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料理を作るように小説を書こう

料理を作るように小説を書こう
山本弘・東京創元社
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自身の創作からはすっかり遠のいてしまった日常を送っているのですが、わたし本当に一応、ってぐらいには「漫画家生活」をしていた時期がありました(人生のうちの7~9年間ぐらい(ただし後半2年ぐらいはニートって言っていいと思う))。
その後の就職もイラストに関する仕事となりまして、現在も流行りや創作物とは離れられない生活をしているのですが、
「創作を言語化する」
という必要が日常的に結構あるんですね。絵を描く部署ではないんですけれど、制作工程の段取りの部分だったり、欲しいイメージだったり、技術的な話もあるし、ふんわりしたイメージを伝わりやすくしたり。
それらの説明には画像ももちろん使うのですが、大半はテキストで四苦八苦する必要があります。そういった業務上のこともあって、教育や創作論の本てちょこちょこと読んでいます。あの、まあ、大半は趣味で好きで読んでるんですけれども。

こちらの本、完全にタイトルチョイスなんですけれど、著者さんのお名前なんか知ってるな…て思ってたら、あれだ、「グループSNE」だ。「ソード・ワールド」だ。オタクが小中学生の頃に夢中になるファンタジー・SFものの日本での普及にすごい活躍した(と個人的に洗礼を浴びたオタクの感想)人たちの中のひとりだ。あと「と学会」だ。どうりで。
非常に失礼ながらこの方個人で出された著作は拝読したことが無いのですけれど…多分無いよな…無かった気がするんだけどな…当時なんか読んだかもしれないけれど…読んだ実感は無いな…えーと、SFジャンルで多くの作品を上梓なさっておいでで、本文内にはそんなご自身の著作のお話も大変多くあります。
それらを読んでいなくても分かるようにこちらの本は書かれていますけれど、読んでからのほうが作例がわかりやすくはなるのかな。引用で説明が細かにあるので大丈夫とは思いますが、SFがお嫌いでなければそこはぜひ。

こちらの本に限らず、創作と料理…言うたら料理も創作のジャンルの一つだと思うんですが、アイデアを食材、調理をネタの消化の仕方の腕前にたとえて、創作と料理は通じるところがある、といった話はわりとあちこちで聞かれますし、わたしも創作を行っていた人間のはしくれとして、この説は強くうなずくものです。漫画て話を作る時と作画をする時で脳の状態が結構違うんですけれど、私の場合は話を考える時は料理が捗って、作画の期間は掃除がはかどりました。こちらの本は「小説」に話を絞っているので、なるほどお話パートなので料理が捗る部分だな…と、個人的に変な納得の仕方をしています。通じない人には全く通じない話だとは思っている……
料理と創作についてはここに書いてくと膨大なテキストになっちゃうんで本の感想に注力しますが、興味ある方はぜひ個々人で調べてみてください。なかなかおもしろいですよ。

こちらの御本、冒頭からまず
「ものすごくあちこちから繰り返しよく聞く【創作者の質問とその答え】」
が一通り書かれていまして、これだけでも
「小説書いてみたい!小説家になりたい!」
て人に大変有用ですね。ちなみに上記の「書いてみたい」と「なりたい」が、不思議と全然別の枠だったりします。なんだそれ、て思った方はちゃんとしてますね!世の中にはね!小説書いたことなくても小説家になりたいて人が結構いるんですよ!そして後述もしますが、別に本業になるつもりが無くても小説て好きに書いていいものなんですよ。
で、そんな「あるある」を一通りさらって「書き手と読み手の共通認識・前提」をまず構築してから本題に入っていっています。これいいですね。すごくいい。一般的な話に対してまずは著者はこのように考えてこう答えますよ、てさらしたあとに、そんな人がこう考えていてこういう構築をしていきます、こうしてきましたよ、て書けますからね。
学習てまず生徒側の何がどれぐらい進んでいるかを知らないと、その人が欲しい情報やどこでつまずいているかがわからないわけで、そこをあるあるのQ&Aで冒頭に整えたのはこれすごく上手なやり方ですね。勉強になったわ。

