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なぜこの時代に木の船にこだわるのか。サンゴを調べるアキラの想い

このページは「石川県で製材業を営むシンさんが、沖縄でサンゴを守るアキラの活動 に共感して、木の船を造ってプレゼントする」という二人のおっさんが織りなすハートフルストーリー。まとめたマガジンはこちらから。

アキラが木の船を求める理由とは

前回の記事で船を造ってもらうことが決まったアキラですが、そも、なぜアキラはこの時代に「木の船」がほしいのか。その理由をお話します。

今アキラがサンゴ礁の調査で使っているのがこのカヌー(詳しく言うとレース用のSUPボード)。

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調査に使うのはエンジン船でもいいけれど、ランニングコスト(燃料から保険費用)もかかるし、台風の時に毎度、車で陸揚げしないといけない。そこまでの調査規模もないので、それならカヌーで事足りる。

いくつもの調査地点を短時間で行き来したいので、疲れずに早く進め、荷物も乗せられる挺を探していたところ、SUPのプロ選手から「オサガリのボード」を安く譲ってもらえて。これなら必要最小限の荷物が積載できて、何なら外洋のうねりも超えられます。でも沈(ちん=カヌーがひっくり返ること)して積載物を流さないよう、アウトリガーパドルで Vaaのような漕ぎ方に落ち着いて。

このままカヌーでいいのでは

そう思っていたけれど、調査の幅が広がって機材の積載量が増え、このカヌーには載せきれなくなりました。無理して載せると沈して体力消耗も大変で。

やっぱり船が必要なんです。でもFRPの船には乗りたくない。そうした時に頭に浮かんだ船は沖縄の伝統的な船、サバニでした。

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西表島で造られたサバニでトレーニングに出かけるアキラと幹(つよし)

話は飛びますが、アキラは東京の産まれで、高校卒業後、家族の引っ越しに伴って島に移住しました。その前、中学生の時にも石垣島に来たことがあって。港にきらびやかなクルーザーや大きな漁船が並ぶ中、中学生のアキラが見ていた船は、港に陸揚げされひっくり返された、真っ黒に黒光りする木造のサバニでした。この当時はまだ水牛で田畑を耕している農家もいたんですよ(1998年頃)。

その独特な船型が脳裏に焼き付いていて、サバニに乗りたい気持ちは年々強まります。そしてようやく一昨年、西表島で船を作る女性の方に乗船技術を教わりに出かけ。いよいよ船を発注できると思っていた2020年、アキラの本業は観光業なので売上はほぼゼロに。それでもサンゴの活動は優先したくて、サバニは再び夢の彼方へ。

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なぜこんなにも便利な時代に不便な船を選ぶのか

サバニも今やFRP(プラスチックのようなもの)で作られ、エンジンや船室が付いています。時代の変化と共に船の素材も変わるのです。

でも、この造船プロジェクトは木で船を造り、それを人力&風力で運用します。便利なエンジンを使わず、手と風で進ませるのです。

その理由は、

持続可能だから

今風に言うと、"サステナボー" 

例えば島と島を行き来する高速船や大型ダイビングボートなどは極めて環境負荷が大きい。重油を大量に消費することもちろん、下船後も耳鳴りが続くほどの巨大なエンジン音は海洋生物にも影響を及すことが知られています。また船のスクリューは海を不自然に撹乱させます。何より、どんなに気をつけていても油が海に流れ出てしまう。私自身も港湾での油流出に対応したことがあって、船にあがる前には頭から洗剤をかけられました。

一方、木造船はこうした負荷が「ゼロ」。造船時の環境負荷もFRPやカーボンの船、カヌーの製造と比べると桁違いに低いです。その一番の理由は、ゴミが出ないこと。木の削りカスは様々な有効利用が可能です。

それに、想像してください。
おおきなエンジン音がする航海と、帆が風を孕む音(シーツがはためくような大きな音)だけの航海を。

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漁師の方々が操業している場で船を動かす際も、大型クルーザーで行ったら引波で迷惑をかけてしまうけど、この船は曳き波なんて作れないし(笑)、それって他の海洋生物にも優しい。サバニは喫水も浅く、干潮時のサンゴ礁にもはいりやすいとか、他にもいろんな理由があります。

エンジン船も好きです。自分でも乗りますが、でもエンジンじゃなかったらもっと好きだしもっと乗りたい。風を感じ、海面を読んで移動するのが楽しいから。

自分自身を知らされる船

帆を張れば、どこにでも自由に行けると思っていました。でも実際には違っていて。風が吹いている場所に船を向かわせなければならないし、その風は"船を乗せてくれず" 先に行ってしまい、結局は手で漕がなければならないこともあります。また、海は突然と様相を変え荒れ始めることもあって、そうした不確定要素が連続する環境に身を置いていると、時間の流れが都会とは大きく変わってしまいます。時間通りに目的地につけるかも怪しい、そんな船なんです。

だからこそ自分の技術を高めなければならない。きっと一生かかっても昔の漁師が持っていた操船技術のほんの僅か程度しか習得できないでしょう。

その技術を習得するとどうなるのか。

決してお金持ちになれるなんてことは無いです。
楽に早く進めるようになったからもう一箇所確認して帰ろうか、とか。今日は早く帰れたから植樹した場所の草刈りをしよう、だとか。ちょっとだけ仕事が楽になるわけです。

それで良いし、それがいい。

そんな理由です😍


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