてサッカーを続けることになりましたが、もともとスタメンでキーパーをしている子も何人かいたので、技術面で追いつかないことが多く、すごく悔しかったです。
でも、やるからには本気でやりたかったので、ひたすら朝練や自主練をして、人より何倍も努力することで自信をつけていました。その時から明確な目標を立てるようにしていて、その目標に向かって自分が持てる全てを使い、全速力で近づこうと頑張れるようになりました。この姿勢が今の活動にすごく役立っています。」
ー明確な目標を立てる。挫折の経験から学んだのですね!大学ではどんなことをしたいと思っていたんですか?
「大学はどこに行こうかすごく迷っていました。今通っている大学は第一志望ではないんですけど、国際関係に興味があって、困ってる人たちを手助けしたいなっていう気持ちがあったり、海外に漠然とした憧れを抱いていたりしていたので国際関係の学部がある大学を志望しました。
当時は全然クリエイティブなことはしておらず、海外ボランティアや留学をして経験を積んでいました。その海外経験で、異文化にふれることができたり、価値観が広がったりしたのでいい経験だったとは思っています。
でも当時、『国際協力をしたい』と漠然と思っていただけだったので、どの分野で具体的に何がしたいのかという思いがなかったので、海外に行ったというキラキラした出来事を経験することに自己満足してしまっていた部分もありました。」
本当にやりたいことって。
ー具体的にどんなことをしたいのか、伊藤さん自身もわからなかったんですね...。
「そんな1年生の終わり頃、1〜2月にコロナが始まって、海外にいくことができなくなったので、住んでいる函館で何かないかと探していました。
その頃、現在住んでいる『荘(函館西部地区に位置する、学生を主体とする古民家シェアハウス)』が行っていた『おうちで図書館』という、コロナ禍で図書館がやっていないから、荘に所蔵してある本を町の方々に配ろう、というボランティアプロジェクトに参加したんです。」
ーそのプロジェクトに参加したことが、荘に住むきっかけになったんですね!
「この時期から荘には何回か遊びに行っていて、荘の雰囲気や、代表のあんなさんや住んでる子達の雰囲気を知りました。荘にいる人たちの価値観や考え方が多様で、自分にはないものを持っていて関わっていくうちに自分の人生が豊かになっていることに気づきました。
人といることは大事なことだと実感したと同時に荘のメンバーはそれぞれが色々な活動を行っていて、自分も成長したいと思わせてくれる場所だったので、徐々に行く頻度や滞在する時間が増えていきました。
そんな時に、代表のあんなさんが『グラフィックレコーディング(グラフィックや文字を用いたリアルタイムで行う発言録や議事録のようなもの)』という手法を用いて『伊藤碧』の自己分析シートのようなものを作ってくれました。
当時漠然と国際協力をしたいと思っていたことをはじめ、色々自分のことを話していると、『結局何がやりたいの?』と問われたんです。答えようとしても全然言葉が出てこなくて、自分は何も考えていなかったんだなと気付かされました。
この出来事をきっかけに、そう思わせてくれた荘に住みたいと思うと同時に、この人たちと一緒に成長していきたいと思って、8月1日から荘に住みはじめました。」
↓荘ホームページ
ー自分が本当にやりたいこと。漠然と悩んでいたことをもっと深ぼって考えられるようにさせてくれたんですね!
「荘に住みはじめたことで、色んな人と対話して、問われたり、問うたりしていく中で、自分は『人生において何をしたいのか』を考えるようになりました。
ちょうどその頃、Adobeのイラストレーターというデザインや動画編集できるソフトを大学の授業でもらうことがあって、暇つぶしに色々作っていたら、荘のメンバーから『それいいね!』って言ってもらえたんです。
それが嬉しくて趣味程度で続けていたら、荘関係の知り合いの人から『看板に描いてみない?』って言ってもらえたり、『チラシ作ってみない?』って言ってもらえるようになったんです。」
ー小さい頃から好きだった制作をまたやり始めたんですね!
「本当に最初は趣味程度でやっていたことなんですが、SNSで作品を発信していくうちに、函館に住んでいる方や企業さんとお仕事として、報酬をいただきながら活動できるようになっていきました。
でも、仕事にしたくて始めたことではなく、自分が楽しいからやっているし、その楽しみながら制作したもので喜んでもらえるのがすごく嬉しくて、自然と仕事になっていったという感じです。
好きなことを突き詰めて頑張っていたら依頼をもらえるようになって、じゃあもっと頑張ろう、もっと技術をつけようっていう思いがずっと続いていました。その後、お仕事をさせてもらえる幅がだんだんと広がり、今やっているグラフィックデザイン等の仕事に繋がっています。」
ー自分が楽しみながら仕事をする。とても素晴らしいことですね!
もっと自分の表現したいものを。
ーそれからはずっとデザインをされているんですか?
「デザインという言葉自体、広義的なものですが、自分のデザインの分野は基本的に見た目、機能、性能などのあらゆる観点からより良いものを追求することが最も重要なことだと感じていました。
ですが、当時は実用性にかかわらず、もっと視覚的な美しさの追求や自己表現をしたいと思うようになりました。」
ーなるほど、もっと自分に合ったものを求めるようになったのですね?
