付き合うということ

初恋は高校生の頃だった。

もちろん、「恋」ってやつの定義は曖昧模糊としていて掴み所がないとは思う。

例えば、小学生の頃にバレンタインチョコをあげたり、もらったりしている関係。
幼稚園児も同じだと思うけれど、彼らの
「好き!」
ってやつと、思春期を迎えてからの
「好き。」
ってやつは、まあだいぶちがう。

だいぶちがうとは言ったけれどそこに境界線なんてなくて、墨絵の濃淡みたいにちょっとずつ濃くなっていく。
濃淡で変わっていって、明確な境界線はない。
境界線はないのだけれど、いつ境界線を越えたのか、越えた瞬間はわからなくても、越えたことに気づく瞬間が世の中には来る。
「あ、黒いな。」そんな感じ。

「あれ、いつの間にか大人になってたな。」
とか
「あれ、いつの間にか景気よくなってるな。」
とか
「あれ、気づいたらコンビニも吉野家も松屋もベトナム人が支えてるな。」
とか。
そういうやつ。

何が言いたかったかっていうと、「初恋」以前にどんな「好き」があったとしても「初恋」はやっぱり別格だってこと。
「恋」ってやつに気づいてしまったから「あれが初恋だった。」
なんて言葉が出てくるのだもの。

僕の初恋の人は驚くかな、向こうから話かけてきた。
いや、「話しかけてきた」というのは語弊があるか。
「接触してきた」くらいにしておこう。

僕は男子校に通っていたのだけれど、東京のちょっと頭のいい男子校とか(女子校も)ってのは大体みんな代々木のとある塾に行く。
「東大専門進学塾」なんて大層な肩書きなだけあって、代々木駅前ビルの雰囲気はそりゃもう威風堂々というか厳しそうだな感が満載というか、「代々木監獄」なんて呼ばれていたくらいの威圧感。
今じゃビルも建て替えられてピカピカになってしまったみたいだけれど、僕の頃の古びたビルなんてそりゃもう監獄って呼び方がぴったりだった。

「監獄」に何しに来てんだよって思うのだけれど、男子校生と女子校生、学校じゃ異性と交われないのに塾だと同じ教室という空間で酸素を共有したりなんかしちゃうものだからやたらそわそわとするわけ。

やたら目線が合うなとか。

やたらコソコソ話が聞こえるなとか。

やたら視線感じるなとか。

あるでしょ?誰でもさ。


僕は高1の6月くらいにその塾に入ったのだけれど、夏が終わって秋がきて10月になったくらいの英語授業後に同じクラスの赤縁メガネの女の子に呼び止められた。

もうね、その時点でわかるよね。あ、これは。。。。って。

そんな邪推はお見通しなのか、赤縁メガネは嫌そうな顔をする。

「いや、ウチじゃなくて」

その友達が僕と連絡先交換したいらしい。
「いや、直接ツラ出せよ」って思ったのだけれどそれは置いておいて、
次の授業の前の時間に空き教室で待っているというのでそこで待ち合わせることになった。

そういう待ち合わせって緊張するよね。

すごい緊張した。

特にそういうのに場慣れするなんてことはない。これからもないだろうね。

緊張していたのだけれど、最初に目があった時に「この子いいな」って思ったのをちょっと思えている。話を少しだけして、今は懐かしの赤外線通信でメアドを交換した。
そのあともちろん授業だったのだけれど、家に帰りすがら当時使っていた白いシャープ製の折りたたみガラケーで鬼のような速さでぴこぴこメールを送ったのを覚えている。

最初のデートは11月22日だった。阿部サダヲが主演だった「なくもんか」を池袋のシネマックスに観に行ったのを覚えている。彼女が阿部サダヲが好きだったとかで、そういうことになったんだっけかな。僕自身は出身地が同じ千葉県松戸市だなくらいのイメージしか阿部サダヲには抱いていないので僕からどうこう言うような気はしない。

このデートがほぼ最初で最期になった。

以後どう連絡しても芳しくない。

なんかミスったのかなとか思い返してみてもあんまりわからない。
メールも結構返ってきていたのにぱったり返って来なくなった。

釣り餌にかかったと思ったのに引かれたらすごく気になるでしょう?
気になって気になって仕方がなくて、でもどうしようもなくて時間ばかりがすぎていった。

結局どうにかして「塾の授業後時間とって会えない?」って予定を取れたのが、高校2年生の2月。
驚くなかれ。最初のデートが高1の11月だったから実に1年4ヶ月が経っている。
先輩の東大二次試験の2日目だったから2月26日、もっと言うと英語の授業後だったから金曜日だったはず。

塾のある代々木からサザンテラスを通って新宿方面に一緒に帰る。サザンテラスにはJR東の本社ビルがあるのだけれど、本社ビルの下の生垣の段差に座ってちょっと話さないかって言った。というかそうなった。寒かったよ。

告白する気だった。

告白なんてしたことなかったのだけれど、寒くて寒くて歯がガチガチ鳴ってたけれど、告白する気だった。

1年半も避けられてていきなり告白をするのもどう考えても無茶苦茶だけれど。というかやぶれかぶれだ。とりあえず気持ち悪い心のしこりを精算したかっただけな気もしないでもない。

でも兎に角、告白した。

「好きです。付き合ってください」

ちゃんと「付き合ってください」まで言うのがキモである。そうしないと返答しずらいからな。「いいえ」と言え、「いいえ」と言え。なんかそんな感じだった気も今ではする。バイアスかかっているかもしれない。さて、返答は。。。。

「付き合うって、、、、なんだろうね」

「は?」

わざとクローズドクエスチョンを投げかけているのにこうやって無理くりこじ開けてオープンクエスチョンで返してくる人間のことを私はこの瞬間から憎むようになった。が、とりあえず頭は真っ白けだ。僕はこう答えた。

「多分、その問いを突き詰めていくのが付き合うってことじゃないかな」

禅問答かよ。

我ながら今振り返ると突っ込まざるにはいられない。

何れにせよ、僕はこの瞬間から

「付き合ってください」

が言えない人間になった。怖すぎるのだ。
もう9年が経つがトラウマは克服できず、まだ一度も口にしたことはない。

だから僕は人生で一度も女の子に振られたことがないのだ。(と云う解釈ができないでもない

さて、そのオープンクエスチョンガールはどうやら「付き合うとは何か」とうう問いの答えを既に知っていたらしく、1ヶ月後にはK成高校テニス部のイケメン君と付き合っていた。

以後、3年がたったくらいの時に、オープンクエスチョンガールの高校同級生に
「なんで途中から無視られるようになったのかな」
と聞いてみたら、すんごく答えるのを渋っていたのだけれど、絶対に傷つかないでねと念を押しながら最終的に教えてくれたよ。

「横顔見てかっこいいかなって思って声かけたけど、デートしたら正面はそうでもないかもって思って冷めちゃったんだって。」

流石にめっちゃ傷ついた。

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大好きです
5
なにものでもないわたしは、なにものにだってなれる、なっていいんだ。
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