死者の声

夏も真っ盛りになり、蝉の喧騒も幾分か慣れてきたような気がする。まったくあいつらはとんだブラックな働き方をしているな、と思いながらも皆はその存在をうざったく感じる。ブラックなのに社会貢献も出来ていないのか...ほんとに大変だな。

そういえばそろそろお盆の時期だ。お盆になれば俺は毎年全国のお墓にめぐる。なんでかって?俺にもわからない。

お墓に向かう途中、白い綿あめのような雲が空を覆った瞬間、その雲は綿あめから、鉄の壁のような重厚感を感じさせる何かに変わったような気がした。

お墓の前に立つ俺はいつも何もすることができない。当たり前だよな。俺にはそんなことする資格もない。

つくづく嫌になる。こんな仕事辞めた方がいいんだ、だからこんな無駄なことをしてしまう。いやこれが無駄に思える内は続けた方がいいのかもしれないな。普通の人間ではないのだから。人は人を殺した時点で人から別の何かに変わってしまう。これが鬼というものなのか俺にはわからない。

だって考えてもみろ。あのイラク戦争で本当に銃を敵めがけて撃ったのなんか100人の内15から20人程度だぞ、いつも人を殺す訓練をしている奴らの内だ。いかに人殺しが人間のやる所業でないのかわかるだろう?

そんな妄想を墓の前で延々と繰り返していると、どこからか声が聞こえてくる。これもいつも通りだ。「お前のせいだ」なんて聞こえてくると思ったか?そんなことはない。いつも聞こえてくるのは「あなたのおかげ」だ
こんな言葉本当は聞きたくもない。責めてくれた方がよっぽどいいってのに。。。いつしかこの声も蝉の声にかき消される。

あたりは血の色よりもだいぶ薄く、どこか絵の具で描いたような赤に染まっていた。そのなかを一人で帰宅しようとしていた。

また一層、蝉の声が大きくなっている。もしかしたら彼らは俺たちの同胞なのかもしれない。もしそうだとしたらあいつらは死んでまでも、ブラックな仕事を続けてんのか、本当に変わったやつらだな。それとも俺たちに警告でもしているのか?そんなことが無駄なのは自分が一番知っているはずなのにな。

できればサポートしていただけると嬉しいです。お金は僕の本代になると思います。。。本を読めばきっともっといい記事が書けるはず。。。