「そりゃそう」なんですけれど、創作ってそれを本業にしたいて人ももちろん多くいるけれど、別に全然趣味や遊びで行っていいものなんですよね。これは私みたいに「誰か見て見て!」を前提にしか創作をしなかった人は思いっきり頭からすっぽぬけちゃう事実なんですけれど、趣味とか楽しみのための創作て世に全然普通にあって…というか実は大半が創作ってそういうもので、それを世に出して商売に出来るて人が特殊例なんですよね。考えてみたらとんでもないことなんだよな、自分で考えた世界の中を自分で考えたキャラクターが動いて、自分で考えた台詞を話して自分で考えた話しを紡いでいくって。本業だとそれを他人が見て楽しむんですよ。異常ちゃ異常なんだよな。
逆に創作を本業にしたい人の一番最初のクッッソ高いハードルが「作ったものを誰かに見せる」で、これを超えられないままの人もだいぶいらっしゃるんだよな。うんと手前のことだけど、わたし完全に忘れてましたね…正直、気がついてびっくりしたことですね。

こちらの本、
1…自分のためだけに書く小説
2…身近な人のために書く小説
3…不特定多数のために書く小説
とざっくり区分なさってて、この数字でのお話もなさっている章があります。3を望む人が多いだろうけれど全員まずは1からだし、1なんて終わってなくても下手でも途中しか書いてなくても全然いいからね、と、とにかく全体的に1~3のどれであっても単純に「文章を書く」のが今から少しでも楽しく・上手になるための内容なんですね。逆に一本も書いたことない人がいきなりパーフェクトな3を出そうとする点にも注意を投げてくれてます。
3の、なんなら既にそれでお金を貰ったこともある人でも使えるテクニックだってもちろん載っているけれど、それこそ全くの初心者にだって
「こんなことをこのようにするとこうなりますよ」
て説明をしてくれているし、文章の技術そのものというよりは、文章を物語にする道を整えてくれてる、て感じかな…

先に書いたように、【1】の部分の考え方で個人的に結構びっくりして、いわゆるネタというかアイデアの元のようなものをこの本読みながらメモ用紙にちびちび書きつけてみたところ、昔創作をしていた時の空気を脳が思い出した感じがしました。創作の本業でなくなったことで
「こんなアイデア出しとかメモしても、もう世に出さないしな…」
て思ってたんですけれど、いや自分の楽しみじゃんね、て思うと、メモが
「自分の読みたい物語の種」
になったんですね。本の中にもあるように
「実際に創作物にしなくても別にいい」
わけなんですよね。植えると面白そうだな、て種をいっぱいもっている、それだけでも心が豊かになるのかなと思います。
もちろん育ててみたい、咲かせてみたい種だってあるんですけれど、種そのものに興味がある状態だって素敵なことだと思うんですよ。小さいの、大きいの、長いの、丸いの、ひし形だって赤だって茶色だって黒だってあるでしょうし。それらをただ眺めるだけで豊かになる心や気持ちは人は持っていると思うんだよな。そんなことを思い出せるとても良い本でした。小説に限らなくていいと思うんですが、何かを作りたいと思っていて、でもまごまごしちゃう…て人、よろしければこの本をどうぞ。わたしは正直、心の中の何かが救われた思いでいます。

こちらの本2021年4月の発行で、なんだよめちゃくちゃ最近じゃん!て驚いたんですが、あとがきで著者の山本さんが三年前に脳梗塞になられて、現在は新しい原稿を書けない状態でいることを知りました。この本の本文は2016~17年の連載原稿を加筆修正したものだそうなのですが、こ、こんなに創作を言語化出来る方がそれは悔しい状況だろうな…と心を痛めております。
ぜひ回復されますようにと思わずにはいられません。
健康には気をつけて過ごさねばいけませんね。わたしもまた何か書いてみようかな。すぐに「3」に飛んでしまいそうだけれども。

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