「何か自分に合う表現媒体はないかとSNSを中心に探していると、『リキッドライト』というパフォーマンスアートを見つけました。リキッドライトは液体を使用したアートです。
その液体の揺らぎや質感、そしてその偶然性や流動性の強さが自分の思想やあり方にすごく合っていると感じました。ですが、リキッドライトは当時すごくマイナーなアートで、日本で活動しているプレイヤーも数えるほどしかいなかったので、調べてもあまり情報が出てきませんでした。
SNSを中心にアンテナを張っていると、近々東京の六本木でリキッドライトの個展をする方がいることを知り、右も左もわからない状態だったので『いくしかない!』と思って、2年生の冬に函館から東京へ向かいました。」
ー函館から東京にですか!すごい行動力ですね!
「コロナ禍での開催だったので人数が少なく、主催者の方や関係者の方などリキッドライト業界で活躍している方々と直接お話しすることができました。
自分の思いを語ると、リキッドライトについて詳しく教えていただいたり、パイオニアの方々や、北海道で活躍している方と繋げていただいたりもしてもらいました。
そこから、その北海道でリキッドライトをされている方と共同でパフォーマンスをさせていただいたり、北海道を中心に個人でも活動していくようになりました。」
ー自ら行動したからこそ、思いが伝わったのでしょうね!
ーその頃はデザインの仕事はどうされていたんですか?
「その頃からリキッドライトがメインの活動になりつつあったんですが、デザインの方でもオリジナリティを出しながら、作品として作ったものをアートワーク(書籍や動画や音楽のジャケットのようなもの)として使っていただけるようになり、自己表現をしながら商業的な仕事もできるようになりました。
なので現在では、クリエイターとリキッドライト、両方で自分の表現したいものを制作しながら活動しています。」
ーリキッドライトでも、クリエイターとしても、自分の表現したい、やりたいことができるようになったのですね!
ー伊藤さんはリキッドライトや制作などで何を表現したいと考えているんですか?
「一つは『心情』を表現したいと思っています。技術や機械が発達している現代において、人間にしか表現できないものは何かと考えると、心情の不確かさや偶然性ではないかと思ったんです。
リキッドライトは、一過性なので同じものは二度と表現できないものです。液体の揺らぎや鮮やかな色彩が特徴で、自分は自然に対してすごく美しさを感じるので、そういった液体の揺らぎや鮮やかさに魅力を感じたと同時に、自分しか表現できない唯一性を感じ、自分が求めていたものにリキッドライトがぴったりとハマった感じです。」
ーリキッドライトをされている背景にはそんな思いがあったんですね...。
「最近では、デジタル上ではなく、アナログな作品も物として形を残していきたいと思っています。その1つとして、長万部壁画プロジェクト『ミツメカク』という、函館に住んでいる自分が長万部に訪れ、そこで自分達が実際に町や町民と関わり、長万部自体に感じたことを壁画にするというプロジェクトで、知り合いと2人で共同制作をしたりしています。
地域を見つめて作品を創るというプロセスは自分自身やったことがなかったので、また新しい形での作品制作ができて、楽しみながら成長していくことに喜びを感じています。」
ーまた新しい形での作品制作、伊藤さんの今後がすごく楽しみです!
↓ミツメカクのTwitter
今後の展望
ー伊藤さんの今後の展望を教えてください。
「今年の4月から休学して東京に行くんですが、東京で自分と同じような業界の人と切磋琢磨して、今よりももっと大きなところで活動していきたいと思っています。
作品制作をしているので、知名度を上げてもっともっと自分のことを知ってもらいたいと思うし、メディア露出もしていきたいと思います。
作品を創る上で、今よりももっと知識を入れて、学んで、思考すること。そして作品を制作しながら成長すること。この気持ちは忘れずにいたいと思います。」
メッセージ
ーでは最後に、想いはあるけど動きだせない大学生に対してのメッセージをお願いします!
「何か自分のやりたいことに向かって突き進む人もいれば、その人たちを支える人もいると思います。やりたいことがない人もいると思いますが、やりたいことがないことが悪いことではないと思っていて、自分がどうありたいか、どう生きていきたいかが重要だと思います。
ただ、やりたいことがないからといって、自分について思考しないことは良くないので、何か見つけたい人は意識するところから始めてみるといいと思うし、今と違う環境に身を置くことも大切なんじゃないかと思います。
考えてはいるけど踏み出すことができていない人は、人に話してみたり、それこそ違う環境に身を置いてみたり、自分なりのスイッチの入る方法を考えるのもいいんじゃないかなと。まず、何か行動することが大事なんじゃないかと思います。」
以上でインタビューは終了です。やりたいことがある人もいれば、ない人もいる。やりたいことがない人から見ると、やりたいことがあってそれに向かって突き進んでいる人はすごく輝いて見えてしまって、劣等感を抱いたり、焦燥感に苛まれたりしてしまいがちです。
私自身もそうでした。ですが、伊藤さんも仰っている通り、やりたいことがないことは、全く悪いことではありません。そしてやりたいことがある人の方が優れているわけでもありません。
やりたいことに向かって突き進んでいることはそれはとても素晴らしいことですが、それが全てではありません。人にはそれぞれの生き方があります。やりたいことがある人も、ない人も、それぞれ自分に合った生き方があるはずです。
やりたいこと探しよりも、自分がどうありたいか、どう生きていたいかの方が重要なのではないでしょうか。
人と他人を比べて焦ってしまう人、劣等感を抱いてしまう人、考え方を変えるのはとても難しいことですが、自分がどうありたいか、どう生きていたいかをちょっとだけでも考えてみると、気持ちが今より楽になるかもしれませんね!
伊藤さんの人生を書いたこの文章から何かのきっかけを得てもらえたら嬉しいです。最後まで読んでいただきありがとうございました!
↓伊藤さんのInstagram
取材、文:岩元
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